2.0 03


「いやー、なまえさんとこうやってお茶が出来て本当に嬉しいですよ!」

「…この前は断っちゃって、ごめんね。」

来良学園の制服を来た男子高校生ーー紀田正臣は、そう言って目の前に座っているなまえに笑いかけた。それに対して、なまえは申し訳なさそうに眉を下げる。

「なまえさん、この間は助けてくださって、本当にありがとうございました。」

「い、いや…結局何の役にも立たなかったから、本当に気にしないで…。」

正臣の隣に座っている来良学園の制服を来た女子高校生ーー園原杏里は、なまえに深々と頭を下げた。それに対して、なまえは左右に首を振る。

バレンタインデーの数日前に、池袋の路地で二人の男に絡まれていた杏里を助けようとして、最後は正臣に助けられたなまえはその場でお互いの名前を告げたーーなまえはフルネームではなく名前のみを告げたーーが、連絡先の交換は行わなかった。正臣は何度かそれを希望したが、なまえは遠回しに断った。

「でも…。」

「それより、何を頼むか決めたかな?私のおすすめはモンブランだよ。」

このままではずっとお礼を言われるのではと考えたなまえは、話題を変えようとテーブルに広げているメニューを指差した。そこにはモンブランの写真が載っている。

三人がカフェでお茶をすることになったのは、遡ること15分前ーー。



「うん、分かった。じゃあまたね。」

池袋で臨也と会う約束をしていたなまえだったが、待ち合わせの時間より少し前に臨也から電話が掛かってきて、急な仕事が入ったため行けなくなったと告げられた。
通話を切り、カフェの近くにある公園のベンチに座ったままぼんやりとしていると、突然明るい声が聞こえてきた。

「そこのおねーさん、もし暇なら俺とお茶しない?」

「…?」

ーー聞き覚えのある声だった。ゆっくりと後ろを振り向くと、にかっと笑う正臣と微妙な表情の杏里が立っていた。

「あれ、この前の…紀田正臣くんと、園原杏里ちゃん、だったよね。」

「あっ、なまえさん!?こんなところで会えるなんて、これって運命!?」

自分のことを覚えてもらっていたことが嬉しいのか、はしゃぎながらちゃっかりとなまえの隣に座る正臣。杏里も相手がなまえだと分かり、ほっと胸を撫で下ろした。

「ええと…二人は学校帰り?」

「はい!いつももう一人居るんですけど、今日は用事があるみたいで。で、早く帰っても暇なんでナンパしようと思ってたんですけど、まさかなまえさんに会えるなんて!」

堂々とナンパという言葉を口にする正臣に、どのような返答をすれば良いのか分からず、なまえは苦笑した。杏里が居るのにナンパをする必要はあるのか、と思ったが、それは口にしなかった。

「なまえさんはここで何してたんですか?」

「人と会う約束をしてたんだけど、キャンセルになっちゃって。どうしようかなって考えてたの。」

「なら、今暇なんですよね?今日こそお茶しませんか?」

今日は特に断る理由が無いため、なまえは小さく頷いた。そして、臨也と入ろうとしていたカフェに三人で入っていった。



「なまえさんって彼氏居るんですか?」

「!?」

注文したものが運ばれてきて、アイスティーを飲んだ瞬間に投げ掛けられたストレートな質問に、なまえは思わずアイスティーを吹き出してしまいそうになり、何とかそれを堪えた。

「ど、どうして…?」

「一目見たときから気になって仕方ないんです。」

ナプキンで口元を拭ってから、意図を確認しようとするなまえに正臣はあっけらかんと答えた。

「…居るよ。大事な人が…。」

からかわれているのかもしれないと思いながらも、今この場に居ない臨也のことを思い浮かべて、嘘を吐くことはせずに素直に答える。

「く…っ、やっぱり…!杏里ー、振られちゃったよー。」

「…そう言われても…。」

なまえと正臣のやり取りを黙って聞いていた杏里だが、自分に話し掛けられてどうすれば良いものかと困惑した。正臣は少し残念そうにしながらも、話を続けた。

「どんな人なんですか?」

「えっ…うーん、…優しい人、だよ…?」

ーー自分の大事な人が折原臨也であると、なまえは言わなかった。正しくは、言えなかった。それを口にしてしまったら、この時間が壊れてしまうような気がしたからだ。

臨也の話題を出来るだけ自然に避けながら、なまえは正臣と杏里とのお茶を続けた。





◆161007







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