抱えてる下位の組織がとらぶったかなんだか知らないけどここ最近ずっとばたばたしてて地味に忙しい日が続いていた。いつもどおりにやんなきゃいけない事にプラスされた細々とした仕事達はどれもこれも面白みに欠けたのばっかりで全然楽しくなかった。あれならまだ食事会やらなにやらに引っ張り出されたほうがまし。一応美味いものは食えるし。そもそも仕事が好きじゃないんだからどんなのでも楽しくないんだけど。やんないわけにはいかないからしょうがない。
 そんなこんなで俺以外もそこそこばたついていてここ何日か兄弟六人が全員で顔を揃える事はなかったくらいだ。俺の仕事の都合上どうしても絡みがあるチョロ松と、あとなんかたまたま十四松には会って一緒に飯食ったな。あとは一松くらいしか会ってない。一松は自室っつーか寝室っつーか。当たり前のようにそこにいるから会っただけだ。ちょっとは喋れたけどなんもしてない。同じベッドに寝てるから余計にそれがしんどかった。というか現在進行形でしんどい。
 明日はオフで大丈夫だから、とチョロ松に告げられたのは昨日、日付が変わってすぐくらい。つまり当日にいきなり休みを言い渡されたわけだ。そんないきなり言われてもなんか予定が組めるわけもなく、俺にできたのはここ最近じゃ一番遅い時間に起きてゆったりと朝飯を食う事くらいだった。本当なら一松を捕まえていろんな意味でいちゃいちゃしたかったんだけどな〜、残念ながら捕まえる事はできなかった。流石にこう忙しいとボスの権限使って強引に捕まえるわけにはいかないもん。あいついつオフなんだろ、あとでチョロ松に連絡いれてみよ。
 一松はオフじゃなくてもトド松はオフだったらしく一緒に朝食は食えたけど適当になんかしよ、という誘いは女の子とデートだからとばっさり断られてしまった。というわけでどうするか考えつつ自室へと戻っている真っ最中だ。人が少ないせいですげー静か。最低限しかいなさそうだなこれ。
「あ、遅かったね。おかえり」
「は?」
 適当に街をふらふらするだとか、いっそ開き直って惰眠を貪るだとか。いろんな休日のパターンを考えながら開いたドアの先にはなぜか一松がいた。いないって事で一松関連の事は全然考えてなかったし全部諦めてたからほんと、めちゃくちゃびっくりした。咥えてた煙草を落とすくらい。慌てて踏んで火は消したけど焦げ跡残ってるだろうなこれ。まあいいや。ばれないばれない。
「なんでいんの」
「休みだから?」
「えっ聞いてねえんだけど」
「言ってないからね」
 なんでだよと思ったけどそんなのすぐどうでもよくなってしまった。もう街をふらふらするっていう選択肢も惰眠を貪るっていう選択肢も俺の中には存在しない。だって一松がいるんだもん。する事なんてひとつしかないじゃん。いちゃいちゃしたい。いろんな意味で。触れるってわかった途端に触りたくてしょうがなくてそわそわしてくる。
 一松が腰かけてるソファのあいてるとこ座った途端に甘い香りが鼻孔を擽った。前にあげた香水、だと思う。そんな匂いさせられたら余計に食いたくなっちゃうじゃん。もしかしたら誘ってるのかもしれない。きっとそうだ。現に薄い身体はかんたんに黒いソファへと沈んで俺の身体の下に納まった。数日ぶりに見下ろすのは結構、いやかなりきた。散らばる髪の毛だとか、そうゆうの。
 一日外に出ないコースでいっか、と勝手に一松の予定も決めて顔を寄せる。けれど俺の唇が触れたのはやらかい感触じゃなくて硬い感触だった。そろそろと瞼を持ち上げて映ったのはワインレッド、距離を置いてそれがようやく一松の手にしていたハードカバーの小説だと頭が理解した。
「…一松」
「今はだめ」
「なんで」
「出かけるから。あれ、あんたのだよ。早く着替えて」
 あれってどれだよ。と思ったけれど一松が指差した方向、ベッドの上を見ればそれはすぐに見つかった。起きた時は勿論、部屋から出る時にだって存在していなかった大きな箱がそこにはあった。黒い箱は真横からでもでかいとわかる派手な赤いリボンでラッピングされているようだ。なんとなく見覚えがある箱、な気がするけどぴんとこない。横から見てるせいか?
 気になる。でも一松の上から退きたくない。触りたい。
「…一松ぅ」
「…一回で満足してくれる?」
「…たぶん」
「なにそれ…もう、目瞑って」
 素直に言うことを聞いておいたほうが得策だってわかったから大人しく目を閉じる。見えなくなった分敏感になった嗅覚が甘さをより強く拾ったのは単純に距離が詰められた事もあるだろう。肌がちょっと触れてからそっと唇と唇がくっつく。当たり前だけどハードカバーと全然違う。きもちよくて、あまくて。そのせいでされるがままにされておこうと思ってたのについ身体が動いてしまった。
「ッ、ん、ふ…っ?!」
 どんなに舌つっこんで好き勝手しても唇離さなきゃ一回は一回でしょ。実際の所角度変えたりとかで離しちゃってるけどその辺りは大目に見てほしい。どうせそんな余裕もないだろうけど。
元々覆い被さってたのもあって身体を抑え込んでしまうのは難しくなかった。ごとりと鈍い音、多分本が落ちたんだろうけど気にせず舌を絡めて吸い上げた。いろんなとこがびくびくしてる。かわいい。もっとかわいくしてやりたい。かわいくする方法だって俺は知っている。
ここまでくればもう大丈夫だろ、と高を括って右手での拘束をやめて胸元に触れる。布地の上からでもどきどきしてるのがわかる。それをもっと感じたくて手の平を押し付けてそれから邪魔なベストのボタンへと指をかけた。シャツ一枚でも邪魔なのにこんな生地が厚いのまであるとか耐えらんない。
完全に油断していた。俺が我慢してたんだから当然一松だって我慢していたはずで、これだけ触ればもう俺の勝ちみたいなとこがあると思ってたから。ボタンの一つ目を外して、すぐ。ぐらりと身体が傾いでそのまま俺の身体はソファから落とされた。別に落ちるだけなら大した事ないけどなにせ下には俺よりも先に落ちていった本があるわけで。その上に落ちた事によるダメージが一番でかい。特に角。絶対痣になってるわこれ。
「だ、めだって、ば、」
「いってえ…んな顔でなに言ってんの、いーじゃん一松ぅ」
「やだ、夜まで待って」
「えー…」
 でかけないで一日いちゃいちゃじゃ駄目なの。駄目なんだろうな。よっぽどやりたい事があるらしい。しょうがねえなあ、ソファの上から見下ろしてくる一松の表情が結構ぎりっぎりで、キスだけですっかり潤んでしまっている紫色がゆらゆら揺れてるのに免じて我慢してやるか。我慢してんのは俺だけじゃないみたいだし。まあいいでしょ。強引に事を進める事だってできるけど、久しぶりなんだからいちゃいちゃお互いたのしく気持ちいい事したいじゃん。勿体ない。
 落ちた衝撃で身体はまだじんじん痛いし角が刺さったとこはずきずきする。それでも起き上がれないわけじゃない。身体を起こしてそれから例の箱が乗っているベッドへと腰かけた。うん、でかい。全く見ないサイズってわけでもないけどあんまり見ない大きさだ。
「これ開けていーの?」
「うん、あんたのだから」
 上半身を起こして座り直したものの俺が部屋に戻ってきた時と比べたらちょっとくったりしているように見える。いやあ、それが俺のせいだと思うとすげー楽しいわ。くったりしつつもそわそわしてるのがかわいい。なんで開ける俺じゃなくておまえのがそわそわしてんの。ああ、そっかこれ一松が用意したのか。てっきりどっかからの貢物かと。それならいきなり寝室にはいれないわな。普段こんな事しないくせに。珍しい。
 リボンの端っこを引っ張ればしゅるりと衣擦れの音をたててつつ大きなリボン結びは解けていく。大きめのサイズはなにか、それこそ一松相手に使えそうだから絡まない程度に適当にぐるぐるとまとめて箱の横へと置いた。御誂え向けに赤色だ。そんなの絶対似合う。
 特に留め具のない箱の蓋はかんたんに持ち上がった。それでもまだ中身はわからないままだ。紙の合わせを留めている金色のシールをはがして包み紙を開くとようやくそれは姿を現した。ブラウンの布地のスーツ。シールのロゴが俺の贔屓にしている仕立て屋のものだったからなんとなくスーツだというのは予想がついていたけれどこの色は予想外だ。あ、ベストにネクタイまで入ってんじゃん。これだけで一式揃っててどこにでも行けてしまえるようなフルセットだ。ハンカチまであるわ。
「なに、どーしたのこれ」
「今日バレンタインだよ」
「まじで?!」
 ああ、いや、うん。そーだわ。バレンタインだわ。ばたばたしてたせいですっかり忘れてた。なんにも用意してない。当日じゃレストランだってホテルだっていいところはどこも予約なんてできないよな。や、いろんな手使えばいけるか?とりあえず知り合いのレストランなら抑えられるはずだ。あれ、俺のスマホどこだ。
「大丈夫だよ」
「あ? つーかそれ、俺のスマホじゃん」
「さっきとっちゃった。ごめんね」
 さらっととんでもない事言ってるんだけどなんなの。一松に夢中だったっていうのは大きいけどいつとられたのか全然わかんなかったぞ。さすが俺の部下、って言ってやりたいところだけど今は一刻を争うような状況だから勘弁してほしい。まだ店は開いてないだろうけど直接店主に連絡はできんだよ?
「一松くん、いーこだからそれ返して? 美味しいご飯俺と食いたいでしょ」
「だから大丈夫だってば。今日はおれに全部させて」
「…全部って?」
「おれがおそ松兄さんの事エスコートするから。あんたはおれの事だけ見てて」
 するりと手がとられてその流れで手の甲へと唇が押し付けられる。それだけじゃなくてまっすぐ紫色に射抜かれるというオプション付きだ。ええ、なにそれ。どこで覚えてきたの。きゅんってしちゃったじゃん。こんなの惚れ直すに決まってる。
俺にとっては圧倒的にかわいいっていう比率のが大きいけどそれだけじゃないって改めて思い知らされた感じ。でも嫌じゃないし、寧ろ楽しい。室内でいちゃいちゃと比べたら劣るかなと思ってたけど俄然外出が楽しみになってきた。一松は『今は』だめ、『夜まで待って』って言ってた。つまりそういう事だ。結局夜は夜でいちゃつける。どっちもめいっぱい楽しも。
俺としてはパジャマイコール部屋着でいいと思ってるけど、下の奴に示しがつかないという事で別のものを身に着ける事になっている。と言ってもカラ松はバスローブ姿でうろついてるから意味が分からない。なんであれセーフなんだ。それっぽいからか。一応よれてたりぼろぼろになったりだとかしてるのじゃなくてちゃんとしたのだからかもしれない。
仕方なく朝着替えたばかりの衣類が一枚ずつ脱がされてく。俺がしてるのなんて一松の動きに合わせて腕を動かして作業を楽にしてやる事くらいだ。至れり尽くせりだな。でもこれ下は自分でやる事にるんだろうな、流石に。にしても。
「…一松くんさあ、見すぎじゃない?」
「…や、なんか…最近見てなかったから、かな」
「意識しちゃう〜って? えっち。おまえのが夜まで待てないんじゃねえの」
 ゆるく腰を撫でて返ってきた反応が答え、ってね。過剰に大きく身体が跳ねただけじゃなくて余韻みたいにびくびく震えてるし、声こそ零れなかったけど耐えるように零れた息もあつい。ちょっと心配になっちゃうくらい敏感だ。俺、そんなしっかりは触ってねえよ?当然だけど服の上からで直で触ったわけでもないのに。
 なんかほんとに撫で続けてたら一松に限界がきちゃう気がする。多分これは気のせいじゃない。俺にとっても日中は外出で楽しもうって決めた矢先にこれは刺激が強すぎる。理性がぐらぐら揺さぶられて駄目だ。縋りつかれたせいで甘い匂いも強くなったし、剥き出しの素肌を熱い息が滑ってくのも追い打ちをかけてくる。だからと言って身体を剥がそうとは一ミリも思えないから困る。
「っは…んん、」
「…そんなえろい反応されると困るんだけどお」
「おそ松兄さんが、触るから…っや、違うか。ごめん、ありがと。もう平気だから離して」
「俺自分で着るし休んでれば? 多分俺また触っちゃうし」
「堪える気がまったくないのがあんたらしい…じゃあそうする。ネクタイだけはやりたいからやらせて」
 素直に言う事を聞くあたり俺が思っているよりもずっとぎりぎりなのかな。おまえのが待てないんじゃないの、っていうのはわりと冗談のつもりだったんだけど強ち間違っていないかもしれない。
 やけにゆっくりソファに座った一松は小さく息を吐くとそのまま背凭れへと身体を埋めた。てっきり本の続きを読みながら待ってるものだとばかり思っていたけど一松の視線は俺に注がれたままだ。いやあ、だから駄目だって。すげー熱視線じゃん。どうしたの。さっきまでのかっこよさが既にどっかにいっちゃってるよ?今はどちらかというとかわいいし、なんならそれ以上にえろい。色香みたいなのがふわふわしてるのが離れててもわかる。無意識かなあれ、唇触ったりすんのやめてくんねえかなそわそわすんじゃん!
 意識しないようにしてるけどどうしても意識しちゃうせいで普段の着替えよりも時間がかかってしまう。一応上は脱がせてもらえたからシャツ羽織って着るだけなんだけどなあ。インナーはきらいだから着ない。別にいいでしょ、どーせ汗なんてかかない。かいたとしてももう色々気にしなくてもいい時間になってからだ。
 袖を通してから予め外しておいた袖のボタンを留める。それから合わせのほう。いつもどおり一番上まできっちり留めないでおわり。いつも選んでる生地とは違うやつみたいだけどこれはこれでいいな。着心地がいい。今度行った時に詳しく聞いてみよ。サイズは当然のようにぴったりだった。なんせついこの間パターンをとったばっかりだ。そういえばあれ、なんで行ったんだっけ。もしかしたらあの時からうまく一松に誘導されてたのかも。
 下を脱いでスラックス、ベルトは普段使ってるのと同じやつが用意されていた。デザインや色味を考えても違和感はないし俺もこれでいいと思う。用意されてなかったらそうしてたもん。履く前に通した方が楽だった事に気が付いたけど後の祭り。それでもまあ、めちゃくちゃ難しいってわけじゃないからいいや。ベストは羽織るだけ、ボタンはネクタイの後だ。
「いーちくん、お願い」
「ん。ちょっと待って、そこ座れって事?」
「そおゆう事 だめ?」
「…だめ、じゃ、ない…」
 迷う素振りを見せたもののすんなりと一松はベッドへ腰かけた俺の上へと跨ってそっと腰を落とした。俺にくっつきたいって欲が勝ったんだな、きっと。かわい。あくまで支えてやるため、という名目で尻に手を這わせるとぴくりと身体が震えた。多分これ、身構えられてたな。俺がそうやって触るのなんてお見通しだったんだろう。予想してたけどおもしろくはないから困る。
 じゃあこれは?指先をするする動かして白色の布地の上を滑らせる。完全に支えるためとは言えないような動きだ。怒られるかな。
「ッ、その触り方はだめ、でしょ、」
「やっぱり? でも触りたくなっちゃうよなあ、やっぱ」
「あ、ッ」
「…一松、はやく結んでよ」
 赤くなった目許に唇を押し付けて先を促せば普段している時の手つきが嘘みたいなたどたどしさでネクタイが形を変えていく。たどたどしいのに形は変によれたりせず綺麗だからすげーわ。一応まだ俺、撫でまわしてんだけどな。ちゃんと効果があるのは小さく零れる声や吐息でわかってるしまあいっか。ほっといても大丈夫だろうし俺はちょっかいを出すのに集中しよ。
 手許が見えなくなってしまわないように触れる範囲は片側だけに絞る。やわい頬の弾力を楽しむように唇をふにふにと押し付けて、たまに吸って。上で好き勝手してる分手の動きは控えめに。けどまあ、駄目そうだな、これ。ネクタイがじゃなくて、一松が。
ぎゅ、と太腿が俺の身体を挟むように動く。本当なら膝同士を擦りあわせたりとかしたかったんじゃねえかな。でも残念、俺の言う事を聞いて跨っちゃったからには絶対にできない。擦り合わせて隠したかったんだろう理由も丸見えだ。
「でき、ぅあ!」
「ありがと〜、相変わらず上手だねいちまちゅ〜」
「だ、っあ、あ、触るな、ぁ、ッ」
「ネクタイのお礼にヌいたげるよ、じっとしてな。落ちたくないでしょ」
 隠せてなかったそこ、布地を押しあげてるとこから指を離して小さなファスナーを摘まんで少しずつ下げていく。ゆっくりなのは布の上からじっくり触れない代わりみたいなものだ。せっかくかわいー格好してんのに出かける前から汚しちゃうのは勿体ない。
すぐぴんと来なかったけど、今一松が着ているのは前に俺があげたやつだ。今俺がブラウンを身に着けているように一松には珍しい色をしている。まだ身に着けてない上着はともかく、下は白だもん。裏路地とかで猫と戯れたりそうでなくても汚れそうな仕事が多いのもあって一松が嫌がる色だ。かわいいのに。
両腕がしっかり回されたのを確認してから作ったばかりの隙間へ指を突っ込んでそっと熱くなっているそれに触れる。まだ下着は湿っていない。セーフだ。こっちが大丈夫って事はスラックスも大丈夫、って事で一安心。片手でなんとかバックルを外して、それからボタンも外してしまえばもう触り放題だ。
折角汚れてないんだから下着はこのままキープしたい。いつもならじわじわ焦らすとこだけど今回はさっさと取り出してゆるゆると扱いていく。俺が触るとすーぐ硬くなっちゃうんだもんなあ、かわい。これなら手がどろどろになるのも、それこそイってしまうのもすぐな気がする。
「は、あ…っ、あ、そこ、」
「ん、ここ、くるくるされるの好きだもんな一松くんは〜」
「ひあ、あ、あ…っ! あ、」
「びくびくしてる、かわい…」
 予想通りそこが滴を零しはじめたのはすぐだった。くちくち水音が鳴りはじめて、それに比例するみたいに一松の声も高くなっていく。襟のぎりぎり、唇を押しつけた首筋はあつい。それに熱のせいで強く香水の匂いがしてちょっと危なかった。耳の裏のとこにつけてんのっていいよなあ、えろくって。最高。
 このままイかせちゃうと当然スーツが汚れてしまう。それも俺のも一松のも、どっちもという一番最悪なやつだ。どーすっかな、乗っけてる以上支えてる左腕は腰から離したくないし、右手だってこのまま触り続けてたい。こんないい感じなんだからこのままイかせてやりたい。
 そういえば箱の中に入っていたハンカチも入ってたんだっけ。勿体ない気もするけどあれでいいや、背に腹は代えられない。まき散らすよりまし、ってね。
「いち、そこらへんにハンカチあるでしょ。とって」
「ッ、あ? ハンカチ、って、」
「そう、ハンカチ。おまえが俺にくれたやつ」
「ん、ッあ、ま、って」
 しがみ付くのをやめるつもりはないらしい、完全に手探りだ。けれど右手側と左手側、どちらにあったかまではトんでいないらしい。身体から離れていったのは箱が置きっぱなしになっているほう、右手側だった。
届く範囲には限界がある。箱の中身にまでは届かないみたいですぐにハンカチが俺に視界にはいる事はなかった。見えないからあくまでイメージだけど、まだどうにか箱に指がひっかかっただけって感じかな。鼓膜を揺らす声や息が必至ですって感じでかわいい。イきたいから頑張ってるんだと思うと猶更だ。
 イかない程度に手を動かしながら待つ事、暫く。ようやく淡い赤色がはらりと視界を舞った。雑に落とされたわりにはだいたい布の真ん中のあたりが先っぽの辺りにきている。刺激は少なくなるだろうけどハンカチの上から一松のを掴み直して布の上から先っぽの、穴をぐりぐりと指先で抉るように弄りつつ唇を一松のそれへ寄せた。手で足りない分の刺激はこっちから与えてやればいい。
「ふ…ン、んん…っ、ん」
 一松のほうが上にいるから自然と唾液が流れ込んでくる。ある程度は飲めるけど多分全部は無理だ。そうなってシャツが汚れるよりも前にイってもらおっかな。びくりと大きく身体が跳ねるようなとこを、重点的に。そうしていればすぐだ。知ってるよ、俺。おまえの事ならなぁんでも。
「ん、ぐ、っんん…!」
 手の中で一際おおきくちんこが震えてすぐ。じんわりと生温かさが布の中で広がっていくのを感じつつ唇を離した。一松の息は荒くてあついのに、濡れた唇で受け止めると冷たい。
 ぼんやりしている一松の濡れた唇から一筋唾液が零れて、まっすぐハンカチの上へと落ちていく。なんかそれがすげーやらしいのにどっか綺麗でどきどきする。目許も真っ赤だ。
「−…おそ松兄さん、ふかないと、汚れる…」
「あ、うん、そーだった」
 あぶね。言われなかったらハンカチの意味もなく染みを作ってしまうところだった。精液が零れてしまわないよう気をつけつつハンカチを外して汚れていない、乾いた部分で拭ってやれば一応終わり。本当は濡れタオルとかそういうのが欲しいところだけどそれは諦めてもらおう。ぱっとみ大丈夫そうだし、そこまでひどい事にはならないだろう。
 流石にこのハンカチを適当に放り出す気にはなれないからしまったりだとかそういうのはおまかせしてしまう事にした。緩慢な動作で寛げられていた前が整えられて元通りの形になるまで見守る。全部整っても尚一松の息は乱れたまんまだ。イった直後と比べたら全然ましだけど平常時とは程遠い。
「へーき?」
「…大体は。それ、貸して。顔洗ってくるついでにそれも簡単に手洗いしてくる」
「おねがぁい。あとウェットティッシュとって」
「ああ…そうだよね、待ってて」
 余裕なんて殆どない筈なのに俺の額に唇をくっつけて小さく笑う。笑い方がなんか、ゆるっとしてるのにどこかかっこよくてきゅんてきた。けどかわいい。やっぱり。そういう風に見せるのを意識しているからだと思う。でないとただゆるっとかわいいだけになっちゃうもんな。いつもと違うからいつもと違う刺さり方をしてる。
 飛んできたウェットティッシュはなにかと便利だからと部屋に常備しているやつだ。それで手を拭うのだって慣れたものってね。その間に一松は洗面台のほうへ行ってしまったから待っている間に残りの衣類を身に着けてしまう事にした。と言っても開けっ放しになってたベストのボタンを留めて靴下を履くくらいだからすぐに終わってしまう。愛用している靴に足を突っ込めば完全に終わりだ。ジャケットはあるけど、まあそれは出る時でいいっしょ。
 手持無沙汰になったからベッドヘッドに置きっぱなしになっている煙草に火を点けて本当に簡単に、ってくらいだけどベッドの上を片付ける事にした。とりあえずやっぱリボンかな〜、なにに使お。俺が持ってるより一松が持ってたほうが使い道あるかな。おれがプレゼントだよとかやってほしい。無理かな。
実質今日の一松はそれに近い気がするけど。大抵一松が身に着けてるのは俺があげたものばっかりだけど、今日はその中でもちょっと特別なやつだ。普段使いするのと比べたらほんの少し質がよかったり、単に俺が着てほしいなって思ったやつ。そんなのフル装備されたらもうあれじゃん、それがラッピングみたいなものじゃん。男が服を贈る理由はなんたらって言うしね?まあ一松が俺にスーツ一式を渡してきたのはそういう理由とは違うだろうけど。
ぐるぐるにしてついでに解けてしまわないように固定したところでタイミングよく一松が戻ってきた、と思ったらドアの所で動きがぴたりと止まった。なんとなく、俺が一松を見て驚いたのを思い出す。でも俺は赤くなったりなんてしてなかったと思う。
「なぁに?」
「いや…なんか、」
「おにーちゃんかっこいいって?」
「…まあそんなとこ」
「えっ」
 まじか。別に今特別な事なんてしてねえと思うんだけど。煙草を吸ってるとこだって足を組んでるところだって散々見てるでしょ。見飽きたって言われても驚かないくらいだ。イレギュラーといえばこのリボンくらいだけど、きれいに結び目が作られている状態ならともかく今はただ丸められているだけに等しい。これは関係ないな。
 それ以外、だともう貰いたての服しかない。いや、寧ろこれか。これが正解っぽいな。正確な理由は聞いてみないとわかんないけど服を贈る事にしたきっかけの中に似合うと思ったから、っていうのがあってもおかしくない。もしくは着てるところが見てみたかったとか。だとしたら納得できるかな。そっかそっか、似合っちゃったかあ。カリスマだかんね。
「…いつまでにやにやしてんの、もう出るから立って」
「はいはい、着せてくれんでしょ」
 ジャケットがすぐに着れるようになってるのは確認済だ。現に背中を向ければ丁寧に羽織らされて腕を通すように促される。ネクタイと同じでこれも結構な頻度でしてるから問題なくスムーズだ。スマホはとられたままだからポケットに入ってるのは財布だけ。色々と心許ないけどまあいっか。全部一松がしてくれるでしょ。
 お返しにジャケットを着せてやれば二人共準備はおっけーだ。多分。出かけるって言ってきたくらいだから一松だって当然できてるでしょ。できてないのに声をかけてくるタイプでもない。それをお互い確認するみたいに視線が絡んで、それだけで問題がない事を理解した。
「エスコートよろしくねダーリン
「任せて、その…ハニー?」
 んんん、かわいい。

 照れ照れした一松に部屋のドアを開けられて、おんなじように車のドアまで開けて貰って。運転手は俺の知らないやつだった、けど一松がこういう時に指名するくらいだから信用できる部下なんだろう。とりあえず一松の直属の部下なのは間違いない。そういうのはなんとなーく、空気でわかる。一松のとこのやつならそういう雰囲気だし、カラ松のとこのやつならそういう雰囲気だ。他の兄弟もまた然り。なんせ絡みがないから顔は覚えてないんだけどね。俺に報告に来るのなんて大体兄弟の誰かだもん。
 後部座席に二人きりっていうのは結構ある事だ。でもなんか、一松に落ち着きがない。あんまりない、エスコートする側というかプロデュース側というか、そういうのに慣れてないからかな。にしてもちょっとえろいっていうかなんていうか。なんだろ。もうちょっとで答えに届きそうなんだけど。
「…なに、おれ見ても楽しくないでしょ」
「や、楽しいよ? かなり」
「あくしゅみ…」
 ほんの少しだけ、膝頭が擦りつくように動く。それでようやくぴんときた。いや、正確にはもしかして?ってくらいだ。確証はまだないけど、今までの諸々考えたらなくはない。俺の予想通りだったらどうしよう。どうもしないか、美味しく頂くだけだもんな。
 今俺にできるのは答えがわかるのを楽しみに待つ事くらい。折角隠そうとしてくれてんだもん、乗っとかないと。それにこんな頑張ってくれてんのにかわいそーじゃん。
「そういえばさあ、ここ何日か忙しかったのもおまえが手回ししたから?」
「ああ…そうだよ。あんたが書類溜めすぎててそうでもしないと二日間休み貰えそうになかったから。あの組織がヘマしたのは予定外だったけど」
「今思えばすげー不自然なとこも沢山あったんだよなあ、書類大量に処理したのに日付見た記憶ねえもん」
「そうでもしないと色々準備されちゃうかなと思って。全面的にチョロ松兄さんに協力してもらっちゃったからお礼しないと…」
 二日間休みっていうのは初耳だ。あいつ昨日そんな事言ってなかったぞ。一応この、実はオフが一日多いです!っていうのもサプライズのひとつなのかもしれない。実際それはベタに嬉しい。かなり。なんせ今日のこの流れからだよ?俺だけ二日間休みとは考えにくい。二人して二日間休みってもうそういう事でしょ。
 車の中で他愛のない話はしていたけど、どこに連れてかれるのかは結局車が停まるまでわからないままだった。はじめて、ってわけじゃないけどあんまり足を運ぶような事はない。そんなに見慣れない景色が広がっていた。海が近いからか潮の香りがする。こういうのも久しぶりだな。
「この辺り、おまえが仕切ってるとこだっけ」
「そう。おれの担当の中では穏やかなほうで景色もいいからちょうどいいかなって」
「ゆったりできそー、なんか小旅行っぽい」
「常駐してるおれの部下がそこらにいるから改めて護衛をつける必要もないし、気楽にふらふらできると思うよ」
 それは結構ありがたいかもしれない。立場上どうしても数人は周りにいたりするもんなあ、兄弟だけならまだいいんだけど実際のところそういうわけにもいかないのが現状なわけで。しょうがないってわかってんだけどね。なんかあったら困るのも本当だから文句も言いづらい。いや言ってるけど。主にチョロ松に。
 一松の言葉通り、普段過ごしてる街中よりもずっと穏やかな空気に満ちてる街だった。それでいてそこまで田舎臭くはなくて不便さは感じない。腹減ったなと思えばそこらで買えたりもする。いいとこだな、って素直に思える。勿論街の人間からの待遇がいいのは自分の立場だったり隣を歩く一松の存在が大きいのはあるんだろうけど。部下がそこらにいるっていうなら尚更だ。溶け込んでるくらいだから店主が実は〜とかそういうのもありそう。
「あ、一松。ここ入ろ」
「そんなノリで入るほどアクセサリーとか興味あったっけ?」
「そういうわけじゃないけどおまえ用に。忘れてたからって流石になにもなしってわけにもいかないでしょ」
「べ、つにいいのに…」
 またまた、嬉しそうな顔しちゃって。本人気がついてないっぽいけど猫耳まで出ちゃってるじゃん。一松が担当しているとはいえ猫耳は見慣れないんだろう、本人が気がつかない程度にだけど視線が集まってるのがわかる。そりゃそうか。猫耳とか尻尾とか、そういうのは兄弟がいないと出ないだろうし。余程楽しくにゃんこと戯れてたらあれかもだけど、自分が一番上になるだろう場所でそこまでとろとろになるとは考えにくい。
 そわそわ、多分ほんのり期待している一松の手を引いて店のドアを開いた。開けた拍子にからから鳴るのとか久しぶりに聞いたな。ちいさな店内には所狭しとアクセサリーが並んで、るわけもなく。ある程度の種類がある程度の品数並んでるって感じだった。ショーケースもない。
「なにがいい?」
「なに、って言われても…わりともう大体揃ってると思うけど…」
「だよなあ、どうしよっかな」
 指輪、ネックレス、ピアス。ブレスレットやらブローチ系。ブローチはあげた事ないけどそもそもそんな出番がなさそうだし。それこそ猫モチーフのとかならつける以外の用途で楽しんでくれそうだけど。それなら別に、こういう時のプレゼントである必要はないもんな。やっぱ身につけてくれるようなもののほうがいい。
「あ、アンクレットは?」
「ないんじゃない? つけた記憶もつけてもらった記憶もないよ、おれ」
「じゃあそれにしよ!」
 店のおっちゃんに聞いて見つけたアンクレットの中から数本見繕っていく。ちょっとだけ色で悩んだけど本当にちょっとだけだった。いやあ、しょうがないよね。どうせなら俺の色付けて欲しいし。アンクレットの意味とかを考えたら尚更俺の色じゃないと駄目でしょ。
 お願いして出してもらった椅子の上に一松の事を座らせて左足の裾を数回折る。靴を脱がせてしゃがんだ自分の膝の上に足を乗っければ準備おっけーだ。選んだアンクレットは全部一松に渡してあるから一本ずつ順番にくるりと足首へと巻き付けていく。
きらきらしているのだったり、ごろごろ丸っこい石がついてるのだったり。同じ赤色でも大分印象が違う。いっそ全部買っちゃうっていうのも手ではあるけどそれじゃちょっとなあ。特別っぽくない。
「どれがいいとかある? つけ心地はこれがいいとか」
「どれもわるくないよ。おれ、あんたに選んでほしい」
「じゃあきらきらしてんので!」
 これ、一番最初に選んだやつだな。きらきらしてる故に目につきやすかったっていうのもある。ずっと俺達の様子をにこやかに見ていたおっちゃんはそのままつけていっていいと言って貰えたからお言葉に甘えることにした。タグだけ外して手渡せば会計まですんなりと終わってしまった。その、一連の事をこなしてる間ずーっと自分の足首を見てる一松がかわいすぎるんだけどどうしたらいいの。思ってたよりも気に入ってくれたみたいでなによりだ。
「一松、行こ」
「あ、うん。待って」
 アンクレットは裾に隠れて見えなくなってしまったけど、それはそれで。ピアスみたいな露骨なアピールもいいけどこういうのもいいよな〜。脱がす事のできる自分だけ知ってるっていうのもいい。優越感みたいなのがすごい。特にこの街だと一松にもそういう視線が集まるから猶更だ。自分の暮らしている街を平和に治めてくれてる相手が若い男だったらそりゃあ女の子だって興味持っちゃうよな。一生手に入んないなんて知らずにワンチャン夢見てる子だっていそうだ。
 そういう街だから俺にも視線が集まるのはわかる。なんせ同じ顔だもん。俺が一松の所属してる組織のボスだって事までは知られていないにしても見てしまう理由としてはそれだけで充分だ。それにしても見られすぎてる気がするんだよなあ、なんだろ。見られる事自体には慣れてるからいいけど理由がわかんないとちょっともやっとする。
「おまたせ、あんた好き嫌いそんなにないしおすすめにしちゃった」
「ん〜あんがと。ジェラートとか食うの久しぶりな気がする」
 アクセサリー屋を出てからはちょっと小休憩、って事で近場にあった店に入る事にした。なんだかんだ今までは殆ど食べ歩きとか散歩みたいな感じだったからしっかり座るのは車の時以来かもしれない。やっぱりゆっくり腰を降ろした一松がテーブルの上に置いたのはちいさなカップが二つ。中身はバレンタインらしい色合いで占められていた。茶色に赤色、それからピンク。白もそれっぽいな。ピンクに至ってはハートだもん。あからさまにバレンタイン意識してるでしょこれ。
「…どうかした?」
「んーん、バレンタインだなっていうのとなんか見られてるなって話ぃ」
「ああ…お店の人とか、おそ松兄さんの事かっこいいって言ってたよ」
「随分楽しそーね一松くん」
「だって今日のあんたが着てるの、おれがあげたやつだよ。しかもそれであんたはおれのなの。楽しいに決まってる」
 ああ、なるほど、そういう事ね。自分が贈ったもので着飾った相手を見せびらかすが楽しいのはわかる。その結果周囲の視線が集まるなら猶更だ。さりげなくこいつは俺のだってアピールするのだって楽しいもん。全部、俺がやった事があるやつだ。
 ついでに視線が集まってた理由が一松側にもある事がわかってしまった。好意を持たれてる〜とかだけじゃなくて、単純にかわいいからだ。だって普段部下と一緒にいる一松じゃ見られない顔ばっかりしてるもん。今日はエスコートする側だって言ってるけどそれでも断然かわいい。そりゃ見ちゃうよ、いつもと違う顔しててそれがゆるゆるでかわいいんだもん。察しのいい人間はこれだけで俺達の関係に気が付いてしまうかもしれない。諸々の損得を考えたらそれを指摘できる人間なんてこの街にはいないだろうけど。
 もしかしてそういう見せびらかす意図もあってこの街を選んだのかも。普段過ごしてる街でだってできなくはないけどあそこだと逆に人目がありすぎて色々とめんどくさい。手回しだってその分しないといけないし。ある程度そういうのを無視できるこの街はそういう意味じゃ最適だ。ええ、そう考えるとなんかすごいかわいい。
「…なあ、ちなみにこの後の予定は?」
「しっかりとは決めてない、本格的に腹が減ったら連れてきたい店はあるけど」
「予約とかはしてないんだ?」
「時間に追われるの好きじゃないでしょ」
 大正解だ。自分で決めて何時からどこそこならまあともかく、人にスケジュールを組まれるのはあんまり好きじゃない。普段がそういう生活だから余計にオフの日くらい自由にさせてくれと思う。チョロ松にそれを言ったら普段だって相当自由にやってるだろって怒られそうだな。
 ふうん、そっか。実質次の予定はないに等しいって事ね。じゃあそういう連れていきたい場所とかは明日に回してもいいわけだ。
「一松」
「ん?」
 ああ、これが極めつけかも。ちいさなスプーンを咥えたまま俺に視線を向けた一松がめちゃくちゃかわいかったから、完全にそういうスイッチが入ってしまった。元々朝触ったのもあって入りやすい状態になってしまっていたのも悪いし、一松が多分、えろい事してるのも悪い。
 テーブルの上に置かれていた左手を捕まえて指先をするりと絡ませる。側面を触れあわせながらゆっくり指の付け根まで。あからさまにやらしい感じで触ったおかげか一松が小さく震えた。かわいい。駄目だな、もう。どうにもできそうにない。
 店のテーブルはちいさめで少し身体を乗り出せばかんたんにキスが出来てしまう。邪魔になりそうだったスプーンは指を絡めた時点で既に一松の手によってカップの中に戻されているから問題ない。くっつけてすぐにカウンターの方から声があがった気がするけど無視。悲鳴は悲鳴でも黄色いやつだったからセーフだ。多分。一度くっつけて、それから下唇をやわく食むだけに留めておいた。続きはあとで、ってね。
「なあダーリン、俺もうホテルに行きたいんだけど」
「ここ、店、」
「だめ?」
「んッ、ん…ふ、」
 駄目じゃないって知ってるけど、駄目押しでもう一回。舌を滑り込ませた口のなかはジェラートの味で甘い。いつにも増して美味しいって表現がしっくりくる感じ。いくらでもできちゃいそうだ。なんでここ屋敷とかホテルじゃないんだろ。
 激しくじゃなくて、ゆっくり。少しずつ考える力を奪うようなやつだ。経験上一松がこれに弱くて、とろとろになりやすい事はよく知っている。だからこそそういうキスを選んでる。ぎゅうと絡めていた指先に力がこもる。かわいい。きもちいんだ。
「おまえもそろそろ限界でしょ。それ、いつから挿れてんの」
「っな、んの事、」
「俺が気がつかないとでも思った? 無理でしょ、あんなえっろい反応してんのに」
 やっぱり俺の想像は当たっていたらしい。なにかまではわかんないけど、一松の中に今現在何かが挿ってんのは間違いない。だから朝だってあんな敏感に反応してしかんたんに勃ってたんだろう。座るのがゆっくりな事が多かったのもそのせいだし、車でそわそわしてたのは振動のせい。今日ずっとそんな事してたってすげーよな、えろすぎんでしょ。でもやっぱりかわいい。
「な、ホテル、行こ」
 小さく上下に揺れた後伏いてしまったから表情は見えないけど、真っ赤なのはわかる。きっと目もうるっうるだ。かわいいなあ、もう。そんなとろとろな状態になっているのもあってもう一松の頭の中にエスコートをするというのはなくなってしまったらしい。立ち上がったのだって俺が先だったし、手を差し出せばすぐにあつい手の平がその上に乗った。
や、ただ立てないだけかな。あんな平然としてたのに足許が覚束ないし息も少し荒い。俺にしがみついてるから周りに表情は見えてないだろうけどすげーえろい顔してんだろうな。見るのが楽しみすぎてそわそわする。
そのまま店内を出てー…ああそうだ、念のため。大丈夫だろうけど牽制は必要だよな。少しだけ振り向けばすぐにカウンターにいる女の事目が合った。普通にかわいいと思う、俺にとっては一松のがずっとかわいーんだけどね!視線を絡めてから人差し指を口許へ当てれば顔を更に赤くしつつ何度も頷いてくれた。おっけーおっけー、いい子には今度それなりにいい目みしたげるよ?俺じゃなくてうちの人間が、だけどね。なにか一つ好きなものを買うとかでいいか。手配しとこ。
手を軽く振ってから今度こそ本当に店を後にしてちいさな声で右と呟かれた指示に従って歩き出した。

屋敷を出た時間が早かったのもあってまだまだ外は明るい。チェックインが難しい可能性も少し考えたけど一松がいるからなんとかなるか、と思ってたけどそんな心配はいらなかったらしい。元々部屋は昨日から押さえてあって、いつでも使えるような状態になっていた。こういう事になる可能性を一松も少しは考えてたのかも。有り得る。
 部屋に入ってすぐ、寝室に行く時間も惜しくて一松の身体を壁に押し付けたのが少し前。すっかり口許がべたべたになってしまうくらいの時間ここでキスをしている。力が抜け始めた身体を支えるのは壁のおかげでそんなに難しくない。もっともっととろとろにしたくて手を背中から下、尻へと這わせて服の上からそこに増れた。いつもと違う。硬い感触。それを押し込むように指先で押せばびくりと身体が震えた。
「あ、ッ!」
「結局これ、なに入ってんの?」
「ま、ぁっぐりぐりしないで、あ、っだめ、」
「あーあ、結局染みちゃったね一松ぅ」
 キスのせいか中に入ってるこれのせいか、もう一松のそれは完勃ち状態で白いスラックスを滲ませてしまっていた。まあいっか、今日はもう出かけないし。明日はなにか持ってこさせるかどっかで買えばどうとでもなる。染み自体は洗濯かクリーニングでどうにかなると信じたい。駄目だったらまた買おう。
 朝しなかった分、ってわけじゃないけど布地の上からぐりぐりと刺激しえやれば湿った感触はどんどん広がっていく。後ろに入ってるのもあってこのまましつこく触ってたらイっちゃいそう。足もがくがくしてるし、そんな気がする。
「ひ、あ…ッ! 待って、そっちじゃなくて、後ろがいい」
「ん?」
「もう平気だから、挿れて…」
 はふりと熱い息交じりの、甘い声。いかにも限界ですって表情でのそれに応えないわけにはいかないでしょ。たまんなくって噛みつくように口付けたら下のほうでかちゃりとベルトを外す音がした。イきそうなくらいの状態でキスを受け止めながら。そういう状態だから決してスムーズじゃないけどそんなに手こずってる様子はない。
 暫くしてすとりとスラックスが落ちたのを確認してから腰を撫でつつ下着のゴムに触れた。肌を撫でながらゴムを潜ってどんどん奥へと進んでいく。やらかいとこを越えて、真ん中のあたり。布の上からだと硬く感じたけどそうでもねえな、多分シリコン素材だ。ご丁寧についていたわっかに人差し指をひっかけて引っ張ればかんたんに動く。引いて戻してを繰り返してみても特に問題はなさそう。とろとろ液体が指に触れてるからローションもたっぷり仕込んであるらしい。
「なあ、これどういう気持ちで突っ込んだの?」
「ふあ、あッ、ぁ」
「ね、教えてよ一松」
「あ、んたと、する事以外、考えてるわけない、っ」
「うん、知ってた。後ろ向いて、そのまま手ぇ壁についてて」
 下着もスラックスと同じように落としてからお願いすればゆっくりと一松は身体の向きを反転させて壁へと手をついた。なんにも言ってないのに腰は突き出されているし足も開かれている。いつでもきてって言われてるみたいだ。事実そうなんだろうけどね。
 シャツの中に手を突っ込んで可能な限りたくし上げればシリコンを咥えこんでいるそこが露わになる。そこまで太さはないし広がりきってる感じはしない。常に入ってたとはいえこの太さってどうなの、平気なもんなの?本人が平気って言ってるくらいだから流石に慣らしてからこれ突っ込んだりしたのかな。その辺は突っ込みつつ考えればいいか。きつそうだったら俺がすればいいだけだ。俺の手でとろとろにしてくのは楽しいから問題ない。
改めてシリコンを引っ張り出してそのまま下へと落とす。下着やらスラックスやらが受けとめてくれるから平気でしょ。中に振動させるための機械も重さから判断する感じ入ってない。ただのシリコンだ。いいよなシリコン。洗うの楽で。栓がなくなって中からローションが静かに零れていくのがえろいなあ、と思いながら自分のベルトへと手をかけた。
小さく音が鳴るたびに一松のそこがひくひくと収縮を繰り返す。まだ?って言われてるようにも見えるしこれからされる事を期待してるようにも見える。どっちにしろ誘われてるって事には間違いない。下着の中から取り出したちんこは一松のおかげですっかり勃ちあがってしまっていた。それを押し付けて中を確かめるようにゆっくりと腰を進めていく。途端に出迎えるみたいに絡みつかれてちょっと声が出そうだった。相変わらずすっげーな。
「あ、ッん、ぁ、」
「ちゃんと息吐いてな、」
「はいてる、あ、あ…っ」
 シリコンが入っていただろうとこを越えても進みはスムーズで問題はなさそうだ。一松の声にも辛そうな色は混ざっていない。それだけ丹念に慣らしたって、事だ。俺とセックスするために。俺の事を考えて。そんなのさあ、たまんないじゃんね。
 半分は入ってるし大丈夫でしょ。腰を支え直して押し進めるスピードを少しだけ上げた。早く全部突っ込みたい。それでも一気に全部とかやんなかっただけ褒めてほしいくらいだ。俺が慣らしてちゃんとわかってたらやってただろうけど。
「あ、あ、んん、」
「中、すっごいとろとろなんだけど…時間経ってもこれって、どんだけやったの…」
「ひみつ、あ、おそ松兄さんに、気持ち良くなってほしかったから、おれ、あ、あッ」
「おかげでちょーきもちい…すぐイっちゃいそう」
 腰を引いて、戻して。ゆったりとした動きだけれど根元まで収めて肌と肌がぶつかればぱちゅりと音が鳴るくらい。入室したばっかりでどこも開けてない、締め切った部屋の空気は籠ってるし余計な音もしない。時間帯が早めだからか廊下を誰かが通ってる気配もしないくらいだ。そこまで厚いドアじゃなかったし、そこまでちゃんとした防音機能もなさそうだからそのほうが都合がいいか。一応これが終わったら寝室に移動しよ。
「ん…、っねえ、もっと、」
「激しくしてほしい? やらしーなあ、いちまちゅは〜」
「あ、だって、ずっと待ってたから、足りない、っあ、ひあ!」
 いつからかわかんないけど中がこんなになるまで慣らして、しかもあんなの突っ込んでたらそりゃそうか。じゃあ遠慮なくいかせてもらおっかな。がつりと、思い切り。ちょっと不意打ち気味だったからか声が大きめだ。かわい。襟足をかき上げて露わになった項に噛みつくともう一度大きな声が零れてぎゅうと中が締まった。
 突き上げる度に俺の鼓膜を揺らす声はヨすぎてしんどいですって感じでほんのりかわいそう。いやでもかわいいな。めちゃくちゃ、かわいい。自分の身体が支えきれなくてずるずる下がっていっちゃってるのもぼたぼたいろんな液体をカーペットに落としてんのも、ぜんぶ。
「あ! ぁ、ん、っあ、は…っ」
「ん…っ、イきそ? 声、やっべえよ、」
「あ、あ、らめ、そこ、あ、ッ〜〜〜!」
 びくびくぎゅうぎゅう内壁が俺のに絡んで危うく俺までイっちゃうとこだった。それはそれで悪くない。けどどうせならもーちょっと、楽しんでおきたいじゃん?
 ぱたぱた精液が落ちてカーペットを汚す音がする。抱きとめてる身体はあつい、項も真っ赤だ。はあはあ荒い息を吐きつつ余韻に浸ってるだけ、それでも内壁がうねってきもちいい。体内のあつさも相まってもーちょっと、って感じだ。
「…一松、動く」
「え、あ、あ、っあ!」
「もーちょっと付き合って、な!」
「にゃ、あ、っ うあ、っあ、あ、」
 イったばっかりでどう動いてもとびきりの反応しか返ってこない。かわいい、もういろいろ頭から抜け落ちちゃってそう。声もとろっとろで至るとこにハートが混ざってるようなやつだ。一応まだ一回目なんだけどそんななってて大丈夫なの。
 手を前に伸ばしてまた滴を零すくらいになってる一松のに触れた。途端にいやいや頭が左右に振られたけどこういう時のいやはもっとだっていうのが定番なので無視して勃ちあがってるそれの裏筋を指先でなぞりあげていく。ゆっくり、じっくり。かわいそうなくらいちんこが震えてとろとろと手を汚して中が締まる。
「それ、ッだめ、おかしくなりそ、あ、あ、」
「へいきへいき、かわいーよ、」
「ばか、あ、あっ…!」
「は、イく…ッ、」
 二回目、は流石に俺も耐えきれなかったし耐えるつもりもなかったから一松の少しあとに熱を吐き出した。ちゃんとしっかり一番奥、びくびく腰が震えてんのはイったの以外にも中出しの感覚のせいもありそうだな。
流石に限界だったのか腕が感じていた重さがぐっと増したからゆっくりと身体を落としてカーペットへと膝をつく。そうして見えるようになった部分は思っていたよりもひどい事になっていたけどどうにかなると信じたい。最悪金を積もう。そうしよう。抜いて零れだしたのはぐちゃぐちゃになった一松のスラックスが受けとめてくれたからセーフだ。いやこれはこれでセーフじゃねえな。
「あ、つい…」
「わかるー…全部着たまんまヤんのはやっべえわ…」
「脱いでいい…?」
「あ、それは駄目。俺が脱がしたい」
 大事な大事なラッピングだかんね。不思議そうに首を傾げた一松は残念ながら立てそうにないので背中を支えつつ膝裏に手を突っ込んでどのまま立ち上がる。すぐ両腕が首に絡めてくるあたり実はこれお気に入りでしょ。猫みたいに擦り寄ってくるのもかわいい。まあ俺の猫だけど。いろんな意味で。
 はじめて来る場所でも部屋の形なんてそれなりにパターンがあるからなんとなくわかる。多分ここはそこまでお高いホテルってわけでもない。けど寝室がちゃんと分かれてるだけで上等だ。そもそもほんとの高級ホテルの良さって部屋の内装よりもサービスのほうだったりするし。
 寝室にはでかいベッドがひとつだけ、その真ん中に横たえてすぐさま覆いかぶさる。上はきっちり、ジャケットもベストもシャツも、ネクタイだって元の状態から変わってないのに下半身はどろどろのぐちゃぐちゃ。そのアンバランスさが寧ろえろい。
 ジャケットの前は留められてないからまずはベストのボタン、それからネクタイを緩めていく。シャツも同じように全開にしてやれば今日はまだ一度も触ってないのにたちあがっている乳首が姿を現した。まだ袖から腕は抜いてないから肌蹴させただけ、うん、えっろい。それにやっぱり一枚ずつ剥いてくのも楽しいんだよなあ。またなんか服送ろ。
 下着の時と同じように肌に触れながらシャツの中へ手を忍ばせて少しずつ腕を抜いていく。その間にもくっつけるだけのキスを顔だったり首筋だったり、気まぐれでいろんなところに落としていくのは忘れない。折角上がってる熱を冷ましちゃうのは勿体ないもんな。
「あ、そうだ。一松これ結んでいい?」
「…ネクタイ? なに、そういうプレイでもしたいの…」
「違くって、プレゼントっぽいじゃん」
「…ならもっといいの、あるよ。おれのジャケットのポケット漁って」
 ジャケットの、ポケット。確かに右側のそこはふっくらと膨らんでいて、試しに押してみるとやらかい感触が返ってきた。突っ込んで指先が触れたのは朝触れた覚えのある少しつやつやした布、ああ、これリボンか。いつの間に回収したんだ。
 取り出したそれは早々に一松に取り上げられて俺はリボンが丁寧に首許にに結われていくのを見守るだけだ。寝転がった状態で鏡もなくて。ネクタイならまだしも慣れないリボン結び。完成したのはそういう理由から歪な形だったけれど充分だ。縦にもなってないし、歪なのが寧ろ俺達らしいと思う。
「…ネクタイよりこっちのがあんた好みでしょ、ちゃんと赤だし」
「うん、さいっこーだわ」
 服はもう全部脱いでて一松の身体の下でぐしゃぐしゃに潰れてしまっている。身に付けてるのは首のリボンと、左の足首できらきらと光を反射しているアンクレットだけ。うん、やっぱきらきらするやつにして正解だったな。こっちのがベッドで映えるし、えろい。どっちとも赤色なそれは完璧だ。あ、ピアスもあったか。まあそれはデフォルト装備だからおいとこう。
 ラッピングを紐解いても尚プレゼントっぽいってたまんない。全裸は全裸でたまんないけど、こういうのは特別な日でないとやんないしね。
「…あんたは脱がないの? あついでしょ」
 ぺたりと頬に触れた手はあついけどあつくない。俺も同じくらいあつくなってるからだ。正直なところ脱いじゃいたい、でも脱ぐとしてもジャケットだけだ。
 脱ぎ捨てたジャケットをベッドの下に落としてシャツのボタンを一つ外してからネクタイを緩める。これでおわり。少しましになったけどまだまだあつい。汗で額にくっついてた髪の毛を適当にかきあげてから距離を近づけてちいさく開かれていた唇に噛みついた。もうジェラートの味はしない。けど、あまい。
「…おまえはこれ着てる俺にぐちゃぐちゃにされたいんでしょ」
「! なんでわかんの…」
「んや? そーゆう欲もあってこれくれたのかなって思っただけぇ」
 赤くなっていた染まった顔を隠すように顔の上にかぶせられてた両腕をどかしてそのままベッドへと縫い留める。抵抗は全然なくて力を入れる必要なんてなかった。ずっとかわいかったけど真っ赤な顔はとびきりかわいくて誘われるように唇に齧り付いた。


 室内はなにもしてなくても空調が完璧だったけど当然外はそういうわけにはいかない。朝、それも早朝って言ってもいいくらいの時間。適当に備え付けのバスローブを羽織っただけだとベランダは結構寒い。そのくらいわかってたけど、それでも外に出たのはわりとなんとなくだった。煙草吸いたい、と思ったけど別にそんなの室内でも問題ないし。
 やっぱあれかな、珍しいとこ泊まってて、部屋のベランダに出ると海が広がってるっていうのはおっきいかも。きらきらしてる海とか見る機会ないもん。そこまで興味もないからわざわざ普段見ようなんて思わないしなあ、その為に早起きとか無理。いっぱい寝たい。ベッドの中で暮らすー…のは暇すぎるか。
「…おそまつにいさん、」
「あら、おはよ〜」
「なにしてんの…さむ…」
「なんとなく海見てただけ。つーかなに、もしかしておまえなんも着てないの?」
 肯定するように頭が動く。動きがオーバー気味なのはあれか、まだ寝起きで頭がまわりきってないからか。そんな状態でも俺の事を探してこんなとこまできちゃうとかかわいすぎるでしょ。
 シーツを巻き付けてるだけらしい薄い身体を抱きしめるとたったそれだけで安心したように息を零す。感触で本当になんにも身につけてない事がよくわかる。こんなの寒いに決まってるし、そら自分から擦り寄ったりもしてくるか。俺もきもちーからいいけどね。
「んん…たばこ…?」
「そう、いる?」
「ちょっとだけいる…」
 ぱかりと開かれた口に吸いさしの煙草を突っ込んでやればすぐに体内に煙を落とし込むように吸い込んだのがわかった。タイミングを見越して引き抜いてやれば一松の口からふわふわと白い煙があがっていく。自分も吸ってるんだからわかってるけど一松の口から出てきた、ってだけで甘そうに見えるからすげーわ。
まだ少し長さはあるけど邪魔になりそうだから自分でも最後に一吸いして携帯灰皿へと突っ込んでおいた。自分の口からあがっていく煙はやっぱり、一松のと違ってふつうに苦そうだ。
「目ぇ覚めた?」
「少しましになった…寒い」
「でしょーね。部屋戻る?」
「もう少しだけ、いる…。ねえ、昨日、楽しかった?」
 随分突然だな、と思ったけど実はずっと気にしてたんだろうな。普段しないような事をしたから尚更。眠そうだけど本気で気にしてるっていうのがよくわかる。わりとそういうの表に出してたつもりなんだけどなあ、まあそういうのだけじゃなくて言葉でも欲しいタイプっちゃタイプか。そのほうが確実だもんな。
 ぎゅうと力を込めて抱きしめてからキスを一回。あまいのににがい。不思議な味がした。
「すっげー楽しかった! 今日もエスコートしてくれんでしょ、楽しみにしてるわダーリン
「まだそれ続いてたの…。がんばるから、楽しみにしててよハニー」
 昨日とは打って変わって照れとかそういうのがないやつだ。昨日のもかわいかったけどこれもいいな〜もう一松ならなんでもいいや。全部可愛い。間違いない。しかもキスのおまけつきだ。バレンタインは終わったはずなのに豪勢だな。
「なにかしたいとかある?」
「とりあえず腹減った〜、結局夜食ってないし」
「朝からやってるとこか…」
「あと酒のみたぁい」
「はいはい、わかったから部屋入ろ。一旦温まってから考える」
 温まるならベッドもいいけどもっかい風呂入るのもありかな、昨日はぱぱっとでしっかりゆっくりは入れなかったし。結構豪華な感じだったのにそれは勿体ない。
 腕の中から抜け出した一松が部屋への扉を開く。途端にふわりと室内の空気が流れ込んできてほんの少しあたたかくなる。こんなんじゃ全然足りないけど。
 なんとなく落とした視線の先、一松の左足首では朝日に照らされて海に負けないくらいきらきらと赤色が輝いていた。


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