女相手に色を仕掛けるのは、圧倒的に上2人が多い。
それと末弟。
人の扱いが上手くて、ボスという立場もあって惹きつけやすい長男。
痛くてもなんだかんだもてる次男。
女心を理解していて求めてる答えを投げられる末弟。
チョロ松兄さんはやらないわけじゃないけど潔癖の節があるからあまり進んではやりたがらない。
女相手は男相手と違って大体セックスも含まれるし仕方がない。
おれはそっちに回すなら男相手に回されるし、十四松は論外だ。
というわけで、今日はボス自ら女を誑かしに行っていたのであった。
いつしかと逆、兄さんの腕をひいて廊下を歩く。
と言っても兄さんのように力をこめてを手首を掴んでいるわけじゃない。
手を繋ぐ程度の、ゆるい拘束。
振りほどこうと思えばかんたんに振りほどけてしまうようなものだ。
それでも振りほどかれることはない、それどころか後ろからは鼻歌が聞こえてくる。
おれが妬いてるのが嬉しいんだろうけど、残念ながらおれの感情はそんな可愛いものじゃない。
今日は既にその股間が使用済みだと思うだけで腹立つ。
おれが他の人間に抱かれるのは許さないくせに、いやまあ、おそ松兄さん以外に抱かれたいと思ったことなんてないけど。
そのくせ自分は任務とはいえ女を抱く。
抱いたことを隠されないことと、男はおれだけなのが少しだけ救いなのかもしれない。
それと、毎回その後におれを抱いてやっぱりおまえが一番いい、って、言ってくれるから。
ふつうに考えたら男より女のほうがいいに決まっている。
けれどおれと兄さんはセフレとか軽い関係ではなく恋人同士で、間には愛とかそういうものが含まれているわけで。
だからきっと一番いい、っていうのは本心だ。
最中の顔を見たら、疑うことなんかできない。
顔だけじゃなくて、全身から愛しいって感情をぶつけられる感じ。
おかげでおれは死にそうだけれど、その蜂蜜みたいな愛は最高に気持ちがいい。
そう、砂糖じゃなくて蜂蜜。
身動きがとれなくなるような愛情。
さすがにおれに見せている顔と女に見せている顔は違うだろうけど、うん、やっぱりおもしろくはない。
兄さんの部屋に入ってから兄さんのほうへ振り返る。
やっぱり顔は笑ってた、むかつく。
赤いネクタイを引き抜いて兄さんの目許へと持っていって、後ろでしっかりと結ぶ。
「え、なに今日はこういうプレイ?」
「いや、ちょっとやりたいことがあるだけ」
「ふうん…?」
「じゃあ、回って」
「…おれ、なにされるの」
それでもその場でくるくると回る。
スーツで目隠し、その絵面はなかなかにおもしろい。
足元が乱れてきて、目が回ったのを確認してから腕を掴んで動きをとめた。
そのまままた手を引いて歩き出す。
ちょっと気持ち悪そうな顔と、覚束ない足取りが新鮮でかわいい。
おれは酒に弱いから油断するとそうなるけど、この人は強いからそういう姿はあまり見れない。
ひっぱって連れてきたのはバスルーム、奥の方へと押しやって静かにシャワーに手をかける。
ぐるぐるしている頭じゃ多分、判断できていないはず。
できていたら抵抗されてもおかしくない、この人がおれにお湯をかけたのはついこの間だ。
自分がそうされる絵くらい簡単に浮かぶはず。
きちんと兄さんが頭からお湯をかぶるような位置にシャワーを向けた。
「それ、外していいよ」
「なにする気…ってばっかおまえ、おれのはこないだおまえが着てたのと違って高いんだぞ?!」
「女は安物着てる男には興味ないもんね」
男相手は多少安いものでも問題ない。
何度新しいのを買ってあげると言われたことか。
全員それは叶わず死んでしまってるからおれの手元にはなにもないけれど。
仮に実際貢がれたとしても目の前の男が燃やしてしまうに違いない。
「ひひ、明日沢山チョロ松兄さんに怒られようね」
「ッくそ!」
兄さんが焦ってスーツを脱ぎ捨てるよりも早く、コックを捻ってやった。
質のいいスーツがどんどんお湯で濡れていく。
でも問題なのはスーツよりも、その下。
兄さんの愛用している武器は、銃。
しかもカスタムしているから世界にふたつ同じものはないような特別製だ。
とはいえ女相手は殺すよりも情報を引き出したりだとか、協力するように促すことのほうが多いからそんなしっかりと愛用のものは持ち歩いていない。
ただ護身用含め使いやすいものは持っているだろうしそれもやっぱり安いものではないけれど。
「あー…この銃も結構気にいってたのに」
「ドンマイ」
「いやいや、おまえのせいだからね?!」
おれの使うようなナイフと違って、銃はすぐにメンテしないと駄目になってしまうだろう。
けど兄さんにそんな余裕はないし、かと言って誰かに任せるには兄さんがいじりすぎている。
おそ松兄さんがおれをほっぽってメンテする余裕がないことくらい、わかってるよ。
女を抱いて来て、中途半端に燻ってる熱はどうしようもないもんね?
「…はやく全部洗って、女の余韻消してきてよ。少しでも残ってたらやんない」
「頭のてっぺんから足のつま先まで綺麗にさせていただきます!」
「じゃあベッドで待ってるか、らッ?!」
シャワーを戻して部屋へいこうとしたら腕を掴まれた。
そのまま引き寄せられて、背中が兄さんの胸板に触れる。
耳元に寄せらた顔のせいで息がくすぐったい。
「一緒に浴びてかないの?」
「浴びない。もう浴びたあとだから」
「やだそんなおれのこと待ってたの?」
「そうだけど?さっさと上書きさせろばか」
「…10分でいく」
途端に熱を帯びて低くなった声が鼓膜を揺らして、駄目押しとばかりに耳朶が強く噛まれた。
最悪だ、これじゃ待ってる間も落ち着いていられない。
ご主人様がくるのを今か今かと待つ犬みたいだ。
ご主人様が兄さんなのは間違いないけれど、おれはどちらかといえば猫なのに。
猫なのに飼いならされる。
項にキスをひとつ落されたあと背中を押されてバスルームから追い出された。
くそ、あっつい。

ばたん、と大きな音を立ててバスルームの戸が開いた。
と思ったら早足でベッドへと近づいてきたらしい兄さんにすぐに仰向けの体制でベッドに押さえつけされて、唇が重なった。
濡れたままの髪から伝ってくる雫が冷たい。
散々絡められた舌を最後に甘く噛まれて、走った痛みに腰がゆれる。
「…一松くーん、覚悟できてるよなあ?」
濡れた前髪を片手で後ろに流す姿にぞくぞくする。
かっこよすぎ。
覚悟なんてできてるに決まってる、ずっとそわそわしながらベッドで待ってたんだから。
「…がっついてるとこ悪いんだけど、先にあんたのこと食うのはおれだよ。上書きするって言ったでしょ」
「やだおれが先に食う」
言葉通り鎖骨におもいきり噛みつかれる。
正直ここから形勢逆転するのは難しい、完全に覆いかぶされているし力の差も歴然だ。
あっという間にボタンを外されて、シャツは腕を通ってるだけで身体を隠してはくれなくなった。
舌がそのままおれの弱い所を這っていってく。
「…ちゃんとあとでおまえのすきにさせてやるから、先に食わせて」
おねがい、という声に甘えるような表情はずるい。
あざといのは末弟の特権だとか言うけど、あんただって十分あざとい。
長男なのにあざといとか、よっぽどタチが悪いじゃないか。
そしてただでさえこの人に弱いおれが、それに耐えられるわけはないのだ。
「…おれが上乗ってるとき、動かないでよね」
「いいよいいよ。おれおまえがおれの上で腰やらしく動かしてんの超すき。下から不意打ちで突き上げた時の顔とか最高」
「それやめろって言ってるんだからね?わかってる?」
「わかってるわかってる、折角一松が上書きしてくれるのにそんな機会逃さねーよ。とりあえず一回おまえんなかで出しとかないといざ乗られたとき我慢できないからさあ」
乗った途端ひっくり返されるのが脳裏に浮かんだ。
ありそう、すげーありそう。
ただでさえこいつは我慢は嫌いで苦手、しかもその対象が気持ちのいいこと。
絶対我慢できないわこいつ。
「…納得した。でも本気でやんないでよ、おれが乗る余裕なくなる」
「じゃおまえの上乗ったあともっかいな〜」
「えっ」
言い返す間もなく首筋を吸われて行為が再開された。
しっかりと赤い華が咲いたであろう場所はシャツを着ていても見える位置で、明日ひとつ上の兄と末弟から冷めた目で見られるのは想像に難しくない。
いや、そもそもおれに二人に会う明日はこないかもしれない。
最低3発が決まってしまった時点で、おれは明日ベッドとお友達だ。
いいや、もうどうとでもなればいい。
明日はイチとひたすらいちゃついて、兄さんなんてほっといてやろうと決めた。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -