09


「…ねぇ、臨也。」

「ん?」

情事後、ベッドに横たわったまま名前を呼んだ。下着姿でベッドの端に腰掛けている臨也は柔らかな笑みを浮かべて私を見た。
余韻はもう抜けている。少し疲れているけれど、この話をしなければならない。私はゆっくりと身体を起こして、素肌を隠すことなく問い掛けた。

「…あの、ね…、今、池袋で何が起こっているのか、教えてほしいの。」

「…気になるんだ?」

臨也の笑みが、少し変わった。柔らかかったそれは、何処か冷たいものに見える。聞いてはいけなかったのかもしれない。けれど、問いを無かったことにはしたくない。拳を握り、肯定する。

「…うん。私も、池袋によく行くから。」

「…まあ、なまえも無関係じゃないからねえ。どうしようかな。」

臨也の言葉がどういう意味なのか分からないけれど、教えるのが嫌というわけではなさそうだ。そのことに少しだけ安堵した。けれどーー

「…たまには、なまえが情報収集するのも良いかもね。」

「え…?」

今回は、すぐには教えてくれないらしい。何か条件を付けられるのかもしれないと少し身構えていたが、そうではなかった。意図が分からず、臨也の言葉を待つ。

「情報収集って言っても、危ないことはさせないから。知り合いに話を聞いていけば、分かるだろうし。」

「…知り合い?」

臨也の知り合いではなく、私の知り合いだとしたら、セルティや岸谷くん、門田くん辺りだろうか。セルティ達なら、確かに私が知らないことを知っていそうだけれど…。

「そ。あと、時間制限を設けようか。時間内に今池袋で起こっている出来事について情報を集めることが出来ればなまえの勝ち、出来なければ俺の勝ち。」

「勝ち?」

「どうせならそういうのがある方が良いだろ?勝った方は負けた方の言うことを一つ聞くこと。」

人差し指を立てて楽しそうに話す臨也をじっと見て、私は無言で考え込む。

今の口振りだと、私が池袋で起こっていることを知ることに抵抗はないみたい。でも、すんなりと教えてはくれない。意図があまり分からないけれど、今回は私が自分で知れば良いだけのことだ。

「…分かった。」

「詳しくは後で話してあげるよ。ちょっと仕事するから、なまえは休んでて。」

私が肯定したことに満足したような表情になった臨也は、ベッドから立ち上がった。ベッドの下に落ちていた服を拾い、それを着てから、私の服と下着を渡してくれた。
そこで私は素肌のままで居ることに気付いた。服を着てから話せば良かった…!恥ずかしくなり、小さな声でお礼を言う。

「あ、ありがとう…。」

「どういたしまして。」

臨也は小さく笑ってから、寝室から出ていった。



♂♀



なまえを寝室に残して1階に下りた俺は、デスクの椅子に深く腰掛けて、背もたれに背中を預けた。

今回もすぐに教えてあげても良かったんだけど…、まぁ、たまには良いよね?なまえも構わないって言ったことだし。

あとは、なまえが何処まで知ったら合格にするか決めないと。沙樹ちゃんのことを知られたらちょっとまずいかな。俺が差し向けたってことは、セルティもドタチン達も知らないはずだけど…。

そのことを考えながら、デスクに置いていた携帯を手に取り、何か新しい動きはないかと確認する。

「…今は特に無い、か。」

残念に思い溜め息を吐いて、携帯を元の位置に戻す。

テーブルにすっかり冷めてしまった紅茶と温くなってしまったプリンを置いていたことを思い出して、椅子から立ち上がった。テーブルに向かい、それらを片付ける。

「…明日が本番かな。」

台所で呟いた言葉は、俺以外の人間が聞くことはなかった。





◆161106







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