Sample.2




 さて、まずは皆、我がバトランドについてはどの程度ご存知かな。……ふむ、戦士の国。確かに一般的に知れ渡る印象はそうだろう。古くからバトランドでは武勇に勲を立てることを誉れとしてきましたからな。

 うん? ……なぜ己の拳でなく武器を用いて戦うのか、か。

 確かに我が国には体術の熟練者もいるが、やはり他国からも評判高いのは剣術や槍術ですな。それにはあの土地の特色に由来があるのだが……そうだな、今日はそれについて話すとしようか。

 皆様、バトランドがかつて鉄鋼業で栄えたことはご存知ですか。……流石、ブライ殿は知っておられますか。クリフト殿も、史学で。トルネコ殿もか。流石は天下一の武器商人、その辺の事情には精通されている。

 あの辺りの地層からは昔から良質な鉄鉱石が多く採掘されていて、それを目当てに集まった人々がいつしか村を作り、街を作り、やがて国を造ったのが我がバトランドの開闢だったと伝えられております。広い森林のお陰で燃料にも事欠かず、水場は山頂より流れるイムル川と、何より『灯火の湖』があった。おまけに地盤も安定していて勾配も少なく、広々と土地を使えたため、大規模な製鉄をするのにはうってつけだった訳です。

 ……ああ、『灯火の湖』とはイムルの西にある湖のことです。あの、中央の島に塔がそびえる湖。ちょうど日が沈む時間帯、塔の先端に夕陽が掛かるとまるで蝋燭のように見えることから地元民はそう呼んでおります。

 さて、鉄を採ったからには当然、それを使わねば文字通り宝の持ち腐れ。初めは主に建材に、次は家具や器具に、その後は剣や鎧へと。鉄は姿を変えて用いられてゆきました。

 鉱夫が採った鉄を職人が加工し、また別の職人が謹製して、出来上がった武器防具を国が買い上げる。買われたそれらは城仕えの兵たちの備品として支給されていきました。

 そうして年月を経ることで技術が蓄積されて品質も上がり、いつしかバトランド製の武器は世界各国で使われるまでになりました。その利潤で兵を鍛え国を整え、また鉄を採る。そんなことを繰り返すうち、いつしかバトランドは鉄の国と呼ばれるようになったのです。鉄を造る国、鉄を売る国、鉄で出来た国。そこに含まれた意味も多様でした。

 いくら国力が増したとは言え、華やかな大国エンドールや由緒ある魔法王国サントハイムと比べると、その頃のバトランドはまだまだ辺境の田舎国に過ぎませんでした。何かの折に使者が諸外国へ足を運べば、後ろ指で揶揄されることもあったそうで。曰く、バトランド人はどこもかしこも鉄で出来ているから、歩く度にガチャガチャとうるさくてかなわない、などと。

 ああ、いえ、私は直接言われたことはありませんが。城の書庫に残る文献にはそんな記述がありました。まあ文献などと言いつつも単なる昔の人間の日記なので、どこまでが事実か妄想かも分かりませんが。

 だがしかし、実際にその後起こった出来事を鑑みると、その言葉も言い得て妙だったのかも知れぬなあ。

 ……どういうことか、ですか。

 いや申し訳ない、余計なことを言ってしまった。『その後起こった出来事』は決して良い事などではありません。むしろ碌なものではない、と言えます。しかしそうだな、こういう機会でもなければ貴方のような若い方は知ることも無いやも知れませんな。

 お三方、すまぬ。私自身は気にしたことはないが……いや、知っておかねばならぬこととして留めてはいるが、今の時代に生きる者として不要な偏見などは持っていない、という意味だが。

 半端に隠し立てするのも不義理というもの。この場で話してしまっても良いだろうか。勿論、不都合あれば止めてくれて構わん。

 ……うむ。ご理解頂き感謝する。

 では話を戻そう。

 いつしか鉄とそれが生み出す財に溺れるようになった我が国はその後、誠に信じ難いことですが、西方のサントハイムに戦を仕掛けたのです。



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