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「ありがとうございました!」

会計を済ませたお客さんを見送り、時計を見ると、あと10分で営業時間が終了すると知った。4月に入ったけれど、19時前になると外は暗くなっている。

今日はいつもよりもお客さんが多くて、少し疲れちゃったな……。でも、それだけ多くの人がこのお店のケーキを食べてくれるのは嬉しいことだよね。また来てくれると良いな。

それにしても、お腹空いたなぁ……。臨也はマンションに居るかな?今夜は家に居ると思うって言ってたから、一緒に夜ご飯を食べられると良いな。
最近ちょっと忙しそうだったから、あんまり一緒に居られなくて寂しかった……なんて、言えないけれど。

ぼんやりと考えごとをしていたけれど、焼き菓子コーナーの配置が少し乱れていることに気が付いて、配置を戻すためにレジから離れようとすると、自動ドアが開いた。慌ててそちらを見て声を掛けるとーー

「いらっしゃいませ!」

「……。」

私服姿の男の子が立っていた。顔立ちが幼くて、小柄で、中学生くらいに見える。帝人くんも結構幼い顔立ちをしていたけれど、それよりも幼い感じだなぁ。

私がそんなことを考えていると、男の子はぺこりと頭を下げて、店内に入ってきた。

「お持ち帰りのみとなりますが宜しいですか?」

「あ、はい。」

ケーキが少なくなっているショーケースをじっと見つめる様子がなんだか微笑ましくて、つい男の子のことをじっと見てしまった。すると、男の子が不意に私の方へと視線を向けて、ばっちりと目が合った。

「お、お決まりですか?」

「えーっと……この中でおすすめはありますか?」

誤魔化すように問い掛けると、男の子は小首を傾げた。私は残っているケーキを見て、数秒考えてから答えた。

「そうですね……チョコレートがお好きでしたら、ガトーショコラがおすすめですよ。甘さ控えめなものがお好きでしたら、桜のシフォンケーキもおすすめです。」

「……じゃあ、その二つをください。」

「はい、ありがとうございます。少々お待ちください。」

私はガトーショコラと桜のシフォンケーキを箱に詰めて、箱を袋に入れた。そのまま会計を済ませるも、その間、ずっと男の子の視線を感じた……気がする。うーん、多分気のせい……だよね。

袋を手渡すと、男の子は初めて笑ってくれた。

「ありがとうございます。俺、ずっとこのお店のことを知ってたんですけど……勇気を出して入って良かったです。」

「そうなんですか。ありがとうございます。」

「"絶対に"また来ますね。」

男の子は笑顔のままそう言うと、お店から出ていった。

「……?」

何となく男の子の言葉が引っ掛かって、今度は私が小首を傾げたけれど、男の子はもう居ない。……別に変なことを言われたわけではないので、あまり気にしないことにしよう。

この日は男の子が最後のお客さんとなり、19時に店を閉めて片付けを済ませて、いつもと同じ19時30分を過ぎた頃に店を出た。特に寄り道はせず、まっすぐマンションへ帰った。





◆161202







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