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なまえが門田達に話を聞いている間ーー臨也が自分の部屋に戻ると、岸谷森厳が部屋を訪れていた。実際は、波江を脅して部屋に入ったのだが。臨也は森厳が手にしていたモデルガンについて指摘した後に、ずっと気になっていたことを口にした。

「何故、なまえに接触したんですか?」

「おや、気になるのかね?」

森厳はガスマスクをしているため表情は分からないが、楽しそうな声音をしている。しかし、臨也は決して楽しくない。

「えぇ。なまえに余計なことを言わないでください。」

「君の言う余計なことが何なのか私には分からん。」

「…で、何をしにいらしたんです?」

ばっさりと切り捨てた森厳にわざと溜め息を吐き、臨也は無表情のまま森厳と向かい合う。そんな臨也の表情を見て、森厳はモデルガンを白衣の裏側にしまいながら話し掛ける。

「うむ、まあ、私が此処に来た時点で想像は付いていると思うのだがーーセルティの首は…一体何処にしまってあるんだね?」



♂♀



「やっぱり新羅の歪んだ性格は貴方譲りだ。」

「褒めても何も出んよ。むしろ君がとっとと首を出したまえ。」

「何なの、こいつ…。」

明らかに嫌悪感を示す波江とは対照的に、臨也は慣れているとでも言うように、淡々と森厳の言葉に対応した言葉を紡ぎ出していく。

「さて、出せ、と言われれば"さて"と答えるしかないわけですが…そうしたら、どうなるのか気にはなりますね。」

「そうなれば、近い内にこのマンションに集団強盗が入るまでだよ…と言ったらどうするね。」

「ならば、貴方は今日此処に来るべきではなかった。その場合、明日の朝にはこの部屋は綺麗な空き部屋となっているでしょうから。」

二十歳以上も年上の男に対し、物怖じせずに答える臨也。

「ふふん…まあ、冗談だ。正直な話、首をすぐに取り戻す必要は無い。」

「ほう?」

「セルティ君の映像が実際にテレビで放映されたことに、我が社の上層部は少なからず驚きを見せていてね。首よりも先に、身体を研究すべきではないかという結論が出たのだよ。」

淡々と重要機密らしきことを口走る森厳に、波江は相手の正気を疑った。臨也は森厳の話を値踏みするように聞き続けていたが、やはり相手の意図が判断出来ないといった表情を浮かべている。

「そして、私は首の行方は目下捜索中ということにしてある。何やら君は、首に対して我々とは別種のアプローチを仕掛けようとしているようだからねえ。ヴァルキリー=デュラハンという説を念頭に置いて、首をある種の勢力間抗争という特殊な環境に置いて独自に目覚めさせようとは、なかなか面白いことを考える。」

「おや…盗聴器は全部外したと思っていたんですけどね。」

「…冗談で言ったつもりだったのだが。本気か?そんなマイナーな説を…。」

「…。」

どこまでが本気か分からない男の表情を読もうとするが、冗談のようなガスマスクがそれを完全に妨害している。臨也は諦めたように溜め息を吐きながら、現状で自分が試みていることについて切り出した。

「ま、いろいろ試していますよ。いざとなったら本当に紛争地域にでも持って行くしかないと思っていますがーーとりあえず、協力態勢、ということに出来れば嬉しいですね。」

「ふむ…まあ、いろいろ試してみたまえ。…正直、君の行為には興味があるのだよ。神話的な視点から実験しようなどという者は周囲には居ないのでね。私も含めてだが。」

「それはどうも。」

苦笑いと共に紅茶を啜り、臨也はその笑みを不敵なものに変じさせて、森厳に対して語り始めた。

「今回、ちょっと良いところまで行きかけたんですよ。いくつかのチームの敵対構造を煽って、互いに潰し合わせようとしたんです。しかもそれぞれのチームの中心人物が、お互いに親友もしくは想い人同士ときた。」

「ほう。」

「彼らは闘いの渦に呑まれた中で、互いのことを思いながら闘う運命に落ちていく…しかも、そのうちの一つはセルティと同じように、この世から一歩隔離した存在です。」

「もしやそれは…罪歌のことかね?」

話を聞いた森厳は、ガスマスクの奥で楽しげに口を歪ませる。

「それは、首に対する実験というよりもーー単に君自身が見たかっただけじゃないのか?」

「否定はしませんよ。」

「ふむ…で、良いところまで行きかけた、と。そう表現するということは、結局は上手くいかなかったのかね?」

森厳の問い掛けに、臨也は余裕のある溜め息を吐きながら答えを返した。

「どうせ、分かっているんでしょうけど…セルティが…その三人のうち二人と、必要以上に関わり過ぎちゃってるんですよ。」





◆161110







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