02


リッパーナイトから数週間が経ったある日の夕方、臨也となまえはソファに隣合って座り、二人でゆっくりと過ごしていた。テーブルにはココアの入ったお揃いのマグカップがあり、白い皿にはなまえがバイト先で購入した数種類の焼き菓子が盛られている。

「…斬り裂き魔、本当に出なくなったね。」

「ああ。俺が言ったとおりだろ?」

マグカップを持ちココアを一口飲んでから、なまえは不意に呟いた。斬り裂き魔の話をしていたわけではなかったので、臨也は一瞬眉を顰めるも、すぐに肯定した。

「おかげであの夢も見なくなったし…良かった。」

「そうだね。」

「その…迷惑掛けちゃって、本当にごめんね…。」

なまえは時折、斬り裂き魔に襲われそうになる悪夢に魘されることがあった。臨也と一緒に眠っているときであれば、臨也もすぐに目を覚まして、なまえを宥めていた。
リッパーナイト以来斬り裂き魔の犯行がなくなり、なまえも悪夢に魘されることがなくなっていったのだが、臨也に迷惑を掛けてしまったことを申し訳なさそうに謝罪した。

「なまえは何も悪くないんだから、迷惑だなんて全く思ってないよ。」

「…ありがとう。」

臨也がきっぱりと言い切ったため、なまえはほっと胸を撫で下ろして、小さく笑う。臨也もつられて笑い、皿に手を伸ばして市松模様のクッキーを一枚手に取った。それをなまえの口元に持っていき、食べるようにと促す。

「なまえ、あーん。」

「…ん…。」

なまえは少し恥ずかしそうに小さく口を開けて、クッキーを食べさせてもらった。ほんのりとした甘さがなまえの口の中に広がる。

「臨也も食べてね?」

「じゃあ、なまえが食べさせて。」

「う、うん。…はい、あーん…。」

予想していたとおりの返答になまえは小さく頷いて、持っていたマグカップをテーブルに置いた。チョコレートクッキーを一枚手に取り、それを臨也の口元に持っていき、食べるように促した。臨也は口を開けて、クッキーを食べさせてもらう。

「…なまえのバイト先のお菓子って美味しいよね。」

「うん。焼き菓子もよく売れるんだよ。」

クッキーを咀嚼して満足そうに呟く臨也に、なまえは嬉しそうに笑った。自分が作っているわけではないが、店を褒められたことが嬉しかった。

「…そういえば、最近黄色の布を着けた人をよく見る気がする…何だっけ?」

「黄巾族だよ。…一応聞くけど、黄巾族の奴らに絡まれてないよね?」

「だ、大丈夫。一度も絡まれてないよ。」

ふと気になったことを口にしたなまえに、臨也は心配そうにかつなまえの答えを見極めるような眼差しを向けて問い掛けた。なまえはすぐに首を左右に振り、否定した。

「なら良いけど…黄巾族って数年前から居るんだけど、最近暴力的になってるみたいだから、近付いちゃ駄目だよ。」

「そうなんだ…。うん、気を付けるね。」

「何かあったらすぐに俺に連絡するんだよ。」

「ありがとう。」

なまえが自分から黄巾族に近付くことはないだろうと思いながらも、臨也は念のためにと釘を刺しておく。そのついでに、ちゃんと自分を頼るようにとも。

「今日はなまえのご飯が食べたいなぁ。」

「うん。何か食べたいものはある?」

明るいとはいえない話題を打ち切るかのように、臨也は全く違う話題を口にした。それによって、雰囲気が穏やかなものに変わった。

「…オムライス、かな。」

「…鶏肉は無かったと思うから、後で買いに行くね。」

「俺も行くよ。ついでに他にも買い足しておこうか。」

夕飯の買い物に行くまで、二人はティータイムを楽しんだ。





◆161022







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