きっかけはなんとなくだった。そういえば本格的に酔ってるとこ見た事ねーなと思って、それで。弱いんだろーなーっていうのはたまに外で出てくる酒を飲んだ時の反応でわかってた。たった一杯でふわふわして、顔色に赤さが増す。あれもすげーかわいいんだよなあ。ただその先もやっぱり知りたいじゃん、好きなやつだよ?で、適当に酒を買いこんで一松の部屋にやってきたわけだ。
 部屋を選んだのは単純に気ぃ張らないで済んでいいかなってだけだ。個室だろうがなんだろうが外は外だし。ホテルでもなんか駄目な気がして。俺の家、はまだ連れ込んだ事ないしな〜。それはそれでこいつにとっては特殊だろうし、やっぱがっつり飲ますんなら自分の家が一番だよな。
 ビールは苦手だって言ってたし飲みやすそうなの、それこそジュースみたいな味のやつ。それでいてしっかりアルコールが入っているやつばっかり。俺はいつも通り好きなのを酔いきらない程度に飲んで疑われない程度に様子を伺っていただけだ。飲みやすいそれがお気に召したのか促すまでもなく一松は勝手に飲んでくれて、今に至る。
 卓袱台を間に向かい合って腰を降ろしてたのがいつの間にか隣になって、気がついたら一松の定位置は俺の膝の上へと変わっていた。流れるようなそれは猫みたいだった。猫みたいなもんだけど。背中からじゃなくて、正面を俺の方へ向けて乗り上げてるから表情が良く見える。いつもよりずっと赤い頬だとか潤んだ瞳だとか。紫色が、独特の溶け方をしてる。熱に浮かされてるのとはまた違う、不思議な感じ。
「ふふ、おそまつだ」
「…他に自分から膝の上乗ったりする相手がいるっつーならだいぶアレだけど」
「……いないよ。あんたしか、いない」
 顔中に押し付けられる唇は柔らかくて、あつい。楽しいらしくてくっつける度に小さく笑う、それがなんというか、結構クる。だってかわいーんだもん。なにこれ。そうこうしてる間に二回もキスは降ってきた。それと同時にふわりと漂う酒の香りも相まってくらくらする、俺別に酒に弱いわけじゃねーのに。
 頬だったり額だったり。本当にいろんなところに触れてからやっと唇。本人にそんな自覚はないんだろうけどくっつけるだけのそれは焦らされてるみたいでなんかもどかしい。俺からやってもいいんだけど、勿体ないじゃん。こんなに一松からいろいろしてくれんのは珍しい。まだ多分照れとか、いろんなのが混ざってるんだろうな。いつか素面でもやってくんないかな。
「ん…すき、」
「え、」
「すき」
 ちゅ、と音をたてて唇に落ちてきたのは言葉の効果も相まって今までで一番甘い。そんなとびきりのやつだったのにそれで終わる事はなくて、もう一度すきという言葉と一緒に俺へと降ってくる。普段滅多に言われないからからすげー、一気に自分の心臓が早くなったのがわかる。多分顔にだって出てる。一松が酔っててほんとよかった、きっとどっちにも気が付く余裕なんて一松にはない。
 何回も何回も。あまったるい言葉が俺の中にどんどんたまっていく。こんな風に好意を与えられ続けるのは初めてで落ち着かない。なんせ立場が立場だし、純粋な好意ってやつは無縁だったから。や、本当は純粋なのもあったのかもしれない。けどその相手に興味なんてんかったからしょーがない。今たまっていくのだって相手が一松だからで他のやつからだったらこんな風になったりしてない。そもそもこんな空気になんてならないだろう。
 暫くしてようやく入り込んできた舌はいろんな甘さが混ざっていて、色濃くアルコールの味を纏っていた。あれだけガバガバ飲んでれば当然か。飲ませるために用意した俺が言うのもあれだけど。舌を使ってるとはいえたまに小さく音が鳴るような、ゆったりしたやつだ。じわじわ身体の奥があつくなってたまんなくなるやつ。会う度に散々してるからかな、たどたどしさは随分なくなった。ふつーにきもちいい。でもさあ、そういうの、さっきまでのがたまってるのもあって結構あれだよ。
「…あんま続けると食っちゃうけど、いーの」
「あ…っ、ん」
 ゆったりした服の裾から手を差し入れて腰を直でほんの少し撫でただけ。それだけでもすっかり敏感になってしまった一松は嬌声を零すし露骨に身体を震わせる。それがかわいくてつい何度も指先でそこを撫でちゃう。撫でれば撫でるだけとろとろして、身体中赤みが増して。どんどん美味そうになってくんだもん。寧ろやめる理由がない。
「ぁ、まって、おれが、する、」
「…なにしてくれんの?」
 部屋着の一松と違って俺はスーツのままだ。ジャケットを脱いだのと、ネクタイを緩めたくらい。その緩んだネクタイに指がひっかかってゆっくりと解かれていく。ゆっくりなのはただ単にアルコールが入ってるからだ。チャンスがあれば解いてもらったり締めてもらってるのもあって随分スムーズになった。教えてた頃が懐かしいくらいだ。あれはあれでかわいくてよかったし、今は今でなんとなくやらしくていい。それにそれだけの時間一緒にいるってことだし。
 ネクタイがただひっかけられているだけの状態になれば次は当然シャツのボタン、かと思ったら何故かキスも再開された。けど舌と指を同時に動かすのは難しいのかさっきとうってかわってどっちもたどたどしい。時間をかけてようやくひとつめ。ひとつ外した事でなんとなくコツを掴めたのかふたつめもみっつめもそこまで時間はかからなかった。よっつめを外したところで一応満足したのかボタンから離れた手は開いた前からシャツの中へと入り込んで俺の肌を撫で上げていく。それに合わせて唇も首筋へと移動して生暖かい舌が這った。
 なんか、普段俺が一松にしてるのに近い、つーかほぼまんまだなこれ。もしかしておれがするってそーゆう事?まあ散々俺に抱かれてるけど一松だって男なんだからそういう欲があったっておかしくない。だからって大人しく抱かれてやれるかはまた別の話だけどね。
「…一松さあ、そんな飲んでて勃つの?」
「…? おれは勃たなくても問題なくない?」
 あ、全然そんな意図ないわこれ。それはそれでちょっとあれだけど、まあいっか。どーせ応えてやれはしないんだし。このままセックスイコール俺に抱かれる事だと思い込んでくれてるほうが都合がいい。実際一松だってそっちのがきもちいいんじゃねえの?多分。
 つまり一松がしたいのは、俺に触るって事だけだ。さっきまんまだと思った触り方はいつの間にか変わっていてもうどう触れられるかは読めそうにない。舌が這って甘噛みをされて。どんどん肌がべたべたになっていくのは別に嫌じゃない。濡れてひやりとしたそこは舌が這えばまたすぐに熱を取り戻す。ただなんだろ、きもちいいというよりはこそばゆい感じだ。動物にじゃれ付かれてるみたいな、そういうやつ。
「…なに、おいしーの?」
「ん…よくわかんない、けど、たのしい?」
「ふうん…俺はおまえの事美味いと思ってるけど
「あ、ッ、」
 首筋に顔を埋められてるから同じようにはしてやれないけど、耳ならなんとかいける。舌先で形をなぞって穴の方へ滑らせて。そうするだけでおもしろいくらいびくびくと腕の中で身体が跳ねる。押さえつける程ではないけどしっかり抱きしめて執拗に。這わせるだけでぴちゃりと音が鳴るくらいに湿らせていく。窪みに溜まった唾液を吸えばじゅっと音が鳴る。元々一松は耳が弱いから効果は抜群だ。
「んん、そこばっかり、やだ、」
「なに、どこ触ってほしーの」
「…ここ」
 正直、濁されるよりもはっきりと部位を言われるほうがえろいと思ってた。けど自らするりと服をたくし上げて胸を大きく露出させるのはめちゃくちゃ股間にキた。触ってもいないのに乳首が両方とも立ってて存在を主張しているのも大きい。とっくに勃ってたけど完勃ちって感じ、もう後にはひけない。
 出したのに触ってくれないの?とでも言いたげにじっと俺を見つめる紫色がゆらりと揺れる。触るっつーの、こんなんされて触らないでいられるわけねーだろ。すげーえろかったし、ちゃんと両方同時に触ってやろ。そのほうがいっぱいきもちよくなれるもんな。いつもそうだし片方だけじゃ物足りないでしょ。
「いち、裾持っててな」
「ん、ひゃ、あ、あ!」
 左側にはしゃぶりついて右側は指先できゅっと引っ張る。相変わらずちょっと痛めのほうがいい声で鳴いてくれるからついやりすぎちゃうんだよな。絶対こいつのそういうの俺が助長させてるわ。ころりと転がしても押し潰しても返ってくるのはいい反応ばっかり。すっかりやらしい乳首になってしまった。ハジメテん時は触ってもよくわかんない、って顔してたのに。
 きもちいいからとか、もっと触ってほしいとかいろんな理由で反った背をあいている方の手で撫で上げて肩甲骨の間を通って首裏に触れる。それからゆっくり下へ、腰を重点的に触ってからゴムの緩いスウェット、ついでに下着の中へと手を差し入れた。ほんとはこのまま解していきたいんだけど、ローション替わりのものがないんだよな。どうしたもんか。こんな風にはじめるつもりなかったから手の届く範囲にない。一度離れるしかないか。
 もーちょっと弄ってやりたかったけど一旦乳首から唇を離して距離をとる。唾液でつやつやになった膨らんだピンク色のえろさは抜群だ。折角離したのにまたしゃぶりつきたくなっちゃう。けれどそれをぐっと我慢して一松の身体を横たえていく。適当に卓袱台をぐっと押したら乗ってた缶が倒れた音がしたけどまあ大丈夫だろ。中身入っててもへーきへーき。
「一松、ローションどこ?」
「棚、の引き出しの中…」
「おっけー、ちょっと待っててな」
 別に出しっぱなしでもいいのに、どうせこの部屋に入るのなんて主である一松と俺くらいだ。あー、いや、たまに入るか。俺もついてる時に限るけど、勝手に部屋の中弄る事あるもんな。家電系とかだいたい俺が勝手に入れたのばっかりだ。元々この寮に個人用の洗濯機とかレンジとかそういうのは存在しない。辛うじて存在している共有スペースでこなすしかない。
 取り出したローションは変えたばかりなのもあってまだたっぷりと入っている。これなら暫くはもちそう。立ち上がったついでに部屋の端っこに積んであった洗濯物の山からタオルを拝借して一松の下半身の下へと敷いておく。スウェットと下着を纏めて脱がせてから両足を大きく開かせれば準備はおっけーだ。
「やっぱ全然硬くなってないのな」
「ぁ、触られると変な感じする、」
「まあでももうえっちな一松くんは後ろで充分イけちゃうからなんの問題もないか」
「あんたがそうし、っんあ、あ…っ」
 ローションで表面を潤わせてから指を沈ませた体内はアルコールが回っているからかいつもよりもあつい。何回かした後ほどじゃないけどとろとろもしててなんとなくやらかい感じ。だからって慣らすのを雑にできるわけじゃない、一応するのは久々だ。上の人間は上の人間なりにやる事が多い。どうしても頻繁にはここに来れない。あーあー、はやく仕事辞めたい。んで一松連れてどっかでまったり暮らせたらいいのに。まだまだ無理だろうな。
「ふあ、あっ」
「うんうん、きもちーな、ここ好きだもんな〜」
「はン、あ、あ」
 酔ってるのもあってか最初から一松の声に辛そうな色は混ざってない。大抵最初はやっぱちょっとしんどそうなのに。そういうのももーちょい頻繁にできればましになるんだろうけどな〜やっぱ早く引退するしかねえな。
 好きなとこをいっぱい弄りつつちゃんと中を掻き混ぜてしっかりと確実に拡げていく。それなりに慣らしたいのに一松がかわいくてやらしくてどうしても気が急いてしまう。はやく、この中に俺のを突っ込みたい。そんでもっと乱れさせたい。何も考えられないくらいよくなって、ぐちゃぐちゃになちゃえばいい。
 中を掻き混ぜていた指を抜く頃にはすっかり一松の身体からは力が抜けていた。楽しすぎていいとこ触りすぎたな。突っ込むのに力が抜けてるのは好都合だけどあんまり疲れさせすぎてもね。本番はこれからだっつーのに。
「…なまじゃ、ないんだ…」
「酒入ってるし多分おまえおちちゃうから。ホテルとかならいいけど、ここじゃ一緒に入って後処理とかできねえから。我慢して」
「…おれがなまじゃないと満足できないみたいな言い方、やめてよ…」
「残念そうな声出しといてよく言う」
 意識がなくなった一松を運ぶのだって後処理するのも嫌じゃないし全然やれる。やれるけど、備え付けの風呂場じゃ狭すぎて難しい。これがいつも使ってるホテルなりラブホなりだったら全然余裕だけどここじゃなあ。なんせヤった後別々に入んなきゃいけないくらいだ。厳しすぎる。
 つーことで念のためいつも持ってるゴムを取り出して一度口で挟む。それからベルトを外して手早く前を寛げていく。下着から取り出したそれはもうとっくに準備万端だったけど念のため数回扱いて、袋の端の方を歯で固定しつつ封を切って中身を取り出した。着けんのはまあそれなりに久しぶりだけど難しい事じゃないからすぐだ。被せて滑らせるだけ、準備なんてすぐ終わる。
「…あのさあ、見すぎじゃね?」
「や、だって…はじめて見たから」
「そーだっけ?」
 そういやそうかも。前ここでヤった時はこんな飲んでないからつけてなかったもんな。他、ああ、随分前に工場の仮眠室とかでもヤったっけ。あの時も一応シャワー室があるからとか、いろんな理由で生だったわ。今思うとなかなかにひどい、まあ始まりがセフレだしなあ。後処理とか、最初はそんなやってやれてなかったと思う。それになにより処女だったのを満喫しきれてないのがすげー勿体ない。初っ端からそれなりにえろかった事くらいしか記憶がないってどうなんだ。
「おそまつ…?」
「なんでもなーい、んじゃ挿れんね。力抜いといて」
 まあもうとっくに抜けてると思うけど。一応ね。足を抱えて柔くなったそこへと先を押し付けると待ちわびたとでも言いたげに吸い付いてくる。それについ一気に腰を進めたくなったけどなんとか我慢して一松側の用意が整うのをじっと待つ。用意っていうのもちょっと大袈裟か。ただ深呼吸をひとつするだけだ。
 服がたくし上げられたままで剥き出しになっている薄い腹が大きく上下するのを見届けて、いつもこのくらいかなってタイミング。そこでやっと先端を押し込んでそのままの流れでゆっくりと腰を進めていく。絡んでいく内壁を押し開いてどんどん奥へ。はー、やっぱさいっこーだわ、もう既にすげー気持ちいい。
「あ、ッあ、あ、は…っ」
「もーちょい、で、全部入る、」
「ん、ぁ、あ!」
 肌と肌がぶつかりえば、おわりだ。ちんこ全部があったかくてとろとろしたとこに包まれてぞくぞくする。今すぐにでも動きたいけど一松がまだ駄目そうだ。口から零れる息はあっつくて、震えている。ぎゅうって耐えるみたいに閉じられている目許も赤い。かわいい。うまそう。口の中いっぱいに溜まった唾液を飲み込んだら思いの外大きな音がした。
 敷いておいたタオルを握りしめていた右手がそこから離れて、そろそろと自信の腹の上へと乗る。それから、ちょっと下へ。へそを通り過ぎてもう少し。そこでようやく手は動きを止めた。じっとそこで留まる、それの意図はわからない。わかんないけど一松の表情がなんか、すごい。満たされてる、俺の勘違いじゃなければ幸せそうであまい。
「…すごい、いま、おれのなか、おそまつでいっぱいだ」
「っ、おまえね、」
「あッ、ま、って、んは、あ!」
「そんな言われて待てるやついねーっつー、の、」
 しかもあんな風に笑いながらってもう、だめだろ。折角いろいろ我慢してたのに。
 一度動き始めてしまえば止まれない。アルコールのせいでいつもとちょっと違うあつさに蕩け方が気持ちいい。いつもが悪いわけじゃなくて違う良さがある感じ。一松の反応もほんのり違う、気がする。流石にイきっぱなしになってる時とか媚薬使った時には劣るけど充分だ。余裕もあんまりなさそう、前ここでヤった時は壁の薄さ気にして声抑え気味だったのに。まあ回数重ねたら結局あんあん喘いでたけど。
「あっ、あ、ん、あ、」
「指で触られるより、さあ、やっぱちんこでごりごりされるほうがきもちいんだ?」
「にゃ、っあ、あ、ゃ、そこだめ、」
「イっちゃうくらい、いーとこ、だもんな」
 だから敢えて、もっと。ついさっきまで指でたっぷり弄っていたそこはすっかりできあがっていて敏感になってしまっている。続けて絶え間なく刺激を与え続ければそれに比例するみたいに涙はぼろぼろ零れるし声もより高さを増していく。そういうのでわかる、もーちょいだな、これ。
 きゅうきゅう絡んでたのが一際強くなってからびくびく震える。すっげー気持ちいい、けど、ここでイくのは勿体ない。なんせここで耐えないともっと乱れたとこが見られない。
「ふあ、あ…ッ!」
「ん、あと少しがんばろーな、」
「ひう、あ、あ! ま、っ、あ、あ!」
 これで動けば、イきっぱなしの完成だ。強すぎるらしいそれはしんどさも兼ね備えているみたいだけれどもうしないでって言われた事ないから大丈夫、なはず。流石にガチでやばそうだったらわかるし、どうにかなる。
 いいとこを刺激するんじゃなくて俺がイくための動き、めいっぱい中を擦りあげるようなやつ。と言っても元々中全体が敏感だし、イったばかり、イっている最中でそれは更に増している。俺がどんな事したって部屋に広がってくのは結局のところ嬌声だ。これ絶対外に聞こえてんな、まあいっか。今更だ。
「あ、っん、ア、ねえ、あッ」
「んー? なあ、に、」
「とおい、の、やだ、あ、っ!」
「すーぐそうやってかわいー事言う…対面座位でいいよな」
 強引に身体を近づけるのだって無理じゃない、なんせ一松の身体はやらかいし。でもこっちのが楽っしょ、もっと奥には届いちゃうだろうけどそれはそれだ。根元まで押し込んでから慎重に一松の上半身を起こしていく。力が抜けきっているにも関わらず協力しようとしてくれるのは健気でかわいい、別に無理しなくたっていいのに。支えてないとすぐにまたカーペットの上に戻ってしまいそうなくらい力が入ってない。紫色もとろろとろだ。きもちよさにアルコール、混ざり合って頭ん中ふわふわしてそう。
「ん、んん…っ、ふかい、」
「そりゃ上乗ってっからね。動いてい?」
「うん、へい、あ、っあ!」
 ぎゅうって、身体全部を使って抱きつかれるのは少し動きづらい。でも密着するのが気持ちいいから全然嫌だとは思わなかった。こんなことなら上全部脱いでおけばよかったな、今回俺も一松も上はそのままだ。揺さぶる度に耳元で甘ったるい声が零れて鼓膜を揺らす。とろとろになってる顔は見えないけどこれはこれでさいこーだ。
「ん、あ、あ! また、イっちゃ、あぁ!」
「は、もおイってんじゃん、ッ」
 ゴムを着けてる以上どこに入ってる状態でも変わんないけど、やっぱ、折角だし?一番奥へ届くように突き上げた。ゴムの中に吐き出して一息吐く間に元から凭れ掛かられていてかかっていた重さが増した。くったりどころかぐったりってレベルな気がする。まあ仕事した後に勃たなくなるくらい酒飲んだ上でセックスまでしたらそうなるよな。うん、やっぱゴム着けて正解だわ。
 多分これもうほぼおちてる、よな。呼吸の仕方がそんな感じ。呼吸も、なんなら心音も変に乱れたりしてないから一応大丈夫そうだ。いやおちるまでする時点であれな気もする。でも回数で言ったら一回だしなあ、一松は何回もイってるけど。
 とりあえず抜くか。しっかりした後処理はできなくても身体を拭いたりとかはできる。それにいつまでも挿れてたらまた元気になっちゃいそうだもん。殆ど意識飛んでるとはいえ中は相変わらず気持ちいいし。意識がない分力が抜けてやらかいんだもん。抜くために身体を動かしたところで緩く巻き付いていただけだった腕に力が籠ってまた思い切り抱きしめられる。離れたくないって事?意識なくてもこれだから困る。ほんとかわいーなこいつ。
「…これじゃ抜けねーんだけど、腕緩めてくんない?」
「ん…や、だ…」
「やだっておまえね。いーの、ずっと俺の咥えてたらここ閉じなくなっちゃうかもよ?」
「ン…っ」
 拡がりきってる縁を指先でなぞりあげたら鼻にかかった声に攻撃されてまじで勃つかと思った。あっぶねえ、この状態の一松を抱くのはなんかほら、流石に申し訳ない気がする。ただ寝てるだけならヤってたと思うけど、もう既に一回ヤってるし。酒も入ってるし。無理させたらやばそうじゃん。
 刺激のおかげで腕が緩んだ隙に手早く中から取り出して、ついでにゴムも外してしまう。またすぐに抱きつかれたから一気にやっておいて正解だった。中身が零れてしまわないようにちゃんと縛って、とりあえず適当にゴムは卓袱台の方に放り投げておいた。上に乗ってればまあセーフだ。カーペットとかだとローションやらなにやらで染みができてしまう。それは多分怒られる。
「一松ぅ、身体気持ち悪くない? きれーにしてやるから一旦腕緩めよ」
「や…」
「えー…」
 んん、もういっか、このままで。せめて布団くらい敷きたかったしなんなら着替えだってしかったけどしょうがない。スーツはクリーニングに出せばどうとでもなる。カーペットが敷いてあるとはいえ硬い床の上、多分明日背中とか痛いんだろうな。それがわかっていても抱きついてくる身体を強引に引き剥がそうとはとてもじゃないけど思えなかった。
 離れたくないって言われて、嬉しくないわけないじゃん。頻繁に会えるわけでもないし応えられる時に応えたいとは思ってんだよ、一応。俺がそうしてたいっていうのも勿論大きいけど。
 一松の事を抱きしめつつなんとか横になってちょっとぐちゃぐちゃになってしまったバスタオルを下半身の辺りにかけておく。何もないよりましだろ、俺はともかく一松は下半身丸出しだ。いや俺もまだちんこしまってねえわ。完全に脱いでるならともかく取り出しただけって絵面が間抜けすぎんだろ。腕どころか足まで絡められてて苦労はしたもののなんとかしまう事に成功してちょっと安心した。しまえたし前は開けっぱなしでいいやもう。
 真上じゃないけど勿論電気も点きっぱなしだ。暗くないと寝れないとか、そんな繊細な事を言うつもりはないから問題ない。腕の中の一松は完全に眠りに落ちてるし、気にする間もなかっただろう。さて、こうなった以上俺に残されたのは寝てしまう事だけだ。起きてたところで一人じゃつまんねーし、寝顔楽しむにも抱きつかれてて顔見えねーし。
 幸いというかなんというか、一応アルコールが入ってるのとセックスをした後だっていうのに加えて一松の体温が気持ちいいから案外すんなりと眠れそうだ。瞼を閉じて薄い身体を抱きかかえ直したらなんか、髪からやわらかい甘い匂いがした。俺が前に置いてったやつ。甘すぎないそれはなんとなく一松っぽくて違和感がない。しかも髪もちゃんとふわふわになる優れものだ。
 気怠さにアルコールに体温、それに甘い香り。俺が思っていたよりも簡単に意識は沈んでいった。



 もぞりと腕の中で動く気配がして目が覚めた。一度小さく動いたあとにもう一度、今度は大きく。一度起き上がろうとしたみたいで腕を伸ばしたけれど諦めたのか結局また腕の中に逆戻りだ。確かに俺、抱きしめてはいるけど思い切り力を入れたりなんてしてないのに。にも関わらずって事はあれか、こっちだ?後頭部をゆるーく、揺らしてしまわないように撫でてやる。回数ヤってないから腰じゃないだろ。
「…おはよ…」
「おはよー…頭痛ぇの?」
「がんがんする…」
「結構飲んだかんね。もしかして記憶とか飛んでる?」
 それはちょっと残念だな、って思ったけど杞憂だったらしい。ぶわっと、一気に一松の顔が赤色に変わった。あー、これはちゃんと覚えてるわ。全部ではないかもしれないけど大半は大丈夫だろう。自分から乗って好きって言った事とか、離れたくないって我儘言った事とか。
 顔を隠すために抱きつき直してきたのがかわいくて自然と口がにやそうだ。つーかにやけてる。我慢できない。
「わ、わすれて…」
「えー? 全部すげー嬉しかったからやだ〜」
 するする後頭部を撫でるのを再開して、真っ赤になった耳に唇を押し付ける。少し持ち上げられて見えるようになった顔、目は潤んでてもうちょっと涙が溜まったら零れてしまいそうだ。なに、そんな恥ずかしかったの。
「いやー、ほんと良いもん見たし聞いた。また一緒に酒飲もうな」
「…普段からしてほしいとか、言わないんだ?」
「そーゆう酒に頼らないと素直になれないのもかわいいからいいんじゃん? まあ普段からはおいおい」
 なれないのも今回みたいに楽しめるし、なれるようになったらそれも楽しい。なろうと頑張ってるのだってかわいいに決まってる。美味しい事だらけ、無理に急かす理由は見当たらない。
 後頭部を撫でてた手を滑らせて耳、それから頬へ。そこまで滑らせれば当たり前のように一松も顔の角度を変えてくれる。ゆるく開けられた唇に自分のを重ねるのはなんか、少しだけ久しぶりな気がした。そういえば昨日の夜はされてばっかりだったっけ。されんのもいいけどやっぱするほうが楽しいな。俺がするのに対して逐一反応してくれんのがかわいい。
 今日が休みだからあんな風に酒盛りをしたわけで、つまりたっぷり時間はある。やりたいだけキスして、解放した一松の息は緩やかにペースが上がっていた。濡れた唇と顎下を舐めあげつつ、今度は腰を抱いていた手を下に滑らせた。
「…なあ、一松。着替えたらホテル行こ」
「…? なんで、」
「一緒に風呂入りたいじゃん、んでいちゃいちゃしよーよ。あと、」
「ひあ、っ」
 剥き出しになってる尻、そこをぐっと自分の方へ引き寄せる。くっついてはいたんだからわかってただろうに随分イイ声出してくれるじゃん。ゆるっととはいえたっぷりキスしちゃったし、昨日は一回だったし。やっぱさあ、俺としては足りないんだよね。
 耳元に唇を寄せ直してからわざとためてから、あまいやつ。そう意識して出した声は想像よりもずっと甘さを含んでいた。
「もっかいしよ」
「っ、あ、一回じゃ、ないくせに…っ」
「それはおまえ次第だけどね」
 あんまりやりすぎるとホテルに行くどころじゃなくなっちゃいそうだから耳にキスを落としてから手を離す。連絡してホテル押さえなきゃいけないし。運転、はまあできるか。流石に片付けと着替えこなしてる間に一旦治まるだろ。駄目だったら呼ぼ。
 スマホをとるために身体を起こすと一松も同じように上半身を起こす。頭痛に加えて卓袱台の惨事具合、ついでに下半身丸出しの自分を見て顔を顰めてるのですらちょっとかわいい。
「朝飯はホテルのルームサービスでいっか。店入りにくいし、なんか買うくらいならそっちのがいろいろあんでしょ」
「なんでもいい…とりあえずおれ、顔洗って着替える…」
「そーしてー、じゃないと治まるもんも治まんねえから」
 いつまでも生足どころかケツ丸出しでいられると困る。と思ったらそれは一応かけてたバスタオルが腰に巻かれて簡単に隠されてしまった。しまって欲しいと思ってたのにいざしまわれるとちょっと残念だ。ホテル行ったらたっぷり見れんのに。
 立ち上がって腕を大きく伸ばしたら背中がばきばき鳴った、やっぱ床で寝るもんじゃねえな。気をつけよ。ちゃんとかけておいたジャケットのポケットからスマホを取り出してざっと通知を確認する。どーでもいいのばっかりだな。中身の確認は後回しにして着信履歴から気がついたら常連になってたホテルの名前をタップする。
 コールが止まるまでの数秒、適当に卓袱台からとった缶チューハイはとっくに炭酸が抜けきっていてひたすら甘かった。


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