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『あ、もしもし、なまえ?ちょっとシズちゃんと喧嘩しててさー、連絡遅くなってごめんね。』
「…また喧嘩してたの?」
ようやく連絡が来たと思ったら、そんなことを電話越しに告げられた。
二人は相変わらず仲が悪い。まあ、今まで臨也が平和島くんにしたことを考えれば、平和島くんが臨也を嫌いになるのは当然かな…。全部は知らないけれど。
『まあね。おかげで少年が逃げちゃって…ほんと、ムカつくよ。ところで今何処に居るの?』
「今はバイト先の近くに居るよ。」
『分かった、じゃあそっちに行くから、そこに居てね。』
通話が切れた携帯をカバンに入れて、小さく溜め息を漏らした。
臨也を待つ間、先程見た光景を思い浮かべる。
何だかすごく気になる。あのセルティが高校生を追い掛けるなんて、何か理由があるのだろう。自分が会いたいと思っていた相手だということもあるけれど。
「…今度会ったら、聞いてみようかな。」
十分程経った頃に臨也が現れた。怪我は無さそう、かな?
「なまえ、お待たせ。せっかくバイト休みなのに、待ちぼうけさせてごめんね。」
「大丈夫だよ。」
「時間あるなら、何処か行く?」
そう言ってくれるということは、仕事は忙しくないのだろう。それならば、と臨也の言葉に甘えることにする。
「うん。漫画買えなかったから、本屋と…あと、雑貨屋に行きたいな。」
「じゃあ行こうか。」
どちらからともなく手を繋ぎ、私達は池袋の街を歩く。
臨也と一緒だけど、路地裏は通らないようにして、先に本屋に向かった。私が欲しかった漫画が置いてあったのでそれを買い、次は私がよく行く雑貨屋に向かう。
「何見るの?」
「マグカップだよ。ちょっと色落ちしちゃったから、新しいのが欲しくて。」
「そっか。じゃあ俺もなまえとお揃いのマグカップを買おうかな。」
本屋からそう遠くないところにある雑貨屋に到着して店内に入る。マグカップを置いている場所は知っているから、臨也の手を引いてそちらに移動する。
「んー…どれにしようかな…。」
そこには無地と柄物のマグカップが並んでいて、色も何種類かあった。お揃いにするなら、無地の方が良いかな…。
「臨也は何か気に入った?」
「そうだね…これかな。」
臨也が手に取ったのは、紺色のマグカップだ。中は薄い水色になっている。やっぱり無地が良いみたい。
「…私はこれにする。」
柄物だとお揃いじゃなさそうだから、私も無地のマグカップを選ぶことにした。外は薄紫色で、中はクリーム色のものを。
「他に何か買うものは?」
「今は無いよ。」
店内をぐるりと見回してから、首を横に振る。すると、臨也は私の選んだマグカップを手に取り、足早にレジへと行ってしまった。
「じゃあ買ってくるよ。」
「えっ…。」
慌てて後を追うと、もう会計を済ませてしまったようで、店員さんがマグカップを箱に詰めていた。二つの箱を入れられた紙袋を受け取った臨也は、私の手を取り店を出た。
「…ごめんね、買ってもらっちゃって。」
「気にしなくて良いよ。」
「…ありがとう。」
少し申し訳ないけれど、せっかくだから帰ったら早速使おうかな。
他に寄りたいところは無いので、新宿のマンションに帰ることにして、その途中で先程見たものについて話してみた。
「さっきね、探してた少年を見掛けたの。」
「え、そうなの?…話してはないんだ?」
「うん。何だか追い掛けられてたみたいで…。」
「誰に?」
…やっぱりそう聞くよね。私はどう伝えようかと少しだけ悩んでから、池袋の都市伝説の名前を紡いだ。
「…首無しライダー、に。」
「…へえ。」
赤信号になったから足を止めて臨也の顔を見ると、臨也は何だかとても楽しそうな笑みを浮かべていた。
私はまだ、この笑みの理由を知らなかった。
◆160920
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