ホワイトデーライブと称してのライブはありがたいことに平日だっていうのに満員御礼。
元々が黒色を基調にしていたからこのライブのために新調された白い衣装も反応を見るに受け入れて貰えたらしい。
数曲終わってからのMC、そこでやっと一安心できた気がする。
OSOの口から最初に飛び出たのはチョコのお礼だった、殆ど食べてないくせに。
まあそれはOSOだけじゃない、おれも、きっと他のメンバーもそうだ。
少なくともみんな手作りは食べていないはずだ、今までもそうだったし。
貰ったチョコという意味では変わりないから個数にだってカウントするし勿論写メにもいれるけれど、それで終わりだ。
疑うようで申し訳なさはある、でもなにが入っているかわからないものを食べるやつなんていない。
「毎年楽しいんだけどさ、バレンタイン。今年は格別だったんだよね〜」
「うっわだらしない顔。内容はいらないから、もう黙って」
「ええー?いや確かに童貞のおまえには刺激が強すぎっかもね?」
さりげなく意味ありげにこっちを見るのはやめてほしい。
どうしてもバレンタインの時の事を思い出してしまう。
ちょっと、や、かなり。
誰かさんがチョコは媚薬だとか言い出すからこう、ぐわっと、きてしまったというか。
正確にはそれを囁いた声の効果が大きいんだけれど、これは多分気が付かれていないし言うつもりもない。
あの声をやたらと活用されるようになったらおれはどうなってしまうかわからないし。
「っていうかそんな話誰も聞きたくないから!そういえば今年は架羅兄さんがメンバーに配ってたよね、美味しかったけどあれなんなの?」
「あのバラのやつね!美味しかった!!」
「クソ痛い感じでどうしようかと思ったけど美味しかったよね」
「女神の導きか期間中に買う機会があったんでな」
多分本来はネタチョコとかそういう類のものなんだろう、架羅は残念ながら本気でいいと思っておれ達に渡してきたようだけど。
見た目はともかく味は本当によかった。
貰った直後に四人共食べきってしまったくらい。
ちなみにおれのからはOSOが一粒持っていったからおれだけは全部食べられていなかったりする。
OSOに用意しなかった架羅が悪いと思う、でも双子で実の兄が相手だしわからなくはない。
「一応ボクとJUICY兄さんでお返し用意したからあとであげるね」
「え、なんでおれに声かけてくれないの…」
「だってJADE兄さんがいるし」
ちらりと離れたところにいる兄を見たけれど普通に首を横に振られた。ですよね。
相手が相手なだけに失念してたけどそうか、お返しか。
痛々しかったとはいえチョコは美味しかったし貰った事には変わらない。
なにかしら用意したほうがいいよね。
後でJADEと相談してみよう。
「こいつ俺にだけくんなかったんだよね〜」
「おまえにやる理由がないからな」
「いいけどお、俺は壱くんから貰ったし?」
OSOとの絡みで歓声が沸くのにはとっくに慣れた。
や、他のメンバーとの絡みでも沸くんだけど、普段絡みまくってるからか他よりもずっと大きい。
意味はちょっとよくわからないけど。
「壱、お返し何が欲しい?」
お返し、くれるんだ。
毎年お返しらしいものなんてないからちょっと驚きだ。
それこそ白にかけてぶっかけられることが多いくらい、うん、最低だなこれ。
お返しがないのは別に、渡してるのが板チョコなのと元々お返し目当てじゃないから構わないと思ってた。
他のメンバーの視線も、ファンの視線も全部おれに向いてる。
そんな中OSOのネックレスに指を引っ掛けて、ぐっと自分の方へ引けば千切れないようにするため自然とOSOの顔が近づいた。
その気になればキスのできる距離。
驚いたように赤い瞳が丸くなったけれどそれも一瞬で、直ぐにいつも通りどころか楽しむように緩く弧を描いてしまったけれど。
あんな顔、ファンになんて見せてやりたくないからそれでいい。
「…あとで、おれのためだけに歌ってよ」
至近距離、見つめあったまま。
もう片方の手でOSOの胸元を撫でたら声が沸いた。
もしかして今のおれの声、やばかったかな。
すごい、ねだってるみたいな声色、だったし。
自分でも欲に塗れてたことはわかる。
それとも自分のためだけに歌を欲しがったからかな。
今回のライブのOSOの歌声はひたすら甘い。
バレンタインのお返し。
そういうコンセプトだから、そんな色になるようにいつもよりも意識して発せられている声。
それは全部今ここにいるファンへのもので、おれへのものじゃない。
おれだって、ほしい。
「おまえほんと俺の歌声好きな?いいよ、二人きりの部屋でたっぷり歌ってあげる。でも、」
OSOの左腕がおれの身体を捕えて、右手が髪の毛を耳へひっかけた。
耳に触れるか触れないか、そんな距離にまで唇が近づいて吐息が肌に触れる。
それに僅かに混ざるOSOのおと、ネックレスを更に引いてしまいそうになって慌てて力を抜いた。
壊すのは本意じゃない。
いつのまにかライブハウスはしんと静まりかえっていた。
拡声器がなくてもこのまま言葉を紡がれたら最前列にくらいは届いてしまうんじゃないかと少しだけ不安になる。
まあ、それは杞憂に終わったわけだけれど。
OSOが一文字目をおとにしたのとほぼ同時、聞き慣れたギターの音がライブハウスに響き渡った。
それに合わせるように三人の音も重なってさっきまでの静けさが嘘みたいだ。
「先におまえが歌ってよ、ベッドの上で。それが俺へのお返しでいーよ」
おかげでOSOのおとが届いたのは、おれの耳だけ。
ファンへ向けていた甘い歌声なんか目じゃないくらいの、甘ったるいおと。
聞き慣れているはずなのに頬が熱をもってしまう。
本当にそれでいいの、そんなの、いつもどおりなのに。
紡いだ言葉を乞うファンの声が楽器の音の向うで聞こえたけれどそれも音が曲になっていって、しかもOSOがおれから離れて拡声器を持ち直せば歓声へと切り替わる。
離れ際に唇が押し付けられた耳は頬なんかよりもずっと熱くて、暫く元の体温を取り戻せそうにない。
それでも曲は進む。
どのタイミングで入るか考えて始めてすぐ、こちらをOSOが一瞬だけ振り向いた。
その一瞬に、視線が絡む。
それだけで示されたタイミングがわかる。
OSOの歌声が再びライブハウスを揺らしたのと、おれがベースをかき鳴らし始めたタイミングはぴったり同時だった。




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