眼下に広がる夜景は煌びやかだ。この景色だけでこの部屋の価値が跳ね上がっているだろう事は想像に難しくない。今まで何回かここに連れて来られた事はあったけど、こうして見下ろすのは初めてだな。元々夜景にそんな興味がないのも大きい。多分、おそ松兄さんも一緒だ。ただこのホテルがここらで一番いいところで、そのホテルの中で一番いい部屋を押さえているだけ。特に意味はない。
「なぁに、珍しいね」
「おかえり。たまにはいいかなって」
「まあ目玉なだけあってきれーだよな」
 当然のように後ろから抱きしめられて、ぴったりくっついた兄さんの身体はシャワーを浴びたばかりで温かい。肩口に置かれた顎が少しだけ擽ったかったけど好きにさせておく事にした。それよりも腹の辺りに触れた袋のほうが気になる。そんなに大きくないそれは見慣れない、というかはじめて見るものだ。ここでは勿論、普段暮らしている館でも見た事がない。無地の赤色からは中身を予想する事すら難しい。ブランド名とかあれば多少は察せるんだけどな。詳しいわけじゃないけれど、環境が環境だけに目にしやすかったり耳にしやすいものはそれなりにある。
「…気になる?」
「だってこれ、おれにでしょ?」
「そーだよ、あげる」
 あっと言う間におそ松兄さんの意識からもおれの意識からも夜景は弾きだされてしまった。受け取った髪袋はそんなに重くはない。開いた中には綺麗に梱包された細長い箱が入っていた。これもわかりやすく赤色、ああでもリボンは紫色だ。元々六人色が振り当てられているのがあるからかこういう時その色に寄せられるのはよくあることだ。
 箱を取り出したところで腹の前で組まれていたおそ松兄さんの手、右手があからさまにそういう動きをはじめた。バスローブの合せから入り込んで、直接肌に手が触れる。
「ちょっと、」
「お構いなく〜」
 いや、構うでしょ。肩から顎が退いたと思えば唇が項へと押しつけられて何度も甘くそこを吸い上げはじめた。ちゅ、とその都度わざとらしくリップ音が立てられて静かな部屋へ響く。こいつ、本当に開封させる気あるのか。身体中に灯されていく熱に耐えつつなんとか箱を取り出したけれどそのタイミングで肌をひっかかれて紙袋は床へと落ちてしまった。勿論それを拾う余裕も、あったとしてもそうする事は許されていないからどっちにしろ紙袋はそのままだ。まだ、なにか入ってそうだったのに。
 袋を縛る紫色のリボンも解かれてすぐ紙袋を追うように床へと落ちた。あとは、この袋から中身を取り出すだけだ。なんだろう、ケースか何かに入れられているようで指先で触れただけじゃ中身はわかりそうにない。これは落すわけにはいかないから丁寧に取り出したいのにおそ松兄さんがそうさせてくれない。右手は胸元を弄りはじめたし唇も、いつのまにか大きく露出させられた肩を含めた広範囲へ這わされて絶えず甘い刺激を与えられている。これ、落しても大丈夫なやつなの?こんなケースに入ってるくらいなんだから絶対そんな事ないでしょ。
 取り出すのは早々に諦めて、左手で底を支えて右手でケースを包む袋をずり下げる事にした。これならまあ、なんとか。これ以上刺激を与えられたら上手く出来る自信はないけれど今ならまだ大丈夫だ。透明なケースがゆっくりと姿を現して、透明故に自然その中身も露わになっていく。
「薔薇…?」
「そう、でも普通の薔薇ってこの間やったばっかりじゃん? だからチョコレートにしてみた」
 この間、気まぐれでおそ松兄さんが花束を買ってきた件か。あの日は今日みたいなバレンタインというイベントの日でも、ましてやなにかの記念日というわけでもなかった。おまえに贈りたくなっちゃったから、とか笑っていたっけ。そういうとこ、イタリアで暮らしてるだけあるよなって思う。おれには出来ないけど。
 結局その薔薇はその日の内に殆ど駄目になってしまった。花弁をシーツに散らしたり湯船へと散らしたりと楽しそうだったからあれはあれでよかったんだろう。あの扱いがおれへのプレゼントに対するものとして正しかったのかは怪しいが。
「あとで美味しく食べてよ。…もおいい? こっち集中して」
「あっ?! や、まだ、これ、ッ」
 手や唇から与えられていた刺激の質が、変わった。先に与えられていた刺激でゆるく勃ちあがっていたおれのが握りこまれて項を甘噛みよりもずっと強く噛み付かれる。指先に先の、特別いいところをなぞられて膝が震えた。それに気が付いているくせに同じように何回も。くるくると撫でられてどんどん足から力が抜けていく。右手を正面のガラスへついても耐えられない。ゆっくり視界が下がって、気が付いた時には床へと膝を着いていた。
 けどおかげでチョコレートを逃がす事ができる。ケースに入っているとはいえ食べ物を床に置くのは、と少しだけ思ったけれどだからと言ってテーブルの上に置く余裕はもうない。できるだけ腕を伸ばして、邪魔にならない位置にそっとチョコレートを置いた。それを待っていたんだろう、強引に身体の向きが反転させられて背中がガラスへと押しつけられた。性急に唇が重ねられておそ松兄さんの表情を見る事はできなかったけれど、想像するのは簡単だ。きっと、余裕のない顔をしてる。
 自由になった両腕を首へと絡めればキスの深さが増して、且つ手を這う動きも再開した。腰紐がほどかれて大きく前を肌蹴させてからのそれは遠慮がない。とっくに膨らんでいた乳首を潰して摘まんでもう片方の手は背中を上から下へと撫でまわしつつ降りていく。柔く尻を揉まれるだけで気持ちよくなれる事を知っている奥がさわって欲しいと収縮してしまう。
「は、今日はバレンタインだし? いーっぱいご奉仕してやるよ?」
 二人分の唾液で濡れたおそ松兄さんの唇を舌が這う様子がやたらやらしくて、期待でかときめきでか、とにかく胸が大きく跳ねた。そんなおれを見てかわいい、と唇へキスを落とすと兄さんは身体を一度離して改めて首筋へと唇を押しつけた。そこからどんどん下へ、時にキスマークを残しつつ移動していく。殆ど位置は身体の中心、行き着くところなんて一つしかない。
 ご奉仕、という言葉の通りだ。勃ちあがりきった先に小さくキスを落としてから、ゆっくりとおれのがおそ松兄さんの口の中へと消えていった。床に腰を降ろしているから兄さんの体制はほぼ寝そべっているような状態で、たまにベッドに腰掛けている時にされるのと比べたら奉仕感は低い。あれは、視覚が与えてくる情報がすごすぎて暴力に近い。だって、あのおそ松兄さんが、裏社会の組織のトップが、自分の足の間に跪いておれのを咥えてるって、すごすぎるでしょ。征服欲が満たされるような感じ、まあ結局そのあと征服されきってぐちゃぐちゃにされてしまうのはおれなのだけれど。
「ふあ、あっ、や、ん…ッ」
 余計な事を考えていたのが面白くなかったんだろう、強く吸われて意識が引き戻される。しっかり赤い瞳と目を合わせれば俺の事だけ考えてろとでも言いたげに舌がイイところを容赦なくえぐった。あんたの事しか考えてねーよ、ばか。ぐっと両膝を大きく開かれて更に深く。喉の奥の方で先が擦れる感じにぞくぞくする。あれ、前までそんなに飲みこめなかったはずなのに、いつの間に。とはいえ本当に全部飲みこまれていたのはそんなに長い時間じゃない、すぐに元々咥えていたくらいどこか全部が咥内から出されてしまった。
「っげほ、や、これ長時間は無理、おまえの喉どーなってんの」
「…あんたが全部咥えてって言うからじゃない?」
「あー…いつもありがとな
「誤魔化そうとしてるでしょ…」
 まあ実際、別に嫌だと思っていないからいいんだけど。全部飲みこむのはだいぶ慣れたとはいえつらい。それでも、あんたが気持ちよさそうにしてくれて、労わるように頭を撫でてくれればそれだけで充分。お願いされたら二つ返事でいいよと言ってしまう。奥に強引に進まれる事があっても同じようなものだ。された時は多少むかついても口の中で出したときのおそ松兄さんの顔が好きで、どうしてもやめろとは言えなかった。正直そんな事よりも口でしたあとにキスしてくれない事の方が嫌だ。
「気にしない気にしない。で、続きだけどどうしてほしい? おまえの望む通りいしてやるよ。舐めるのでも吸うのでも、
まあどうしてもっていうならディープスロートでもいーよ」
「いや、あれきついんでしょ? 別にあんたの苦しそうな顔に興奮しないしそれはいい」
「あ、そう? 俺結構おまえがキツそうにしながら咥えてんの好きだよ、かわいくて。それでいてちゃんと美味そうに食ってるしね」
「……それはあんたの性癖だし、おれは確かにそれはそれで楽しんでるからいいと思うよ。普通に、舐めてくれればいいから」
「おっけー、なんか他にも要望あったら言ってな」
 おれのお願いの通り、舌が丁寧におれのの全体的に這わされてくのは気持ちいい。気持ちいいけど、それで与えられる気持ちよさよりも、ずっと見つめられている事の方がおれの事を熱くする。どこを刺激された時一際いい反応するかとか、そういうのを全部見られてる。顔を隠したい、けれどそうしたら咎められて結局隠せなくなるのを知っているから大人しく自分のバスローブをぎゅうと握った。なにもしないよりましだ。どんどんずり下がったバスローブはもう殆どバスローブとして機能していない。
「ここ、好きでしょ、」
「あ、っ、ん…! すき」
「俺も好きぃ、やっぱある程度はイイとこって一緒なのかもね」
 その理屈だと後の四人もそこがイイって事になるな、わざわざ聞いてみようとも思わないから一生確かめる事はないだろうけど。執拗にそこを嬲られていれば自然と吐精感は増していく。出したい。そういうのも全部ばれている。舌がそのものに触れているし、それ以外のサインだって見落とされたりはしていない。だからこそどんどん煽っておれから言葉を引き出そうとしている、そんな事しなくても、言うのに。言葉にする事への羞恥心なんてとっくにない。
「ッも、イきたい、」
「どこでイきたい? 俺の中でもいいよ」
「言い、かたぁ…っあ、や、っ」
「嘘じゃねえもん。どうする、このままだと手にしちゃうけど」
 確かに間違ってはいない、いないけど、誤解を招く。や、二人きりなんだから関係ないか。おれがそれを勘違いするような事はまずない。刺激を与えるのに舌だけじゃなくて指も加わって、このままじゃ本当に手に出すことにされてしまいそうだ。どうせなら、口に出したい。喘ぎ声に混ぜてなか、と言葉にすればおそ松兄さんは楽しそうに笑って再びおれのを咥内へと招き入れた。全部が含まれたわけじゃないけれどもう充分高まっているからなんの問題もない。
 前から知っているイイとこや覚えたばかりのイイところ、ありとあらゆるイイとこを舌で刺激されてタイミングを見計らって強く吸われた。促されるまま吐き出した精液は一度咥内で受け止められたものの結局兄さんの手の平の上に落とされてとろとろと手を汚していく。なんだ、飲むわけじゃないのか。息が整っていないから口にはしなかったけれど。飲んでほしかったわけでもない、あれの不味さはよく知っている。
「っ、ローション取り行くのめんどうじゃん? これ使おうと思って。痛かったら言ってな」
「だいじょ、っうぶ、あ、」
 ローションに比べたら滑りは悪いけれど受け入れる事に慣れて、且つさっき少しだけ自分で慣らしてあるから多少強引にコトを進められても問題ない、と思う。久しぶりだとかで余裕がない時ならともかく、こんな状況でそうされるとは思えないけれど。押し込まれた中指はしっかり根本まで入り込んで内壁を揉むように小さく動く。ほら、やっぱり、すごい丁寧だ。強引だなんて口が裂けても言えない。まあ、ローションを取りに行くのをめんどうだと切り捨てた時点でちょっとあれだけど。いつものことだ。
 ゆるゆる丁寧に、指を増やされつつ中が拡げられている間に背中はガラスを滑って床に辿り着いていた。殆どいつもと一緒だ、ベッドでする時とたいして変わらない。ベッドと違って硬いのは地味に堪えるけど間に質のいいバスローブやカーペットがあるから多少はましかな。それにどうせ、熱に浮かされている間にそんな事気にならなくなる。現に中を大きくかき混ぜられて痛さなんてどうでもよくなってしまった。それより、もっと、
「ぁ、ねえ、」
「まだだぁめ、もーちょい我慢な」
「大丈夫、だって、ね、」
「だーめ ご奉仕だから、今回。負担は出来るだけ減らすの」
 だったらローションを使えって話じゃないのかな、これ。それを口にして本当に取りに行かれても困るから言わないけれど。あれ、でも取りに行くんじゃなくて二人でベッドへ行けばそっちでできるってことか。どうせならそっちのほうがいいような気もする、そうすればそれ以降の手間はなくなるはずだ。一度してから移動するのはめんどくさい。だからといってずっとここでするのはちょっと、うん、嫌だな。なら今のうちに移動してしまったほうがまだましかな。
「…なに余所見してんの? んなよゆーなの、一松くんってば」
「は、っあ、あ、や、ん!」
「ごめんなあ、そんなヨくなかった? 負担減らすのもだけど。求められるままヨくすんのも奉仕だよなあ」
「ちが、あ、あ、あっあ、ベッド、」
「今更移動すんの? もお欲しいんでしょ、そんな数十秒も耐えれないくせに」
 耐えられないような状態にしてる、の間違いでしょ。過剰にイイところにばっかり触るようになった指はどんどんおれの事を追い立てていく。おかげでどんどん足腰から力が抜けて行って、移動なんて考えらなくなってしまう。本当に触って欲しい奥じゃなくて、手前のしこりを嬲るような動き。すごい、力は抜かれてくのに奥に欲しいと思うのは変わらないどころか強くなっていく。
「…移動する?」
「あ、っしない、で、いい、から、もう、」
「本当はもーちょい拡げたいとこなんだけど、まあいっか。慣れてるもんな? いち、起きれる? ガラスに手ぇついてよ」
 起きれるほど、余裕ないんだけど。わかってるくせに。でもそうしないと先に進めてくれないんでしょ。奉仕なんてもう、殆ど焦らすための建前だ。どうにか上半身を起こして後ろを向く、その間に邪魔だと言われてひっかかっていたバスローブは奪われてしまった。もう殆ど全裸だったようなものだけど、完全に剥ぎ取られるとなんだかそわそわする。窓際だからかな。
 立ち上がるほどの余裕はないから膝をついて腰を突き出すだけ。散々弄られたのもあって長時間はきつそうだ。どうせそんな時間は使わないか。いや、実は余裕がないのはおれだけだったらどうしよう。そんな心配は左右に開かれた中心に熱が性急に宛がわれた事で霧散した。よかった、挿れたいと、思われてたってことだ。
「じゃ、挿れんね」
「あッ、ん、んん! …っあ、」
 宛がわれた熱がゆっくりと中に押し入って狭いそこを拡げてく。慣らすのは丁寧だったけれど、ローションは使われていないからいつもよりはスムーズじゃない気がする。でも辛くはないから大丈夫だ。けれどそれを気にしているのか熱が押し込まれるスピードはいつもよりもずっとゆっくりで、全部収まるまでは結構な時間を使った。ちゃんと、きもちいいから平気なのに。
 腰を両手で湖底されてから腰が引かれて戻されて。まだやっぱり丁寧だ。だからかな、いつもみたいな、めちゃくちゃな気持ち良さに支配される事はない。変に頭が回る分、やだな。もっとそれしか考えられないくらいになりたい。
「…ッなあ、外見れんの、楽し?」
「ん、っ…ぁ、べつに、ただの夜景、あ、だし、」
「じゃあ、ガラスに映る自分の顔は?」
「ッ? あ、ゃ、だ、っあ、あ!」
 鏡ほどじゃないけれどそこには確かに自分の蕩けはじめた顔がうっすらと反射して映っていた。はっきりではないけどどんな顔をしてるかは充分わかる。めちゃくちゃ悪趣味だ、まさかこの為にガラスに手をつけって言いだしたわけ?こんな、の、嫌だ。おれは本当にそう思ってる、はずだ。けど全然身体の反応はそれとちがう。
「は、相変わらず変態だね一松ぅ…かわいーよ」
「やだ、ぁ、っ、ん、あぁ!」
「やだって言いながら目ぇ閉じて、ねえじゃん、ッこっちもすげーし、楽しんでるでしょ、」
 こっちって、どこだよ、ばか。うそ、わかるから言わないでほしい。自分の身体なんだから嫌でもわかる。おそ松兄さんのを咥えているそこが、どんな風に動いているか。前に兄さんに言われた言葉を借りるのなら、美味そうに食っている、んだろう。どんなに言葉で嫌な素振りを見せても全部兄さんのに絡みつくそこが正しい答えを教えてしまう。それに、ガラスに映る表情だってそうだ。全然嫌がってない。
 奥を突かれても浅いとこを刺激されても、もちろん背中に歯が立てられても。なにをされてもガラスへ映ったおれの顔は表情を変えてどんどん蕩けてぐちゃぐちゃになってく、快楽に溺れたどうしようもないかお。口の端から唾液が滑って落ちていくのまで見えてしまう。ひどいかお、とても見られたものじゃない、はずなのに。
「っあ、は、っ…ん、ぜんぶ、あんたのせい、あ、ッだし、ね、っあ!」
「すーぐそうやって煽るぅ…じゃほら、もっと、ぐちゃぐちゃんなろ?」
「ひゃ、あ、あ、っん、あ…っ!」
 がつがつ奥を何度も穿つような動き、視界が滲んで映し出されていた自分の顔は随分と見えにくくなってしまった。それをよかったとも、残念だとも思う。もう少しだけならおそ松兄さんに乱されて蕩けた顔を見ていてもよかった。長時間は遠慮したいけれど。
 どんどん重ねて与えられるきもちよさをどうにかするためになにかに縋りつきたいのに、おれの両手が触れているのは硬いガラスで指先にどんなに力をこめてもなにも変わらない。次はなにか、や、おそ松兄さんがいいな。兄さんに縋りつけるような体位にしてもらおう。それにバックはキスがしにくいから好きじゃない。
「は、んっあ、あ、っ、も」
「俺のことは気にせずイっちゃって、いーよ?」
「あ、あ、っや、あッ〜!」
 一応声は問いかけるようなものだったけれど、実際はおれの答えなんて求めていない。なにか返事をするよりも先に激しくなった腰の動きはかんたんにおれの事を追いつめていく。吐き出した精液がガラスやカーペットへ飛んだのはすぐの事だった。ガラスはともかくカーペットに絡むと後片付けが大変そう、ぼんやりした頭でそんな事を考えられたのは一瞬だった。イった余韻でびくびくと跳ねる腰を掴み直されて一度止まったおそ松兄さんの腰の動きが再開した。
 敏感になってるのもお構いなしに続く容赦のない律動のせいで、更に指先へ力が入ったけれどそのまま滑って下まで、ついでに上半身も床へと崩れ落ちた。一度額をガラスに打ち付けた気もするけどそんな事気にしていられない。後ろがめちゃくちゃに掻き混ぜられて視界がちかちかする。
「ん、中でイって、んね、っはー、やっぱさあ、イってる時の中格別だわ、ちょー、きもちい、」
「あっ、あ、や、ら、あ、ぁっ」
「だぁいじょうぶ、こっちはもっとって絡んでっから、もーちょい頑張ろ、な?」
 支える必要がなくなったからか腰を掴んでいた手が咥えこんで拡がりきった縁を指先が撫でていく。指が少し動くだけで腰が大きく跳ねてしまう、そんなおれ様子を見ておそ松兄さんは笑った、やられてるこっちはきもちよすぎて笑うどころじゃない。ガラスと違ってカーペットは多少指先にひっかかったけれどこれでもまだ足りない。バスローブがあればよかったのに。
 挿れた時よりも抽送がスムーズになってきたのは他でもない、おそ松兄さんのおかげだ。おれの身体は濡れる機能を備えていないから、多分、兄さんのからでてる先走りが多少なり影響している。それがたくさん出るって事は、おれで良くなってくれてるということだ。
「っ、あ、あ、」
「ん、出そ…、っく、は…ッ」
「あ、ッ、んぅ…!」
 一番奥で熱が全部、一滴も残らないように吐き出されて。耐えるように前へ倒された兄さんの上半身がおれの背中とくっついた。おそ松兄さんはまだバスローブに袖を通したままだけれど、それなりに乱れているのか意外と肌同士でくっついてる面積が広いくて肌の下でどくどくと音を立てる心臓までしっかり伝わってくる。
 息が整うまでの間にも首筋や肩に唇が触れてく。やわらかく吸われるだけじゃなくてたまに甘噛みが混ざるのは、セックスに続きがある事を示している。すぐに始めないって事は移動するつもりがあるんだろう、よかった。敷かれているカーペットの質は勿論いいけれど、やっぱり少し膝が痛い。
「…おそ松兄さん、も、動けるから」
「んー…や、多分おまえが思ってるより足腰キてると思うよ。運んだげる」
「え、っん!」
 根本まで収まっていたそれを一気に引き抜かれるとどうしてもきもちよくて声が零れてしまう。開いたそこからおそ松兄さんの精液が太腿を伝った、それを感じたのとほぼ同時に身体の向きを変えられて抱き抱えられた。急に宙に浮いた事に声を出してしまいそうになったのはなんとか耐えたけれどおれを見て兄さんは笑った。あんたが突然持ち上げたからなのに。
 運ばれた先は案の定すぐ傍のベッドだ。存外丁寧に横たえられて額にかかった前髪を指がそっとどかす。露わにされた額に押し付けられたのは唇で触れた瞬間にだけぴりっと痛みが走った。ああ、そういえばガラスにぶつけたんだっけ。すっかり忘れてた。
「チョコだけじゃなくてもう一個あんだよね、待ってて」
 今度は額じゃなくて唇に一度だけ。今日あまりしていないせいか余計にキスをしたくなってしまう。あからさまにそわそわしだしたのに気が付いたんだろう、後でな、と言いつつもう一度おれに口づけた。ベッドから離れてすぐに戻ってきた兄さんが持っていたのはさっきおれが渡されたばかりの紙袋だ。やっぱりまだ何か入ってたんだな、あれ。
 おそ松兄さんはおれの足元のあたりに乗り上げるとなんの躊躇もなく紙袋を逆さまにした。中から落ちたのは手の平くらいの小さな箱、これもチョコと同じようにリボンでラッピングされている。白い箱に赤いリボン。どことなく高級感を漂わせているそのリボンはすぐに解かれて綺麗に箱を彩っていたのから一変してただの一本の線へと姿を変えた。
白い箱から取り出された銀色は輪の形で、ところどころに赤色が散りばめられているのがわかる。この人はピアスを始めとした装飾品でおれに赤色を身につけさせる事を好むからそれは特に不思議じゃない。ただ、物自体が珍しいだけで。
「ブレスレット…?」
「や、ちげーよ。ブレスだと仕事ん時邪魔そうじゃん。これはこっちの」
 投げ出したままだった左足が持ち上げられえて胡坐をかいていたおそ松兄さんの足の上の乗せられる。輪の形からまっすぐになったそれがぐるりとおれの足首に回されて、小さな音を立てて固定された。はじめてつけられた物の筈なのに誂えたようにしっくりきて違和感がない。いや、誂えたものなのかも。有り得る。こわいから金額は聞かないでおこう。
 それのすぐそばの足首のでっぱった骨にキスが落されて足が少しだけ震えた。そんなとこもきもちいのか、始めて知った。
「たまたまパーティで聞いたんだけど、左足首のアンクレットには所有って意味があるらしいよ」
「…おれに、ぴったりだ?」
「でしょ。この色でおまえの持ち主が誰か、大抵の奴は察するよ」
 基本的にスーツだから足首が見られる事なんて殆どないけどね。そんなのこの人だって承知の上だろう。それなりに見える位置としてはピアスがあるし充分だろう。今つけられたばかりの赤色と同じようで少し違う、おそ松兄さんのつけているピアスと揃いの赤色。こっちはもう既に色々なところで噂になっていると聞いたことがある。おれ、基本的にあまり人前には出ないんだけどな。
「こんなにいっぱい所有印つけといてまだ足りないの」
「うれしーだろ?」
「最高」
 まだだるさの残る両腕を持ち上げて大きく開けば兄さんがおれに覆いかぶさるように体勢を変える。降ってきた唇を唇で受け止めて、身体を抱きしめるついでにおそ松兄さんの身体へ両手を這わせた。塞がれているからなんにも言葉にはできていないけれど、ちゃんと意味が伝わったのならそれでいい。未だに残っていたバスローブがおれ達の間から消えて、多分床へと落された。
 剥き出しになった背中に抱き付いたらくっついていた唇が離れて至近距離で赤色に捕まった。見つめられるだけの時間は数秒でまたもう一度、今度は噛み付くように。口でした名残の苦味は残っていたけれどそれを咎める気にはなれなくて自分からも舌を絡めていく。背骨のラインに沿って降りていった手が精液に濡れたそこへと触れた。
 まだ、夜は始まったばっかりだ。




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