頭の中がふわふわくらくらして手元が覚束な
い。
それでもなんとかベッドの上には目的通り、衣類の山を作る事に成功した。
赤色が基調のそれは勿論おれの衣類で作られたものじゃない。
殆どこれで完成に近いけれど、これじゃまだ足りない。
あと、もう少し。
匂いに触れてしまったせいか余計にぼーっとするけど、それを手に入れないとおれの巣は完成しない。
諸々の都合で寝室と執務室の距離が近くてよかった。
距離にこんなに感謝したのははじめてかもしれない。
いつもよりもずっと時間をかけて辿り着いたそこの扉を一応ノックした、それも力が入っていないせいで細やかなものだったけれど。
中にいるおそ松兄さんには届いたようだから問題ない。
ノックしたのがおれだとわかっているんだろう、どうぞと奥から返ってきた声は兄弟に対するそれと同じようにゆるいもので、且つおれ相手の時だけに出すような甘さを含んだものだった。
「ふは、すげー顔。大丈夫?」
「ん…一応、へいき」
「ふーん? で、なあに。無理しないで休んでたほうがいいんじゃねえの?」
「これが終わったら、もう、部屋からでない」
仕事中、だよね、そういう時間だ。
おれは昨日から念のために休みに入れられてしまっているからこの人のスケジュールを把握できていない。
さすがに大きな内容は入ってくるだろうから、きっといつもどおりだ。
書類とか、会食とか。
泊りがけの予定が入っていないことだけはわかる。
だっておれが、こんな状態だし。
ヒート寸前なのに番のこの人が傍にいないような状態をチョロ松兄さんがつくるわけない。
「…なんかいつもよりぼーっとしてね? それ、パジャマじゃん。いつもオフでもそれなりに身形整えてから来るのに」
「あ…ごめん、着替えてくる、」
「いーよいーよ、どうせ俺しかいないし。ここ来るやつなんか身内だし。おいで?」
確かに、いつもよりも頭がまわっていない気がする。
言われた通り、普段ならヒート前でぼんやりしててもパジャマでここに近づくようなことはない。
実の兄で、番。
完全に身内とはいえボスの執務室でしていい格好じゃない。
次は、気を付けないと。
今回はもう甘えさせてもらおう、また寝室に戻ってここに来るのはちょっとしんどい。
椅子を引いて机との間に隙間を作ってくれたから兄さんの上に跨るのは簡単だった。
あとは、これだけ。
今おそ松兄さんが身に着けている赤色のシャツ。
これがあればおれの巣は完成する。
「ねえ、これ、ちょうだい」
「うん、脱がせてくれんならいーよ」
おれが自分でバランスをとらなくてもいいように兄さんの両腕が身体を支えてくれる。
おかげで両手は自由、だけど、全然うまくいかない。
普段自分ので当たり前のようにしているし、たまにおそ松兄さんのをこうすることだってあるのに。
ネクタイはどうにかなったけれどボタンが全然だめだ。
おかしいな。
「…予定だと明日の夜くらいからなんだっけ」
「? そう、だけど…」
「そのわりにはなんかぎりぎりっぽいし、もうヒート入っちゃったほうが楽なんじゃねえの?」
「そんな簡単に調整出来たら世のΩは苦労してないと思うよ、っうわ」
支えてくれていた腕がおれの身体を抱き寄せて、思い切り抱きしめられる。
近くなった体温と匂いに、一際強く頭の奥が揺れた、気がした。
あ、だめだ、これ、はいる。
「っあ、だめ、はなして、」
「ほら、もーちょいじゃん。深呼吸してみ?」
「やだ、今はいったら、めいわく、」
「だーいじょうぶだよ。俺は確かにここのトップで、それなりに予定が組まれるような立場だけどうちは理解のある職場だし? あいつらが全部なんとかしてくれるよ。だからおまえが我慢する必要なんてねえの」
背中を優しく撫でられて促されたものの、やっぱり素直に入るわけにはいかなくて。
まわりが、兄弟達がおれ達に協力的なのは勿論知っている。
知っているけど、予定よりも早いこれが迷惑をかけてしまうことはわかる。
おれ関連の仕事は昨日の時点で全てチョロ松兄さんが担当してくれているからいいとしてもこの人の分は違う。
代理で表に出る事になるだろうトド松は自分の仕事をしているはずだし、引継だってちゃんとできてない。
おそ松兄さんも明日からはオフに入るはずだから、それまでもてば、今日の夜まで耐えられれば、よかったのに。
そう、思っているにも関わらずおれの身体が取った行動は息をぎりぎりまで吐いて、それから吸って。
つまりおそ松兄さんの匂いを出来る限り取込むことだった。
ヒート寸前で頭の中がおかしくなってるから、理性が余裕で負けてしまう。
どくりと心臓が音をたてて、一気に体温が上がる。
ああ、入って、しまった。
「っはー、相変わらず、すっげえ匂い…ちょっと待ってな」
「ん、は…っあつ、い、」
「うん、いーこだから。チョロ松に連絡しねえと」
あつくて、ほしくて、視界が歪む。
邪魔をしちゃいけないってわかっているのにしがみつくのをやめられない。
できるかぎりくっついていたい、本当は服にだって遮られたくないくらいだ。
「チョロ松? 一松のことなんだけど、あー、そう。入ったからさあ、俺の仕事とか諸々調整しといて。うん、よろしく~」
「…はや、」
「だから言ったじゃん、大丈夫だって。さて、じゃ移動すっか」
「おれ、立てない、よ」
「知ってる。とりあえず横向きにさえなってくれればいいよ。出来たら早く。おかげで俺もあんま余裕ねえから」
早く、とか無茶な事、言う。
身体を動かそうとしても全然うまくいかなくて、結局体勢を変えるのもおそ松兄さんが手伝ってくれなきゃ無理だった。
横向きに落ち着ければすぐに背中と膝裏を支えられて身体が宙に浮く。
本当なら首に腕を回すとかしたほうがいいんだろうけどそれすら叶わなくて全部をおそ松兄さんに預けることしかできない。
その分負担をかけてしまっているはずなのに兄さんは文句ひとつ零さないで執務室を出て寝室へと向かった。
ドア、開けっ放しだけど、いいのかな。
きっとチョロ松兄さんがどうにかしてくれるんだろうな。
とはいえ執務室と違って寝室は開けっ放しというわけにはいかなくて、両手が塞がってしまっている兄さんの代わりにおれがどうにか閉めた。
このまますぐにはじめる事になるだろうし、外にだだ漏れはまずい。
二人きりの寝室の中央、ベッドの上には当然おれの作りかけの巣が残っていて存在を主張していた。
「今回も随分すげーの作ってんね」
「あと、これだけで完成だったのに…」
今おそ松兄さんが着ている、赤いシャツ。
色や種類はどうでもよくて、とにかく今着ているものがほしかった。
洗われてしまったものからも本人の匂いや香水を拾う事はできるけれど、どうしても洗剤の匂いが強いから。
そんなんじゃ、足りない。
一番本人の匂いに近いのはやっぱり脱ぎたてのものだ。
「あー、これ、壊していーの?」
こわす、おれの、力作なのに。
作った場所が場所だけに仕方がないとは思うけれど、一度も入っていないからか勿体なく感じる。
完成していないとはいえ、そこはおれにとって居心地のいい場所のはずで。
ちょっとくらいそれを味わってみたかった。
「…そんな顔すんなよ〜。わかった、これ使お」
「え?」
下ろされたのはベッドの上、というかおれが作った巣の上だった。
おれの身体で圧縮されて、下敷きにした衣類からぶわりと匂いが飛び出しておれを包む。
ヒートに入ったから、かもしれない。
作っているときはあれだけ邪魔だと思っていた洗剤の匂いが全然しなくて、甘い、おそ松兄さんの匂いしか身体が拾わなかった。
これ、は、まずい。
「この上でしよ」
「ま、っンん、」
性急に重ねられた唇も舌も、全部が熱い。
絡む舌や流れ込む唾液を受け止めるのだけで精一杯なのに兄さんの手がパジャマのボタンを全部外して肌を直接撫でていく。
手の平で触れていくだけのそれすらヒートを迎えた身体には気持ちがいいから困る。
そんなにしっかり触れていないのに、ついイってしまうくらいには気持ちがいい。
上からも下からも匂いに包まれてるから、ただでさえ敏感になっている身体が更に感度を増してしまっている。
どうしよう、いつだってヒート時のセックスはやばいけど、いつにも増してやばい事になりそうだ。
「ちゅーだけでイっちゃったの、かわいー」
「ぁ、ん…っや、」
「ここ、もおぐっちゃぐちゃじゃん」
首筋や胸元、至る所に唇が押し付けられてたまに強く吸われて。
淡い刺激を上半身に与えつつも、おそ松兄さんの右手は下着の中へと入り込んで精液で濡れているおれのに触れた。
数回布の下で扱かれたけれど結局服が邪魔だったんだろう、下着ごと一気に膝までずり降ろされて性器が外気に触れる。
寒さを感じるよりも先にまた手で包まれて、今度はゆっくり、ねちゃねちゃとわざと音を立てながら上下に手が動く。
「こっちもぐっしょぐしょじゃん、パンツどころかパジャマまで濡れてるよお?」
「ッん、うそ、」
「嘘じゃないんだよな~。こっち触りたいから全部脱ごっか」
こっち、と言いつつ指先で濡れそぼったそこを数回突かれただけで気持ちいい、もっと、奥まで触ってほしい。
誘うように腰が揺らめいてしまったけれどおそ松兄さんはそれに笑うだけで直ぐにそこから指を離してしまった。
そしておれが返事をするよりも先に半分脱ぎかけ状態のパジャマをするすると脱がしにかかる。
弛緩していて手間がかかるはずなのに両方ともかんたんに脱がされて、あっと言う間に全裸の状態だ。
いつもと違って背中に触れているのがシーツじゃない、おそ松兄さんの衣類だと思うとそれだけでちょっとぞくぞくする。
「ここ、ひくひくしてる」
「あ、っ…!」
ゆっくり、指が中へと沈んでいく。
指の腹が、背が、粘膜をゆっくり撫でるように抽送を繰り返す。
ぐるりとかき混ぜられてから、二本目。
挿れられることに慣れきっている場所はヒートなのもあって普段のセックスの時よりは緩いはずだ。
分泌されてる液も相まってすぐに受け入れられる状態へと整っていく。
くぱりと二本の指で開かれるとそこからとろりと液体が零れて肌を滑る。
精液が零れるのとは違う感触のそれは、数か月に一度という特殊な状態でしか味わえないからかまだあまり慣れない。
「すっげ、どんどん零れてくる。きもちーんだ?」
「も、ほしい」
「はいはい、もーちょい慣らしてからな」
三本に増えた指の動きは今までよりずっと激しくてじゅぽじゅぽとなる水音が耳に響く。
まるで早く挿れたいって、言われてるみたいだ。
そう思っているくせにちゃんと慣らしてくれるところが、結構好きだ。
早く挿れてほしくて、もどかしさを感じないわけじゃないけど大事にされている故のそれ。
嬉しくないわけない。
「ん…こんなもん、かな」
「はやく奥、いっぱい突いて、」
「っ、なんつーこと言うの、俺の我慢なんだと思ってるわけ?」
カチャカチャベルトが外される音で気が付いた。
この人、まだスーツ着たままだ。
さすがに上着は脱いでるみたいだけど、スラックス、いいのかな。
今更だけど下敷きにしてしまっている服たちもそうだ、絶対汚れる。
そう思ったものの、脱いだり片付ける時間が惜しくて口を閉ざした。
この上でするって決めたのも、脱がなかったのも、全部おそ松兄さんだ。
おれがとやかく言うことじゃない。
取り出された熱はすぐにおれの入口に宛がわれてくちゅりと音を立てた。
待ちわびたそれに、胸が高鳴った、のにそれに反して兄さんは動きを止めてしまう。
「…? なに、」
「ひくついてんの先で感じんの好きなんだよねえ。早く食いたいって言われてるみたいでさいこーにえろい」
「ばかじゃないの、はやく、」
「そうだな、さっきちゃーんとおねだりできたもんなあ。ご褒美、あげないと」
膝裏を抱え直されたはずみでずれた熱がもう一度宛がわれて、今度は一気に。
おれの要望通り、奥が思い切り突き上げられた。
あまりの刺激に声もでない、きもちいい、め、ちかちかする。
「まぁた、イってんの? えっちだなぁ一松は」
「ァ、あ、ま、っあ!」
「奥いっぱい突いてって、言ったのはおまえだよ?」
「や、ぁあ! 止まんな、あっ、や、いっちゃ、あ」
「いっちゃう、つーか、イきっぱなしでしょ、精液出っ放しじゃん」
本当に奥ばっかり、何回も。
突いてって言ったのは確かにおれだけど、ここまでしてほしいなんて言ってない。
服を思い切り握ってみたものの全然気持ちよさが逃がしきれない。
逃がしきるよりも先に次がきて、また更に次がくる。
「っは、すっげー熱い…溶けそ、」
「あっ、あ、も、っ、」
「だいじょーぶだよ、俺ももー、限界、ッだから、」
びくり、中で大きく兄さんのが震えて、それからじわりと腹の奥に温かいものが広がっていく。
その感覚も、びくびくと震えるおそ松兄さんの動きも、どっちもどうしようもないくらい気持ちがいい。
「っ中出しされて恍惚とした顔って、やっべーよ、」
誰のせいでこうなったと思ってるの。
そう返そうと思ったのに声は音にならなくて唇は塞がれてしまった。
上がった体温を更に上げるようなのじゃなくて、保つようなねっとりとしたそれ。
休憩になっているようで、全然なってない、中、挿ったままだし。
顔が寄せられた効果で寧ろ奥に先端は触れたまま、おそ松兄さんが身体を揺らせばただそれだけで腰が跳ねてしまうような位置。
「は、次体位変えよっか。へーき?」
「なんとか、」
「ん。じゃあ一旦抜くから、中の零さないようちゃんと締めろよ」
ずるずると熱が引かれて、抜ける。
一応すぐに締めることに成功したから零れていはいない、いないけど、油断したらすぐに出てきてしまいそうだ。
そもそもそんなに身体に力が入らない。
だから早くしてほしいのに、おそ松兄さんはおれに触れるんじゃなくて自身のシャツのボタンに指をかけた。
一つずつ上から外されて、ようやく上半身が露わになる。
やっとだ、おれはとっくに全部剥かれていたのに。
「偉いねいちまつ~、全然零れてないじゃん。ここ、きゅってできたんだ?」
「ふぁ、触ると、出ちゃうから、」
「ヒート中で中出ししっぱなしでも腹壊さない時期なんだから、ちゃんと俺の精液全部食べてよ」
折角頑張って力をこめていても表面を指先がなぞっただけで緩んでしまう。
それに再度力をこめて締めて、それが楽しいか知らないけど何回も繰り返すのはやめてほしい。
おれだって、零したくはない。
貴重な、おれの身体がおそ松兄さんの精液を取込める期間だ。
零してしまうなんてそんなの、もったいない。
「じゃ体勢変えよっか」
強制的にごろりと身体が転がされて自然と顔半分が兄さんの服に埋まる。
鼻腔の奥深くまで匂いが入り込んで、くらりと視界が揺れた。
仰向けだった時よりもずっと匂いが近くて濃い。
「あ、零しちゃ駄目だって言ったろ?」
「ふ、ぁ、あッ」
腰を高く上げさせられたかと思えばすぐに指が中へと入り込む。
その前になにかを掬うような動きがちょっとだけ肌を掠めたから、零れたらしい精液が中へと戻されたんだろう。
奥へと精液を戻した指は一度受け入れてぐずぐずになった中をぐるりと掻き混ぜてからそっと、つられて精液が出ないよう丁寧に外へと出て行った。
これ以上零さないよう、なんとか力はこめてみたけど出来ているのか全然わからない。
においが、強すぎる。
下手な媚薬よりもずっとひどい。
顔を上げようにも体勢の都合上今の状態が楽だし、今更四つん這いになるような力も残ってない。
おれにできるのはこのままの体勢で、宛がわれた熱に合わせて力を抜くことだけだ。
「ッあ、あぁ、あ、っ」
「はー…ヨさそーな声…そんなに俺の匂い、好きなの、妬いちゃいそ、」
「や、そこ、ぐりぐりしない、で、っあ、あ」
「さっきは奥、だったしィ? 今度はこっちって、ね。ちゃんとおまえのイイとこはぜーんぶ可愛がってやるから大丈夫だよ」
なにが、だいじょうぶなの。
きもちよすぎてわけがわからない、おかしくなりそう、なってる?
歪んだ視界いっぱいおそ松兄さんの服で、匂いも兄さんのものしかない。
聞こえてくるのだってぱちゅぱちゅ肌がぶつかる音やかき混ぜられる音もしてるけど、基本的に鼓膜を震わすのはおそ松兄さんの声だ。
おかしくならない要因がない。
あれ、おれ、いつもヒートの時、こんなだった?
よく考えたら記憶が殆どない、それは、つまり。
「なーに、考え事? よゆー、じゃんっ」
「ひあ、っ! なんで、さっき、こっちって、あっ!」
「奥にいっぱい、だろ?」
つまり、こうやって、トぶくらいひたすらきもちよくされてるからだ。
両手で痛いくらい腰を掴まれてるのにそれもきもちいいし、奥をがんがん突かれるのだって、抽送で粘膜が擦られるのだって、ぜんぶ。
よくないところが、ない。
全然触られてない乳首だって、揺さぶられる度に服に擦れるからしっかりと芯を持ってしまっている。
触れているのが他でもない、兄さんの服だと思うとその僅かな刺激さえきもちいい。
「っあー、もう、ほんと最中のおまえん中すっごい…全然我慢できねーんだけど、」
「あ、あっ、ちょう、だい、ぜんぶ、おれのなか、あ、ぁッ!」
「おまえがやだって言うまで、ぜーんぶやるよ、ッ」
「は、っあ、あ…っ!」
さっき出されたところよりも、もっと奥。
子宮に届きそうな、や、これ、届いたかな、わかんない。
とにかく奥の方、あつくて、きもちよくて、たまらずぎゅうと中が締まった。
それ以外にもうねるように動いてるのがわかる、中でイってる、やつだ。
全部おれの中で起きていることなのに、頭がぼーっとしてどこか他人事に感じてしまう。
重なるように倒れこんできたおそ松兄さんの上半身が汗のおかげでぴったりくっついて、熱さと皮膚の下の心臓の動きが伝わってくる。
あつさも、早くなっているそれも、全部がおれと同じで、それがうれしい。
「いちまつ」
掠れた甘い声がうなじを滑る。
次に唇が触れて、やわく食んだ後に濡れた舌がそこを這って。
その後に続くであろう刺激は予想が付く。
期待に胸も、中も、もっと奥で子宮さえもが震えた。
予想通りエナメル質が触れてゆっくりと肌へと食い込んだ。
血が出るほどじゃないけど、しっかりと噛んだ痕が残るであろう強さ。
けど痛みはまったくなくてただ気持ちがいいだけだ。
きっとおれがΩで、噛んでいるのが番であるおそ松兄さんだから。
危うくイきかけるくらいの気持ちよさはすぐに去って、離れ際にキスを一つ落としてから完全に唇も離れていった。
中からも兄さんのが抜けて、二人でベッドに横たわる。
締めるか悩んで、やめた。
どうせまだまだ中に注がれることになるだろうし、そうなれば溢れるものもきっとある。
「なあ、一松」
「…なに?」
あ、もうちょっと掠れかけてる。
まだ回数で言ったら二回しかしてないのに。
「もっかいしよ」
「…もっかいじゃ足んねーよ、ばか…」
首に腕を絡めて、キスを強請るように口をあければ望み通りのものが与えられる。
今度は正面からがいいな、やっぱりキスがほしい。
目を閉じて舌に応えたら背中を上から下へ手がなぞっていった。

まだ、身体の奥の熱は治まりそうにない。




「おつかれさまでーす。一松兄さん、ヒート入ったんだって?」
「そう。だからトド松、いつもどおりおまえが暫く長男代理」
「はーい。チョロ松兄さんも大変だよね、毎度スケジュール調整してるんでしょ?」
「代理やってるおまえよりはましだと思うけど。そういえば最初嫌がってたのに随分やる気になったな」
「うーん、最初は期間中自由に動けないの嫌だったけどそれなりにイイ思いできるしね? 特別手当も出るし
「それ目当てか…」
「それプラス一松兄さんからもご飯奢ってもらえるし。今回は何ねだろうかなー」
「あんまり無茶言わないでやってよ、あいつ本人じゃどうしようもないんだし」
「わかってるって、本当にえぐいのはおそ松兄さんにねだるから安心してよ」
「ならいいけど。これ今現在確定してる仕事のリスト。あとで目通しておいて」
「ありがと。ところでずっと不思議だったんだけど、なんであの二人ってこどもいないの? もう番になってから随分経つよね」
「さあ、おそ松兄さんにその気がないからじゃないの。まだこどもいらないって言ってたよ」
「あー…言いそう」
「いつかは跡継ぎの問題もあるからつくるんじゃない。まあなんにせよ、まだあいつらには無理だよ。絶対子育て失敗する」
「…その心は?」
「よくあるでしょ。大切な人二人が溺れています、あなたはどちらか一方しか助けられません、ってやつ」
「ああ、それで?」
「おそ松兄さんは躊躇なく一松を選ぶでしょ。こどもを失って一松が傷ついたとしても、一松を生かす道を選ぶ」
「…一松兄さんは?」
「こどもを選ぶよ。でも、その後間に合わないとわかっててももう一度飛び込むタイプ」
「あー…なんかわかる、結局二人ともこどもが一番にならない感じ」
「それで子育てなんて無理に決まってる。最悪一生あのままだよあいつら」
「まあその時はその時、カラ松兄さんにでも頑張ってもらえばいいんじゃない? あの人は奥さんもこどももどっちも一番だって言い張って実際どっちも助けられちゃうタイプだよね」
「ああ…なんかあいつ、そういうとこあるよね」
「でも結局ボクらを優先して失敗するんだけど」
「……やめよう、この話。もう出るから早く着替えてきて」
「はーい」


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