半ばヤケになって手持ち全額突っ込んだ馬券が大当たり。
ただの紙切れだったそれがとんでもない価値にまで跳ね上がった瞬間、お馬さんデートしよとかなんとか言って強引に連れてきた一松を見たらまんまるい紫色と目が合った。
俺がねだったおにぎりを口に運ぶ途中だったみたいで口は大きく開かれたまま。
それを見て大当たりで高揚していたのがかわいいという単語に塗り替えられた。
周りが歓喜やら嘆きやら、正直俺には関係ないからどうでもいい声を上げている中暫くそうして見つめあっていたと思う。
もう、久しぶりの大当たりすぎて逆に声もでなかったというか。
なんせ今回の大当たりで手持ちは一気に膨れ上がる。
六桁なんてニートには、いや多分そうでなくても大金だ。
「…まじ?」
「…俺の目がおかしくなきゃまじ」
モニターに表示されている番号と手の中の紙の番号は綺麗に一緒。
念の為に一松にも確認をお願いしたけれどやっぱり間違いはなかった。
すぐに換金所にはいかないで、とりあえずベンチに腰を降ろしてまだ残っていたおにぎりに手を伸ばす。
いつしかにイヤミに出してたのが羨ましかったからリクエストした通りに猫型で作られたそれは材料が同じなんだから母さんが作る味と変わりないはずだ。
それでも一松が作ったって事だけで何倍もうまく感じるんだからってすげーよなあ。
それに俺のためだけに作られたやつだしね。
「いやあ、六桁ってやばくね」
「やばいね」
軽く十は手元にくるんだよなあ、なにに使おう。
へたなモン買ったら即あいつらの目に入って疑われるだろうし、なによりも物欲とかたいしてねえから欲しい物が思いつかない。
馬はやったし、パチって気分でもない。
隠し通す自信はあるけどたかられるリスクは拭いきれないしできたら可能な限り使ってしまいたい。
となると。
「一松」
「ん?」
口の中に入れすぎたのかいつもより膨らんだ頬がもごもご動くのがやたらかわいく見えたから使い道は決まった。
もうおまえに使う以外、考えらんないわ。
「おにーちゃんとデートしよっか」
ごくりと喉仏が上下するのもでーと、と繰り返されたのも、ぜんぶ。
めちゃくちゃかわいかったから、この金の使い方は間違ってない。

おにぎりを食べきってすぐ、振返機でさくっと配当金をゲットしてその足ですぐさま駅へと向かう。
平日の昼間のおかげでがらがらの電車で地元に到着したのはあっと言う間だった。
座れて且つちょっと寝てたから余計にそう感じるのかもしれない。
「今更だけど」
「うん?」
「最初からこれ、デートじゃなかったっけ。お馬さんデートとか言ってなかった?」
「こっからは普通のデート。なあおまえが行きたがってた猫カフェってこっちであってる?」
猫カフェという単語に反応して一松の頭から三角の耳が二つ飛び出した。
うんうん、いい反応だよ一松。そうこなくっちゃ。
行きたがってるのは元々郵便受に入ってた広告を食い入るように見てたから知っていた。
いやすっかり忘れてたんだけど。
今朝競馬場に行くまでの間に張り紙を見なかったら多分暫くは忘れたままだったと思う。
わかりやすくそわそわしだした一松の案内について行けば例の猫カフェにはすぐに着いた。
ここ、とだけ言った一松の目はきらっきらだし尻尾は落ち着きなくゆらゆらと揺れている。
でもすぐに入ろうとしないのは俺が金を出すから気にしてんのかな。
それと多分、単純に未知の空間にしり込みしてるんだろう。
猫の足跡の模様が付いたドアを開くとすぐに店員のおねーさんに声をかけられて、料金形態やら諸注意、手の消毒から席への案内までが流れるように行われていった。
もう一枚ドアをくぐった先は猫だらけでまだ触ってすらいないのに一松から幸せそうなオーラが飛び出し始める。
腰を降ろした途端に猫が数匹傍にやってきたのは流石と言うかなんというか。
既に一匹が膝の上で寛ぎ始めたのなんてそれを見たおねーさんが驚くレベルだ。
「俺猫カフェ初めてなんだけど、猫っぽいメニューばっかなのな」
「ほんとだ…」
「いーよ好きなもん食いな? 知っての通りよゆーあるし」
「…猫の餌、あげたい」
最初に選ぶのが自分用じゃなくて猫の餌、ってとこが一松らしいんだよなあ。
ところでその肩によじ登られてんのは重くないわけ?全然気にしてないから平気なのかな。
それか幸せの重さってやつ?
視界に入ってくるのを見る限りそんなことされてる客は一松くらいしか見当たらない。
本当こいつの猫を引き寄せる雰囲気すげーな。
とりあえず猫の餌と適当に飲み物、あと目に留まったから普段食べないようなクリームが添えられたチョコレートケーキを二つ。
暫くして飲み物と一緒に猫の餌の入った小さなプラスチックケースがテーブルの上へと置かれた。
猫達はその中に餌が入っていることなんてすっかり覚えてしまっているんだろう。
一松がそれを手に取って蓋を開けるまで一挙一動をじっと見つめて餌が取り出されるのを今か今かと待っているようだ。
そんな猫を見て他の猫までぞろぞろと寄ってきて辺りが期待に満ちた猫達でいっぱいになっていく。
これ店的にはいーの?殆どの猫集まってる気がすんだけどこれ。
おかげで注目の的なんですけど。
当の囲まれている一松は猫に夢中でその事にはまったく気が付いていない。
人の視線に弱いし丁度いいか。
「ほら…餌だぞ…あ、こら、そんな焦らなくてもまだあるから…ふふ…」
「一松俺にもちょっとちょーだい」
「…食べるの? はい、あーん」
「食べねえよ! なんでこういう時はあーんとかしてくれんの?! もっとさあ、普通の食い物でやってよ」
「やだ」
わかりやすくテンション上がってるなこいつ。
数時間前までと大違いだ。
まあ競馬場は外でさみーし?
元々強引に連れ出したからしょうがねえか。
ここは空調完璧どころか猫のためか暖かめに設定されているし、大好きな猫に囲まれてるんじゃ天と地ほど差がある。
いーけどね、楽しいならなによりだ。
一松のために来てんのに楽しめてないほうが問題だわ。
手の平を差し出したらその上に数個餌が乗せられて、それに気が付いた猫が数匹一松のほうから俺の方に移動してくる。現金なやつらだ。
でもそれがわかりやすいしかわいい。
俺の持っている餌はそんなに多くないから一番最初にやってきて膝に両前足を乗せて半分立ち上がって俺を見上げてきた猫にやることにした。
だって餌じゃなくて俺の顔見てんだよ?かわいーじゃん。
口許へと手を寄せてやったら確認するように餌の匂いを嗅いでそれから餌を食べ始めた。
そういえばこうやって餌やんのって初めてかもしれない、普段一松が野良猫にやってるのは猫缶でこうして直接手から餌をやることはないし。
煮干しは俺の食糧だから俺から猫にやることはまずない。
腹が減ってたのか手の上から餌が姿を消すのはあっという間だ。
それで離れるのかと思いきやそのまま俺の膝の上に飛び乗ると胡坐の上で丸く収まった。
丸い背を撫でても温かい塊はそのままだ。餌がないにも関わらず見上げてくるあたりこれだけで相当懐かれたらしい。
「俺雌猫の匂いすげー残ってんのにこんな懐いてもらえんのな…」
「人の事雌猫扱いするのやめてくんない?」
「えー? 大体合ってんじゃん、いつも俺の下でにゃんにゃん鳴いてんだし」
猫耳も尻尾も生えるし猫そのものでしょ。
そういう意味でもネコだし、うん、間違ってねえな。
一松だって自覚はあるんだろう、それ以上はなにも言ってこない。
手元の猫へ視線を落としてするすると毛並を楽しむのに意識を戻したらしい。
でも耳、赤いんだよなあ、ほんとかわいい。
ここがカフェじゃなかったらキスの一つや二つできたのに。残念。
代わりじゃないけど、膝の上の猫の口許を親指の腹で撫でてやったらにゃあと小さく鳴き声が返ってきた。
ようやく運ばれてきたチョコレートケーキはメニューに載っていたとおり猫の頭のシルエットで作られていて周りにクリームや果物が乗っている、SNS映えするようなやつだ。
トド松だったら写真を撮るんだろうなってくらい盛り方に気合が入っている。
「かわいい…!」
「お、これ美味い」
「嘘でしょ…もう食べてるの…」
真っ二つにしたわけでもないのにすごい目で見られた。
や、だってこんなの食ったら一緒だよ?美味ければいいでしょ。
これを見てるおまえはかわいいと思うけど、ケーキ自体は別にかわいくはない。
しかも中から出てきたのは苺系のソースらしくて当然赤い。
完全に血だろこれ。でもやっぱり美味い。
苺系のソースが甘酸っぱい感じで仕上がっているからかケーキは甘いのにそこまで気にならない。
「どこから食べるのも勿体ないくらいなのに」
「時間制限あるし食ったほうがいいよ? メインは猫だろ」
「…確かに」
そっと近づいたフォークがケーキの表面に刺さって、一口大のサイズが本体から切り離される。
それは当然一松の口の中へと消えていった。
ちょっと口許が緩んだから一松の口にもこの味はあったらしい。なによりだ。
「お、なーに、どしたの」
「なに?」
「ん、なんか、にゃんこが」
膝の上で大人しく丸まっていたはずの猫がもぞもぞ動いてパーカーの裾から中に入り込んでシャツに掴みながらどうにか上がろうとしている、っぽい。
ちょっと支えてやればすぐにペースが上がって服の中でなにやら探るようにしながら登り続ける。
途中反れたのか首と肩の中間あたりでざらりと舌で舐められる感触がしてちょっとだけ痛みが走ったから噛まれたのかもしれない。つっても甘噛み程度で一瞬。
気になるほどじゃない。
首のとこから顔を出せることに気が付いたのか頭が移動して、またちょっとだけ登る。
そこらへんはもうシャツはないから素肌を直ですべる毛がくすぐったい。
「出てきた。なに、さみーの?」
「なにそれ羨ましい…。おれのとこも入ってくれないかな…」
「あ、こらやめとけって。おまえ中着てないでしょ。絶対そーゆう声出るよ」
「出、ないし…」
そう言いつつも裾を引っ張って猫が入りやすいように広げていたのを元に戻す。
うんうん、お兄ちゃんそれが賢明だと思うよ。
万が一乳首とかに触られたりしたら絶対喘ぐからおまえ。
こんな普通の店でそれがやばいことくらいわかるでしょ。
それになによりも俺がおもしろくない。
首んとこ伸びそうだなと思いはするものの、ぬくさと擦り寄ってくるのがかわいくてなんとなく引っ張りだしにくい。
一応このままでもケーキは食えるしいいかな。
ところでやたら首筋を舐めてくんのはなんなの、別に俺美味くねえよ?
ざりざりする舌の感触がちょっと痛い、けどこそばゆい。
ケーキを食べきる頃には服の中から勝手に出て行った猫はテーブルの横で他の猫と丸くなっていた。
来て早々一松によじ登ってたあいつだ。
距離近いし、仲がいいのかもしれない。一松の周りは餌がなくなっても変わらず盛況で店の猫殆どが撫でに貰いにやってくる。
常に傍にいなくても一度は撫でられに来てそう。大人気だ。
「…あ、一松。満喫してるとこ悪いんだけどそろそろ時間っぽい」
「もう? あっと言う間だね」
一松が立ち上がると今度こそ本当に店中の猫がやってくる。
小さいけれど数十匹がにゃあにゃあと声を上げるのは圧巻だ。
勿論俺にはなんて言ってるかはわからないけれど一松にはちゃんとわかっているんだろう。
またねとか声をかけつつ一匹一匹丁寧に撫でていく。
撫でられた猫達はそれで満足したのか元居た場所へと戻っていった。
ずっと傍にいたやつは次の居場所を探してうろうろしている。
「おそ松兄さん、この子、兄さんに用があるみたいだよ」
「ああ、おまえずっと俺んとこいたもんねえ」
「……すきだって」
「まじでえ? 俺もう一生決めてる相手いるんだわ~ごめんな」
足に擦り寄ってきた猫をわしゃわしゃと撫でてやって一松経由で伝えられた好意をしっかり断ると不満そうな声で一鳴き。
これも一松経由にしなきゃ駄目かと思ってたんだけど、案外通じるらしい。
こういうとこにいるくらいだし頭がいいのかもしれない。
おまえもかわいいんだけどね、いくら俺がカリスマレジェンドでも持てる数には限りがあんの。
もう手一杯だし、無理矢理新しく抱えて元々持ってたのを取りこぼすのとかごめんなんだよね。
おまえには俺よりもいい猫がいんじゃない?あっちの、キャットタワーの上からおまえの事見てるやつとか。
そんな気持ちをこめてたのが伝わったのか伝わってないのか、俺の指先を一舐めすると猫は離れて行った。
残念ながらキャットタワーのある方向じゃないから上にいるあの猫はまだまだ苦労しそうだ。
「…一松ぅ顔真っ赤だよ」
「…一生とか、言うから」
「あれ、言ったことなかったっけ」
「初耳…」
もしかしたらセックスの最中とかに言ったのかもしれない。
正直俺も結構曖昧だ。随分前から思ってたしよくわかんねえや。
会計を済ませて二時間ぶりに出た外はまだ明るい。
初めてだしよくわかんねえから二時間にしたけど、もうちょい長くてもよかったかもしれない。
なんせ金ならあるし。
会員証代わりのポイントカードを渡すついでに伺った一松の顔はまだほんのり赤い。
あー、もう、かわいい。
今すぐにでも食いたい。けどそれにはまだ早い。
「とりあえず二十時ちょい前まで暇、って感じなんだけどどうする? あー、飯食うの入れたらもうちょい早くなるか」
「なんで二十時? なんかあったっけ」
「いつもんとこ、宿泊に切り替わるのって二十時じゃなかった?」
折角こんなに手持ちがあるんだし、宿泊しない手はないでしょ。
時間があればあるほどたっぷり急かされることなくできるから、切り替わったのと同時を目安にしたい。
普段は家で飯食ったり、外で呑んだあとだったりでもっと遅い時間に入るから切替の時間とかあんまり気にしてないんだよなあ、おかげで記憶がちょっと曖昧だ。
余裕があるんだから新しいもうちょい高めのホテルを探すのもありかな、と思いはしたけどやめた。
男同士オッケーだとか、できたらカウンターは無人がいいとか。
今から調べるのはなかなかにめんどくさい。
だったら行きつけのとこでランク上げた部屋とれば充分だろ。
「ああ…家、一回帰るのもありだと思うけど」
「ええー、どーせならもうずっと外いたくない? デートだし」
「おれ、外出るのなんて猫に会いに行くくらいだし…そんなに店とか、そういうの知らないよ」
「いいじゃん、猫会い行く? 今なら高級猫缶も買えるし喜んでもらえるんじゃねえの」
ちょっと寒いかもしれないけど暖かい飲み物とか買っていけばどうにかなるだろ、まだ夕方と呼ぶには早い時間だし路地裏とはいえそこまで冷え込んだりはしないー…よな?
あんまりにも寒かったら早めに撤収のお願いはしよう、うん。
にしても猫カフェのあと更にまた違う猫ってとんでもない猫好きみたいだ。
いやこいつはとんでもない猫好きであってるわ。
「本当にいいの、あんたそんなに猫興味ないでしょ」
「ないけどいーよ、今日はそういう気分。でも猫缶のおねだりはしてほしい」
「おねだり…」
コンビニじゃ品揃えがあんまりよくない、けど専門店は遠い。
というわけでそれなりに品揃えがあるスーパーにやってきた。
基本的にはいつもここで買っているらしい。
まあ確かに、コンビニで買うよりは安く済みそうだ。
特売とかそういうのはコンビニじゃまずやってないしね。
いつも一松が持ってるのしか見た事なかったけど、こんなに種類あんのか。
「…おにいちゃん」
「うわ」
「待ってなんで引くの、おねだりしろって言ったのはあんただろ…」
「そういうあざといのはちょっと…いつものおまえのが嬉しいかな」
「……おそ松兄さん、おれ、猫缶いっぱい欲しい」
わざとらしいお兄ちゃんよりも、やっぱりいつもみたいに兄さん呼びのほうがぐっとくる。
それに加えて一松なりに考えたんだろう、違和感のない程度のおねだりの仕方。
俺のパーカーの裾指先で掴んでひっぱるのも、少しだけ上目使いで首傾げてるのもめちゃくちゃかわいい。
一応照れてるのか赤くなってるのもたまんない。
ここがスーパーじゃなきゃ思いっきり抱きしめてちゅーすんのになあ、昨今監視カメラがないようなスーパーなんて存在しないしそれなりに客はいる。
現に今だって俺達の後ろをがらがらカートを鳴らしながらおばさんが通過していった。
「…だめ?」
「…駄目じゃねーよ、好きなの好きなだけ選びな」
「ひひ、やった。ありがと」
ああもう、なにその顔、なにその声。
別に俺は善人でもなんでもないし、当然見返りを求めるつもりだったのにそんなのどうでもよくなってしまった。
今ので充分、みたいな、そんな、完全にベタ惚れじゃん。
いや知ってるけど、じゃなきゃ一生だのなんだの言わねえけど。
はー、一連のおねだりよりも、最後のが一番やばい。
だってあれはなんの計算もない素の一松だ。
一番ツボに決まってる。
「はー…おまえ、ほんっとずるい…」
「え?」
「なんでも~」
既に棚から数個猫缶を手にとって材料を比べている一松には聞こえていなかったらしい。
大したこと言ってたわけでもないからいいや。
持ってきたカゴの中に入れられた缶はたったの三つ。
色々見ていたにも関わらずいつも買っている定番の種類のものだ。
つまりお値段もそんなにお高くないやつ。
「それだけでいーの? いっぱいって言ってたじゃん。いつものやつだし」
「ん、下手にいいの買っていって口に合わなかったり高いのに慣れられても困るし。個数は荷物になんのやだなって」
「あー…納得。で? 家帰る前にもっかいここ寄れと」
「いっぱい、買ってくれるんでしょ?」
買ってやるって言っちゃったしねえ。
食事やホテル代を引いてもまだ余裕あるし。
荷物が邪魔になるっつーのもわかる。缶詰は重い。
それがさがささせながら路地裏行って飯食ってホテル行って?いやあそんなの持ち歩きたくねえわ。
三つくらいならカゴいらなかったかな。まいっか。
そんなこんなでやってきた路地裏はちょっと奥まったところだった。
一度曲がってるから通りから見えないとこ。普段俺が連れてってもらうとこと違う。
こんなのさあ、もう、
「一松」
「…なに?」
「ちゅーしよ」
返事が返ってくるより先に一松を捕まえて、くっつけるだけのを一度だけ。
一松の目が嫌がってないのを確認してからもう一度。
口が開かれたのをいいことに舌を潜り込ませた。
確認するまでもなくわかってたけどね。
おまえだってしたかったから、ここ選んだんでしょ?
ゆるゆる舌を絡めつつ二の腕辺りを掴んでたのを下に動かしていく。
一松の手からスーパーのビニール袋を受け取ってやれば抱きつくように両腕が背に回る。
これ、邪魔だったんだろうな。
俺にとっても邪魔なものだから容赦なく指先から力を抜いたら鈍い音がした。
怒られるかな、缶はあれだけど中身は無事だろうから許してほしい。
これで俺の両手も自由。
腰を抱いてもう片方の手で首裏を固定してキスを深くしたらぎゅうと服が握られた。
はー、かわいい。
やめらんなくなっちゃうじゃん、どーすんの。
「ん、もっかい」
「ちょっ、と待っ、ん、」
息、整えたかったんだろうな。
合間にうまくやってほしい。
口の中はまだほんのりカフェで食べたチョコレートの甘さが残っている気がする。
いつも甘く感じるけど、ちょっと違う甘さだ。
続けてるうちになんか、一松の事しか見えないし聞こえなくなってく感じがする。
声と吐息がえろくて、近すぎて殆どわかんないのにひたすらかわいい。
これ以上は駄目だ、本当に止められなくなる。
どう考えてもこの季節に外はまずい。
後ろ髪を引かれながらもなんとか唇を離して、代わりに思い切り抱きしめる。
俺いつのまに片手服ん中入れたんだろ。布に邪魔されない体温が気持ちいい。
「っ、満足、した?」
「ぜーんぜん。おまえは?」
「…たりない」
あーあ、折角我慢したのに。
一松の背中を壁に預けて、また唇を重ねながらゆっくりと腰を降ろしていく。
一松の腕は俺の身体じゃなくて首に回されて、そういうスイッチが入ってるのがわかる。
もういいや、ゴムとかそーゆうのは持ってるし、どうとでもなる。
舌をいれつつ両手とも服の中に突っ込んで薄い身体を撫でつつ上に動かした所でがさり、とビニール袋が音を立てた。
風は吹いてないし、ぶつかるような位置にもないのに。
どうでもいいし無視しようと思ったのに続くがさがさと音が続いたのと、極めつけににゃあと餌をねだるような猫の声が聞こえてきてしまったらもう無視することなんてできなかった。
「……餌、あげなきゃ」
「…だよなあ」
仕方なく身体を離した途端かりかりと缶の表面を爪でひっかき始めたのは早く開けろってアピールだろうなあ。
不完全燃焼感はすげーけど、こうやって半強制的に止められたのはよかったかもしれない。
冷静になればやっぱここでヤんのはアレだし。
うん、そうだ、これでよかった。
そう思えばなんかもやもやすんのも多少はマシな気がする。
「一松、奥のほうでなら煙草吸ってもへーき? 猫嫌がるならやめるけど」
「いや、大丈夫だと思う。そこそこ距離あるし…風も強くないし風向きも違うから、そっちで煙溜まるでしょ」
「じゃ遠慮なく~」
立ち上がってから地面についてた膝から下を適当に手で払う。
気になるわけじゃないから本当に適当だ。
元々そういうの気にするほうじゃねえし。
一松も同じように立ち上がってケツのほうを払ってから袋の傍で改めてしゃがみ直した。
あそこで止めたわりにはよゆーそうだなあ、なんて、思ったのに。
後ろからみるうなじが赤くて、一松だって余裕なんか殆どないんだとわかってしまった。
顔もまだ赤いだろ、これ。
かさりと缶を取り出した音を確認してから肩に手を置いてもう片方の手で少し邪魔な襟足を持ち上げてうなじへと口を寄せた。
まだ缶を開け始めてないはずだからこのタイミングなら過剰に驚かれても怪我はしないはずだ。
振り向かれるよりも先にそこへ軽く歯を立てて噛み付けば一松の身体が大きく震えた。
あぶね、ちゃんと肩押さえてなかったらこっちが怪我するとこだわ。
「な、に…ッあ」
「…美味そうだなって?」
うっすらついた歯型を舐めてから離れる。
すぐにそこは一松の手で覆われて見えなくなってしまったけど一瞬見えたうなじは赤さを増してたし、首だけ振り向いてこちらを見る一松の目が涙目だったから満足だ。
これ以上邪魔すると一松だけじゃなくてずっと待たされている猫に怒られそうだ。
猫カフェの猫と違って自然そのままな事を考えたらひっかかれたくはない。
入ってきた方から見て奥の方へ少しだけ行ってから煙草とライターを取り出す。
一松が缶を開けて、ここらの猫が集まり出してから火を点けた。
いろんな方向からやってくる猫の邪魔になるわけにはいかないしね。
もうあらかた集まったっぽいし大丈夫でしょ。
一松の言っていたとおり風がないから変に流れることはなく、煙は上へとふわふわ上がっていく。
競馬場ぶりの苦味はやたら美味く感じる。
俺絶対禁煙とか無理だわ、なんか奇跡起きて減税されねえかなまじで。
餌目当てかはたまた友達である一松目当てか、猫カフェの時ほど多くはないけど猫達が集まってきて開けられたばかりの餌を食べ始める。
猫カフェで餌に群がってきたそれと比べて食いっぷりがいい気がする。
やっぱ野良だからかな、餌探すのも大変だろーし。
一松だって毎日こうして餌を持ってくるわけじゃない。ニートだし。
持ってきた餌が空になるのはすぐで、今度は一松に構われるために足に擦り寄ったり差し出された手に頭を押し付けたりしはじめる。
勿論俺の方にやってきたりはしない。煙草吸ってるしね。
二本目を吸い終わったくらいでやっと一松が立ち上がる。
俺の横を通っていく猫は特に足早に、気持ち嫌そうな顔をして去って行った。
煙は霧散してるけど俺の服はたっぷり匂いを吸ってるから仕方ない。
正直そこまで考えてなかったわ。
「もーいいの?」
「うん、全部空になったし。おそ松兄さん手持無沙汰でしょ、煙草吸ったから猫とも遊べないし」
うーん、案外そうでもないんだけどね。
楽しそうなおまえの事眺めるのは楽しいんだよ?
じゃなきゃそもそもこんなとこ来て猫の餌やるのオッケーなんてしない。
俺がそういうやつだってわかってるんだから気にしなくてもいいのに。
暇だな、と思うのが強くなってきたら移動しよって言うんだから。
まあでもそういうとこもかわいいんだよなあ。
だから別に直してほしいとも直させようとも今の所思ってない。
「ちょっと早いけど飯食い行こっか、食ってすぐ運動するのもあれだし」
「今回は全部おそ松兄さんの金だし任せる」
「奮発して焼肉でも行っちゃう? 食い放題じゃなくて好きな肉好きなだけイケるよ
「高い店じゃなくてたまに行くチェーン店で食べ放題じゃない、っていうのが兄さんらしいよね…いいよ、行こ」
だってほら、高い店は敷居が高いじゃん。
一品一品が高くて満足に食えないよりそれなりの値段で腹いっぱい食えるほうがいいでしょ。
手がとられてちょっとしっとりした一松の手がぴったり俺のとくっつく。
汗、っつーかウェットティッシュのせいかな。
野良猫と遊んだあと、直ぐに手が洗えるとは限らないからって持ち歩いてるやつ。
それでも俺の手よりはあったかい気がする。
「いーちまつ」
「…なに」
「顔赤い」
「…そういうの、わざわざ言わなくてもよくない? そっとしておいてよ…」
「かわいいって言ってんだよ?」
手が繋がってるおかげで引っ張って抱きしめるのは簡単だった。
驚いてない、ってことはこれも見越して手繋いだわけだ?
やっぱりほら、かわいい。
折角人目がないところにいるんだからもーちょいそれ、満喫しとかないともったいないよな?
合わせた唇はずっと外にいたからかさっきよりも冷たい。多分俺もだけど、何回かくっつけるのを繰り返しているうちにちょっとずつ熱を取り戻していく。
舌をいれだしたら止まらなくなるのはもうわかってるから、いれてしまわないように意識しながら何回も。
重ねた時に冷たいと感じないようになってからくつけるのをやめた。
「…おわり?」
「おわり! 後はホテルでしよ」
唇の形を親指でなぞって、やらかさを楽しんでから最後にもういっかい。
これで本当におわり、こっちはそう決めてたのに今度は一松の舌が俺の唇を舐めた。
さっきまで煙草吸ってたんだから苦いのなんて予想できただろうに眉間に皺が寄る。
嫌そうな顔してるけどおまえがこの味嫌いじゃないの、俺知ってるよ。
やめろとは言わないもんね。
ずるずる続けてもキリがないから本当に終わり。
今度こそ通りの方へ足を向けた。
通りに出る少し前に手はほどかれたけど、まあ、べつに?どうせ後でめちゃくちゃ繋げるしそこまで気にならない。
平日ど真ん中だからか目当ての焼き肉屋は前に来たときよりも空いてて静かだった。
そういえば前は誰かがパチンコ当てたのをしょっぴいてきたんだっけ。
あの時はもう少し遅い時間で六人揃ってたから余計今が静かに感じるのかもしれない。
食べ放題にも呑み放題にもしないまま適当に食いたい肉を頼んで腹を満たすのはなかなかに贅沢な気がする。
いつもなら頼む大皿も頼んでないし。
でもなんか足りないというか、満足できないというか。
多分さっき中途半端に触ったりキスしちゃったからだよなあこれ。
そういう風な気分のせいかただ肉食ってるだけなのにえろく見えんだもん無理。
正直もう肉どころじゃねえわ。
「…おそ松兄さん」
「ん?」
「…そんな目で見られると落ち着かないから、やめて」
「えー? どんな目ぇ?」
なんて、わりと自覚はあるけど。
でもどのくらい外に出てるかは自分じゃわかんねえから。
どうせなら一松はこれ、どんな風に見えてたり感じてんのか聞いてみようかなって?
今なら答えてくれそうな気がする。
頼まずにいられなかったビールを一口含んで改めて一松を見たら真っ直ぐ紫色に見返された。
俺もそんな余裕なくて、一松は殆ど網や手元に視線を落としてたから全然気がつかなかった。
なに、ずっとそんな目してたわけ?で、それが答えってことだ。
「…出よっか」
「…うん」
残ってたビールを飲み干して焼かれてなかった肉を焼いて全部食って。
もう味とか全然楽しんでない。
だってどうでもよくなっちゃったし。
焼き方だって生じゃなきゃいいやとか、そのくらいの雑さだった。
松代に厳しく言われてるから最後に二人で手を合わせてごちそーさま。
食後に出されたお茶にも手を付けないまま席を立った。
なんでこういうとこのお茶ってめちゃくちゃ熱いんだろ、俺はともかく猫舌な一松はたっぷり時間を置かなきゃ飲めない。
きれーなピン札を一枚置いて、代わりに渡されたお釣りの千円札数枚と小銭を財布に突っ込んだ。
先に外で待ってた一松の手首を掴んでそのまま、少しだけ足早に。
ここら辺じゃまだ悪目立ちするかもしんないけどもーちょい行った先、ホテル街のほうまで行っちゃえばそうでもない。
そんなとこに来るくらいだからもう、だいたい自分の相手の事しか見えてないやつばっかりだ。
見慣れたホテルの玄関を潜って、ランク高い部屋にしようとしてたのを思い出したのは指先がいつも使ってる安めの部屋のパネルに指先が触れた後だった。
危ねえ、ちゃんと宿泊のコースは選択できてよかった。
出てきた鍵を取ってエレベーターに乗れば部屋まではすぐ。
鍵穴に鍵を突っ込む時間すらじれったく感じる。
いつも使ってる、って事は勿論部屋の構造がわかるってことだ。
オートロックだから閉まったドアの確認はしない。部屋の鍵はソファの上へと放り投げておけば後で必死に探すようなこともないだろう。
二人大して会話もないまま倒れこんだベッドは音を立てたもののしっかりと受け止めてくれたからダメージは全然なかった。
早急に重ねた唇や口の中からはまだ色濃く焼肉の味がしてて色気もなんにもない。
会計の時に貰った薄荷飴くらい舐めといてもよかったかな、と思ったところで後の祭り。
それにわざわざそういうのを気にするようなタイプでもない。
俺は別にこれで構わないし、きっと一松だっておんなじだ。
服の中に手を入れて、手を胸元のほうへと滑らせた。
路地裏じゃ猫に邪魔されたけどもう邪魔をするようなものはなんにもない。
首許に顔を埋めて首筋にやわく歯を立てる。
ふわりと漂ってきたのはやっぱり焼肉の香りだった。



「…あのさあ、がっつき、すぎじゃない?」
「そーいうこと、言うー? おまえもノリノリだったじゃあん…」
一松の服は全部脱がせたけど俺は最低限、それこそ前を開けたくらいだ。
そんなままじゃ当然暑くてパーカーの裾に手をかけた。
挿れっぱなしなせいで一松が小さく喘いだけど、痛くないならよし。
シャツごと脱いで適当に床へと放り投げた。
あー、まだあっちいな…。
もう後は下、脱いだ方がいいのはわかるけど中から抜きがたい。
すげー気持ちいいし、抜かないでって、絡んでくるし?
ゆるゆる腰を動かせばそれに合わせて一松が声を上げる。
も、いっかこのままで。
とりあえずもう一回したい。
両足を抱え直して、今度はゆっくりじゃなくてしっかり奥を穿とうとしたところで一松の手が俺の手に触れた。
「どした? もうちょい休んだほうがいい?」
「そう、じゃなくて…おれが乗るから、抜いて」
「うえ」
「今日の、お礼、みたいな…身体でしか返せないから」
ええええなにそれ、えっろ!
なんでもえっちなサービスしてくれそうだ。
折角乗ってくれるって言うんだし、抱えてた足を下ろしてゆっくりと腰を引いていく。
抜ききったくらいでとろりと精液が零れてくる様は最早暴力に近い。えろい。
一松が起き上がってから場所を交代、でも寝転びはしない。
さっきまで一松の腰の下で働いていたクッションやら端に避けていたクッションをかき集めてベッドヘッドに寄りかかりやすいようにする。
騎乗位でやらしい一松見上げんのもいいけど、やっぱこっちのが楽しいと思うんだよね!
抜いたついでにジーンズやら下着を脱ぎすてて、これもやっぱりベッドの下へと落とす。
邪魔なものはないに越したことはない。
「どーぞ?」
「ん、お邪魔します…」
躊躇なく俺の身体に跨った一松は肩越しに振り返つつ俺のに右手で触れた。
そのままそこへと俺のが挿いるよう位置を調整してゆっくりと腰を降ろしはじめる。
自分のペースじゃなくて、読めないタイミングでどんどん飲み込まれていくのが気持ち良くて背筋がぞくぞくする。
視覚的には一松がえろくて最高だし、やっぱいいよなあ対面座位。
半分くらい飲み込まれたところで目の前で存在を主張している乳首に吸いつく。
やらしく立ってんだもん、ほっとくのは可哀そうじゃん。
「っや、じゃま、すんな、」
「きもちーでしょ」
「ふぁ、あ、ッ、だ、め、だって」
長い年月をかけて弄り続けた乳首は性感帯としては優秀だ。
足だけじゃ支えられなくなりそうなのか、両腕が俺の首に回されてちょっと縋るような形になる。
でもさあ、まだ入り切ってないのもあって頭抱えられてるみたいなんだよね。
もっとってことじゃないの、これ。
する事がなかった両腕で身体を支えてやれば変に崩れるような事はない。
これならもう、何してもいーよな?
歯で挟んで少し力をこめてみたら挿ってんのが浅かったら抜けてたんじゃねえのってくらい腰が震えた。
そんな反応がかわいくてつい何回も歯ぁ立てちゃったけどこれ続けてたら先進まねえな。
「…へーき?」
「ッ、自分からやっといて、良く言う…」
「だってえ、触ってってアピールされちゃったからさあ」
もう一つの乳首と比べたらすっかり赤くなってしまったそれに軽く口づける。
それですら充分な刺激になったみたいだけど今回は耐えきったらしい。
喘ぎ声が返ってくることはなかった。
ちょっとだけ残念だけど、それはもう少ししたらたっぷり聞けるからいいや。
「じゃあほら、続き。まだ俺の食いきれてねえよ? それともおまえはこれでいいわけ?」
「よく、ない、ッ、」
腕の力が緩んで身体が少しだけ離れた。
まだ手は一松の身体に触れてはいるけど基本的には添えるだけ。
一松が自分の意志で腰を落としていけるように。
距離があいたお陰で耐えるような表情がよく見える。
かわいい、えろい。すきだなって、すげえ思う。
そんないろんな気持ちが混ざって、ぐちゃぐちゃになって。
多分もっと、独占欲とかみたいなのも全部混ざって全然綺麗なものじゃない。
けどそーゆうの全部、おまえは受け入れてくれるって知ってるよ。
たっぷり時間を使って根元まで、一松の体重を感じられるようになってから唇に噛みつけばちゃんと応えてくれる。
挿ってるし、キスだって激しめでしんどさもあるだろうに腰が動かしてくれてるおかげで上だけじゃなくて下でも気持ちいい。
息苦しさに口を離して、またすぐくっつけて。
繰り返しすぎて舌を絡めるどころじゃなくなった頃、やっと顔が離れた。
もー、顔、とろっとろじゃん。
「…? あれ、これ、どーしたの、おれじゃない、よね、」
「どれ、は、ちょい、待って、一旦息整えよ」
これ、ってなんだ。
お互い息が乱れ切ってるから会話はやめたもののどれか教えるように指先が首と肩の間くらいをとんと叩いた。
なんかあったっけ、ぶつけるような場所でもないのに。
傷になっているのか爪が軽くひっかくように動くとぴりっと小さく痛みが走る。
それで思い出した。
ああ、そっか、あれか。
「それ、あれだわ…猫カフェ。俺の服ん中入ってきたやついたじゃん、あいつ」
「…怪我とかそういうの、ちゃんと言ったほうがいいよ。野良じゃないから平気だと思うけど」
「痛かったの一瞬だったからすっかり忘れてたわ」
「そんな痛くなかったならいいけど…ちょっとおもしろくない」
猫の舌と違う、人間の舌が傷の上を這っていく。
それだけじゃない、傷の上から強く吸われたから多分そこにはキスマークができたはず。
ええ、なに、猫に嫉妬してんの?かわいーなほんと!
なんて余裕ぶっていたのも束の間、すぐ傍にも吸い付かれてどんどん痕が増やされていく。
このままじゃ銭湯で脱ぐのを躊躇するレベルまで増やされる、そんな気がした。
嬉しいけどちょっと困る。
それを止めるためにお返しじゃねえけど、無防備な首筋に顔を寄せる。
一松が付けてるのよりも、もっと強く。
それに驚いたのか流石に一松が顔を上げた。
「っ痛、ちょっと」
「ん、おかえし、ってね」
吸うだけじゃなくて歯形も残して、やり返す余裕がなくなるように腰を撫でまわしながら。
指先が肩をひっかいてきたけどそんなのじゃれつかれてるのとおんなじだ。
倍以上やり返してすっかり唾液でべとべとになった頃に口を離した。
うん、キスマークやら歯形やら、そういうのがないところですら薄っすら赤く色づいていい感じにやらしい。
「いーじゃん、似合ってるよ一松ぅ」
「は、ばか…」
「嬉しいくせにそろそろ元気になった? 気持ちよくしてくれんでしょ」
「…うん、動く、待って」
腕が絡み直されて腰が動き始めた。
前後運動が基本のそれに合わせてキスが再開する。
動けなくなったら元も子もないから触れるだけのものばっかりなのに気持ちいい。
至近距離で喘ぎ声や息を感じられるからかも。
あと俺が、一松本人が。
二人で気持ちよくなるために頑張ってくれてるって、さいこーに興奮する。
「ん、っあ、あ、は、きもち、い…?」
「あったりまえじゃん、すげー、いーよ」
「よかった、ン、あ、あ、は、ぅ、」
正直腰の動きは物足りなさもあるけどそんなの全然気にならない。
多分、このまま続けられれば余裕でイける。
慣れてきたのか動きが大きくなって、そのせいで自分のイイとこに当たるようになったのかたまに一際大きく声を上げるのがかわいいしそれで中が締まるのも気持ちいい。
なんならずっとそこ当てててもいいってくらい。ゆっくり、じわじわ。
腰の奥が重くなってく。
「っ、な、動いていい?」
「でも、あ、おれじゃ、足んない?」
「きもちーよ? ただ、それじゃ同時にはイけねえっしょ、一緒にイったほうがよくない?」
ゆらり、蕩けた紫色がたっぷり水分を貯めた中で揺れた。
でしょ、だから、交代。
一松の腰を両側から掴めば首に絡んだままの両腕が強張った。
だいじょーぶ、おまえのよく知ってる、気持ちいい事だよ。
体勢が体勢だから制限はある、けど、充分だ。
できる限り思い切り、でも変に負担のかからないように。
その辺りは何回かこなしてるし大丈夫でしょ。
突き上げるように腰を大きく動かした。
「ッ、あ、ゃ、あ、っあ!」
「ふ、すげ、きゅんきゅんしてる、」
「あっ、これ、だめ、イ、っちゃう、あ、ン、っ!」
開いた唇に自分のをくっつけて舌を絡めた。
ゆっくり、ぜんぶ俺のにするみたいに。
キスの邪魔になるから腰の動きは突き上げるのじゃなくて、ぐりぐりと奥に押し付けるのに変えた。
掴んでる腰がびくびくしてるからそろそろ限界かな。
それがわかってもキスはやめないでしつこく奥を刺激すれば強く中が締まった。
その気持ち良さに委ねて俺が一番奥に吐き出したのと一松が俺の腹を精液で濡らしたのは狙い通りほぼ同時。
二人ともしっかりイった、でもキスは止められなくて。
やりたいようにたっぷり、口中を荒しまわしてもう焼肉の味なんてしないくらいに。
結局ちゃんと解放してやれたのはイってから暫く経ってからだった。
いろんな液体で濡れた顔はとろとろで、ちゃんと俺が見えてるのか怪しいくらい。
ちょっとやりすぎたかなこれ。
「………ばか、しぬ、」
「はは、かわいーんだもん、ごめんな?」
「…はんせい、してない、でしょ…」
「だって絶対またやるもん俺」
おまえがかわいいからしょうがないじゃん。
ぎゅうと思い切り抱きしめて、背中のクッションへ体重を預ける。
ふわふわとまではいかないけど、一応受け止めてくれたからよしとしよう。
まだ荒く息を吐く一松の背中を少しでも早く落ち着けるように撫でてやる。
効果があるかはわかんないけど、なんもしないよりはましな気がする。
「…一旦、きゅうけい、していい?」
「当たり前じゃん、今日宿泊だよ? まだ時間はあるよ一松ぅ」
「…やだ、抱きつぶされそう…」
「やだ、ってわりには随分嬉しそうな声出すね?」
抱きつぶすまでいくかはわかんないけど、とりあえず空っぽになるくらいはヤりたい。
宿泊なんて滅多にないし、時間がフルであるのもめちゃくちゃ貴重だ。
とろとろにして、ぐずぐずにして、俺がいなきゃ動けなくなるくらい、たっぷり。
いろんな一松をかわいいと思うけどそういう一松が一番かわいい、俺が傍にいないと生きていけない感じがする。
でも多分。
「…俺のほうがおまえがいないと生きていけないと思うんだよねえ、もう」
「…? なに?」
「なぁんでも。一生傍にいてね、ってはなし!」
誤魔化すように抱きしめ直して、まだふわふわしてるのを保っている髪の毛に鼻を埋めたらやっぱり焼肉の匂いがした。


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