0.5 03


私は折原なまえ。池袋のカフェで働いてるフリーター。

私の好きなものは甘いもの。甘いものには目がないから、よく食べに行ってるんだ。一人でだったり、誰かと一緒にね。

でも、それよりも好きなものがある。ううん、ものじゃないから、甘いものよりも好きな人間がいる、が正しいかな。

ーーそれは私の片割れ、臨也だ。



♂♀



「ありがとうございました!」

池袋のとあるカフェでアルバイトしている私は、会計を済ませたお客さんに軽く頭を下げる。お客さんはにこやかに笑ってお店を出ていった。

ここはとにかくケーキが美味しいと有名で、私も時々食べるけど一向に飽きない。
新商品が定期的に販売されるのは凄いことだけど、その新商品がどれも美味しいから本当に凄い。

今日発売の桜のシフォンケーキ、私も食べたいなぁ…。

小さいお店だからイートインスペースも狭いけど、コーヒーもこだわってるから、コーヒーだけを飲むお客さんも居る。

あ、さっきのお客さんの食器片付けないと。
そう考えてレジから離れようとすると、自動ドアが開いた。私はすぐにそちらに視線を向けて、挨拶をする。

「いらっしゃいませ!…あ、平和島くん。」

「よぉ。」

お店にやって来たのは、同級生の平和島くんだった。
平和島くんも甘いものが好きだから、時々こうやってお店に来ることがある。もっとも、犬猿の仲の臨也が居るときだと、すぐに帰っちゃうんだけど…。

「お仕事は終わったの?」

「ん、今日はもう終わった。無性にケーキが食べたくなってな。あ、持って帰るから。」

「そうなんだ。」

ショーケースをじっと眺めている平和島くんは、臨也と喧嘩しているときとは違って、何だか可愛らしく見える。本人には言えないけど。

「今日発売の桜のシフォンケーキがおすすめだよ。」

「…じゃあそれにする。あと、ガトーショコラもくれ。」

「うん。」

甘党だから、二つとも平和島くんが食べるのかなぁ。
そんなことを考えながら、二つのケーキを箱に詰めて、会計を済ませる。

「どうぞ。気を付けて持って帰ってね。」

「サンキュ。」

「ありがとうございました!」

箱を袋に入れて手渡して、軽く頭を下げる。平和島くんは機嫌が良いみたいで、軽く手を振ってからお店を出ていった。

…あ、いつの間にか三時だ。上がらなきゃ。



♂♀



「お寿司美味しかったね、ご馳走様。」

夕食を露西亜寿司で取ってから、新宿のマンションに戻ってきた。今日は平和島くんに会わなかったから、何事もなかった。ケーキ食べてるのかな。

「俺も久しぶりに行けて良かったよ。…あ、ちょっと電話しないといけないから、先にお風呂入ってて。」

「はーい。」

まだ眠るには早いからソファに座ってテレビでも見ようと思ってたけど、臨也が携帯電話を片手にそう言ったので、お風呂に入ることにする。

着替えを持って脱衣所に行き、そこで服を脱いでそれを洗濯機に放り込む。浴室に入り、蛇口を捻って勢いよくシャワーを出した。

「…ふぅ…。」

髪と身体を洗い、シャワーを浴びる。
今日は何だかお湯に浸かる気にはならないから、シャワーだけで上がろうかな。

「臨也はまだ電話中かな…?」

多分お仕事の電話だから、邪魔しないようにしないと。でも、長引かないと良いな…。

浴室を出てバスタオルを身体に巻いた直後、脱衣所のドアが開いた。そこに居たのは、

「い、臨也?」

「あれ?もう上がるの?俺も一緒に入ろうと思ったんだけど。」

どうやら電話を終えたらしい臨也だった。先程とは違い、携帯電話ではなく着替えを持っている。

「う、ん。」

「じゃあ仕方ないか。一人で入ることにするよ。」

残念そうに息を吐く臨也を見て、私は眉を下げた。

一緒にお風呂に入るのは少し苦手なんだよね…。
嫌ではない、けど…明るいところで素肌を見られるのは恥ずかしいし、その…高確率でそういうことになるし…。嫌ではないけど…!

「す、すぐに出るからちょっと待って…!」

服を脱ごうとしていた臨也を脱衣所から追い出して、ドアを閉める。
手早く水滴を拭き取り下着とパジャマを身に付けて、一度深呼吸をしてから、ゆっくりとドアを開ける。

「お待たせ。あ、お湯張ってないから、浸かるなら用意してね。」

「うん。」

脱衣所の外で待っていた臨也と入れ替わりで脱衣所を出て、濡れた髪を乾かすためにリビングに向かう。
コンセントを差し込み、ドライヤーのスイッチをオンにして、風量を強めにして髪を乾かしていく。

髪が長いから、乾かすのに少し時間が掛かって、その間ぼんやりとしていると、髪を濡らした臨也が側にやって来た。ほとんど乾いたのを確認してから、一度スイッチをオフにする。

「臨也、髪乾かそうか?」

「お願いするよ。」

ソファに座ってもらい、臨也の後ろに立ち、再びスイッチをオンにする。手で髪をすきながら乾かすと、髪が短いからすぐに乾いた。
それにしても、髪も綺麗だなぁ。スイッチをオフにして、終わったことを知らせるためにぽんぽんと頭を撫でる。

「はい、乾いたよ。」

「ありがとう。…なまえ、まだちょっと乾いてないんじゃない?ここ座って。」

「え?あ、うん。」

促されるまま臨也の隣に腰掛けて、髪を乾かしてもらう。…手付きが何だか優しくて、シャワーで温もったこともあって、少しうとうとしてしまう。眠たい…。

「なまえ、終わったよ。」

「…あ、りがとう…。」

「眠たいなら、もう寝ようか。」

いつの間にかドライヤーを片付けた臨也が私の頭を撫でてくれている。余計に眠たくなってしまって、私は甘えるように小さくおねだりをした。

「…だっこして…?」

「…うん、ベッドまで運んであげる。」

臨也は柔らかく微笑んで、私を横抱きにしてくれた。何だかくっつきたくなって、臨也の首に両手を回して、少しだけ力をこめた。
そのままベッドまで運んでもらい、そっと横たわらせてもらった。

「…一緒に、ねよ…。」

「分かってるよ。…ほら、俺も一緒に寝るから。おやすみ、なまえ。」

今日も一緒に寝てくれるみたい。良かった…。

「おやすみ、なさい…。」

私の隣に横になった臨也の胸板に顔を埋めて、瞼を閉じる。臨也が私をぎゅっと抱きしめてくれたことを感じて、臨也に包まれている幸福感を噛み締めてから私は眠りについた。





◆160904







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