07


岸谷森厳がなまえに接触する15分前ーー、臨也のマンションに"珍しい客"が訪れていた。

「やあ…正臣君。来ると思ってたよ。ええっと、会うのは去年の春、町中でばったり出会ったとき以来だっけ?」

「そうですね…久しぶりです。」

部屋の中へと自分を迎え入れた臨也を前に、正臣は様々な感情の籠った視線を虚空に泳がせて呟いた。

「懐かしい表情だね、昔の君の顔だ。そう、当時の君はまだ中学生だったというのに、まさにその表情は大人そのものだった。当時を懐かしみながら、俺は敢えて君にこう挨拶しよう。」

神妙な表情をしている正臣を見て、臨也はくすくすと笑いながらーー

「"おかえり"。」

と、ただ一言。それは最大級の皮肉であり、侮辱でもありーー同時に、臨也にとって最高級の歓迎の言葉でもあった。

臨也の性格を理解している正臣は、敢えて何も言葉を返さない。

門田から"ダラーズのボスに会ったことがある男"として臨也を紹介されたときから、正臣の中には一つの疑念が浮かんでいた。

それはーー臨也こそが、ダラーズのボスなのではないかという疑念。

彼ほどの男ならば、ダラーズほどの組織を思いつき、実現に移すことは容易いだろう。
逆に言えば、彼ならば、斬り裂き魔を利用し、組織し、黄巾賊に攻撃を加えるという真似も平気でしてのけることだろう。能力的にも、倫理的にも。

「そう睨むなよ。」

強く決意した目で臨也を睨み付け、口を開こうとした正臣にーー

「俺がダラーズの頭だとでも疑っているのかい?」

情報屋の、先制攻撃がヒットした。

「…いえ、そんなことは…。」

目を反らしながら答える正臣を余所に、臨也は優しげな微笑みを浮かべながら、正臣を客室へと案内し、そこで話が始まった。



「…臨也さんがそう思ってるならそれでいいっすよ。…それでも、俺はやり遂げたいだけなんです。」

「何をかな?斬り裂き魔への復讐?それともダラーズの壊滅?」

「臨也さんの答え次第じゃ、両方になります。」

「良い覚悟だね。」

臨也は充足感に満ちた表情で頷くと、ぱん、と両手を合わせて立ち上がる。そして、芝居がかった動作でくるりと身体を半回転させ、高らかに声を張り上げた。

「分かった!君が前に進む為だ、だから俺は、喜んで君に事実にして真実、そしてどうしようもない現実というものを教え込んであげよう。本来この三つは異なる存在だが、ときには同一になるという良い例だ!」

「…?」

相手の言葉の意図が全く読めず、正臣は先刻とは別の意味で沈黙することしか出来ない。

「ところで正臣君。帝人君は元気かい?」

正臣の混乱へ追い打ちを掛けるように、幼馴染みの少年の名前が現れた。唐突に。あまりにも、唐突に。

「は…?」

「ほら、去年の春に紹介してくれたじゃないか。君の友達、竜ヶ峰帝人君だよ。」

「なんで、そこで帝人の名前が出てくるんすか。」

「いや、ほら、彼なんかも今の君の状況を見て、すごく心配してるんじゃないかと思ってさ。」

世間話のノリを貫く臨也に、正臣は段々と苛立ちーーそして、引きずり込まれ始める。沈黙を、破ってしまう。

「あいつには関係無いでしょう。あいつには黄巾賊のことも全然話してないし、いつも通り、奥手君だけど超元気っすよ。あいつは俺とは違って楽しそうに毎日を生きてますよ。」

「関係あるとしたら?」

「は?」

ーー正臣の中に、嫌な予感が膨らみ始める。それを否定してもらう為に、敢えて臨也に問い掛けた。

「どういうことすか、臨也さん。」

臨也は正臣の感情を理解しながら、正臣の願いを根本から踏み躙った。

「分かってるくせに。」

あまりにも残酷に、"ブルースクウェア"の情報を教えていた頃と、何一つ変わることのない笑顔を貼り付けながら。

「ダラーズのボスはーー君の大事な大事な大親友…竜ヶ峰帝人君さ。もっとも、親友と思ってるのは君だけかもしれないけどね。」





◆161103







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