ひんやりとした風が肌を撫ぜて、その冷たさに瞼を持ち上げた。
ぱちぱちと何回か瞬きをして、寝起きでぼやけた視界をなおす。
倦怠感に身を任せすぎて寝落ちていたらしい。
少し視線を下げれば見慣れた後頭部、と剥き出しの肩。
「…服くらい着れば、また風邪ひくよ」
「んあ、おはよー」
「おれ、どのくらい寝てた?」
「15分くらいかな、多分」
15分。
ほんの少しのような、そうでもないような。
ふわふわとしろい煙が上がっていく。
いつも兄さんが吸っている煙草のにおいがする。
それに混ざって雨のにおいがした。
そういえば昨日天気予報でそんなことを言っていた気がする。
雪になるかも、とまで言われたのに窓を開けてるなんてどうかしてる。
せめて服くらいちゃんと着るべきだ。
おれとしても薄いタオルケット一枚じゃつらい。
「…さむい」
「だなー。換気しようと思ったんだけど、これは無理だわ。でも少しは開けとかなきゃまずいよなー…」
煙草を灰皿に押し付けて立ち上がった兄さんはジーンズしか履いていなくて、さむそうだなとぼんやり思う。
にしてもいかにも事後っぽい格好だな、いや事後なんだけれども。
おれだってタオルケットの下はパンツしか履いてない。
どこに他の服は転がっているんだろう。
少しの間だけだろうけれど、窓が開いていた部屋はほぼ全裸には寒すぎる。
なんで兄さんは平気なんだ。
窓をほぼしめると今度はこちら側を向いて腰を下ろした、肘を狭いソファの上に置かれて距離が近い。
「まだ眠そう、かわい」
「誰かさんがねちっこくするから…つかれた」
いつもよりずっとしつこくて、いろいろ言わされた気がする。
なにを言ったかは思い出したくない。
あんなの最中で浮ついてて、かつ追い込まれてなきゃ無理だ。
とはいえそういう類のことを言わされる事には少なからず興奮するのも事実なので、楽しくなかったわけじゃないけれど。
本当に嫌なことはしてこないから兄さんはずるい、引き際がちゃんとわかっている。
「さむいから服とって…」
「はいどーぞ」
わざとらしく、語尾にハートがついてそうな口調で差し出されたのは赤いパーカーだった。
兄弟なら一目でわかる、おそ松兄さんの、パーカー。
いや、そこらへんにさっきまで着てたおれのパーカーも転がってるんじゃ…?
早々に脱がされたから特に汚れてもいないはずだ。
わざわざ兄さんのを着る理由がない、仮に汚れていても他の服だってある。
「なんで、兄さんの?」
「…カラ松の服が着れて、おれの服が着れないわけないよな?」
「ッ?!な、気づいて、」
思わず身体を後ろにひいたけれど、すぐにソファの背もたれにぶつかったのであまり意味はなかった。
目の前には意地悪く笑むおそ松兄さん、逃げ道はない。
それどころか兄さんのスペースを広げてしまった。
更に少しだけ距離が詰められてしまう。
いつのことを言っているのかなんてすぐにわかった。
おれがあいつの服を着たのなんて一度くらいしかない。
ついこのあいだ、カラ松が寝ているのをいいことに一通り着たときだ。
「本当に気が付いてないと思った?」
「だ、ってあの時、そんな素振りみせなかった」
「おれが兄弟のこと見間違えるわけないだろ、しかも他でもないおまえだよ?」
ただ面白いことになるかなあと思って。
そういけしゃあしゃあと抜かしやがった。
それはもう、見ている分には面白かっただろう。
カラ松を必死に真似るおれも、似てないおれの真似をするカラ松も。
あの時の事を思い出して顔が熱くなる。
ひどかった、ほんとに、ひどかった。
「…まあ面白くないこともあったけど。2回も殴られたし。それはおれが悪いからいいとして」
「…もう食べないでよね」
「滅多に言わないくせに好きとか、その場しのぎのために言うし」
「…それは…」
テンパってたせいで咄嗟に出てしまった、というか。
普段は恥ずかしさもあってあまり口にできないけど、常に好きだとは思ってる。
それは兄さんもきっと気が付いていて、おれはそれに甘えているのだ。
なのにその場しのぎでそれを使った、面白いわけがない。
「おれ、ちゃんと一松から聞きたいんだけど」
「…その前に、服着たい」
「おれのパーカー?」
「ん、おそ松兄さんのパーカー」
じゃあいいよ、とパーカーが身体の上に乗せられた。
まだ少しだるい身体を起こして、ずりおちたタオルケットはそのままに赤いパーカーを手にとる。
自分の紫とは全然違う、赤色。
ただ着るだけなのに、何故か緊張する。
誰かさんがガン見してきているせいもあるかもしれないけど。
頭からかぶった時点で、だめだとおもった。おそ松兄さんの匂いが強すぎる。
これはいけない。
けれど、今更脱げるわけもなくて。
顔を出して、袖に腕を通して。
ほら、やっぱりだめだ兄さんの顔が見れない。
「ちょ、っと待って…なんでおまえ、そんな可愛いかおすんの…」
「…うるさい…かわいくないし…」
「いやすげー可愛いからね?!もー、お兄ちゃんをどうしたいわけ!」
言いながら上半身を倒した兄さんは両手で顔を覆った。
おれはどうしたらいいの。
というか、こないだのを意識しているなら着替えはこれで終わりじゃない。
下、ジーンズは今兄さんが履いている。
「…兄さん、下も貸してよ」
「やだ」
即答。
落ち着いたのか起き上がって、何故かソファから距離を開けた。
そして両手を広げる。
「おいで」
「いや、だから下」
「生足なのがいいんじゃーん、なんのために離れたと思ってんの。生足が動くの見るためだよ?」
「…おれの足見ても楽しくないでしょ…」
行くまでずっと平行線、それこそ誰か帰ってくるまで終わらない。
いや最悪帰ってきても終わらないかもしれない。
だって相手はおそ松兄さんだ。
「ほら、一松」
ああ、くそ、声に甘さが乗せられた。
おれがその声に弱いって、兄さんはよく知っている。
「いち」
ソファからゆっくり足を下ろして、ゆっくり立ち上がる。
立ち上がると丈が心もとない。
パンツを見られるのなんて今更恥ずかしくもなんともないはずなのに、つい裾を引っ張った。
そんなおれの様子におそ松兄さんは笑みを深くした。
あたまがぐらぐらする。
一歩ずつ確かに足を進めて、あっという間に兄さんの目の前だ。
「いーち。おいで?」
だからほら、だめ、だって。
駄目だけど、このままじゃどうしようもないので、一度しゃがむ。
うん、これなら大丈夫だ。
「…兄さん」
「うん?」
「もっかい言って」
「ふは、おいで?」
言葉に誘われるままに思い切り抱きついた。
それこそふたりして畳に転がるくらいには。
本物の匂いとパーカーに残ってる匂いが混ざっていく。
「やだ一松くんたら情熱的ーぃ」
「おそ松兄さん、好きだよ」
「…不意打ち、すぎじゃない?」
「聞きたいって言ったのは兄さんじゃん…」
「構えてないと照れるからだめ」
確かに兄さんの頬はうっすらと赤い。かわいい。
赤さとは裏腹に触れた頬は冷たくて、おれの手から少しは熱が移ればいいとおもう。
多分おれの手は熱い。
タオルケットの中に入れていたからだけじゃない、もっと内側からきてるものだ。
「…どーしたの、なんかスイッチ入ってない?」
「匂い、が」
「おれの匂いなんて慣れてるでしょ」
それはもう、慣れなんてレベルじゃないけど。
どれだけくっついてきたと思ってるんだ。
って自分でも思ってるのに。
「…だめ?」
「…だめじゃないでーす」
「じゃあ遠慮なく」
おそ松兄さんの上からおりて、ジーンズの前を寛げる。
そこから兄さんのを取り出すのも慣れたものだ。
口を寄せて一度口付けてから舌を這わせば息をつめる音がした。
下から上へ舐めあげてから咥えると髪に兄さんの手が触れる。
「すげーサービスじゃん、そんな欲しいの?」
「ん、」
「こら、くわえたままで喋ろうとするな」
軽く髪の毛が掴まれてゆるい痛みが走る、けどこの程度なら気持ちがいい。
舌を動かして、吸って。
しっかりと芯をもったところで口から出した。
今回は勃たせるためだったからここまででいい。
出すなら、なかにほしい。
「…乗っていい?」
「待って、その前にタオルケット取って。背中擦れて痛い」
「ああ…だよね」
ソファからずり落ちかけていたタオルケットを引っ張って兄さんへと放る。
それを敷いてる間に下着へと手をかけた。
30分前くらいにはまだなかに入ってたんだから慣らす必要はないと思う。
上、はいいや、脱ぎたくない。
どっちにしろ洗濯は免れないだろうし。
「はい、おっけー。好きなだけ食いな?」
寝転んだ身体の上に跨がって、後ろ手でつかんであなへ宛がう。
先端を飲み込んだあたりで、パーカーが下から捲られた。
「一松、咥えて」
持ち上げられた裾を上半身を倒して唇で食む。
これじゃ、浅い。
更に上半身を倒して口を開けば指ごと布が押し込まれた。
指に気をつけながら今度は歯を使って食めば、うん、大丈夫。
「よし、いい眺め。お兄ちゃん超楽しい。ああでも声は聞けなくなるのか」
もう一度宛がって、今度こそしっかり腰をおろしていく。
奥へ進むたびに口が開きそうになるのを布を噛みしめてどうにか耐えた。
パーカー、咥えてるの結構やばいかもしれない。
匂いが、近い。
根元まで飲み込んだ時点でだいぶやばい、少しの刺激だけで簡単にいける。
けれどおれだけ気持ちよくても意味ない。
さっきよりもでかくなってるから、いいにはいいんだろうけど。
まだ兄さんには余裕があるのがわかる。
「っ、ん、ん」
とりあえず自分がいかない程度に、けど確実におそ松兄さんがいいように腰を揺らす。
先にやっていたとはいえ、一度後処理をしたあとローションを使っていないから滑りが悪い。
だからといって今から足すのも、そもそもローションがどこにあるかわからない。
しまったのかそこら辺にまだ転がっているのか。
「きもちいんだけどさ、ちょっと足んないんだよね〜」
うん、知ってる。
そろそろしびれを切らすと思ってたよ。
されるがままは性に合わないだろうし。
足を撫でて、そのまま手が腰に触れた。
「ってことで、動くな?」
「っひあ!」
下から突き上げられて、案の定簡単にいった。
パーカーが落ちるのがはやかったか、達したのがはやかったか。
どっちにしろパーカーにはべったり精液がついただろう。
「やっぱり声聞けたほうがいいわ、さっきのもすげーえろかったけど」
「あ、っん、あ、にーさん」
「うん、手だろ?いいよ」
両手とも指を絡めて握って、体中に走る快楽に耐える。
耐える、いや、耐える必要なんてないか。
流れに身を任せてしまったほうが楽だ。
それが咎められるわけじゃない。
「…そう、我慢してる顔もえろいけど、気持ちよさに流されてる顔のほうがえろくて好き」
「は、あん!や、も、いっちゃう」
「あ、今のもう一回聞きたい」
「っ、ん、あ、やだ、もぉ、いっちゃう…ッあ!」
ねだられた通りに、もう一度同じ言葉をさっきよりもしっかりと繰り返す。
言い終わったくらいで更に奥へねじ込まれて、おもいきりなかを締め付けた。
そのあとなかに熱を感じて、それに引っ張られるようにおれもいって。
疲れた、ぐらりと重心が後ろにずれる。
まあ両手は繋がれたままだから結局兄さんの上から落ちはしなかったけれど。
「ばっかおまえ、倒れるなら前!なんでおれがいんのに後ろに倒れんの!」
「…いまにいさんのにおいかいだらしにそう…」
「…いいじゃん、しんでも。そのかわりしぬ寸前におれのことも連れてってね」
手が引かれて、結局兄さんへと身体を預ける。
ああほら、しにそう。
本人の匂いに、パーカーの匂いに、汗の匂い。
またぐらぐらしてきた、これはよくない。
けれど一度くっついてしまえば離れたいとは思えなかった。
「…ねむい」
「そうだなー、疲れたしな。でも寝るならなかの出さないと」
「はなれたくない…」
「可愛いこと言っても駄目でーす。寝ててもいいから、な?ちゃんと片付けたら一緒に寝るから」
左手が離されて、背中をぽんぽんとあやすように叩かれる。
それに逆らわないで瞼をおろして、深く息を吸う。
はいってくるのはおそ松兄さんのに匂いだけだ。
雨の降る音がするし、窓は相変わらず少しだけ開いている。
けど雨の匂いはもうわからなかった。