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「いやー、ははは、さっき言ったさ、"死んだ後はどうするの"っていうのは、まあぶっちゃけ、お金の話なんだけどね。」
「…え。」
「俺って無駄が嫌いなんだよね。だからさ、お金とかをさ、出来るだけ色んなとこから借りたりしてさ、そのお金を僕に渡してから死んでもらえない?君達の死は無駄になっても、君達のお金は無駄にならないよ。あと、君達の戸籍とか身体とかも残さず売り尽せば、その、かなりの額になるしさ、んで、俺はそういうことが出来るルートも知ってるし。」
臨也が語る内容はどこまでも人間の欲望に忠実だ。
二人の女が再び口を開こうとしたところで、それを遮るように臨也が大声を出す。
「さて問題です。第一問。俺はどうして一番入口に近いところに座っているんでしょう?」
まるでドアの前に塞がるような形で座している臨也に対しーー二人の女は恐怖を感じた。
「第二問、このテーブルの下にある、二つの車輪付きスーツケースは何でしょうか。」
二人の女は言われるまで気付きもしなかったが、自分達の座るテーブルの反対側に、二つの大きなスーツケースが置かれている。
二人の女の中に同時に嫌な予感が渦巻き始め、どうしようもない吐き気に襲われる。それは目の前の男に対する嫌悪感から来るものだったがーーそれとは別に、彼女達の視界がぐるぐると回る。
「!?」
「なに…これ…。」
自分達の身体の異常に気付いたときには既に遅く、もはや立ち上がる気力すらも奪われていた。
「第三問。君達が二人がかりで俺に向かってくれば助かるかもしれないのに、何でそれが出来ないんでしょうか。」
そのまま薄れていく意識の中で、二人の女は臨也の声を聞いていた。
「愛だよ。君達の死には愛が感じられないんだ。駄目だよ。死を愛さなきゃ。そして君達は無への敬意が足りない。そんなんじゃ、一緒に死んではやれないなあ。…なーんて、君達と一緒に死ぬなんて嫌だけどね。」
「絶対…許さない!殺して…やる…!」
女の一人が、最後の力を振り絞って臨也を睨み付けた。
それを聞いて、臨也はことさら嬉しそうな表情になると、女の頬を優しく撫でてやった。
「大変結構。恨む力があるなら生きられる。凄いな俺、君の命の恩人じゃん。感謝してくれ。」
女の意識が完全に無くなったのを確認して、臨也はこめかみに片手を当てて考える。
「あー、でも恨まれるのは嫌だな。やっぱ殺しておいた方が良いかもね。なまえに危害を加えられても嫌だし。」
♂♀
深夜の南池袋公園の片隅で、二つの人影が佇んでいる。その内一人は臨也でありーーもう一方は、完全なる影の姿。
『で、こいつらを公園のベンチに座らせて終わりか?』
「そ。本当ならサラ金とかに連れてって色々したかったんだけど、正直、もう飽きた。」
臨也はセルティのPDAを見て、楽しそうな笑顔で答える。
『飽きたってお前。…お前がこんなことをしているとなまえが知ったら、なまえは悲しむんじゃないのか。』
臨也から仕事の依頼を受けてカラオケボックスに行くと、何も言わない店員に部屋まで案内され、そこには倒れた女をスーツケースに詰める臨也の姿があった。
公園の中にまで運び込んだのは良いが、結局セルティには何も知らされぬままだった。
教える気が無いなら、と、セルティはなまえのことを持ち出した。その瞬間、臨也の顔から笑顔が消える。
「そうだねえ、だからなまえには何も言ってないよ。これはあくまで仕事じゃなくて俺の趣味でやってることだし。いつも言ってるけど、くれぐれも、なまえに余計なことは言わないでね?」
『いっそ私の知っていることをすべて話して、なまえに嫌われるお前を見るのも良いかもな。』
セルティはなまえと知らない仲ではない。むしろ、仲良くしていると言っても過言ではない。
そのことは、臨也もよく知っている。そしてーーセルティが優しいことも。
だからこそ、臨也は嘲笑を浮かべて、一呼吸置いてから冷たい声に変わった。
「あはは、そんなこと言っちゃって。絶対にしないくせに。俺がこんなことしてるって知ったら、なまえは絶対に悲しむだろうね。…なまえにそんな顔をさせるなら、俺は君を許さないよ。」
(なら、その悪趣味を止めれば良いだけだろう。)
思わずPDAに本音を打ち込みかけたが、言っても無駄だろうと考えて即座にそれを消すセルティ。
セルティとしても、なまえの悲しむ顔はあまり見たくないため、とりあえず言わないことにしようと決めた。
◆160912
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