「…おかえり」
「ただいま、おそ松兄さん」
ああ、また不機嫌な顔。
チョロ松兄さんとおれが考案した色を仕掛けるのを含めた暗殺任務にOKを出したのは自分なくせに。
力任せに手首を捕まれて、ひっぱられたまま廊下を歩く。
いつもの事だからか途中で待っていたトド松に今回の任務の結果をかんたんにメモした紙を押し付けるように渡した。
ちゃんとした報告書はまたあとで、最悪明日の昼過ぎ以降かな。
それは全部おそ松兄さん次第だ。
きっとチョロ松兄さんに明日叱られるんだろうな。
でも今はそんなことどうでもいい。
はやく。
はやくおそ松兄さんの部屋に行きたい。
きっと今日も無茶苦茶に抱かれるんだろう。
だからこの任務はやめられない。
他の男に近づく故にどうしようもないくらい嫉妬されて、ぐちゃぐちゃになるまで乱暴に抱かれる。
最高じゃないか。
慣れたとはいえ人を殺せばやはりどこか昂揚する。
それに合わせて、これからされることを思えば、もう。
「ねえ、おそ松兄さん」
自分でもひくくらいの甘ったるさを含んだ声。
それでも兄さんが狙って出すあの甘ったるい声に比べたら数段ましだと思う。
あれはおれにとっては毒だ、いろいろな意味で。
声を出したタイミングは、おそ松兄さんの部屋に着く少し手前。
そうすれば。
「…我慢できない」
続きを音にしたあたりで部屋に辿り着く。
開かれたドアの中に引っ張り込まれて、乱暴に両手首をドアへ縫い付けられた。
性急に重ねられた唇を誘うように開けば舌が入ってくる。
手首を握られる力も痛いし、ドアだって硬いし痛い。
それでもきもちがいい。
荒いキスに、されるがまま。
自分じゃ立っていられないくらいになって、やっと開放された。
「…シャワー、浴びれる?」
「…むり、たてない」
「くっそ、おまえが煽ってきたせいでセーブできなかった。おれ他の男の匂いがするおまえ抱くのやだよ」
「知ってる。ねえもうバスルームでよくない?それなら匂いも流せるでしょ」
「じゃそれで」
二の腕を掴まれて強引に立たされた。
やっぱり力加減はされてなくて、間違いなく掴まれた箇所には痣ができてる。
普段だったらそれこそ姫抱きくらいしてきそうなのに。
ほんと、たのしい。
バスルームに入るとほぼ同時に手を離されたので、おとなしく乾いたタイルに腰をおろして革靴を脱いで投げた。
駄目になってもいいけど念の為。
上から降らされたシャワーは冷水なんかじゃなくてしっかりお湯だった。
冷水までぶっかけられてもちょっと困るのでひと安心。
ノズルを固定すると兄さんはスーツを脱いでぽんぽん洗面所へと放っていく。
兄さんが着てるのはどれも上等なもので、濡らしたら後々面倒なものばかりだ。
でも銃が刺さったホルスターを投げるのはどうなの?
暴発したらどうするんだ。
一方おれのスーツはというと、今日はそうでもない。
普段はおそ松兄さんがくれたやっぱり上等なものを着ている、いや着せられていることが多いけどこういう仕事の時は別だ。
どうせもう2度と着ることはない。
「兄さん、怒られるよ」
「どうせ捨てるスーツなんだからいいだろ」
「じゃなくて、武器のほう」
色を仕掛けて油断させて殺すんだから当然武器は持っている。
きちんと殺しきれるような愛用品。
さすがに濡らしっぱなしだと駄目になってしまう。
「あー…とりあえず外して、投げとくから」
「ん」
いろんなところに隠していた武器をひとつずつ外して、兄さんへ手渡していく。
あっというまにバスルームの入口には衣類含め小さな山ができた。
おそ松兄さんもいつのまにかシャツ一枚、脱ぐのはやいな。
「脱がせてもどこに隠してあんのかわかんないからすげーよな…」
「企業秘密、だよ」
「おれにも隠すんだ?」
「秘密のひとつやふたつ、あったほうが楽しくない?」
「いや、おまえのことなら全部知りたい」
ああ、確かにそれもありかもしれない。
もうとっくに、あんたの知らない事なんて殆どないと思うけれど。
シャワーが止められて、また唇が重なった。
濡れそぼったスーツが重い。
けれど腕を兄さんの首に絡めて、身を寄せた。
あまり濡れてない兄さんのシャツに水分が滲みていく。
おれに触れたことによって濡れた兄さんの指がベストのボタンに触れて、ひとつずつ外していく。
それでも舌の動きが疎かになることはないからすごい。
「一松、腕」
唇が離れてすぐに告げられた通りに腕をおろせばジャケットとベストがまとめて脱がされて、その流れで手がシャツのボタンへと伸びた。
シャツも同じように脱がされるのかと思えば、指の動きが止まる。
「…兄さん?」
「…もしかして、こういうふうに脱がされるほうが燃える?」
ボタンをはずさないまま合せに両手の親指が入って、あ、これは。
合せを思い切り左右に引かれて、ブチブチと糸の切れる音と次いでボタンが転がる音がバスルームに響いた。
なにが起きたのか理解して、ぶわりと身体が熱くなる。
こんな簡単なことなのに、意外とまだやってなかった。
「どーお?ってまあ、顔見ればわかるけど」
「さいっこー…やばいね、これ。おれすき」
「こういう系ならおれ、あれもやりたいなーストッキング破るやつ」
「…おれが穿いて萎えないならいいけど。おれとしても興味あるし」
「おまえが穿いてんのに興奮しないわけないじゃーん」
今度色々用意しとくな、と兄さんが笑う。
待って、色々はおかしい。
ストッキングだけじゃないのか。
なにをやらされるのかまったく見当はつかないし、間違いなく他のやつが聞いたらロクでもないと思うような内容なんだろうな、と思う。
けれどおれはそれに興奮するのはわかってる。
今更この人がおれのラインを間違えるわけはない、よほど機嫌を損ねなければ、だけれど。
もうここ何年かそういう事はないし大丈夫だろう。
それより、そろそろ限界なんですけど。
「…ねえ、次かその次か先のことより今のほうが大事じゃない?」
「はは、違いないわ」
横たえられた先には脱がされたジャケットとベストがあって、冷たさはあれどそこまで痛くはない。
それも考えて脱がせたんだろうな、ずるい。
改めて首へ腕を絡めて、自分で出せる限りの誘う声を意識して。
「はやく、上書きして?」
「おれの匂いしかしないようにしてやるよ」
あっは、その顔さいっこー、おれしか見れないような雄の顔。
ほら、はやくお願い。
骨の髄まで食べきってよ。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -