0.5 02


俺は折原臨也。新宿で情報屋をやってる。

俺の好きなものは人間。俺は人間を愛している!
あぁでも、シズちゃんは嫌いだよ。…シズちゃんに関しての話は長くなるからやめておこう。

人間を愛していると言ったけど、それは個人を愛しているわけではない。人間そのものを愛しているんだ。

ただ、シズちゃんという例外があるように、個人として愛している人間も存在する。

ーーそれが俺の片割れ、なまえだ。



♂♀



「…ん…。」

今日もいつもと同じ時間に目を覚ました。
ふと視線を下に向けると、俺の腕の中でなまえがすやすやと眠っていた。

「…起こすにはまだ少し早い、かな。」

俺の胸板に顔を埋めてるから、なまえの寝顔は見えない。

可愛い寝顔を見られないのは残念だけど、下手に動かしたら起きちゃいそうだしなぁ…。
でも、寝顔を見ることが出来ない以上、他にやることがない。

「…起きてほしいけど、起こしたくないや。」

矛盾したことをぽつりと漏らし、なまえの目覚めの一因になればと片手でゆっくりと頭を撫でてやる。すると、頭を撫でられたことが分かったのか少しもぞもぞと動いたが、目覚めはしなかった。残念だ。

それから俺の感覚的には五分程何もせずに居たが、なまえは一向に目を覚ます気配がない。そろそろ起きてくれないと退屈なんだけどな…。

「なまえ…起きないと悪戯するよ?」

頭を撫でた方の手を動かして、素肌の露出している肩や腕にそっと指を這わせる。

なまえの服装はキャミソールにパンツだけだ。昨日俺として、すぐに寝落ちしちゃったから、パジャマを着せてやれなかったんだよね。
あぁ、空調は完璧にコントロールしてるし、俺とくっついて眠ってるから、風邪を引く心配はないよ。

キャミソールの紐に手をかけた瞬間ーー、

「…ん…、…いざや…?」

なまえはようやく目を覚ました。

「おはよう、なまえ。そろそろ起きる時間だよ?」

「…あと、ごふん…。」

まだ眠気が無くならないのか、すごく眠たそうにしている。
なまえの寝起きはそんなに悪くない。不機嫌になることはほとんどないし、こうやって甘えてくるのはすごく可愛い。

可愛いお願いを聞くのが嫌なわけじゃないけど、悪戯の続きをしようとキャミソールの紐をずらすと、それに気付いたなまえがぴくっと肩を震わせて、小さな声を上げた。

「…や…、だめ…。」

「どうして?昨日したから?」

本気で今からするつもりはない。ただ、なまえがどう返してくるか気になって尋ねてみる。

「…朝番だから…駄目…。」

俺の胸板から顔を離したなまえは、眠たそうに目を擦りながら返事をして、俺の顔を見上げてくる。

「…そう、残念だな。」

「…足りなかった?」

「いいや、満足したよ。またしようね。」

少し不安そうにしているように見えたから、安心させるように言葉を紡ぎ、頭を撫でてやる。
そして挨拶を交わして、髪に口付けた。

「おはよう、なまえ。」

「…おはよう、臨也。」

あぁ、今日も可愛いね。



♂♀



なまえがフレンチトーストを食べたいと言うので、今朝は俺がキッチンに立った。
食事を作るのはなまえの方が多いけど、俺が作ることもある。ちなみにフレンチトースト以外も作れるよ。

テーブルにフレンチトースト、牛乳、ヨーグルトを並べると、着替えを済ませたなまえがやって来た。

「良い匂い…。美味しそうだね。」

「スクランブルエッグもあるから、もうちょっと待ってくれる?あ、テレビつけておいて。」

「うん。」

なまえがテレビをつけると、ちょうどニュースの時間らしく、昨日起こった出来事について報道されていた。ニュースに耳を傾けつつ、フレンチトーストを作るのに余った卵でスクランブルエッグを作る。

「…こんなもんかな。なまえ、食べようか。」

ある程度火を通して出来上がったそれを皿に盛り付け、テーブルに並べる。
テレビを見ていたなまえはこちらに戻ってきて、椅子に座った。俺もなまえと向かい合うように椅子に座る。

「いただきます。」

「いただきます。」

俺もなまえも、軽く手を合わせて挨拶を済ませてから食事を始める。フレンチトーストを一口食べたなまえは口元を綻ばせた。

「やっぱり、臨也の作ったフレンチトーストが一番美味しい。」

「そう言ってもらえて嬉しいよ。…ところでなまえ、今日はバイト何時までなの?」

なまえのスケジュールはある程度把握しているけど、いつものやり取りとして問い掛けた。
さっき朝番だって言ってたから、昼には終わるかな。それから用事が無ければそのまま帰ってくるだろう。

「バイトは三時までだよ。その後、ちょっと寄りたいところがあるから、夕方に帰るつもり。」

「そう。暗くならない内に帰ってくるんだよ。池袋は物騒だからねえ。」

ならそれまでにあらかた仕事を終えるようにしよう。今日は粟楠会に行かなきゃいけないから、なまえに知られない内に行っておかないとね。

「臨也は心配性だね。大丈夫、ちゃんと暗くなるまでに帰るから。臨也は?夜はお仕事?」

「俺も今日は夕方までかな。夜は何処かに食べに行こうか。」

「それなら、露西亜寿司に行きたいな。お寿司食べたい。」

…それ池袋じゃん。まぁ、例えシズちゃんに見つかっても、なまえと一緒に居たら攻撃してこないから良いか。俺も最近あそこに行ってないし。

「良いよ。…あ、片付けは俺がするから。支度しなよ。」

「…任せきりでごめんね。美味しかったよ。ご馳走様。」

先に食べ終わったなまえにバイトに行く支度をするように促して、俺は朝食を続ける。席を立ったなまえの背中を見た後、テレビにちらりと視線を向けると、池袋で起きた若者の喧嘩についてのニュースが流れていた。

「…血気盛んだね。ま、なまえが巻き込まれなかったら別に良いけどさ。」

最後の一口を食べて、空になった皿やコップを流し台に運ぶ。
袖を捲って洗い物をしていると、支度を終えたなまえが姿を見せた。今日は俺が以前プレゼントした小花柄のワンピースを着ている。

「臨也、行ってきます。」

「行ってらっしゃい。頑張って。」

すぐ側に来たなまえに少し屈んで触れるだけのキスをして、笑いかける。同じように笑ったなまえは部屋を出て、バイト先に行ってしまった。

水が出ていた蛇口を閉めて、一息吐く。

「さて、俺も仕事しようかな。」

ーー情報屋として、ね。





◆160902







人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -