2.0 08


「それにしても…斬り裂き魔って、一体何が目的なのかな…。」

「まだ死者は出てないしね。斬ることそのものが目的なんじゃない?」

3月に入り、遂に斬り裂き魔の被害者が50人を超えたというニュースを見て、なまえはぽつりと呟いた。隣に座っていた臨也は小首を傾げる。

「…こんなに被害者が居るのに捕まらないなんて…。」

「なかなか証拠が集まらないみたいだね。」

「…早く捕まってほしいのに。」

斬り裂き魔に襲われそうになったことを思い出して、ぶるりと身体を震わせるなまえ。怖がっているなまえを安心させようと、臨也はなまえの頭を撫でてやった。

「…もう少しで、情報が掴めそうなんだ。」

「斬り裂き魔の…?」

「そうだよ。分かったら、なまえにも教えるから。」

なまえは小さく頷き、バイトのためマンションを出て行った。



♂♀



セルティは、斬り裂き魔の情報を得るために臨也のマンションを訪れていた。秘書の波江は休み、なまえはバイトで、臨也とセルティだけが部屋に居る。

「やあ…君から会いに来てくれるなんて嬉しいよ。」

『お前に依頼された仕事の件で、先月会ったばかりだろうが。』

「まあいいじゃない、あのときはほとんど世間話も出来なかったんだから。…ところで、どう?あの矢霧製薬の事件からもうすぐ1年経つけれど…"首"は見つかったかい?」

どこか皮肉めいた笑いを浮かべて、臨也はセルティにお茶を出した。

『私の首のことはいいんだ。…単刀直入に言うぞ。斬り裂き魔に心当たりは。』

「3枚で良いよ。」

淡々と喋る臨也に対して、セルティは"質量のある影"で創ったライダースーツから、同じく影で創った財布を取り出した。中に入っている紙幣は本物であり、その中から一万円札を3枚取り出して臨也へと手渡した。

「それにしても…鎌だけじゃなくて、服も財布も"影"なんだねえ。強い光とか当てたら、ひょっとして影が消えて素っ裸になっちゃったりするのかな?」

『見たいのか?』

セルティの挑発的な言葉に、臨也は大仰に身体をのけ反らせて、嫌らしく笑う。

「別に?俺はどこかの闇医者や学生みたいな変態とは違って、首無しとか首だけに欲情したりはしないからさぁ。」

挑発を返すような発言をした次の瞬間ーー臨也の首には、漆黒の鎌が絡み付いていた。

大鎌の先端はまるでセンマイのように捩れ、臨也の首を中心として、刃を内側に渦巻いていた。ほんの僅かの間に、セルティは臨也の首に鎌を突きつけ、そのまま変形させたのだ。

その絶体絶命な状況に対して、臨也は笑顔を僅かに薄め、降参だとばかりにゆっくりと両手を上にあげた。

『私はいい。次に新羅を貶めたら、ただじゃ置かない。詳しく言うとーー全治3日ぐらいの怪我をさせる。』

「…具体的にどうも。その冷静さから言って、はったりじゃなさそうだね。」

『新羅は確かに変質的かもしれない。だけど、あいつが変だと言うのなら、私に対してだけ変であってくれればいい。お前達にどうこう言う権利は無い。』

「愛し合ってるねえ。」

なおも余裕のある臨也を見て、セルティは諦めたように鎌を解いた。そして、臨也が口を開くより前に、文字を打ち込んだPDAを見せた。

『お前だって、十分変質的だろう。実の妹に手を出しているんだから。』

「…その言い方だと、俺が無理矢理してるみたいじゃないか。俺達だって、愛し合ってるんだよ?」

『…なまえを傷付けたら、許さないぞ。』

二人が愛し合っていることは、セルティも十分知っているつもりだ。それでも、こうやって口を挟まずには居られないのは、セルティがなまえを好いているから。それと、なまえの相手が臨也だから。

「君に言われなくても、なまえを傷付けるつもりなんて全く無いよ。」

『…そうか。なら仕事の話に戻るぞ。今は斬り裂き魔の情報を寄越せ。金を受け取っておいて、何も無いとか言うなよ。』

話を仕事に戻すセルティに、臨也は首を振りながら"商品"を語り始めた。

「大丈夫だって。警察やマスコミにも、ネットにも流してないとっておきの情報がある。ぶっちゃけた話、君が来るのを待ってたんだよ。」

『どういうことだ?』

「今回の事件は、君のような魑魅魍魎の世界の話だからさ。」

再びもったいぶるように言葉を紡ぐと、臨也はトーンを抑えながら、怪談を語るように情報の本質を語り始めた。

「…罪歌、っていう、一振りの刀を知ってるかい?」

『えっ。』

「信じられない話かもしれないけど、かつてこの新宿にあった"妖刀"でねーー」





◆161012







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