04
「さて、と。」
そろそろなまえが帰ってくる時間だな。さっきフレンチトーストを食べたから特にお腹は空いてないんだけど……なまえの夜ご飯もフレンチトーストでも良いかな……。
ゆっくりとソファから立ち上がり、テーブルに置いたままの空の食器を台所へと運んだ。食器を洗うために蛇口を捻ろうとすると、鍵の開く音が聞こえた。
なまえが帰ってきたのだと分かり、蛇口から手を離して玄関へ向かう。ちょうど良いタイミングでドアが開き、なまえが現れた。
「おかえり、なまえ。」
「臨也……ただいま。」
俺が出迎えるとは思っていなかったのか、少し驚いた後に嬉しそうに笑うなまえ。そして、靴を脱いでから俺に抱きついてきた。俺もなまえの背中に腕を回して、少しからかってみた。
「こんなところで大胆だね?」
「……臨也がお出迎えしてくれたのが嬉しくて。」
「……そう。バイトお疲れ様。お腹空いてるだろ? さっきフレンチトーストを作ったんだけど……夜ご飯、それでも良いかな?」
「うん、ありがとう。」
素直に答えたなまえを労うように頭をぽんぽんと撫でながら夜ご飯のことを告げると、嬉しそうな声で返事があった。俺の方から腕を解くと、なまえも俺から離れた。
「温めておくから、上着脱いできなよ。」
「はーい。」
なまえは2階に上がり、俺は鍵を閉めてからキッチンに戻った。なまえの分のフレンチトーストを温めてやり、皿に盛り付けてそれとナイフとフォークをテーブルへと運ぶ。
「なまえ、飲み物は何にする?」
「うーん……紅茶にする。」
「分かった。」
階段から下りてきたなまえの飲み物を用意するためにまたキッチンに戻り、俺も飲もうと二人分の紅茶を用意した。ポットとカップをトレイに載せて運ぶと、フレンチトーストと紅茶の香りが辺りに漂った。
「良い匂いだね。……いただきます。」
「どうぞ。」
なまえの隣に座り、ナイフとフォークを使ってフレンチトーストを食べる様子をじっと見つめる。美味しそうに頬張っていたなまえは俺の視線に気付き、小首を傾げた。
「……どうしたの?」
「……美味しい?」
「うん、すごく美味しいよ。」
「良かった。」
こうやってなまえとゆっくり過ごすのは1週間ぶりだろうか。一緒に住んでいるから、丸一日顔を合わさないことは少ないけど、タイミングが合わなければそうなることもある。
特にさっき終わらせた仕事は外に出ることが多くて、この1週間はあまりなまえと過ごすことが出来なかった。
「臨也。」
「ん? 何?」
「ちょっと疲れてる……?」
俺自身はそんなつもりは無かったけど、少しぼんやりとしていたのを指摘されて、疲れが溜まっていることを自覚した。反射的に否定しようとしたのを止めて、紅茶を一口飲む。
「……そうだねぇ、さっき大きな仕事が終わったから……ちょっと疲れてるかもしれないね。」
「もう休んだ方が良いんじゃ……。」
なまえは持っていたナイフとフォークを皿に置き、心配そうな表情で俺を見てきた。そんな表情を見ていると、すぐに休むのは勿体無い気がして、俺はにっこりと笑って言葉を紡ぐ。
「……なまえと一緒にお風呂に入って、一緒に寝たら元気になれると思うんだけど。」
「え……、お風呂も……?」
「うん。……嫌?」
なまえが俺と一緒にお風呂に入るのが少し苦手なことを知りながら、わざと断りにくいような言い方をした。するとなまえは少し考え込み、恥ずかしそうに小さな声で答えた。
「……恥ずかしいけれど、嫌じゃないから……一緒に入る……。」
「そう? あんなことやこんなこともしちゃうかもしれないけど、大丈夫?」
「……だ、大丈夫……!」
あんなことやこんなことを想像したのか、なまえの頬が少し赤くなっている。うん、想像通りで合ってるよ。
「じゃあ、決まりだね。食べ終わってゆっくりしてから入ろうか。」
「……うん。」
小さく頷き、残りのフレンチトーストを食べるなまえを見ながら、早く1週間ぶりのなまえを味わいたい気持ちを必死に抑えつけた。
◆161208
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