1.0 12


帝人のアパートの近くで、セルティに少し離れるように頼まれた臨也となまえはその場で二人を待つことにした。二人はアパートの裏へと回り込んだため、会話は聞こえてこない。

未だに繋がれたままの手を見てから、なまえは少し不安そうに問い掛けた。

「臨也…私が来ても良かったの?」

「うん。もしかして何か予定あった?」

「…無いよ。」

なまえは何となく分かっていた。これから何かが起こると。
それに自分が立ち会っても良いのか、という意味で問い掛けたのだが、質問の意図が臨也に伝わったのかよく分からなかった。

ただ、仕事ではなさそうだということが分かったので、無理に離れる必要も無いかと判断したなまえは臨也と共に二人を待った。

その後、セルティが二人を呼び寄せたが、臨也は「俺の用件は後で良いや。」とだけ言って二人の様子を見るのみだ。

「…とにかく、ここで待っていてください。私があの人に裏切り者だと思われるのは嫌ですから。」

『了解した。』

二人のやり取りを眺めながら、臨也がからかうように呟いた。

「慎重だね、そういう姿勢は良いと思うよ。」

そのまま、アパートの側の通りで帝人を待つことにする三人。その最中に、臨也がセルティにニヤニヤしながら声を掛ける。

「運び屋、俺、あんたの名前は初めて聞いたよ。外国人だとは思わなかったな。」

臨也の表情を見る限りでは、恐らく元から知っていたのだろう。セルティの名前を知っているなまえに聞いたのかもしれない。今の言葉は、これまで教えてくれなかったセルティに対する嫌味なのだ。

それが分かっているので、セルティはあえて無視することにした。

「それにしても、ちょっと遅くないかい?」

「…そうだね。」

今の状況をよく分かっていないなまえが相槌を打つ。もう五分以上経っているが、帝人は出てこない。

「ちょっと見て来ようか。なまえは運び屋とここに居て。」

静か過ぎるアパートを前に、セルティは何か嫌な予感を感じていた。アパートの横に停まっている一台の清掃業者のバンが、その不安を余計に掻き立てる。



臨也が帝人の部屋に入ると、そこには床に伏せている帝人の姿があった。そして、少し後に自動車のエンジン音が掛かり、車は走り去っていった。

何かあったと悟ったセルティとなまえは帝人の部屋を訪れ、車を追い掛けようとしたセルティに臨也が声を掛ける。

「あの連中は多分、矢霧製薬の奴らだね。バンに見覚えがある。」

「矢霧…製薬…?」

「そ。最近落ち目で、外資系に吸収される寸前の木偶会社。」

臨也の言葉を聞き、帝人は涙をこぼしかけた目を丸くする。クラスメイトの名前と同じだったということもあるがーーその名前に、彼はもっと別の意味で聞き覚えがあったからだ。

目の奥に涙が退いていき、帝人の頭の中に様々な"断片"が思い浮かんでは消えていく。そして、ある推論に到達する。

静かになった状態の部屋で、帝人はすぐにパソコンを立ち上げ、携帯を弄り出す。

何をするつもりなのかとセルティとなまえが不思議そうに見守っているその横でーー臨也は、まるで珍獣を見つけたハンターのように、鋭い両目を爛々と輝かせた。

「正直、疑い半分だったんだがーー。」

臨也がそこまで言ったところで、帝人は立ち上がったばかりのパソコンから何かのページにログインした。
そのページをしばらく見て、帝人は三人の方を振り向いた。

セルティとなまえは思わず身震いする。
それは、先刻まで周囲の環境に振り回されっぱなしだった人間の目つきではなかった。今の帝人はまるで獲物を見つけた鷹のように、何処までも深く真っ直ぐな瞳で三人に向かって頭を下げる。

「お願いです。少しの間だけーー私に協力してください。駒は、私の手の内にあります。」

新しい玩具を自慢するような口振りで、臨也はセルティの肩をぱしりと叩く。

「ーー大当たりだ。」





◆160922







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