2.0 11


リッパーナイトと渾名された事件の翌々日、なまえはバイトを終えて、池袋をぶらついていた。昨日までは夕方以降は一人で出歩かないようにしていたが、

【斬り裂き魔はもう出ないよ。…逮捕されたわけじゃないけどね。だから、安心して。】

という臨也の言葉を信じて、久しぶりにバイト終わりに一人で少し寄り道をして帰ることにしたのだ。とはいえ、辺りはまだ暗くなってはいない。

「何処に寄ろうかな…。」

夕食まで時間があることを確認してから、なまえは行く宛を考える。すると、前方から見知った少年がやって来ることに気が付き、声を掛けた。

「正臣くん、こんにちは。」

「あ、なまえさん。お久しぶりっす。」

正臣もなまえに気付き、なまえの前で足を止めて、軽く頭を下げた。声を掛けたものの、特に用があったわけではないなまえは、その場を去ろうとするが、今度は正臣が言葉を投げ掛けた。

「…あの、なまえさん。杏里が斬り裂き魔に襲われたって、知ってますか?」

「え…?し、知らない…大丈夫なの…?」

そのことを初めて知ったなまえは驚いたように目を見開いた。臨也は勿論知っていたが、あえてそれを教えなかった。

「…今、病院に居ます。」

「そっか…。私がお見舞いに行っても大丈夫かな…。」

特別仲良くしているわけではないが、斬り裂き魔に襲われそうになったことのあるなまえには、杏里を放っておくことは出来なかった。正臣は小さく頷き、病院と病室について告げた。

「じゃあ、俺はこれで。」

「うん、教えてくれてありがとう。」

正臣と別れてから、なまえは杏里の居る病院へと向かった。



♂♀



「なまえさん、来てくれてありがとうございます。」

「大丈夫?杏里ちゃん。」

「はい。」

杏里にとってなまえがやって来るのは予想外だったが、心配そうにしているなまえにお礼を言った。
お見舞いにと買ったお菓子の詰め合わせの箱をテーブルに置き、なまえは先程まで帝人が座っていた丸椅子に腰掛けた。

「急に来てごめんね。私も斬り裂き魔に襲われそうになったから、他人事とは思えなくて…。」

「え…、なまえさんも…?」

お見舞いに来てくれた思いがけない理由を知り、杏里はぎゅっとシーツを握り締めた。

「あ、私は斬られそうになっただけで、斬られてはないよ。」

「…なら、良かったです。」

お互いに困ったように笑い、病室の窓から夕陽が差し込んだ。

杏理が"罪歌"の大本であることを知らないなまえ。
なまえが今回の事件の黒幕である臨也の双子の妹であることを知らない杏里。

なまえの方は特に秘密にしているわけではないがーー自分でそれを語ることはしなかった。結果として、ひとまずそれで良かったのだが。

「…ん?」

カバンに入れていた携帯から短音が聞こえて、メールが来たことに気付くも、病院内で携帯を触るのを躊躇う。しかし、臨也からの連絡かもしれないと思い、なまえは椅子から立ち上がった。

「ごめん、ちょっと連絡が来たから、今日はもう帰るね。お大事に。」

「はい、ありがとうございました。」

カバンを手に持ち病室を去るなまえに、杏里は深く頭を下げて、一人になった病室で独り言を呟く。

「…なまえさんが斬られなくて、良かった。」

自分が"罪歌"であることは、帝人にも正臣にもなまえにも告げずにいた。信じてもらえないだろうという気持ちと、巻き込みたくないという気持ちがあるからだ。

そして、この事件の黒幕の存在について思案する。

今回の事件の経緯をほとんど理解している杏里は、不安と決意に塗れながら、その黒幕の名前を思い出した。

その者の名前はーー。





◆161017







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