文化祭、というだけあって校内はどこもかしこも嫌になるくらい浮かれきっていた。
そしてそれは残念ながら我が家の上3人もだったらしい。
いや、正確には2人か。
おれが見る限り下2人の弟達は普段と大差ない。
浮かれるどころか沈んでいるのはおれと、ひとつ上の兄だけだ。
「どお、似合ってるだろ?」
「ふ、どうやらおれ達の美しさに言葉もないようだな…」
「頭おかしいんじゃないの、なんでおまえ等そんな自信満々なの?おれもう脱ぎたいんだけど…」
普通のシンプルなセーラー服が、3人。
長袖のセーラーに赤いスカーフ、これが女子ならともかく実の兄3人となると頭を抱えたくなる。
同じクラス故に巻き込まれたんだろうチョロ松には心の底から同情する、本気で違うクラスでよかった。
同じクラスだったら兄弟というだけで巻き添えなのは間違いない。
「それ、ウィッグ?わざわざ用意したんだ」
「やるならとことんつってね。メイクもばっちり」
「気合入りすぎだろ…」
「なにせおれ達は店の目玉だからな」
確かに3つの同じ顔での女装は話題になるだろう。
普段の行動が行動なので知名度もある。
長男の誰かさんは校内で好き勝手しているし、次男だって演劇部で主役を任されることもあるし。
自然同じクラスの三男だって顔が知れ渡っていく。
まあ、そもそも六つ子な時点でこの学校じゃ知らないやつなんていないか。
「でも別にかわいくはないよね!」
「そうだねー、3人とも骨格がちゃんと男だし。カラ松兄さんに至っては筋肉ついてるからねえ」
「誰がどうみても女装、って感じ」
と言いつつトド松は携帯のカメラを向けた。
露骨に嫌そうな顔をしたチョロ松と違って上2人はそれっぽいポーズを決めてくれるというサービス付き。いらねえ。
揺れた紺色で気が付いたけれど、そういえばスカートの丈もばらばらだ。
芸が細かいというかなんというか。
「で、今日校内公開じゃん?本番は一般公開の明日だから今日はおれ等わりと自由なわけ」
すい、とのびてきたおそ松兄さんの手がおれの手に触れる。
マニキュアまで塗っているらしい、爪はいつもよりも薄いピンク色でつやつやしていた。
わざと前屈み気味になって上目使いになるように調整した兄さんは薄くグロスの塗られた唇を開いた。
「いちくん、あたしとデートしよ
「……きもちわる…」
とはいえその誘いを断るという選択肢はおれに用意されていないわけで。
今現在、片腕に兄さんをぶらさげながら校内を歩いている。
重いし、腕を組まれてもやわらかいものは当らないし今の所良い所はない。
やわらかくても怖いか。
しかも周りの視線が痛い。
ウィッグとメイクをしていても兄さんは兄さんで、だいたいの生徒が気が付くせいだ。
「どこいく?あたしおなか空いたなあ」
「その裏声なんなの…」
「これから先一生彼女が出来ることがないいちくんに彼女がいる気分を味あわせてあげようかなって」
「いやそういうのいいから」
この際腕を組んでるのはいい。
いつものスキンシップの違う形みたいなものだ。
でも裏声が気になってしょうがない、わざとらしい口調も相まって本当に別人なんじゃないかと思ってしまう。
顔を見ても化粧のせいでいつもとはちょっと違うし。
裏声でなければおそ松兄さんだ、と分かる程度なんだけど。
声ってすごい。
「そ?じゃあまあいいや。で、なんか食わない?」
「トド松のとこの券なら貰ったけど」
「待っておれそれ貰ってない」
「3枚しかない、って言ってたからその枠から漏れたんだろうね。ご愁傷様」
内2枚はおれと十四松が貰ったから、残り1枚。
たった1枚となると誰かに渡すのも難しいし、下手したら自分で持ってるかもしれないな。
貰った身としてはどうでもいい。
「えー?だってふたりは一緒にくるかなって!正解だったでしょ?」
いざ店に行ってみれば末弟はそうのたまった。
気持ちどや顔で。
それでも貰えなかったのが嫌だったらしく文句を言おうとした兄さんも2個多く入れてあるよ、と言われておとなしくなった。ちょろい。
サービスというよりは、それを見越しての黙らせるための2個なんだろう。
さすがというかなんというか。
「どこで食べる?教室満員だったみたいだけど」
「おれいいとこ知ってる、っていうか確保済ー」
そう連れてこられたのは3階の端の空き教室だった。
多分他のクラスと合同で他の場所を使ってるんだとおもう。
鞄らしきものも見当たらないから特に荷物置き場として使われているわけでもなさそうだ。
それでも一応使えるように机と椅子は積み上げられて、広いスペースが作られていた。
前の扉も後ろの扉も施錠してしまえば密室の出来上がり。
「一松、こっち」
兄さんは迷いなく積み上げられた机の裏側へとまわっていく。
そこには広い、とまではいかないけど余裕で横になれるくらいのスペースができていた。
入口側からじゃまったくわからない。
「で、これを敷けばおっけー」
ばさりと広げられたのはよく女子が持ち込んでいるブランケットだった。
用意が良すぎる。
というか、そもそもこれは本当に兄さんが用意したものなのかが怪しい。
だってここは普段から使われている教室だ。
置きっぱなしになっているものがあってもおかしくない。
「…兄さん、ちなみにそれ」
「ん?この教室にあったやつ」
「やっぱり…いや、ないでしょ。駄目だってそれ」
「まあおまえがいいならいいけどぉ。多分背中とか痛いよ?」
ちょっと待て、背中は関係なくない?
いまからここでたこ焼きを食べるんだよね?
座って食べるだけなんだから背中が痛くなる理由なんてないだろ。
寝転がるわけじゃあるまいし。
ああ、嫌な予感がする。
「熱いうちに食おーぜ!」
「知ってるでしょ、おれ猫舌」
「お兄ちゃんがふーふーしてあげよっか
スカートなのを気にもせず床で胡坐。
そのスカート、明日も使うんじゃないの…?
ついでにそこそこ短いのもあって中が見えそうだ、全然嬉しくない。
同じように隣に胡坐をかけばすぐにたこ焼きが差し出された。
それを口で受け取ってそのまま咀嚼していく。
学生の文化祭レベルにしてはおいしい、気がする。
「なんか餌付けしてるみたい。おいし?」
「ん、もいっこ頂戴」
「それはまだだぁめ、自分でさっき言ったじゃん。猫舌なんだからちょっと我慢な」
もうひとつねだる為に開けた口の端に口づけられた。
グロスでべたつくそれはあまり好きじゃないな、と思う。
ふつうの、なにもついてない生の感触のほうがきもちいい。
「そのセーラーどうしたの」
「ふつうにディスカウントストアで売ってるやつ。だから布すげーちゃちいよ」
「ああ…さすがに女子のは無理か」
「あっちも嫌なんじゃん?貸すの。あと入らなさそう。あ、でもおまえならいけそうだね」
おれだって細すぎるわけじゃないけど、兄弟の中では一番細い。
同じものを食べてるのに。
特に運動量だって多いわけじゃないし、むしろ少ない。
となるともう体質としかいえない。
六つ子といえど体質にはそこそこ差がある。
筋肉の付きやすさだって全然違うし。
「ほんとおまえはもう少し食べたほうが、って食べてるんだよなぁ…。はいあーん」
会話の合間合間に差し出されるたこ焼きは亀裂を入れられて適温になってからのものばかりの猫舌のおれにも食べやすいものだった。
甘やかされてる、と思うけれど心地よくてやめられない。
そうこうしている間にたこ焼きは全てなくなった、男子高校生の食欲の前じゃ10個なんてあっという間だ。
「さて、一松くん」
「…やな予感しかしないんだけど」
「腹ごなしの運動しよっか」
とさりと横たえられるのはいつものことなのに、視覚情報が違いすぎて混乱する。
いつもより長い髪に、揺れる赤いスカーフ。
視界を動かせばスカートからのびる太ももがあるわけで。
重ねられた唇はまだグロスでべたつくし、なんか、本当に違う人みたいだ。
少しこわい。
「は、たこ焼きの味する」
「お互い様でしょ。ね、これやだ」
「どれー?」
ぜんぶ。
そうとは言えずにとりあえず赤いスカーフをひっぱった。
ひらひら視界で揺れるのが気になるのは嘘じゃないし。
兄さんはそれを躊躇せず引き抜くと、それをおれの両手首に巻きつけた。
「はいばんざーい」
「…ばんざぁい」
「これでいい?」
「いやよくないけど。なんで縛られてんのおれ」
「好きだろ?」
自ら頭上に腕を持ち上げといてなんだけど、おかしいだろ。
適当に見せかけてしっかり絡んだスカーフはかんたんに解けそうにない。
拘束されることは嫌いじゃないし、嫌だといったスカーフも視界からは確かに消えたけれども。
他の要素はどうやって取り除かせるか考えてる間にカーディガンのボタンもシャツのボタンも全部外されていた。
相変わらず手がはやい。
「なんか前より白くなった?」
「明るいからじゃないの…ここ、窓際だし」
「なるほど」
首筋に寄せられた唇ついでに、にせものの髪の毛が肌をちくちくと刺激する。
くすぐったいような、すこし痛いような。
ただの兄さんの髪の毛ならくすぐったいだけなのに。
にせものには愛着がないからか。
学校で真昼間、文化祭という状況で少し急いてるのか展開がはやい。
上は口でいじりながら、腹を撫でていた手が下におりていく。
いつもはもっと、余裕を持っているというか。
おれの一挙一動を眺めている節があるのに。
「あ、ローション、ズボンのポケットだわ」
「ん、おれの、せーふくのポケットにあるから…」
「なにローション持ち歩いてんの?」
「あんたが所構わず盛るから持ってたほうが便利ってだけ、変なので慣らされちゃたまんないし」
小分けになったローションとゴム。
ローションは兄さんが買ってるのを拝借させてもらっている。
どうせどちらが持ってても使い道は同じだ。
さすがにお金は他の事で返してる、けど。
ホテル代たまに多めに出してみたり。
下着と一緒にズボンを足から引き抜かれて羞恥を覚える間もなく開脚させられる。
明るい教室で腕を縛られて下半身丸出し、相手は女装した実の兄。
なかなかにすごい絵面だな、これ。
受け入れることに慣れたそこは宛がわれた指一本をなんなく呑み込んでいった。
ゆるゆると出し入れされる感触にぞくぞくする。
足を広げるために膝に添えられた指先の薄いピンクに、なんとなく目を逸らした。
あんな小さな面積の色が違うだけで印象が全然違う。
おんなのひとの指をそんなに知らないのもいけない。
ああ、でもトト子ちゃんの指はもっと細くて綺麗だったな。
「今日もあつくて気持ちいいわー、はやく挿れたい」
「ん、それは、どーもッあ」
「一松くんはぁ?まだ欲しくない?」
ぬるりと滑り込んだ2本目と、先の1本目がまだ狭いそこを広げるように開かれた。
もう少しやらかくなってたらエロ漫画よろしくくぱあとか音が付いてもおかしくない。
「っふ、ん、あんたのなら、いつでも欲しいけど…?ひっあ!え、なに」
「煽った一松くんが悪いよ?ぐずぐずにしてやるからちょっと待ってなー?」
開かれていた指が奥へと潜り込んで、今度は両指で挟むように前立腺に触れた。
強弱をつけてやわく挟むのはおれを言葉通りぐずぐずにしていくのは充分で、それに合わせてたまにひっかかれてしまえばもうどうしようもない。
ここが学校で、文化祭の最中だってことが飛びそうになる。
声を殺すために腕を少しだけ下げて、手首に巻きついた赤に歯を立てる。
はじめてスカーフの色が赤くてよかった、と思った。
おそ松兄さんの色、それに噛みつくことに少しだけ高揚する。
しばらくすると指が抜かれて、そのままローションで濡れた指が手首に触れた。
引きはがすようにまた頭上に持っていかれて、仕方なく口を開く。
あ、糸、ひいてる。
「声殺したいのはわかるけど、顔も見えなくて声も聞けないとかおれが耐えられないから駄目」
「でも、ばれちゃう」
「隣のクラス音楽流してるし、そもそもみんなガヤガヤうるせーから少しくらい大丈夫だって。本当にやばそうな時は言って。おれが塞ぐから」
ちゅ、と口付けられてその方法がキスだと悟る。
突っ込まれてるときにキスするのは苦しいけど気持ちいいからすきだ。
べただけど上も下もくっついてる感じとか。
「さて、そろそろ挿れるけどー…折角だし、今じゃなきゃできないことしよっか、いちくん
切り替わった声色に、背筋がぞくりとした。
いやだ、そう口にするよりも早くぐぷりと根本まで押し込まれて遮られてしまう。
「ッや、ああっ!あ、なん、」
「っ、はあ、ほら、あたしの全部入っちゃったよ?すんなり入ったけど、普段からこういうことしてるんだ?やらしーね」
「あ、っあ、や、あぅ」
そうだよ普段からしてるよ、あんたとな。
それは言葉にならずに喘ぎ声が口からこぼれた。
あくまで松野おそ松としてではなく他人として抱くつもりなんだろう、腰の動きが違う。
校内を歩いている時も思ったけど、口調も相まって本当に他人なんじゃないかと勘違いしそうだ。
さっきと違っておれに余裕がないのと、視界が涙で揺れるのもいけない。
とりあえず滲んで歪む視覚をどうにかしたくて目を瞑った。
声なら、裏声で喋られてもその中に兄さんを見つけられる。
おれと同じように、おそ松兄さんだって余裕がないんだから校内をまわってた時みたく完璧じゃない。
「女の子にあんあん言わされるのって、どんな気分?やだ?」
「やだ、っあ!ん、っう」
「ふふ、かーわいい」
完全になりきってる、下手したら演技力は演劇部の誰かさんよりあるんじゃないだろうか。
頬に口づけられて、うっすら瞼を持ち上げれば少ししか開けなかったこともあって本当に他人に見えた。
ああ、だめだこれ。やめよう。
もう一度ぎゅっと瞼を閉じて、揺さぶられる気持ちよさに声をあげて。
瞼を閉じたせいで音を拾いやすくなったのか兄さんの息を吸って吐く音がよくわかる。
さすがにそこまでは演技できないのかいつもの音だ。
そこだけは安心する、喋りだされると難しいけれど。
「ねえ、なんでさっきからあたしのこと見ないの」
「だ、って、あっ」
「だって、なぁに?」
ぐちぐちとなかを擦られて、先を促される。
こういう時はいつもと同じようにいいところばっかり狙ってくるんだからずるい。
いいところだけどそれだけじゃ達せないくらいを調節されたそれは、おれの口を割らせるには充分だ。
「少し、だけど、あっ、こわ、い」
「ばかおまえ、そんな嫌なら最初から言えよなー?!」
なかには入ったままだけれど体温が勢いよく離れていった。
戻った声色に安心しつつ兄さんのほうを見れば、セーラー服が雑に脱ぎ捨てられたところで。
次いでウィッグも外されてセーラーのほうへ飛んでいく。
押さえつけられて癖のついた髪の毛はがしがしとかき混ぜられてぼさぼさになった。
「…これでいい?」
「おそまつにいさん…」
「うん、おそ松兄さんだよ。メイクはもう崩れてるだろうからいいとして、スカートはちょっと…はいってるし、ごめんな」
「ん、おれこそごめ、」
「おまえは悪くないでしょ、悪ふざけがすぎたおれが悪いの。お詫びにめいっぱいヨくしてやるから許して?」
おそ松兄さんは自分の唇を乱暴に手の甲で擦ってから顔を寄せてきた。
おれがグロスの感触を嫌がっていたこともわかっていたらしい。
まだ少しべたつきは残っているけどさっきよりだいぶましだ。
求められるまま口を開いてから気が付く。
めいっぱいヨくするという言葉と、キスの意味。
身構えようとした時にはもう、遅い。
腰の動きがさっきと違う、いつものセックスと同じくらいのものに変わった。
乱暴なそれはおれが好んでいるもので確かにとんでもなくイイ。
両方じゃないからそこまでの効果は出てないけど、片耳を手で覆われてるせいでキスの水音がやたらと脳内に響く。
でも片側では外のぐぷぐぷ出し入れされてるのとかぱんぱん肌がぶつかるやらしい音を拾っていて。
なかだけじゃなくて音でも追いつめられてく。
「ん、んんッ、は、あ、おそ、まつにーさ、あ、あっ!」
唇が開放された、と思えばそのまま兄さんの唇は覆われてないほうの耳へ移動していく。
あつい息が耳に触れてくすぐったくて、次におとされる音への期待が高まる。
何をしようとしているかなんて簡単に想像が付く、そのくらいの回数、この人と寝ている。
もう一度改めて瞼を閉じる、今度は目を逸らすためじゃない。
音をひとつも、零さないように。
吐かれる息に交じって、わずかに吸われる音がした。
あ、くる。
「−…いちまつ」
「~~~ッあ
鼓膜をダイレクトに揺らす掠れた声に、それに合わせて思い切りなかを抉られて。
耐えられるはずなんてなかった。
おれのすぐあとになかでびくびくしてるのと、膜越しの熱を感じる。
「…く、ッ、は…もお、ほんとおまえおれの声好きね?」
「んあ、っ…!兄さんの、声だからでしょ…は、ちょっとなにしてんの…」
「お掃除ィ」
抜かれて一息つける、と思ったのにそんな間もなく腹の上を兄さんの舌這っていく。
掃除、と言った通り舌は散ったおれの精液を舐めとっていっている、けれど。
いったばっかりで敏感になっている身体はそれすらつらい。
下生えの際に口付けられて身体が跳ねたのも仕方がないとおもう。
そんな反応を見てくつくつ笑うおそ松兄さんの余裕が恨めしい。
「腹の掃除ついでにお掃除フェラしてやろっか
「…いいからそういうの、あとほんと舐めるのやめて。勃っちゃう」
「だからお掃除フェ」
「それだけじゃ済まないからやだっつってんの。背中痛いし」
上半身を起こして両手でおそ松兄さんの顔を押しのけてやれば、今度は楽しそうに笑う。
なんでこの人こんなテンション高いんだろう、やっぱり文化祭でおかしくなってるんだろうか。
じゃなきゃこんな、いつ人が来てもおかしくないところでやろうとはしないはずだ。
トイレとかの密室ならやりかねないけれど。
「これ、解いてよ」
「はいはい。やっぱさあ、赤で拘束されてるおまえってたまんないものがあんね?」
「…おかげさまで赤以外じゃあんまり楽しくない」
「赤い手錠とかあんのかな」
なんで手錠、そんなにおれのこと縛りたいのか。
とっくにどこもかしこも縛り付けてるくせに。
自由になった両手はそこそこの痛みを訴えているけれど、動かせないわけじゃない。
たこ焼きと一緒に入っていたおしぼりを取り出して腹やらなにやら拭いている間に、兄さんは窓を開けた。
換気の意味だろうそれは、外の出店やらステージの音を教室へと引き込む。
「へーわだなぁ、一松」
「…上半身裸にスカートで何言ってんの」
「はは、だめ?」
そう言いつつスカートのポケットから煙草を取り出すあたりどうしようもない。
屋上でならともかく、教室で吸うのはリスク高すぎるでしょ。
窓枠のすぐ下に座り込んだ兄さんの手元から上がった紫煙はすぐに外へと流れていく、多分下からは見えてない。
まあばれたら自業自得、ってことでいいか。
そんなことより服だ。
適当に放られていたパンツとズボンを穿いて、傍に同じく放られていたセーラーを手に取る。
雑に脱いだせいか破れかけてる箇所が目についた。
「これ、明日使えるの?」
「やー…無理だろ、特にスカーフひでえもん」
縛ることに使われたせいで皺だらけだし、揚句噛まれたそれはとてもじゃないが使える状態じゃない。
洗濯すればどうにかなるだろうけど如何せん時間が足りなかった。
けれどないと明日どうしようもないのも事実。
結局ひとつしか道はない。
「…一松、金持ってる?」
「…やっぱりそうなるか…足りない分は出してもいいけど」
「多分ほぼ全額お世話になる」
「ざけんな」
スカーフを駄目にした責任はおれにもあると思うけど、他は知ったことじゃない。
安物なのに脱ぐ時に気を使わなかったのはおそ松兄さんだ。
それがおれのためだったとしても、まあ、うん…嫌なことしてきたのはあっちだし。
「とりあえず一松さー、余裕できたらお兄ちゃんの制服とってきてよ。おれこのままじゃどこにもいけない」
「あー…あんたの教室にあんの?カラ松とチョロ松兄さんごまかすのめんどくさいんだけど」
「十四松あたり投入してひっかきまわしちゃえばいいじゃん」
「途中で会ったらそうする」
とりあえず動けないわけじゃないからさっさと取ってこよう。
この後の予定もあることだ、万が一一件目で似たものが見つからなかったらハシゴの可能性もある。
チャリ2ケツで漕がせよう、そのくらいしてもらってもいはずだ。
開けっ放しだったシャツのボタンを適当に留めて、同じようにカーディガンも留めていく。
脱がなかったわりに汚れはなさそうでよかった。
「…これ、洗えばまだ使えると思うんだよなー」
「……えっ?」
ぽそりと呟かれた内容は少なくともおれにとっては不穏なもので。
確かに多分、まだ使える。
外で着なければ解れだって気にならないだろう。
そう、例えばただのプレイの一環でなら。
「そう思わねー?一松くぅん」
「……そうだね」
どうやらおれがあれを着る未来はそう遠くなさそうだ。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -