猫は炬燵で丸くなる、とはよく言ったものだと思う。
正にその言葉通り我が家の猫も炬燵に入ったまますやすやと寝息を立てている。
そんな炬燵の上には貰い物らしい蜜柑が詰まれていて、うん、すげー冬って感じ。
少し前までBGM代わりに垂れ流しになっていたテレビも消してしまったから居間は普段の騒がしさが嘘みたいに静かだ。
他の奴らが出かけてていないっていうのもあるけど。
音つったら一松と、その腕の中でこれまたやっぱりすやすや寝ているねこ松の寝息くらい。
ちなみにその相方であるレサ松は俺の膝の上で絶賛蜜柑と格闘中だ。
ばらばらに散らばってる蜜柑の皮を片付けるのは俺なんだろーな…。
剥いたばっかりの蜜柑は美味い。美味いけど、暇なんだよなあ。
だからって寝てる一人と一匹を起こすのはあれだし。
口開けて超気持ちよさそうに寝てんだもん。
他の弟なら起こしたかもしんないけどこれは無理。
多分惚れた弱味ってやつだ。
元気に起きてるレサ松はー…と視線を落としてみたらあっさり蜜柑との戦いをやめて俺が剥いた蜜柑にしれっと手を伸ばしていた。このやろう。
おかげで折角剥いた蜜柑はあっという間に姿を消した。
明らかに次を催促する目で見上げてきたからレサ松が放置した蜜柑を剥ききって一房口許へ運んでやる。
咀嚼しきったらすぐに口を開けた。
ええ、これもしや俺が蜜柑を食えないパターンでは…?
やっぱり甘やかすのはよくないな。
とりあえずもう一房食わせてやって新しい蜜柑を無理矢理渡しておくことにした。
あとは自分で頑張れ。
なんかきゃいきゃい騒いでるけど無視だ。
残った蜜柑を頬張りつつ一松と猫松を見れば相変わらず口を開けたままぐっすりで。
その開けっ放しの口に、悪戯心が湧いた。
開いた唇を避けて、舌に触れるよう一房口の中へ突っ込んでみればそろりと舌が蜜柑に触れる。
何かを確かめるように少しだけ這わせた後に歯が立てられた。
溢れた果汁で何か理解したのかそこからは早かった、あっという間に蜜柑は姿を消していく。
うーん、蜜柑だからいいけどさあ、そんな無防備でいいわけ?お兄ちゃん超心配。
さっきのレサ松の様に次の蜜柑を催促するようにかぱりと口が開いて赤い舌が覗く。
ちょっとぐらっときたけど我慢して更に一房口の中に入れたら今度は確かめることもなく食べ始めた。
まるで疑っていない。
あ、気持ちよさそうだったのが幸せそうな顔になった。
もぐもぐ口が動いてんのもあってめちゃくちゃかわいい。
いつのまにかレサ松が同じようにねこ松に蜜柑を運んでたから視覚的に二倍の破壊力だ。
三房目を咀嚼しきった後、いつの間にか俺よりも長くなった睫毛が震えてゆるりと瞼が持ち持ち上がる。
暫くその状態で瞬きをして、ゆったりとした動作で身体を起こした。
ぼーっとしているけどねこ松はしっかり支えているので変わらずねこ松は腕の中で眠り続けたままだ。
「おはよ、蜜柑食う?」
「…みかん」
「そ、蜜柑」
「……たべる」
寝てたせいで右肩からずり落ちてる半纏だとか、寝起きで気怠さがいつもより増しているところだとか。
たどたどしい口調も少し潤んだ目も全部。
寝ている時よりも無防備さが増しているように見える。
レサ松に見られてるけど、まあいっか。
一応一房千切った残りの蜜柑を渡して少しだけ気はそらしておく。
開かれた口に蜜柑をいれるんじゃなくて、敢えて一房自分の唇で挟む。
たったそれだけ、何も言わない。
それでも一松は顔を寄せてしっかりと蜜柑を歯で挟んだ。
唇同士はぶつかって、ない。
俺が捕まえるまでもなくそのままの近さで一松は蜜柑を食べきって少し伏せ気味だった視線をあげた。
ばっちり合った紫がかった黒目、求められてるものがなにか、なんて考えるまでもない。
だって俺も一緒だもん。
耳に触れつつ首の裏へ手を伸ばせば目が閉じられて、代わりに唇が開いた。
舌を入れた一松の口の中にはまだ蜜柑の風味が残っててどこに触れても甘い。
いっつも甘いと思ってんのにそれ以上だ。
その甘さに釣られて口の中を舐めまわして、舌を吸って絡めて。
一際反応がいい上顎を舌先で円をかくように刺激すればその都度ぴくぴく身体が震える。かわいい。
それがもう、とにかく楽しくて。
執拗に上顎を刺激し続けていた結果、唇を離す時にはすっかり一松の身体からは力が抜けていた。
「ふ…ぁ、しつこすぎ…」
「おまえちょーかわいいんだもん」
一松の口端から零れた唾液からも蜜柑の風味がする気がする。
何回も唇の端を舐めてみても一松はくすぐったいと笑うだけで離れようとはしない。
そういえばレサ松がねこ松にしてんのもそんな感じだ、ってそうだ、あいつらの存在忘れてた。
寝ているねこ松はともかく、起きてるレサ松が静かすぎる。
いくら蜜柑を渡したとはいえ大した量でもないし、予定よりも一松の反応を楽しんでたからとっくに食べ終わってると思うんだけどな。
自分の膝の上を確認するとレサ松はまた蜜柑と戦っているようだった。
散らばってるオレンジ色が増えてるから多分、新しいやつ。どんだけ食うんだこいつ。
「…こいつ、ずっと起きてたの?」
「ずっと蜜柑食ってた。もうこれでトータル三個目くらい」
「おかげで見られてはいないみたいだけど、流石に腹壊すんじゃない…? そろそろ止めないと」
一松がレサ松の背に触れると大きく身体を跳ねさせて、そのままの勢いで一松の方向へ向く。
手には相変わらず蜜柑を持ったままだ。
いつもだったら抱き付きそうなもんだけど、さすがに眠るねこ松がいるからやめたらしい。
その動きに一松は首を傾げて先を促すようにレサ松を見つめた。
ええ、なにそれ…母親かなんかなの…。
一松が二匹に対してそういう、母親染みた行動をとるのはそんなに珍しくない。
それに遭遇する度にむずむずする、とりあえずぎゅってさせてほしい。
なんて隣で悶えてる間にレサ松は蜜柑を一松に差し出した、ところどころに皮は残ったままだ。
「くれるの? ありがと」
「あ、そっち? 剥けっつってんのかと思った」
「や、本人剥ききってるつもりでしょこれ…」
そういえばさっきもこの状態で放置してたな。
そうかあれ剥き終ったってことだったのか…でも先に俺が剥いたやつが置いてあったから手ぇ出したんだな…?
一松に頭を撫でられてご満悦なレサ松はやっぱり抱き付きたそうにそわそわしている。
それが一松にも伝わったんだろう、蜜柑を一度炬燵の上に置くとねこ松を一度覗きこんでからゆっくりと持ち上げた。
「おそ松兄さん、交代」
「あいよー」
受け取ったねこ松は寝ているからかレサ松よりも暖かくて、猫故にやわらかい。
幸い俺は一松の友達を抱き慣れてるから平気だけど。
安定するように抱きかかえてやったらきゅっと服を掴んできた、んん、かわいい。
別にレサ松がかわいくないとは思わないけど、やっぱこいつのがかわいいんだよなあ…ひたすら甘やかしてやりたくなる。
レサ松はすぐ調子乗るからだめだ。
もう一松に抱き付いてきゃっきゃしてるし。
一松が楽しそうだからいいけど!
「兄さん、ねこ松起こしちゃってくれる? このままじゃ夜寝れなくなっちゃいそうだし」
「あー、おっけ。起きろねこ松〜」
ねこ松の頬をつまんで、かるーく引っ張ってみる。
こいつの頬、やわらかいしよく伸びるんだよなあ。
触ってて飽きない。
嫌そうに尻尾が俺の手をぱしりと叩いてきたけれど起こすためにもやめてはやれない。
単純に楽しいって言うのもあるけど。
痛くさせるのは不本意だからちゃんと手加減をして、頬の感触をふにふにとし続けて、暫く。
ゆっくりと瞼が持ち上がった。
そこからぼーっとしたまま瞬きをするのとか、そうしてやっと俺の身体に手をついて少しだけ起き上がるのだとか。
ついさっき見たばかりの一松の動作と殆どおんなじだ。
微笑ましすぎて口端が上がる。
「おはよ、よく寝れたかー?」
こくりと頭を動かすのですら鈍くて、あーまだねむいんだなこれ。
ちょっとだけ垂れてたよだれを親指で拭ってやったら目が合った。
うん、やっぱすげー眠そう。
体勢を変えて背中を預ける形になったけど、寄りかかり方が完全にソファに対するやつだ。
なんかこのまま二度寝に入られそう。
そうされないように腹を指で擽ってるわけだけど。
いつもならもっといい反応をしてくれるのは今は身を捩るくらいしか反応がない。
「一松。そういやそれ、食わねーの? 折角剥いてくれたのに」
「…こいつに構うの楽しすぎて忘れてた…」
レサ松と両手繋いでるとかなんなの、なんで俺はスマホ持ってねーの?
必要だと思った事がないからか。
炬燵の上に放置されていた蜜柑に残っていた皮を剥ききって、更に一松の指先は白い筋をかんたんに取れるものだけとっていく。
大雑把に取り終った後半分に割って、更に一房を千切る。
オレンジ色が口許に運ばれてー…ってなんで俺こんな食うとこガン見してんだろ。
や、まあ今は全員一松の事見てんだけどね。
レサ松は自分があげた蜜柑の感想を求めて、ねこ松は多分唯一しっかり動いているものを追っているだけだ。
おれは食べるとこがえろいから見てる。
蜜柑の入る程度に開かれた唇とかそういうの。たのしい。
「…これ、すごい甘いね。美味しい」
「なんで剥いただけのおまえがどや顔してんの?」
ねこ松の腹を擽っていないほうの手でレサ松の顎を撫でたら即行で尻尾が飛んできた。
相変わらず俺には厳しめだ。
逆もまた然りだから文句はないけれども。
もう一房食べた後に千切られた蜜柑はねこ松の口許へと運ばれた。
そんなに大きくはない房の半分くらいまでが齧られて口が動くのを終えてから残り半分。
まだ睡魔は強いようで動きは緩慢なままだ。
その様子を見てたレサ松が自分にもよこせとせがみ始めるのは予想通り。
「おまえはもう充分食べたんでしょ」
「違うんだよなあ、量じゃねーんだよ」
 自分で食べるのと、食べさせてもらうのは全然違うじゃん?
俺だって一応もう蜜柑は満足してるけどおまえが食わせてくれんならまだ食いたいもん。
せがみ続けているレサ松と、蜜柑が気に入ったらしいねこ松。
二匹が口を開けて蜜柑を待っている図は結構微笑ましい。こどもサイズだしね。
その小さな口に一房ずつ蜜柑を入れた後に自分で食べるとか、なんなの、やっぱり母親なの?
さすがにレサ松は満足したのかそれを最後に食べる一松やねこ松を観察するほうへシフトしたようだ。
「ね、一松。俺にもちょうだい」
チビ達がしていたのとおんなじように口を開ける。
一松にやったのに、とでも言いたげにレサ松が尻尾でたしたしと攻撃してくるけれど無視だ。
効果がないとわかっていても一松の腕の中から抜け出して本気で攻撃する気はないらしい。
相当お気に入りみたいだ。でもそれ、俺のだから後でちゃんと返してもらうからな。
「…こどもみたい」
「こどもともあーゆう事、すんの?」
「するかもね、あんたとなら。おそ松兄さんはおれの特別でしょ」
んん、それは、ずるくね?
もう正直蜜柑とかどうでもいいからおまえを食べさせてくれって感じ。
チビ達がいなきゃ絶対押し倒してた。
ーして、やめよう、考えたところでどうせできない。
あ、いやできるかも。もう結構いい時間だ。
もうすぐチビ達が毎日見てるこども向けの番組が始まる。
ちゃぶ台の上に放置していたリモコンをとってその局にしてやれば二匹は素早く反応して炬燵の中へと消えていった。
多分今頃反対側から顔を出しているはずだ。炬燵を出してからはそれがテレビを見る時の定位置になってるし。
「…ほんと、こういう時の頭の回転はやいよね」
「まーね?」
テレビの音があるとはいえ一応出来るだけ静かに一松の身体を押し倒してすぐに覆いかぶさる。
結構身体をくっつけてるからチビ達からは見えていない、と思う。
そもそもちゃんとテレビに夢中になってるだろ、もう番組のオープニングは始まっている。
両肘は一松の顔の横についたまま、受け入れるように開かれた唇に文字通り噛み付くように口づけた。
しっかり覚醒してるからか舌がちゃんと応えてくれる、お蔭で味わうというより煽りあうようなやつだ。
は、やっべ、もっと先までしたくなっちゃうじゃん。
こども向けのテレビやそれにはしゃぐチビ達の声をBGMにするのは背徳感がすごくていつもよりも興奮する。
あんま時間かけないほうがいいってわかってるのに、やめられない。
多分それは一松もおんなじだ。左手は俺の半纏を掴んだまんまだし舌も変わらず絡みついてくる。
受け身故かそれに必死さがあってかわいくて。
うん、駄目だな。
なんとか口を離したら今度はすっかり蕩けた一松の表情にやられて、あー、もう、誤魔化せないよなこれ。
「…ねえ」
「…うん、わかってる。でもしょうがなくね? 生理現象だもんこれ」
「……トイレ、行く?」
まだ番組は始まったばっかり、きっと松代が帰ってくるのももう少し後。
あいつらはまあ鉢合わせてもどうとでもなる。
うん、それなら、いっか。自分から言ってきたってことは手でなり口でなり処理してくれるんだろう。
流石に最後までできない事くらいはわかってる。
とりあえず一度深呼吸してみて、はい駄目ー、もうこれ出すしかねえわ。
「…行く」
二人揃って炬燵から抜け出した廊下は冷え切っていて、温まっていた手足から熱を吸い取ってく。
その調子で他のところも冷やしてくれればいいのに、まあ本当にそう思ってるならまず繋いでる手を離せってはなしになるわけで。
「あ、忘れてた」
「んあ? なーに」
「蜜柑。口開けて」
あーんとか言って欲しいな、と思った時にはすでに条件反射で口があいていた。
舌の上に半強制的に置かれた蜜柑は一松がずっと持っていたせいで生温い。
多分温くなってないほうが美味いんだろうけど、自分で剥いて食べていたものよりもずっと甘くて美味い気がした。


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