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そのとき、臨也がテレビを見ていたのは、決して偶然ではなかった。

『池袋100日戦線』

情報屋の自分にとって、それほど目新しい裏情報が得られるとは期待出来ない番組なのだがーー生放送で現在の池袋の様子を撮るという企画があり、そこで何か面白いことでも起きないかと興味本位で視聴していたのだ。

既に波江は自分のマンションへと帰った後であり、つい先刻に大きな仕事を終えた臨也は手製のフレンチトーストを食しながら番組を観覧していたのだがーー

「……あー。さすがの俺も、この状況は予想出来なかった。」

池袋の夜の様子を生放送で取材していたレポーター達の背後で、たまたま信号待ちで止まったバイクにヘッドライトが無かったことから、番組は突然ホラー映画へと趣旨を変え、更にその直後、クライムアクションへと変化した。

バイクを馬に変じさせたセルティと、それを追う白バイ。

「あの白バイが噂に聞いてた葛原金之助って奴かな? タイミングが良いんだか悪いんだか。」

笑っているのか呆れているのか、目を細めたまま息を吐き、緊迫した調子のレポーターの声に耳を傾ける。

『ご覧ください! どういった仕掛けを用いたのか、馬のようなものに騎乗した不審人物が、ビルの外壁を上って屋上へと移動しました! 今、交通機動隊の方が無線で応援を呼んでいる模様です!』

「あーあー。セルティみたいな存在は、現代社会じゃ"居ない"ってことになってるのにねえ。」

テレビ画面を見ながらケラケラと笑う。
そんな臨也の目の前で、画面の中に変化が起こる。

「お?」

『現在、黒い服のライダーは屋上に消えたまま沈黙し……あっ! あれは何でしょうか! カメラ越しに分かりますでしょうか! 我々の頭上から星が消えています! 黒い! 黒い大きな膜が! う、うわぁ!?』

レポーターの焦った声と共に、テレビカメラに奇妙な物が映し出される。

街頭の明かりを薄く跳ね返し、巨大な黒い翼のようなものがビルの屋上から飛び出したかと思うと、そのまま緩やかに滑空を始めたではないか。
それは漆黒のハングライダーであり、その中央には馬に跨った人影がぶら下がっているように見える。

その様子を見ていた臨也は、テレビの画像がスタジオの司会者達へと切り替わったのを確認してから、おもむろにテーブル上の充電ホルダーから携帯電話を拾い上げた。

そして、臨也は静かに一つの番号を呼び出しーー



屋上で息を潜めているセルティに電話を掛けた臨也は、自分の推理を並べ立てた後に本題に入った。

「まあ、明日からしばらく、すごく大変なことになると思うから、ちょっと言っておこうと思ってね。」

ヘルメットを傾げるセルティに対し、臨也は一つ目の希望を口にした。

「ごたごたが落ち着くまでさぁ、仕事場には"絶対に"来ないでね。詳しくはメール送るけど、それを確認する前に来られたら困るからさ。」

セルティの返事が無いことは気にせず、臨也は二つ目の希望を口にした。

「あぁ、あと、ごたごたが落ち着くまで、なまえに会っても無視してね。こっちはなまえにも言っておくけど。」

セルティはどういうことだと尋ねたかったが、通話中のメール機能が無い以上、彼女の考えを即座に伝える手立ては無い。

「それじゃあね、武運を祈ってるよ。」

そう言うと、臨也は一方的に電話を切ってしまった。

「ふぅ……なまえのバイト先が池袋じゃなかったら良かったんだけど……仕方無いね。」

携帯電話を充電ホルダーへと戻して、溜め息を漏らす。

そして、セルティの身に起こるであろうことを想像して、楽しそうな笑みを浮かべた。





◆161203

(dearestでは、『池袋100日戦線』は19時からの放送という取り扱いを行います。)







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