1.0 09
翌日、俺は竜ヶ峰帝人君に接触することにした。
"とある目的"と、なまえを助けてくれたのが彼なのかどうか確かめるために。
彼の予定は知っている。今日は健康診断とホームルームだけだから、昼間には終わるだろう。すぐに家に帰らなければ、池袋のどこかで会えるはずだ。
そう考えて俺は適当にぶらぶらと歩いていた。
すると、前方に探していた彼の背中が見えた。路地を覗き込んでいるみたいだけど、何か面白いものでもあるのかな。
気取られないように近付くと、路地で起こっていることはすぐに分かった。俺は彼の肩にぽんと手を載せる。
「!?」
「イジメ?止めさせに行くつもりなんだ?偉いね。」
眼鏡の女の子を苛めていた三人の女の子の内の一人の携帯を踏み潰すと、三人の女の子は逃げて行った。それを確認してから笑い声と動きをぴたりと止め、何事も無かったかのように彼の方に振り向いた。
「飽きちゃった。携帯を踏み潰す趣味はもう止めよう。あ、このことは内緒にしてね。バレたら困る子が居るからさ。」
なまえと一緒に来なくて良かったよ。さすがになまえの目の前でこんなことは出来ないからねえ。それと、なまえの耳に入るのは防がないと。
「竜ヶ峰帝人君、俺が会ったのは偶然じゃあないんだ。君を探してたんだよ。」
「え?」
「一昨日、路地裏に居たーー、」
先になまえのことを話そうとした瞬間ーー路地の奥から、コンビニエンスストアにあるゴミ箱が飛んできて、俺の身体に直撃した。
「がっ!?」
俺はバランスを崩してその場に膝をついた。金属製のゴミ箱の直撃だったが、角ではなく面からの直撃だったために、派手さに応じる程のダメージは無かった。
よろよろと立ち上がりながら、ゴミ箱が飛んできた方向に目を向ける。
「し、シズちゃん。」
「いーざーやーくーん。」
そこには、シズちゃんが立っていた。
なまえと一緒に来なくて良かったよ。ま、なまえと一緒に居たら攻撃してこないんだけど。でも会わせたくないし。
「池袋には二度と来るなって言わなかったっけかー?いーざーやー君よぉー。」
「シズちゃん、君が働いてるのは西口じゃなかったっけ。」
「とっくにクビんなったさー。それにその呼び方は止めろって言ったろー?いーざーやーぁ。いつも言ってるだろぉ?俺には平和島静雄って名前があるってよぉー。」
低い声を出しながら、シズちゃんの顔に血管が浮かぶ。
「やだなあシズちゃん。君に僕の罪をなすりつけたこと、まだ怒ってるのかな?」
「怒ってないぞおー。ただ、ぶん殴りたいだけさぁ。」
「困ったな、見逃してよ。」
口ではそう言いながら、俺は袖口からナイフを取り出した。
「シズちゃんの暴力ってさー、理屈も言葉も道理も通じないから苦手なんだよ。」
「ひっ…。」
それまで呆然としていた先程苛められていた眼鏡の女の子が悲鳴を上げた。おそらくこのナイフのせいだろう。
そして二人はこの場を去ってしまった。あーあ、せっかく話を聞こうと思っていたのに…。
「ほんと、邪魔してくれるよね。シズちゃんは。」
♂♀
「…臨也、まだかなぁ。」
私を助けた少年について、やっぱり心当たりがあると言った臨也は、先に自分が少年に接触して確認を取ってから、私に会わせると言ってきた。連絡するからそれまで池袋で待っていて、とも。
臨也と別れてから少し時間が経ったけれど、一向に連絡は無い。どちらにせよ、連絡はくれると思うけれど…。
「…うーん…。」
いつ連絡が来るか分からないから、お店に入ることも出来ない。そのままぶらぶらと歩いていると、聞き慣れたエンジン音が辺りに響いてきた。
セルティが近くに居るのかな…?
何となく気になって、音がする方へと視線を向けるとーー一昨日私を助けてくれた少年が、女の子と一緒に走って行くのが見えた。それと、二人を追うセルティも。
◆160919
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