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「なるほど…セルティ君ぐらいの”力”と”コネ”を持つ者が、それぞれの正体のうち二人について知っているとなれば…確かに、君の望む泥沼の抗争は出来ないかもしれないね。」

ガスマスクの隙間からストローを差し込んで、冷めかけた紅茶をちびちびと飲む森厳。巫山戯ているとしか思えない外見の森厳だったが、紅茶を飲み干すと同時に、真剣な声になって臨也に向かって語り掛ける。

「一つ、アドバイスをしよう。」

「ほう。」

「もしも、この東京で擬似的な抗争を引き起こしてセルティの首…もしくは魂を刺激しようというのならば、他者の争いに彼女を巻き込むのではなくーー彼女の身体を中心として、周囲の方を災禍に投げ込むのが良いのではないかね。」

物凄く残酷で冷徹なことを言っているように感じられるが、臨也は僅かに唇の端を吊り上げながら、「そのつもりですよ。」とだけ呟いた。

それを聞いたときの森厳の表情は如何なるものだったのかーーガスマスクの中の様子は窺いしれず、ただ、不気味な沈黙だけが薄暗い室内を支配する。

沈黙に耐えかねたわけでもなかったが、臨也がその沈黙を打ち破るように、改めて現在自分が関わっている事件について語り出した。

「しかし…今回の件は、本当に興味深いんですよ。物凄く仲の良かった三人が、それぞれ秘密を抱えていたのに…偶然と、ほんの少しの悪意…まあ、主に俺ですけどね。そんなものが重なって…まさに理想に近い形で互いの秘密が知らされた。もっとも、完全に抗争が泥沼になってからだったら、本当に”最悪”だったんですけどね。」

「…最悪なのは貴方の性格でしょ。」

波江がぼそりと呟いたが、臨也は敢えて聞かない振りをした。

一方で、彼の話を脳内で整理していた森厳は、やはりどこか格好を付けた物言いで、自分なりの意見を固めていく。

「なるほど。悪意の偶然が積み重なり、誤解が誤解を生んでいく…確かにそれは、偶然と呼ぶには相応しくない程にこの世の中に溢れている。まるで人間の性だとでも言うかのようにね。」

計らずも”偶然の連鎖”の一部となっている森厳は、それを知ってか知らずか、すべての事象を上から見ているような物言いで呟いた。

「さて…私はそろそろ帰らせてもらうが…一つだけ覚えておきたまえ、情報屋。」

「何をです?」

「偶然の連鎖は、決して悪い方向だけに転がるものではないということをね。」



♂♀



用事があるという門田達と別れた後、なまえはセルティにメールを送った。セルティの手が空いているときならすぐに返信が来るのだがーー、

「んー…忙しいのかな…。」

静かな携帯を握り締めて、なまえは困ったように呟いた。

「セルティにも話を聞いておきたかったんだけれど…仕方無いか。」

臨也との約束の時間はまだ残っているが、なまえは早く臨也に話を聞きたくなり、携帯を操作してメール画面を開いた。メールの宛先は、臨也だ。

「…うーん…。」

【今、この街で起こっていることは、情報屋が深く関わっている。いつまでも情報屋と一緒に居れば、君にも危害が加わるかもしれんよ。】

昨日、岸谷森厳に言われた言葉がなまえの脳裏に浮かんだ。あの言葉を聞かなければ、なまえは今池袋で何が起こっているのか気にならなかっただろう。

気になったから、なまえは臨也に問い掛けた。そして、臨也はなまえが知ることを拒まなかった。だから、なまえは情報を求めた。たとえ、真実がなまえの想像を超えるようなものだったとしてもーー。

「…よし。」

本文を打ち込み、送信ボタンを押す。後は臨也からの返信を待つだけだ。臨也も手が空いていれば、すぐに返信が来る。

ーーマンションに岸谷森厳が居るとは知らず、なまえは臨也からの返信を待った。





◆161113







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