1.0 07
ーーふと、目が覚めた。
眠気はあまりなく、部屋が少し明るくなっていることに気付き、もう朝なのだと知る。
「…臨也…。」
昨日は遅くまで臨也の帰りを待っていたけど、日付が変わる前に眠ってしまった。
遅くなるかもしれないって言ってたけど…一緒に寝たかったな。少し寂しくなって、小さな声で名前を口にすると、
「何?」
「…!?」
短い返事があった。
臨也の声を聞くまで一人で眠っていたのだと思っていたけれど、臨也が私を後ろから抱きしめていたことを知り、どうりで身体が重たいわけだと納得した。
「あ…起こしちゃった…?」
「いや、俺も起きたとこだよ。…それより、怖い夢でも見たの?」
いつの間にベッドに入ってきたのだろう…?一度眠りについたらほとんど起きないから、分からないや。
臨也の顔を見たくなり、私はもぞもぞと身体を動かして、臨也の方へと身体を向けた。
「…ううん、気にしないで。」
「…なら、良いけど。」
そう言いながらも、納得してなさそうな顔をしている。そんな臨也の頬に手を伸ばして、そっと触れる。
「おはよう、臨也。」
♂♀
「ーーなまえさぁ、俺に何か隠してない?」
「えっ!?」
朝食を終えて二人でソファで寛いでいると、そんな言葉を投げ掛けられた。疑問符が付いているように思えるが、その問いは確信を持っているようにも思える。
…まさか、昨日のこと、知ってるのかな…?
昨日、見覚えのない三人の男に囲まれてよく分からないことを聞かれて、見覚えのない黒髪の少年に助けられたことを臨也に話すかどうか、昨日からずっと悩んでいる。
動揺して思わず大きな声を出してしまった。隣に座っている臨也の視線が痛い…。
「やっぱり隠してるだろ。」
「え、えっと…。」
「怒らないから、言ってみな。それとも、なまえは俺に嘘を吐くような悪い妹になったのかな?」
…もう怒ってるような…。そんな言い方をされたら、言わないといけない、よね…。
「…実はーー、」
「なまえ、俺さ、いつも言ってるよね?何かあったらすぐ連絡してって。」
昨日の出来事を包み隠さずに話すと、臨也は真剣な口調で言葉を紡いだ。
「…ごめんなさい…。」
「はぁ…。まぁ、知らなかった俺にも非はあるけどさ…。何はともあれ、なまえが無事で本当に良かったよ。」
横からぎゅっと抱き締められて、私は臨也に体重を預ける。あぁ、やっぱり臨也とくっついているときが一番安心する。
「臨也は悪くないよ…?私が、路地裏に入ろうとしたから…。」
「…なまえのことだから、俺に迷惑を掛けたくなくて連絡しなかったのは分かるけど、俺は迷惑だなんて全く思わないし、これからはちゃんと連絡してね。」
「…うん。」
昨日は何も無かったけど、次もそうだとは限らない。臨也に迷惑が掛かるかもしれないけど、何かあってからじゃ遅いし、次からは連絡しよう…かな…。
「それで、その少年の名前は聞かなかったの?」
「うん。名乗る程の者じゃありません、って…すぐ走って行っちゃって…。ちゃんとお礼言えなかったから、会いたいんだけど…。」
顔はちゃんと覚えてるから、いつか見掛けたら改めてお礼しないと。それに、もし会えなくても学校に行けば…って、それはあの子に迷惑か…。
「ふうん…。…来良学園の制服を着た黒髪の少年、ねえ…?」
「…知ってるの?」
「…いや、多分俺の思い違いかな。」
心当たりがあるような口振りだけど、首を横に振ったので、違うのだろう。
昨日の出来事を臨也に話してほっとしたのは束の間で、ふと時計を見るとバイトの勤務時間が迫っていた。いつの間にこんなに時間が経っていたのかな…!
「もうこんな時間…!ごめん、また夕方に…!」
臨也に離してもらい、私は慌ててバイトに行く支度をして、部屋を後にした。
だから、臨也の呟きを、私は知らない。
「ーー竜ヶ峰帝人君がなまえを助けた…なんてことは無い、か。」
◆160917
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