カイテンモクバ




 ベッドに寝転がって雑誌を眺める姿がやけに可愛くて、気付いたら押し倒して衣服を剥ぎにかかっている自分がいた。割と忍耐のある方だと思ってたんだけどな。それとも我慢しすぎて限界迎えちゃったかな?

 溜まった欲求を解消せずにいることはやっぱり身体に悪い。だからこそ皆そういう雑誌を片手に色々と頑張らなければいけないのだけれど、俺達の場合は手を伸ばせば届くところに相思相愛の相手がいるので、こんな言い方もなんだけどぶっちゃけ非常に都合が良い。
 けどまあそんな下世話な理由を抜きにしたって、触れたい人が傍に居るというのはいいものだ。そして容易く実現できてしまうからこそ、どんどん我儘になってしまうのは人間のサガというものだろう。


「ん、ふぅ……」
「……、は、」

 長い長いキスの後に口を離し、ひと息つかせたところでまた舌を絡める。これを数回繰り返せば、きゃんきゃん騒いでいた聞き分けのない猫もすっかりしおらしくなる。頬を桃色に染めてはふはふ呼吸をしている様子なんて本当に堪らない。唾液で汚れた口の端を拭うように舌でなぞれば、ひゃう、なんて嬌声を上げて身体を震わせてしがみついてくる。愛おしくて愛おしくて、一刻も早くその全てを暴いて奪って抱き締めてしまいたい。

「ん、ひろ、とぉ……」
「緑川、かわいい」

 そう言うと俺はするりと緑川の下半身に手を伸ばす。ひっ、と息を呑む音がして少しだけ躊躇いが生まれるけれど、それ以上に欲望が勝っていた。
 少しだけ立ち上がりかけた緑川自身に触れ、ゆっくり上下に扱く。その動きに合わせてびくびく跳ねる緑川があんまり可愛いので、つい苛めたくなる。わざと強めに握って先端を人差し指でぐりぐりいじると、耐えきれなくなったように大きな声が上がった。

「やあっ! 嫌だ、そこ、さわるなぁ……っ」
「はい、不正解」
「……、え、」
「言葉は正しく使わなくちゃ駄目だよ、緑川」

 そう言うと俺は片手で屹立を握ったまま、空いた手で緑川のTシャツをたくし上げ、ふたつ並んだ小さな尖りの一方を咎めるようにきつく摘んだ。

「やぁあっ!?」
「嫌じゃなくて。気持ち良い、の間違いだろ?」
「あぅ、ひ、ひぁん!」
「緑川、ちゃんと答えて。正しくは何て言うのかな?」

 もう一つの尖りを口に含んで軽く吸い上げ、二、三度甘噛みをすれば緑川はあっと言う間に陥落した。こんなにも快楽に弱い身体に仕立て上げたのが他ならぬ自分であるという事実に酷く興奮する。

「あ、き、気持ち良いよぉ……」
「そう。それで?」
「それで、って」
「気持ち良くなったから、もうそれでいい? それとも、まだ何か欲しい?」
「な、そんなの……っ」
「俺は緑川が大好きだから。緑川が望むことは何でもしてあげる。逆に、望まないことは一切しないようにしたいんだ。だから緑川の口から聞けるまで、俺は何もしない」
「んな……っ!」

 ああ、そんなに目を見開いたら零れ落ちちゃうよ。そう伝えるかわりに、べろりと眦を舌で拭う。僅かに滲んだ涙でさえも甘く感じてしまうのはどうしてだろう。俺も末期だなあ。

「ねえ、緑川」
「……っ」

 少し苛めすぎたかな、今にも泣き出しそうな顔。けれどそれが余計に嗜虐心を擽る。
 身体の奥でまたひとつ焔が灯る感覚がして、その衝動のままに口付けた。「ん……んぅ……」
「ふ……ぁ、ん……むぅ」

 舌も唾液も唇もどっちがどっちのものだか分からない位貪ってから、もう一度耳元で囁いた。

「答えて……リュウジ」
「ヒロ、ト……」

 とろとろにとろけたリュウジの表情に、俺の熱は高まるばかりだ。これ以上引き延ばしたら本当にこっちが先に限界を迎えてしまうかもしれない。既に局部は痛いくらいに張り詰めていた。


 こめかみから流れた汗が一雫、ぽたりと垂れたその瞬間に突然リュウジが俺の首筋に噛み付いてきた。

「!」
「〜ばかひろとっ!」
「りゅ、うじ?」
「俺が嫌なことはしないって、さっき言ったくせにっ」

 ひく、としゃくり上げながら告げられた言葉は。


「――焦らさないで、早く、もっと気持ち良くしろよ……っ」
「――――ッ!」

 どうしよう。こんなに好きな相手にこんなに可愛いことを言われて、悠長に構えていられる筈がない。心臓の鼓動に比例して俺の欲望が肥大化していく。こんなのもう止められる訳がない!

 指先に唾液と先走りを絡ませて湿らせ、逸る気持ちを抑えつけながらリュウジの後ろを解しに掛かる。

「ひんっ! ぅあ、あああ!や、ゆびじゃ、やだっ!」
「わか、ってる」

 切なそうに身を捩るリュウジの姿にどんどんセーブが効かなくなる。けれど前戯をしっかりやっておかなければ、辛い思いをするのはリュウジの方だ。
 さっき言ったことは本当だから。リュウジが嫌がることはしたくない。俺との行為で傷付けることもしたくない。どこまでも気持ち良くしてあげたい。
 どこまでも気持ち良くなりたい、一緒に。

 充分に慣らし終え、漸くひとつになれた時には、もうお互い溶けそうな程に熱くなってしまっていた。
 腰を進める度に目の奥で燐光が散る感覚がする。怖いくらいの快楽が全身を駆け巡っていた。

「ひああっ! ぁあ、ああぁんっ」
「ん、ッあ……! ……くっ」

 ぎちぎちと締め付ける感覚に全てを持って行かれそうになる。触れる肌とその表面を伝う汗、擦れるシーツの感触までもが快楽に繋がって、声を抑えることもせずにただひたすら打ち付けた。リュウジの嬌声が耳の奥で甘く響く。馬鹿みたいに名前を呼んで、穿って、あとはただひたすらに絶頂を求めた。

「や、はげし、っああ! あ、ヒロトぉ……!」
「……ウジ、リュウジ……ッ!」
「も、いっちゃ……あああぁあっ!!」
「ぅあっ……!」


 リュウジが極まったのと同時に一層強く締め付けられて、俺も胎内で脈打つ熱を吐き出した。




 お互いに繋がったままの状態で身体を休める。こうしていると本当にひとつになれたみたいで、ひどくくすぐったくて幸せに思う。
 俺の下で息を整えている緑川の潤んだ瞳や紅潮した頬が艷めかしい。今出したばかりなのにまた抱きたくなるじゃないか。全くこの子は、本当に。


「緑川ってさ、やらしいよね」


 ただでさえ余裕が無いんだから、これ以上煽らないで欲しいな。





end.




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