1.0 03


《オフ会と言えば、自殺オフってあるじゃないですか。》

[あー。去年流行りましたねえ。ネットで知り合って心中。]

【嫌な話ですよね。でも、最近はあまりニュースになってませんよね。】

[未遂で終わってるのか、あるいはもう珍しくもなくなってニュースにならないのかもね。]

《いえ、あるいは沢山あるんだけど誰も気付いてないだけかもしれませんよ!》

【え?】

《もしかしたら、まだ死体が見つかってないとか。》

【うわぁ。】

[不謹慎ですよ。]

《そういや、最近失踪事件も多いし。》

【?そんなニュースが?】

《えーと、大抵不法滞在してる外国人とか、地方から家出して来た子とか。池袋から渋谷の間で多いみたいだよー。もしかしたら、"ダラーズ"の連中が取って食ってるんじゃないかって噂もあるぐらいですよフフウ?》



♂♀



自殺オフーー。

それは、自殺志願者サイトの掲示板を通じて心中相手を探して、実際に会うものだ。

一体自殺志願者の彼らがどんな思いで死んでいくのか、他に道は無かったのか、それとも誰かのために死を覚悟したのか、そのとき彼らを取り巻いていた絶望は如何ほどのものなのか。

臨也は、人間が好きだ。だからこそ人間を知りたがる。

今回は、なまえとカフェの外で別れた後待ち合わせの時間まで池袋で時間を潰して、カラオケボックスで二十代中頃の年齢の二人の女と会っていた。

「でさ、二人とも、死んだ後はどうするのかな?」

それまで自分達が自殺する理由を聞いていた臨也から突然振られた話題に二人の女はきょとんとした。

「え…それって、天国ってことですか?」

(自殺するくせに天国ときた!なんという図々しさだろう。これだから人間は面白い。)

「奈倉さんは、あの世って信じてるんですか。」

もう一人の女も臨也に尋ね返してくる。奈倉というのは適当に思いついた偽名だ。

臨也は二人の女の反応笑いながら首を振ると、更に質問を二人に返す。

「二人はあの世って信じてない?」

「私は信じてます。あの世っていうか、地縛霊になって彷徨うみたいな…。」

「私は信じてません。死んだら何も無くて、ただの闇でーーでも、今よりはずっとマシ。」

その答えを聞いて、臨也は心の中に大きな×印を思い浮かべた。

(あー、大外れ。大外れも大外れ。時間を無駄にしたなあ。こんなことならなまえと一緒に過ごした方がずっと良かった。ま、会わなきゃ分からないから仕方ないけどさあ。)

臨也は愛しい片割れを一度脳裏に浮かべてから、途端に目を細め、僅かな嘲りの色を見せながら笑い出す。

「駄目だよ、これから自殺しようとしてる人があの世なんて気にしちゃ。」

「え…?」

不可解な物を見るような目になった二人の女に対し、臨也は静かに口を開く。

そこで彼女達は気が付いた。自分達が死ぬ理由を今まで語り続けていたが、目の前にいる男はまだ、一度も自分のことを語っていないということに。

「あ、あの…奈倉さんは…死ぬつもりあるんですか?」

この上なく核心をついた問いに、臨也は顔色一つ変えずに答える。

「無いけど?」

「酷い!私達のことを騙してたの!?」

「ちょっと…アンタそれは洒落になんないよ。」

臨也の返答に対して、二人の女は怒りを露わにした。
だが、それを聞いても臨也の表情に何の変化も無い。

(ああ、やっぱこうなったか。)

「最低だよ!ふざけんなよバカ!何様なのよあんた!酷すぎるよ!」

「え、なんで?だって俺には死ぬ理由なんて無いもん。大事な子が居るし、その子を置いて、君達と一緒に死ぬなんて有り得ないよ。」

それはーー本当に"何を言っているのか分からない"といった表情だった。
続けて、名前は伏せながらもなまえの存在を口にして、溜め息を漏らす。

「君達は死ぬって決めたんだからさあ。もうほら、どんなことを言われても気にする必要ないじゃん。」

「…っ!」

「君はあの世には無しかないと言った。そこがね、違うんだよ。もう苦しまなくて済む、そういう意図で言ったのかもしれないけどーー死ぬってのはーー無くなるってことさ。消えるのは苦しみじゃない、存在だ。」

二人の女は反論しない。臨也に気圧されていた。
それを理解しながら、臨也は自分の考えを語り続けた。





◆160911







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