Sample.2



 自分はいつの間に眠りに就いたのだろう。或いはとうとうヤバい薬にでも手を出してしまったのか。

(だってこんなの、夢か幻覚とでも考えなきゃあまりにも都合が良すぎるだろ!)

 ロスはいまいち現状を信じきることが出来ないまま、それでも脚の間で微かに揺れる黒髪をあやすように撫でた。

「ん……ん……っ」

 あまり口が大きくないためか、深く咥え込まれずに先端ばかりを往復される。そのもどかしさがかえって欲を煽り、拙い舌や歯先が鈴口や雁首を掠める度に腹の奥の熱が高まった。

 慣れない奉仕を自ら名乗り出たアルバは、息苦しさと羞恥で耳まで赤くなりながら、それでも懸命に舌戯を続けている。伏せられた瞼の淵には透明な雫の珠がふるりと揺れていた。それがはらはらと零れ落ち始める前に指で拭い、そのまま輪郭線をなぞり上げると、ぴく、と震えて目が開いた。視線の遣り場に困ったのか、ゆらゆらと不安定にうつろう瞳を捉えて安心させるように微笑む。

「……そのまま、続けて下さい。頬の裏とか上顎とかで、擦るみたいに」

 具体的な指示を出してやると、アルバはこくこくと頷いて言われた通りの動きをしようと試みた。しかし上手くいかずに幾度か口を離してしまい、そのたびに慌てて含み直しては窺うようにこちらを見上げてくる。その視線に煽動されてロスの雄は更に大きさを増していき、アルバがいよいよ苦しさで眉を顰めたところで、宥めるように頭を撫でて助け舟を出した。

「そんな苦しいなら、無理して咥えなくてもいいですよ」

「れも、」

「その代わり、横とか、付け根とかをもっと触ってみて下さい。手も使っていいですから」

「……ん」

 アルバは渋々頷くと、名残惜しそうに先端に口付けてから早速側面をしゃぶり始めた。あむあむと屹立を唇肉で挟み、そのまま横笛を吹くような仕草で往復する。やわく立てられる歯や不慣れな仕草で陰嚢や亀頭を刺激する手、何より懸命にそれらを行うアルバの淫猥にとろけた顔の破壊力に打ちのめされ、ロスはたびたび暴発しそうになる自身を抑えるのがやっとだった。

 やはりこれは全て自分に都合のいい夢なのではないか。そうでもなければあの純情・潔癖・頑なが服を着て歩いているようなアルバが、同じ名を持つ淫乱ピンク髪の弟とはまるで正反対な性格のアルバが、自ら伽へ誘った挙げ句フェラチオを申し出るだなんてそんなこと有り得ない。しかし現に有り得ている。ということはやはりまごうことなき現実なのだ。

(生きててよかった)

 ありがとう世界。ロスは混乱した頭のまま、この降って湧いた僥倖に魂の底から感謝した。

「ろす……、ひもちい?」

「っええ、最高です……。なんで、そろそろ離してもらえますか」

「……ろうひて、」

「どうしてって、そりゃこのままだと出、……っ!」

 話し途中で再び先を咥えられ、下肢が更に重みを増す。先刻よりも懸命に、必死に口を開けて咽奥へと迎え入れるアルバの表情は茹だったように赤い。その欲に染まりきった姿に、ずぐん、と鉛のような衝動が走った。

「黒、さ……っ!」

「んんっ!!」

 咄嗟に引こうとしたが間に合わず、どころか更に引き込まれてしまい、堪らずに精を吐き出す。アルバは最初は飲み下そうとしていたが、流石にきつかったらしくすぐに口を離してげほげほと咳き込んだ。咽せる顔に飛沫が附着し、白い軌道が顎を伝ってぽたぽたと垂れる。

「かは、うぇ、っ……」

「っすみません、大丈夫ですか!?」

「……にが、っう……」

「だから無理に咥えなくていいって言ったでしょう。ほら、」

 ベッドサイドに置いていた水のボトルを一本開けて差し出すと、アルバは涙目のまま受け取って中身をんくんくと含んだ。夜間に目が覚めた時などの喉の渇きを潤すために置いていた物だが、こんなことに使うとは思わなかった。

 アルバは水を含んだまま洗面所に駆け込むと、軽く口を濯いで戻ってきた。その表情は相変わらず赤いまま、けれどもどこかバツが悪そうだ。

「で、一体どうしたって言うんです? 貴方が自分からあんなことを申し出るなんて」

「別に……ただ、そうしたいなって思ったからしてみただけ。……好くなかった?」

「いえ最高でした」

 ロスは光の速さで返答した。これっきりで終わらせない為にもそこははっきりしておかなくては。

「ほんとに? ほんとによかった?」

「そりゃあもう。あんまりヨすぎて夢かと思いました」

「……なら、いいや」

「黒さ、……っと」

 寝台の縁に腰を下ろしていたロスを目掛けてアルバの身体が倒れ込み、そのまま二人でぽすん、とシーツの上にもつれ合う。

 汗で少し湿った黒髪や頬、鼻先や瞼に幾度も唇を落としながら、ロスは淡く色付いた胸の頂を指で撫でた。何度も往復するうちにぷっくりと尖り始めたそこをきゅっと摘み上げ、指先で弄ぶように刺激する。甘い喘ぎを上げて反り返る喉にやわく噛みつき、呼吸を奪うようにキスをした。

「ん……む、ふぁ……っ」

「たまにはこういう積極的な貴方もいいモンですね。普段のマグロ状態も好みですけど」
 ふ、と口の端だけで笑うと、ロスは舌先で肌をまさぐりながらそこかしこを吸い上げた。表面上こそ余裕ぶっているが、先刻の奉仕で高まった欲望は未だ鎮火されてはおらず、出口を求めて胎内を彷徨っている。

 一回出した程度では全然足りない。早くこのままアルバの中に侵入し、熱い襞を思うままに突き上げたい。逸る気持ちを抑えながら、音を立てて脚の付け根に吸い付く。前歯の先で軽く噛めば、無防備な腿がびくんと跳ねた。


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