1.0 06


「…だからさー、折原臨也の妹のあんたなら、知ってんだろ?最近噂になってる"ダラーズ"のことをよぉ。」

「…何度も言ってますけど…私は知りません。」

苛立ちを覚えている男に対して、なまえは小さい声だがきっぱりと答えた。



なまえは全く知らなかったが、自殺オフに興じる予定のある臨也とカフェの外で別れてから、少しだけ池袋を散策することにした。

臨也には用事が無いならすぐに帰るように言われたが、なまえが好んで読んでいる漫画の発売日だということを思い出したため、本屋に寄ることにしたのだ。
ただ、カフェの近くの本屋では売り切れており、少し離れた大きな本屋に行くために近道をしようと路地裏に足を踏み入れると、その背中に声が掛けられた。

「ちょっとそこのお姉さん、止まってくれる?」

「…?」

自分のことだろうかとぴたりと足を止めて、ゆっくりと後ろを振り返るとーー、

「お、この女、折原臨也の妹じゃねぇ?」

「マジかよ。妹なんて居たのか。」

「結構可愛いじゃん。」

自分が臨也の妹であることを知っているらしい見覚えのない三人の男が立っていた。

臨也もなまえも、双子であることを一切隠していない。何度も池袋で並んで歩いたことがあるし、それ自体を知っていることは何ら不思議ではないのだが、なまえは嫌な予感がして一歩後ずさった。

「なら知ってるよな、"ダラーズ"についてさ。」

「…"ダラーズ"…?」

初めて聞いた単語に、なまえは小首を傾げる。
それが何を意味するのかすら、なまえは知らない。そういった情報を与える臨也からまだ何も知らされていないからだ。

「おいおい、とぼけてんじゃねぇよ。」

「お前の聞き方が悪いんじゃねぇか?こっちでお話しようか。」

「…っ…!」

三人の男がなまえへと歩み寄った分なまえが後ずさると、すっかり路地裏に入ってしまった。通りから少し離れているため、すぐに助けを求めることは難しい。

「…これで答えられるんじゃないか?」

「…知りません。」

心当たりすら無いなまえは首を横に振る。
そんななまえの反応に対して、三人の男の内、一番背の高い男が舌打ちをして、ずいっと顔を近付けた。

「嘘吐いたって無駄だって分かんねぇ?」

「…そんなこと、言われても…。」

まさか適当なことを言うわけにもいかず、なまえは眉を下げる。背の高い男はなまえを威圧するように、身体も近付けた。

「…あの…。」

「何だ?やっぱり知ってんのか?」

「…いえ…。」

見知らぬ男がすぐ側に居ることに不快感を覚えながらも、離れるように言うのを躊躇い、なまえはどうしたものかと思案する。

(…臨也に連絡するわけにはいかないし…。近道しようとするんじゃなかった…。)



そして冒頭に戻る。

「まぁまぁ、"ダラーズ"について知らねぇなら、その子に楽しませてもらえば良いじゃん?」

「お前はそればっかりだな。」

「そうだな。折原臨也には恨みも有るしな。」

三人の男の会話を聞き、なまえはいよいよ逃げなければまずいと判断する。しかし、背の高い男が側に居るため、逃げようとすればすぐに動きを封じられてしまうだろう。

「あんたも楽しませてやるよ。」

下卑た笑いを浮かべた背の高い男がなまえの腕を掴もうとした瞬間ーー、

「お巡りさん、こっちです!女の人が変な男達に捕まってます!」

少年らしき声が路地裏に響き渡った。

「なっ!?」

「チッ、逃げるぞ!」

警察がやって来ては敵わないと、三人の男は一目散に路地裏から逃げて行った。

「…?」

三人の男が居なくなったことに安堵したなまえは、少年らしき声がした方向へと顔を向ける。

ーーそこには、来良学園の制服に身を包んだ黒髪の少年が立っていた。





◆160915







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