1.5 04
「お誕生日おめでとう、臨也。」
「なまえもおめでとう。」
ーー今日は5月4日。臨也と私の誕生日だ。
一年に一度のとても大切な日。毎年、私は臨也を、臨也は私を祝っている。今日の予定は臨也も私もお互いを祝うことだけだ。
普段はあまり夜更かししないけれど、今日は特別。一緒にベッドに入って、0時になった瞬間お互いに祝いの言葉を口にして、そっと唇を重ねた。
「…今年も一番に言えて、言ってもらえて、嬉しいな。」
「うん。…なまえ、眠たそうだね。」
目的を達成した安堵感からだろうか、途端に睡魔に襲われてしまった。臨也が私を抱き締めて、頭を撫でてくれるのも一因かもしれない。
「ん…でも…もったい、ない…。」
「起きてからたくさんお祝いすれば良いじゃないか。眠たいままだと楽しくないよ?」
確かにそうだ。このまま、眠ってしまおうか…。
「おやすみ、なまえ。」
臨也の優しい声を聞いてから、私は眠りについた。
♂♀
「わぁ、綺麗だね!」
朝食と支度を済ませてから、私達は池袋を出て、横浜に来ていた。今年はここでお祝いするんだ。
目の前に広がる青い空と海を見て率直な感想を漏らした。昨日は雨が降っていたけど、今日は晴れて良かった。
「そうだね。なまえ、はしゃぎすぎて転ばないように気を付けてね。」
「はーい。」
そう言いながら、臨也は私と手を繋いでくれた。
池袋や新宿ではよくデートしているけれど、東京を離れてデートするのは久しぶりだ。ここなら私達を知っている人間はそう多くないはずだし、今日はゆっくりお祝い出来ると良いな。
「何処に行きたいんだっけ?」
「んー、この辺りを見て回って…あとは夜景を見れたら嬉しいな。」
「分かった。」
辺りにはカップルや家族連れがたくさん居る。私達も、カップルに見えているかな…。
今日の臨也は、いつもと少し違う服装だ。薄手の紺のジャケットに白のカットソー、黒のパンツを着ている。
私は、紺のカーディガンに白のワンピースを着ている。ワンピースは臨也に選んでもらったもので、袖口や裾にレースの刺繍が入っていて可愛らしい。
「…。」
いつもの服装も勿論似合っているけれど、今の服装も似合うなぁ…。臨也にも似合わない服はあるだろうけれど…。平和島くんが着ているバーテン服も似合いそう…。でも、さすがに着てとは言えない。
「どうしたの?ぼーっとして。」
「え、臨也はいつも格好良いなぁと思って…。」
海を眺めている臨也を無言で見つめていると、私の視線に気付いたらしい臨也が私に視線を向けた。素直に思っていたことを伝えると、臨也は少しだけ目を見開いてから笑った。
「ははっ、そんなストレートに言ってもらえるなんてね、嬉しいよ。」
「…よ、良かった…。」
「なまえもいつも可愛いよ?すごくね。」
耳元で囁かれた言葉に、次は私が驚く番だった。鏡が無いから分からないけれど、頬が赤くなっていると思う…。
「…あ、りがとう…。」
♂♀
楽しい時間はあっという間に過ぎて、もう夕方になってしまった。ほとんど私の行きたいお店に付き合わせちゃったから、少し申し訳ないな…。
「臨也、疲れてない…?」
「全然。楽しそうにしているなまえをたくさん見ることが出来て嬉しいよ。」
今は小さなカフェで休憩している。少し前にチョコレートパフェを食べたから、ここでは飲み物だけを頼んだ。
「…あのネックレス、本当に買わなくて良かったの?」
「うん。似てるの持ってるから。」
「…遠慮しなくて良いのに。」
今日の臨也は、誕生日だからかいつにも増して色々とプレゼントしようとしてくれたけれど、私はすべて断った。普段のプレゼントだけでも申し訳ないのに…。
それに、夜にプレゼント交換をする約束をしているから、私だけたくさん貰うことは出来ない。
「…臨也と一緒に過ごせることが、一番のプレゼントだよ。」
そう、いつも情報屋として忙しく働いている臨也が、私達の誕生日には出来る限り二人きりで過ごそうとしてくれるのがとても嬉しい。…仕事に支障が出ていないか、少し気になるのは秘密。
「…まったく、なまえには勝てないな。」
「?」
溜め息を吐きながらも、どこか嬉しそうな臨也の言葉の意味を考えるが、分からなかった。何か勝負してたっけ…?
「…さて、そろそろ出ようか。ディナーの準備をしないとね。」
臨也がカップに残っていたコーヒーを飲み干したのを見て、私もグラスに残っていた紅茶を飲み干した。
そう言えば、夜ご飯のことは聞いてなかったな。俺に任せてって言ってたから、何処か予約してくれているのかな…?
小さなカフェを出て、臨也に手を引かれるまま、何処かへ向かった。
◆161003
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