1.0 15


昨夜はダラーズの初集会があり眠るのが遅かったため、臨也は数時間後、いつも目覚める時間より少し早くに目を覚ました。隣で眠っていたはずのなまえの姿が無いことに気付いたからだ。

それと同時に、臨也の携帯の着信音が鳴り響いた。携帯を手に取りディスプレイを見ると、予想通りの人間の名前が表示されていた。

起きたばかりなので頭をフル回転させて電話を手短に済ませて寝室を出ると、ちょうど出掛ける準備を済ませたなまえが1階に居た。

「なまえ、こんな早くにどうしたの?」

「あ、ごめんね。うるさかった?」

「そうじゃないけど…。」

なまえはこのように、たまに朝早くに出掛けることがある。今まではあまり気にしていなかった臨也だが、先程の電話のことを予め知っていたのだろうかと疑問を抱き、なまえと会話する。

「朝番なんだけど、ちょっと寄りたいところがあるから、早く出ようと思って。ダラーズの話は、帰ってきたら聞かせてね。」

「…分かった。気を付けてね。」

その表情や声音から、杞憂であると判断した臨也は首を縦に振り、その場からなまえを見送った。



♂♀



「直接会うのは初めてだよね?不法入国者とかのリストは役に立った?」

騒ぎの直後、"首"を持って研究所を後にした矢霧波江は、折原臨也の住むマンションの中に居た。

「しかしアンタも馬鹿なことをしたねえ。弟の歪んだ恋心のために全てをフイにしてっと。いや、むしろ弟への歪んだ恋心かな?」

臨也はそう呟きながら、オセロのコマを盤上に打つ。 そのままコマを掴んでは動かしを繰り返すが、傍からでは何をしているのかさっぱり分からない光景だ。

臨也は波江が焦燥しきった顔をしているのを見てから、将棋盤の横に置かれた特殊なケースを開き、その中にある首をまじまじと見つめる。

そして、波江に向かって奇妙な論を語り始める。

「きっと君の伯父さんも、俺と同じだったと思うんだ。あの世を誰よりも信じてなくて、誰よりも死を恐れ、誰よりも天国を渇望する。」

「…?」

「だけどね、確信したよ。俺も確信した。あの世はある。そういうことにしておこう。」

美しい女性の顔をした、セルティの首。その髪に指を絡めながら、臨也は静かに語り続ける。

「この首が生きているのに目を覚まさないのは、ここが戦場じゃあないからさ。だけど、これを中東とかに持って行ってもーー俺はああいう戦場で戦い抜くスキルを持ち合わせては居ないんだよね。」

そして、何かに期待する少年のような声を上げる。

「だがーーこの東京ならーーここで軍も政治も関わらない"戦争"を起こしたとしたならばーー俺は、生き残る自信はある。ああ、俺はなんて幸運なんだろう!天国を信じず、天国から遠い生き方をしてきた俺がーーそれ故に地上に堕ちた死の天使に出会えるとはね!」

表情の無い笑顔で、誰よりも無邪気に喜ぶ臨也。そんな臨也に対して、波江は思い浮かんだ陳腐な台詞を口にした。

「そんな…全部貴方の推測じゃない。」

「信じる者は救われるよ。それに、これは保険だって言ってるじゃないか。」

まるで食事にでも誘うような雰囲気で、臨也は波江に声を掛ける。

「ねえ、波江さん。皆で天国に行こうよ。」

臨也の仮面のような笑顔を見て、波江は気が付いた。自分はーー最も渡してはならない人間に、この"天の使い"を手渡してしまったのだと。

「この首は"ダラーズ"の一員として俺が預かる。灯台下暗しーーまさかセルティも、自分の首が自分の所属する組織にあるなんて思わないだろうね。」

自分の知らない情報が、波江の意思を畳み掛けるように襲い掛かる。

「地上に堕ちた天使をーー俺達の手で羽ばたかせてやろうじゃないか?ねえ?」





◆160925







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