人為らざる虚ろな口は


【warning】この先、性的表現並びに暴力表現がございます。閲覧後に不快感を催されましても、書き手側は一切の責任を負いかねます。
全てを了解した上で、ご自身で全責任を負えるという方のみ、このままお進み下さい。








 小さい頃、「自分の持ち物には名前を書きましょう」とよく言われた。
 お日さま園は子供の数が多かったし、揃いも揃って似たような年齢だったから、服やら文房具やらは混ざってしまうと誰の物だか判別するのは至難の業だ。中には所有権について考えずに近くにあるものを使いまくる奴も居たけど、俺はどちらかと言うと縄張り意識が強い人間だったから、自分の持ち物にはきっちり名前を書いていた。

 名前を書くことで、これは自分のものだと証明して見せたかった。
 他の誰でもない、俺自身に対して。



* * *



「ああ、人間の身体って不便だよねえ」
「…………」
「いっそ本当に宇宙人だったらよかったのに。あ、でもそれだと余計に面倒なことになる可能性もあるのか」
「…………」
「傷が勝手に治っちゃうなんて、ホント不便」
「……グラン様」
「誰が口開いていいって言ったの」

 床に無様に膝をついた彼の頭を、靴を履いたままの足で踏みつける。くぐもった呻きが聞こえたけれど気にしない。そのままぐりぐりと体重を掛けて踏み続け、満足したところで横っ面を蹴り飛ばした。

「がっ……!」
「お前にはさあ、喋る権利だって無いんだよ。俺が許可を出すまで。何をするにも全部俺の許しが必要なんだよ。だってお前は俺の物なんだから。髪の毛一本残さずね。そうでしょう? レーゼ」
「…………」
「返事」

 今度は逆側を蹴る。

「……はい、グラン様」
「よく出来ました」

 にっこり微笑んでやると、まるで痛ましいものを見遣るような表情をされた。それが気に障ってぐい、と彼の乱れた髪の毛を力任せに掴む。緩く癖の付いた長い緑色の髪をギリギリ引っ張ると、まだ幼さを残した顔に苦悶の色が浮かんで、俺はひどく愉快になった。

「あはは、ねえレーゼ、やっぱりお前に似合うのはその顔だよ。その苦痛と恥辱にまみれた顔、堪らないね。お前はずっとそうしていればいいんだよ、俺の下で」
「ひっ!?」

 言い終えると同時に、レーゼの後ろに挿れたままだった無機質な玩具を足先で埋め込むように刺激する。男性器を模したそれはレーゼの胎内を容赦なく穿って、びくびくと震える体に暗い愉悦を禁じ得ずにはいられなかった。

「ねえ、これ。このスイッチ、もう一度入れてみようか」

 ぽん、と掌でわざと見せつけるように躍らせた小さなスイッチに、面白いくらいにレーゼの顔色が変わった。

「あ……嫌、嫌です、それだけは! グラン様、っあ!」
「嫌? 嫌なの? だってさっき入れてあげた時はあんなに悦んでいたじゃないか。だらしなく嬌声上げて、床一面に出しちゃうくらいに。こんなものの比じゃないくらいにさあ!」

 埋め込まれた玩具を思いっきり、槌で杭を打つように踵で蹴りつけた。声にならない叫びを上げて、レーゼの身体が打ち上げられた魚のように跳ねる。

「――――ッ!!!」
「あはははは! ははッ、はははははははははは!!」

 愉快だ。とても愉快。全裸で犬のように這い蹲り、秘所に玩具を打たれた挙げ句性器を紐で縛られて。まるで奴隷以下な彼の姿は俺を酷く興奮させる。
 いつもはきちんと纏められた髪も俺が引っ張った所為でバサバサだ。床をのたうち回る度に緑がうねった。毛先の一部には精液がこびり付いている。恐らく拭いきれなかった残滓が付着してしまったのだろう、あれ程残したらいけないと言ったのに。
 まあいい。どうせ今また床は汚れてしまったのだから、今度こそ綺麗に舐めとらせよう。

「ねえ、レーゼ」
「あがっ……、は、はひ……」
「呂律も碌に回らないなんて滑稽だね。ほら、今お前がみっともなくよがった所為でまた汚れちゃったよ。見えるだろう? お前の涎。汚いんだよ。ちゃんと綺麗にして」

 そう言ってつま先で床を示すと、レーゼは弱々しくはい、と返事をして床を舐め始めた。この子は本当に従順だ。惨めったらしく四つん這いになって、自分の零した唾液を舌で拭っている。生理的反応なのか嫌悪感からなのか、何度も何度もえづきながら。
 今は必然的に臀部を突き出す姿勢になっている。先程俺が蹴ったことで少し入り口が裂けたらしく一筋の赤い液体が滴っていた。そこに突き刺さったままの淫具が動きに合わせて揺れる度、俺の中で更に悪戯心が芽吹き、成長していく。
 掌の上の小さな塊。電池式の単純な造りであるその電源スイッチを、徐にONにした。
 ヴヴヴヴヴ……と羽虫が飛ぶような低く鈍い音が響き、淫具が自らの意志で動き出す。レーゼの身体がぶるぶると震え、口からはだらしのない嬌声が漏れ出した。

「あぐぅっ!?ひィっ、うあ、あああ!!」
「ほらァ、また零して。駄目じゃないかレーゼ」

 俺がきつく縛ってあげたレーゼの性器にぎちぎちと紐が食い込んでいる。真っ赤な紐を選んで正解だったな。とても見栄えが良い。俺のこの髪と同じ、血の色をした紐。
 びくんびくんと痙攣する肢体はまるで生まれたての小動物のそれだ。徹底的に無力で無抵抗。ただひとつ違うのは、その身に纏うのは赤ん坊の無垢さではなく、淫らに拓かれた者の妖艶さだということ。
 涙に汗に涎に血にそれから精液。色んな種類の体液で無機質な床が汚れていく。

「お前ときたら拭いた先から汚しちゃって。本当に役立たず」
「す……みませ………、っう、んあっ……」
「何? 感じてるの? これだけ痛めつけられて、縛られてるのに、たかだかバイブ一本で、感じてるの?」
「ひっ……ああああああ!!」

 出力を最大にしてやったら、レーゼは黒目がちな双眸をこれ以上ないくらいに見開いて叫んだ。局部に絡みつく紐が本当に血のようで、先端から堪えきれずに溢れていた液の量が更に増えた。解放しきれない熱が胎内を渦巻いて、彼は今さぞかし苦しいだろう。焦点の合わない目で、それでも必死に縋るように俺の名ばかりを呼んでいる。
 
「あ、ぐ、グラン様、グランさま、ぐらんさまぁ……!!」
「うん、いいよ。手伝ってあげる。このままお前に任せていたら、全然終わりそうにないからねぇ」
「!? や、ちが、そうじゃな……っあああ!」
「零す前に、俺が拭いてあげる」

 きつく縛られたレーゼ自身をべろりと舐め上げ、紐との境目を舌先でなぞった。そのまま先端まで移動し、氾濫寸前の蜜をわざと音を立てて吸い上げる。

「やあああっ! ほど、グラン様、解いて下さっ、あああぁあああ!!」
「五月蠅い」

 かり、と柔く歯を立てると面白いくらいに身体が跳ねた。ふるふると震えながら雫を垂らす彼の分身は真っ赤に膨張していて、もう限界なのだということが見るだけで伝わってくる。俺は彼を締め付ける紐の端に手を掛けて、唄うように訊ねてみた。

「ねえレーゼ、もう楽になりたいかい?」
「ああぁあああ、うぁっ、あああああ!!」
「解放されて、みっともなく噴き出して、恥も外聞も全部捨てて達してしまいたいかい?」
「おねっ、お願いします、グラン様あ! いか、いかせてえええええ!!」

 レーゼの口からその言葉が発せられた瞬間、心の底から湧き上がった感情が嗤いとして俺の貌に表れた。――これでもう、この子は疵を負った。一生癒えることのない、心の内側に刻まれた疵。俺がつけたもの。肉体的な傷と違って、決して時と共に治りはしない。

「いいよ……、イかせて、あげる!」

 後ろの玩具を引き抜く替わりにに俺自身を突き立てて、そのまま何度も穿った。卑猥な水音が行為を更に加速させる。半分意識を飛ばしたレーゼの爪が腕に食い込んで血が滲んだけれど、そんなものブレーキ替わりにもなりはしなかった。

「あっ、ああっ、あああああ゛っっ!!」
「っはは、レーゼ、忘れないでよ、お前は俺のものだっ!!」

 叫ぶと同時に紐を解いた。その途端にせき止められていた蛇口のようにレーゼの白く熱い情欲がとめどなく噴き出す。内部もひどく締め付けられて、俺はそのまま彼の胎内に一滴残さず俺の遺伝子をぶつけた。

「……は、すご、まだ出てる」
「あ、ああ……」

 茫然自失状態なレーゼの背中に浮いた汗を舐め、するりと頬を撫でる。

「また汚しちゃったね。本当にいけない子だよ、お前は」
「……ぐらんさま、」
「でもいいよ。お前が駄目な子であればある程、俺がたくさん躾けてあげる。お前の身体の外にも中にも疵をつけて、俺無しには夜も眠れないように。徹底的に俺の存在を刻みつけてあげる」
「……あ」
「返事」

 ぐい、と顎を掴んで無理矢理こちらを向かせる。涙でぐちゃぐちゃになったレーゼの顔はとても醜く、そしてとても愛らしかった。

「……はい、グラン様」
「うん、いい子」

 ご褒美代わりに口付けを落とし、舌を絡めながら胸元や下半身を弄り始める。繋がったままの入り口が刺激に反応してきゅう、と締まった。
 そう、そうやって俺を悦ばせていればいい。レーゼ、俺の可愛いお人形。


 床に広がる白濁に、腕の傷から流れ出た血が一粒、落ちた。





end.




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