1.0 05


「なあ運び屋、あんたはあの世って信じるかい?」

この件がセルティからなまえに伝わることは無いだろうと考えた臨也は、唐突に質問を投げ掛けた。

『何だ突然。』

「良いから、これも仕事の内だと思って答えてくれ。」

『死ねば分かる。』

セルティは面倒くさそうにPDAに答えを打つと、もう一言付け加えて臨也に見せた。

『お前はどうなんだ?』

「俺は基本的に無いと思ってるよ。だから俺は正直死ぬのが怖い。出来るだけ長生きしたいね。なまえと一緒に。」

『自分の趣味で女に薬を盛って、仕事で情報屋なんかやっているくせにか?』

当然の疑問に対し、臨也は照れくさそうに笑った。この表情だけ見ていると、とても裏の世界に頭のてっぺんから足の先まで浸かっている人間とは思えない。

「だってさ、死んだら無くなっちゃうんだから、人生やりたい放題やらなきゃ損でしょ?」

セルティはPDAに"反吐が出る。"とだけ打ち込んで、臨也が覗き込む前に消去した。



後のことをセルティに任せ、臨也は池袋を満喫してから帰ることにした。今すぐに帰宅したところでなまえは眠っているであろうし、それならばと決めたのだ。

今日出会った彼女達がどんな顔をしていたのか。どんな格好をしていたのか。どうして彼女達が死のうとしていたのかそもそも本当に彼女達が死ぬつもりだったのかーーすべて忘れた。

臨也は徹底的な無神論者だ。霊魂も来世も信じてはいない。

だからこそ人を知りたがり、他人に簡単に興味を持ち、同じぐらい簡単に他人を踏み躙る。
臨也は知る必要の無くなった人間に対しては、果てしなく興味が無かった。

それから十メートルほど歩いたところで、二人の自殺志願者の名前さえも忘れ去った。

情報屋である彼にとって、無駄な知識は商売の邪魔でしかないのだから。



今、彼が興味のあることは二つある。

一つは、あの常にヘルメットを被った、喋らない運び屋の正体。エンジン音のしないバイクを駆り、漆黒の鎌を操る死神のような存在。

もう一つはーー最近池袋で噂になっている、"ダラーズ"という組織のことだった。

「楽しみだなあ。楽しみだなあ。楽しみだなあ。この街は情報屋の俺でも知らないことがまだまだまだまだ溢れ、生まれ、消えていく。これだから人間の集まる街は離れられない!人、ラブ!俺は人間が好きだ!愛してる!だからこそ、人間の方も俺を愛するべきだよねえ。」

臨也はそう言いながら、胸ポケットから自分のPDAを取り出した。

電源を入れ、中にある住所録を開きながら、彼はある人物の項目で目を留める。
その項目の名前の欄には、仰々しい文字が刻まれていた。

ーー"竜ヶ峰帝人"という、今日出会ったばかりの少年の名がーー。

「さーて、なまえにはどこまで教えようかな?そもそもダラーズのことは知ってるのかな。明日聞いてみるか。」





◆160913







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