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「しかし君は…呆れる程に卑怯な男だな。昨日今日で、いろいろと君の過去を調べさせてはもらったが…2年前の抗争の一件も、すべては裏で君が糸を引いていたのだろう?」

去り際、靴を履きながらーー淡々とした声で森厳が告げる。

「何のことですかね。」

「二つの若者のチーム…まあ、日本版のカラーギャングという連中かね?彼らの両方に取り入り、随分と上手いこと立ち回ったものだ。君自身は手を汚さず、確実に情報屋として美味しいところだけを持って行った。」

「…。」

余裕の笑みを浮かべたままの臨也を振り返り、森厳はガスマスクの奥でにい、と笑う。

「君を信奉している女の子を少年達に差し向けたりした挙句に…聞いた話では、その少女の一人が重傷を負うことで事件が収束したそうだが…。」

そこで一旦息を止め、皮肉げな声を交えて一つの推測を指摘する。

「私は、それすらも君の指示ではないかと考えている。敵対組織に攫われるところまで含めた指示を、予め少女に下していたのではないかと。自ら深い傷を負うかもしれない指示に従う女子が居るのかどうかは不明だがね。」

一瞬の沈黙。臨也は敢えてその問いには答えず、ただ、件の少女達について微笑み混じりで語り出す。

「沙樹達は…あれは、可哀想な子達ですよ。それだけに愛おしい。」

「その哀れな君の操り人形達がかね。高校生の頃から君はそんなことばかりしてたらしいな。」

「…沙樹を含めたあの女の子達は、家族や恋人に強い虐待を強いられていた子達でね。それはもう、想像以上に凄まじい…。」

少女達の過去を思い出したのか、臨也は哀れみと恍惚の入り混じった複雑な表情で続きの言葉を口にした。

「それでも、その家族のことを嫌いになることも憎むことも出来ずに、八方塞がりになった子達ばかりなんですよ。だからこそーー操るのは簡単でしたよ。彼女達はその家族や恋人を愛しているというより、一種の信仰のようなものを抱いていました。その信仰をーー俺の方にシフトさせた、それだけです。仮に私が死を望めば、迷いながらも最後には死んでくれるような…。」

「ふむ…軽く言うね。宗旨替えさせるのは簡単なのではないかと勘違いしそうになる。」

森厳は感心と呆れを同時に表しながら、目の前に居る青年は本当に外道なのだと納得する。一体どれだけの人間の人生をこの笑顔の裏側で潰して来たのだろうかと考えていると、臨也はなまえのことを口にした。

「…誤解の無いように言っておきますが、なまえは違いますよ。」

「…彼女に対しては、過保護のようだね。君にそんな相手が居ると知ったときは驚いたよ。」

「俺だけではなく、なまえについても調べているようですから分かっていると思いますけど…。」

臨也は無表情に変わり、一度言葉を切った。

「なまえに手を出したら、許しませんよ。」

「…今のところそのつもりはないがね。覚えておこう。」

今回の事件や取り巻きの少女達について語った声音とは異なり冷たい声音で、芝居がかった言い回しをせずにストレートに告げられた森厳はガスマスクの奥で少し驚いた表情を浮かべた。しかし、ガスマスクによってそれが知られることは無かった。

今のところ、という部分を僅かに強調して肩を竦めて見せる森厳の態度に臨也は納得せず、すっと目を細める。臨也が何かを言うために口を開こうとしたのを見計らい、半ば残念そうに言葉を紡いだ。

「分かった。君が私やネブラに不利益なことをしない限り、手を出さないと約束しよう。」

「…それが賢明な判断だと思いますよ。」

決して信用したわけではないが、そう言わせることが出来て多少満足した臨也は、そのまま部屋を出る森厳を見送り、近くに居た波江に声を掛ける。

「どうしたの、波江さん。何か言いたそうじゃない。」

「…相変わらずあの子に執着してるのね。」

「まぁね。…ちょっと出てくるよ。」

自分もなまえに手を出さないように言われたことのある波江は呆れたように呟いた。予想通りの答えに口角を上げて、デスクに置いていた携帯を手に取り操作する。なまえからのメールに返信をして、黒のファーコートを片手に持ち、臨也は部屋を後にした。





◆161116







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