繋いだ木の葉の一枚までも 細かく切った大根の葉と油揚げをフライパンに入れ、出汁と酒と醤油、それから少しの砂糖を加えて加熱する。程良い感じになったところで白胡麻を振り掛けた。更に隣のコンロで水を張った鍋に昆布を入れ、沸騰してから取り出して白菜と調味料を入れる。白菜が柔らかくなってから潰した梅肉と塩で味を整え、薄切りの豚肉を加えてしんなりするまで再度煮炊き。良い香りが漂い始めたところでとろ火にし、煮汁を小皿に取って味を見る。うん、丁度いい。 「鶏五目はもうすぐ炊き上がるし、鰤大根も作ったし、吸い物も準備出来てるから、あとは……肉がもう少しないと文句言われるな」 はあ、とため息を吐いて冷蔵庫を開ける。チルド室から発泡スチロールのトレイに入った牛肉、野菜室からピーマン、ついでに棚から缶詰の筍を取り出して全て細切りにする。新しくフライパンを取り出して胡麻油を熱し、先に筍を炒めてから取り出して油を切った。次に肉とピーマンを炒め、色が変わった頃に再度筍を投入して市販の焼肉ダレと絡める。 全てを皿に盛り付け、仕上げとして木の芽や白髪ネギを散らしていた頃にのそのそとキッチンへ入ってくる気配があった。 「ん〜いいにおい。もう全部出来たのか?」 「御飯が炊き上がれば完成だね」 「えへへ、やっぱり持つべきものは料理上手なコイビトだな」 「なんか腑に落ちないな……」 御機嫌取りのように腰に手を回してべたべたとひっついてくるリュウジの顎の下を猫のように撫でてあやしながら、俺は何とも言えない複雑な気分を味わっていた。 俺は明日から泊まりがけの撮影に行かなければならず、本来なら今頃は支度や日程確認に追われている筈なのだが、何故か計三日間分のリュウジの食事を作ることに時間を費やしていた。それもこれもリュウジが俺の作ったものでなければ食べないなどとワガママを言い出した所為だ。 リュウジの朝食はいつもゼリー飲料だし、そもそも朝食と昼食の境目がないような時間に起きてくるので実質調理するのは夕食のみでいいのだけれど、元々が食欲魔人なだけあって結構な労働だった。撮影行く前からこんなことで疲れてるってどうなんだ、俺。 「やっぱヒロトは家事の才能があるよねー」 「ねえリュウジ、俺の本業知ってる?」 「ん、オカン」 「俳優です」 学生時代の一人暮らしの経験から、なまじ家事ができるようになってしまったのは果たして幸か不幸か。リュウジと共に過ごすようになってからというもの、料理のスキルがめきめきと上がっていっている気がする。ついでに口うるさくなった気も。 「だって、ヒロトのごはん美味しいんだもん」 「もんとか言わないの。お前はいくつだ」 「えっちなことができるお年頃ー」 そう言うとリュウジはするすると俺の身体に腕を絡めてきた。丁度デザート代わりに林檎を剥こうかと果物ナイフを手に取っていたところだったので、明確な意思の下に蠢く手つきに常以上にびくりと過敏に反応してしまう。 「ちょっと……なに人の股間まさぐってるの」 「んー? なんか料理してるヒロトの背中がエロいからムラッとした」 「キッチンで発情しないでよ」 「へへへー」 へへへじゃないよ全く。 慌ててナイフを置き、下半身へと伸びる手を咎めようとするけれど一向に止めようとはしない。やがてその手はスラックスのファスナーを下げて内部にまで侵入し、下着越しにするりと性器を撫で上げた。途端に走る官能に思わず肩が震え、吐息が漏れる。その反応に気を良くしたのか、リュウジは一層エスカレートしていった。 「リュウジ、いい加減にっ……」 「いいだろ別に。明日から留守にするんだし、今のうちにいっぱいシておこうよ」 「あのね。ここはキッチンだよ?」 「だから? ……ちゃんと硬くなってる癖に」 「そりゃそんな風に触られれば誰だってっ……うぐ、」 「ね、ヒロト」 俺の言葉を唇で遮ると、リュウジはとうとう下着の中にまで手を侵入させ、慣れた手つきで半ば立ち上がりかけているそれを撫でた。根元から先端まで、形を確かめるかのように。 「これ、挿れて……?」 飛び切り甘ったるい声で囁かれ、とどめとばかりに耳朶を噛まれては流石に俺も自制のしようが無かった。 ぷつりと理性の糸が切れた衝動のままに唇を奪い、そのままその場に押し倒す。冬だというのに相変わらずシャツ一枚羽織っただけのリュウジの身体を舌で探り、胸元の赤い飾りの一方に吸い付いて、もう一方を指先で潰した。 「あんっ、や、んんっ」 「……自分だって、こんなに尖らせておいて……」 「ひゃ、だから、言っただろ……ムラッとしたんだって、ば、んあっ!」 柔く甘噛みをしてはちゅうちゅうと乳飲み子のように吸い上げ、舌先で転がす。空いている方は親指と人差し指で摘むように刺激して。それを左右共に何度も繰り返していたら、やがてリュウジの乳首は熟れた果実のように真っ赤に充血していった。 「ああ……や、そこだけ、やだぁっ」 「分かってる……。こっちも、だろ?」 「ひう! あ、そこ、もっと……っ!」 とっくに勃ち上がっていたリュウジの陰茎を片手で扱き、袋を揉み込んで亀頭を弄る。沁みだした精液を絡めて括れをぐりぐりと強めになぞると、一際高い声が上がった。 「あっ、あっ、ひ、あぁん!」 「……ここも、すごく熱い」 先走りで濡れた指を後孔に挿れると、ずぷ、といやらしい音と共にすぐに飲み込まれた。内壁は今にも溶け出しそうに熱い。熱くて狭くて、ひくひくと貪欲に蠢いている。 数え切れない程の男を咥え込んできた、淫らな蕾だ。 「流石に、何もナシだときついか……」 「ん、はっ……あ」 一旦指を引き抜くと、リュウジは切なそうに啼いて身体を揺らした。そのまま潤んだ視線で訴えてくる。これ以上焦らすな、と。 口寂しいのか、自分の指をねぶるように噛んでいる彼の額にキスを落とし、身体を離してシンクの脇の棚から硝子瓶を取り出した。中に納められた鶸色の液体を指に絡め、怪訝そうにしているリュウジの中に再度埋め込む。 「や、何……? つめたっ」 「オリーブオイル」 「そんなの使わなくてもっ、ひゃう、んやぁっ」 「駄目だよ。もし怪我したら、明日からはいつもみたく薬塗ってあげられないんだから、ね」 「食べ物で遊ぶなって、いつも言ってる癖に……、ん、あぁ、そこ、もっと掻き回して……っ」 「こういうのは、有効活用って言うんだよ……っ」 オイルを纏った指を内部でバラバラに動かし、隅々まで拓いたところで漸く屹立を宛てがった。先端が入口に触れただけでリュウジの身体が痙攣する。そのまま少し力を込めるだけで、すっかり解されたそこはずぶずぶと俺を迎え入れた。 「あ、はっ……」 「はは、凄……もうこんなになってる。どろどろだ」 「っ、ヒロトだって……めちゃくちゃ、デカくしてるくせにっ」 きゅう、と内壁を締め付けられて、あまりの気持ち良さに意識を持って行かれそうになる。奥歯を食いしばって愉悦に耐え、太腿を掴み上げて激しく抽送した。肌と肌とがぶつかり合い、ぱちゅ、ぱちゅ、と淫らな音を奏でる。滲み出た白濁が空気と擦れて気泡を生み、結合部分に纏わり付いた。 「ひぐっ! んやぁ、あぁ、ああぁぁああん!!」 「くぁ、っは……、ん、ぁあっ」 気持ち良い。 出し入れする度に喰らいついてくるリュウジの胎内はとろけそうな熱さだ。あまりの良さに眩暈すら覚える。このままずっと繋がっていたいと思うほどに。 「あぁ、ヒロト、いい、イイよぉ……っ」 「リュウジ……っ、もう、出そう?」 「出るっ、あついの、出ちゃうぅ!」 「ん、良いよ、いっぱい出して……っ!」 そう告げると俺は手を伸ばしてシンクの下に掛けてあったタオルを掴み、反り返って雫を垂らすリュウジの性器を包んで上から擦るように刺激を与えた。それと同時に律動のスピードを一層早め、ガツガツと叩きつけるように深く貪る。 「あぁッ! ひん、あ、あぁあああああッ!」 「う、あ、はぁ……っ!」 やがてリュウジの身体が一際大きく痙攣し、先端からびゅくびゅくと勢い良く溢れ出た白濁がタオルを汚した。途端に孔内がひどく締め付けられ、恐ろしいくらいの快楽が思考を壊していく。俺は腹筋にありったけの力を込め、吐精の衝動を堪えた。 解放されない熱が躯の中をめまぐるしく駆け巡っている。瞼の裏がちかちかして今にも灼けてしまいそうだ。 「あ、なン、で……中に出さないん、だよ」 「……あのね。ここ、何度も言うけどキッチンだから。流石にこんな所で中出しまでする気はないよ」 「そんなの今更だろ……ここまでしといて」 今更だろうとなんだろうと、これは譲れない。昨日業者を呼んで掃除してもらったばかりだから零して汚れても嫌だし。不服そうなリュウジを他所に、俺はタオルで彼が放った残滓を拭うと丸めてゴミ箱に投げ、結合を解除するために腰を浮かせた。 けれどリュウジは逃がさない、とでも言うように脚を絡め、不意を突かれた俺を押し倒して馬乗りになった。繋がったままの秘部が刺激で収縮し、再び官能が首をもたげ始める。 「ちょ、リュウジ……っ!」 「出してくれないなら、出させて……やる、っん、あ!」 俺の腹に手をついて、自分から良いところに当たるように腰を振る。体位が変わったことで先刻とは違った刺激が生まれ、内側の粘膜がきゅうきゅうと収縮して俺の劣情を搾り取ろうと絡みつく。 とんでもない程貪欲で……堪らない。 「リュウジ、っ駄目だ、もう……っ!」 「やだ、出して、俺のナカ……いっぱいに、して……!」 「だめ、だって……っああ!」 角度を変え、深度を変え、ただひたすらに絶頂へ誘うリュウジの色欲の前に、とうとう俺は屈してしまった。それまで抑えていた分、精液が勢い良く飛び出していくのが自分でも分かる。胎内に熱を受け止めるリュウジが声にならない声で嬌声を上げた。 この世のものとは思えない位の心地良さに、繋がっている部分から身体が溶けていってしまいそうだ。 「は、あぅ……、ヒロトので、俺のおなか、いっぱいだぁ……」 「……俺はぺこぺこだよ……」 「俺を食べるだけじゃ足りないの?」 「そういう問題じゃなくて。実際にお腹空いたんだよ、疲れたし」 さっきまで自分で食べる訳でもない食事を大量に準備していて、漸く一息つけると思ったらとんでもない誘惑の所為でセックス(しかも激しい)をする羽目になって。挙げ句の果てにこっちが強引にイかされるとか、色んな理由が積み重なって心身ともに疲労困憊だ。 「これから作った物をタッパーに詰めて冷蔵庫に入れなきゃいけないのに……」 「んー……。じゃあさ、詰める前にシャワー浴びてさ、それからちょっと食べちゃおうよ、つまみ程度にさ。少しくらい一緒に食べたいし」 「……俺は構わないけど、リュウジはそれでいいの? お前の分なのに」 「いいよ。ちょっとくらいなら平気」 人一倍食べることが大好きなリュウジがこんなこと言い出すなんて珍しい。けど、本人がいいって言うならまあいいか。元々作ったのは俺なんだから。 夢中になってたせいで気付かなかったけど御飯も炊けたみたいだし、折角だから出来立てのうちに一口くらい食べておきたい。 「それじゃ、とりあえずどいてくれる? バスルームに行かないと」 「やだ」 「は?」 ぐちゅぐちゅと劣情に塗れながら、まだリュウジの内部にいた自身を引き抜こうとして、俺は再び反対に遭った。リュウジは身体を起こした俺の首に腕を回し、抱っこをせがむ子供のようにしがみついてくる。 「やっぱりもう一回したい」 「……はい?」 「だから、もう一回したい。あと一回して、それからシャワー浴びてごはん食べようよ。ね?」 「いや、ね? じゃなくてさ。どれだけ欲求不満なんだいお前は」 「だって、ヒロト明日からいないんだし。今のうちにいっぱいやんないと、俺のここ、すぐヒロトのこと忘れちゃうよ?」 「…………っ!」 そう告げてくるりと悩ましげに腰を回す。解き放たれて萎えていたはずの牡がまた硬度を増し、それに呼応するように再び熱く締め付けられた。 まるで底無し沼みたいに、ずぶずぶと爛れた快楽から抜け出せないでいる。 「……知らないよ、どうなっても」 「いいよ、どうにでもしちゃって。俺はとっくにどうかしちゃってるもん。ヒロトに関してはさ」 「本当に、お前はっ……!」 それ以上はもう言葉を無くした。とんでもないことばかりを紡ぐ口を塞いで喘ぎ声すらも呑み込み、腰を掴んでひたすらに突き上げる。俺の形を、熱を、リュウジの中に刻みこむ。他の誰に抱かれていても、いつでも俺を思い起こさせるように。 この淫らな身体が一番求めているのは俺なのだと、顔も知らないリュウジの客に知らしめるように。 結局あと一回で終わるはずもなくて、折角綺麗に磨いてもらったフローリングもお互いの汗や精液でどろどろに汚れてしまった。空腹を堪えながら後始末をし、シャワーで身体を流した俺達が遅めの食事にありつけたのはかなり時間が経ってからだった。 まあ御飯は保温モードになってたし、他のメニューも温めなおせば問題はなかったんだけど。 それより明日の準備どうしようかな。まだ何も終わってない……眠いのに。 end. 戻る |