Fang



「んあ、あっ、は……ああっ!」
「……ジョニィ、ジョニィ……」
「ひぁ! あっやっ、あああ……!」

 律動に合わせて揺れていた乳首に噛み付くと、嬌声と共に一際締めつけが強くなった。うねる襞が突き立てた欲を溶かすように絡みつき、眩暈を起こしそうな程の熱と快楽を与えてくる。

(ああ、血、が)

 歯痕から滲み出す赤い液体にまた情欲をそそられて、舌先で掬った後に幾度も音を立ててむしゃぶりついた。その度にびくんびくんと跳ねる腰を両手で捉え、より繋がりを深くする。

「あ、あ、やだ、ああ……っ!!」
「……嫌じゃあ、ないくせに」

 思わずそう零すと、それまでぐずぐずに蕩けていた天色の目が途端にキッと鋭く睨みつけてきた。こんな状況に於いても尚、生来の矜持の高さを手放さない姿勢はいっそ賞賛に値する。
 ディエゴはにたりと口端で笑い、腿上で揺さぶっていた身体を寝台に倒すと、そのまま伸し掛かるようにして覆い被さった。挿入されているものの角度が変わったことで新たな快感が生まれ、罵詈雑言を吐くべく開かれようとしていた唇が再び意味を為さない喘ぎを紡ぐ。

「ひああっ!、はう、あ……っ!」
「っ、そんなに締め付けるな、ジョースター君……。動き、辛いじゃあ、ないか」
「ぁ、だって、そんな……っ!」

 ジョニィの手をシーツに縫い止めながら、ディエゴは下肢の筋肉を巧みに使ってより一層彼を快楽へと追い詰めていった。ジョニィが感じるポイントの全ては既うに把握済みだ。そこを硬くなった先端で突き上げ、擦るたびに艶めいた声が鼓膜に響く。確かに自分と同性のものである筈なのに、どうしようもなく雄の本能を刺激する甘く淫らな魔性の声音だ。

「ひっ、あ、んぐ、んん……っ」
「ああ、口を閉じるなよ。折角の啼き声が聞こえなくなるじゃあないか……っ、ほら、唇にも傷を付けて、」

 ギリギリと噛み締められたことで、薄皮を破って血を滲ませている柔らかな下唇を慈しむようにねっとりと舐める。そのまま口付けを交えて舌を侵入させて咥内を深く犯した。

「んっ、ふぅ……む、ぁ、」
「は……、」

 避けようとする舌を追い掛けて絡め捕り、執拗に丹念に舐り続ける。最後に犬歯から前歯の先にかけてをぞろりとなぞると、ディエゴは漸く顔を離し、ジョニィの目元に滲んだ水分を音を立てて吸い上げた。
 どちらのものとも知れない荒い呼吸が、濃密な空間を鈍く振動させる。

「ジョニィ……君は、」
「……何だ」
「……いや。何でもない」
「っだよ、言いたいことがあるなら、はっきり言え……っ! ムカつくだろッ!」

 半端な物言いが気に障ったのか、ジョニィは苛立ちも露わにそう叫んだ。その言葉に即座に薄笑いの浮かんだ表情を消すと、鋭く光らせた視線をひたと此方の双眸に合わせる。眼差しの毅さに気圧されてか、目の前の喉が小さくこくりと鳴った。

「な……んだよ、」
「……ても」
「は?」

「わざわざ自傷に走らなくても、そんなに噛み付きたいのなら俺の唇にすればいいだろう」

 食いちぎるのでも引き裂くのでも、したいようにすればいい。どうせ君のものなのだから。
 一旦顔を離してからそう言うと、ディエゴはもう一度、今度は水滴に触れるような儚さでキスをした。驚いたように見開かれる瞳に喉の奥でささやかに笑い返し、すぐにまた激しく貪り出す。
 そのまま暫く水音が続いた後、やがて様子を窺うようにしながらそろりそろりとジョニィの舌が進入してきた。ディエゴは満足げに目を細めて絡め取り、打ち付ける腰の動きを一層速くする。より深い場所を穿つようにねじ込むと、しなやかな両腕がゆっくりと首の後ろに回された。

 視線を下にスライドさせると、熟れた天色の目がふたつ、ディエゴの翠眼をこれでもかと言わんばかりに睨んでいる。さながら熱情を伝えるかのように強く激しく。

(――――ああ、)

 それでこそジョニィ・ジョースターだ。
 射殺さんばかりの苛烈な視線にうっとりと心の中でだけ陶酔して、ディエゴは自らの欲望を相手の胎内に解き放った。

「あ……ふ、ぁ……!」
「は……っ」

 ほぼ同時に頂に達し、ひくひくと快楽に喘ぐジョニィの乱れた姿を網膜へと焼き付けて、ディエゴはべろりと長い舌で口周を舐めたのちに燦然と微笑んだ。


 この身を裂くべきものはただひとつ、君の“牙”だけなんだ。


 そう、声にならない声で囁いて。



end.




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