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「正直、驚いているよ。まさか今日突然オフ会…いや、集会をやるなどと言って、わざわざ集まる者がこんなに居るとはね。ああ、人間とは本当に想像以上だねえ。」

別れ際に、臨也が帝人に近付いた。

「ただーー帝人君は日常からの脱却を夢見ているようだけれど、東京の生活なんて1年もすれば日常に変わるよ。更に非日常に行きたければ、余所の土地に行くかーーあるいはドラッグや風俗、もっとアンダーグラウンドなものに手を出すしかないねえ。」

そう言われて、帝人は気が付いた。今の生活に満足出来ない自分が、果たして新しい生活に永遠を求めることは出来るのだろうかと。

帝人の心を見透かすように、臨也は静かに微笑み掛ける。

「そっち側に居る人間にとっては、それが日常なんだ。一度踏み込めば、多分3日でそれが"日常"になる。君みたいなタイプの人間は、それに耐えられないだろう?」

臨也の言葉は痛い程に理解出来た。だが、こんなことを言い出す意図が分からなかった。

「本当に日常から脱却したければーー常に進化し続けるしかないんだよ。目指すものが上だろうが下だろうがね。」

そして最後に、帝人の肩をぽんと叩きながら、

「日常を楽しみたまえ。ただ、君に敬意を表してーーこの"ダラーズ"の創始者が君だという情報は売らないでおいてやろう。君の組織だ。利用したいときは勝手に利用すると良い。」

それだけ言うと、後は何も言わずにセルティの元に歩み去って行ってしまった。
帝人は何か釈然としないものを感じながら、臨也の背に向けてぺこりと頭を下げた。

ところがーー臨也は突然立ち止まってこちらを振り返ると、思い出したように付け加えた。

「俺は、君をネット上でもずっと監視してたんだ。…いやー、"ダラーズ"なんてアホな組織を立てる奴、どんなのか一度見ておきたかったんだよ。じゃ、頑張れよ、田中太郎君!」

「!?」

自分が一部のチャットでこっそりと使っているハンドルネームを口にしたことや、今の言葉から、帝人は自分のことをあるチャットに誘い込み、池袋や"ダラーズ"に関する様々な情報を知っていたチャット仲間のことを思い出した。



♂♀



「…ん…。」

日付が変わってしまったが、なまえは臨也の帰りを待っていた。ただ、あまり夜更かしをしないため、うとうとと微睡んでいる。
もう少しで眠りについてしまう、というところでドアが開く音が聞こえてきた。

「…!」

寝室のドアを開けて1階を見下ろすと、そこには満足そうな表情をした臨也が居た。臨也も寝室のドアが開く音に気付き、2階に居るなまえに視線を向けた。

「臨也、おかえりなさい。」

「ただいま。…眠たそうだけど、大丈夫?」

今の状態で階段を下りさせて足を踏み外してしまっては大変だと考えた臨也は、自分が階段を上り、その場に立っていたなまえに近付いた。

「…んー…眠たい…けど…ダラーズのことが、気になって…。」

眠気を堪えるように目を擦るなまえを軽く抱き締めてから、優しい口調で言葉を紡ぐ。

「そう。明日話してあげるから、今日はもう寝なよ。俺もシャワー浴びて寝るからさ。」

「…うん。先に寝るね…おやすみなさい。」

「おやすみ。」

少し残念そうにしながらも、小さく頷くなまえ。そんななまえの髪にそっと口付けて、ベッドに入るのを見て寝室のドアを閉めてから、臨也は軽い足取りで1階に下りた。

広いソファーにどかっと腰掛けて、先程起こった出来事を思い出す。

「…楽しみだなあ。本当に、楽しみだよ。」

なまえに聞こえない程度の声量で、恍惚とした表情を浮かべながら、笑う。

「あとは"あれ"が俺の手元に来れば、完璧なんだけどなあ。待ち遠しいよ。」





◆160924







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