「一松、お仕事だぞー」
自室の扉を軽くノックして、中からの許可を待つことなく扉を開ける。
ど真ん中に置いてあるベッドには、真っ黒な山がひとつ。
規則正しく上下するそれはおれが起きたときから変わらない。
「一松」
「…ん…」
山を揺さぶれば、ゆったりと起き上がる。
するりと滑った黒から出てきた白い肌には昨日の名残がそのまま。
ああ、たまらない。
「おはよ」
「…おは、よう…」
舌ったらずなそれが可愛くて、一松の首の後ろに手を回してキスをひとつ。
少しだけ貪るようにすれば白い腕が首へとまわされた。
本格的にはじめると仕事どころじゃないのでキリのいいところで唇を開放する。
続きは夜。
「とりあえず顔洗ってこい、そのあと着替えな」
「うん…」
キスをしたにも関わらず目は完全に覚めなかったらしい。
起きている時よりも緩慢な動きでベッドをおりた。
素足、あーここ一応土足なんだけどな。
あとで拭いてやらないと。
素足どころか全裸なのはいつものことなので気にしない。
ただ目に毒だな、と思うくらいだ。
一松が戻ってくる前に服一式をとりだしてベッドへと並べておく。
上から下まで全部。
最後にベッドヘッドに置いてある煙草に火をつける。
戻ってきた一松は顔を洗ったからか幾分すっきりした顔をしていて、どうやら大分頭も回りだしたらしい。
しっかりと黒いバスローブとスリッパ装備になっていた。
「どうせすぐ脱ぐのに」
「それとこれは話が別でしょ…」
腰掛けたままのおれの前に立った一松の口に吸っていた煙草をつっこんで、バスローブへ手をかける。
雑に腰で結ばれた紐を解いて、胸元から両手を中に忍ばせて肩へ向けて滑らせればなんの抵抗もなく床へと落ちた。
ほら、やっぱり意味ない。
黒いシャツを肩に羽織らせてやれば自らもそもそと腕を通す。
それを確認してからボタンをひとつずつとめてやる。
「…なんでいつもシャツからなの?ふつう下着からじゃない?」
「えろいから」
「……まあくだらない理由だろうなと思ってたけど。口」
「はいよ」
言われたとおりに口を開いてやると煙草が返された。
そうして一松は下着を身に着けていく。
今日は紫、いつものいろ。
兄弟お揃いの色違いだ。
その流れでスーツのスラックスにも足を通す。
これで下半身はほぼ完成。
「タオルとってくるからその間にベストな」
「ん」
おれが立ち上がると今度はそこに一松が腰掛ける。
煙草は大分短くなったから灰皿へと押し付けておいた。
ひとまず満足したし。
一松が使ったばかりの洗面所で適当なタオルを一枚お湯で湿らせていく。
基本的にはお湯だけど、たまに水で不意打ちすると反応がおもしろいんだよなあ。
暫く警戒されるのもいい。
それを片手に寝室へと戻れば一松はベッドに上半身を倒して小さな黒い塊とじゃれているとこだった。
おまえもこの部屋にいたのね。
「なに、イチといちゃついてんの」
「構って欲しいみたいだったから」
一松が顔をよせて猫の額に口付けるとにゃあと一声。
恋人が愛猫と戯れる、なんて眼福。
元々この屋敷には猫はたくさんいる。
その全てが一松のお友達だ。
飼っている、というわけではないけれど何故かやたらとやってくるので餌とかは一通り揃っているし、なんなら遊び場だってある。
そんな猫達のなかで、唯一しっかりと飼っているのがイチ。
飼い主は一松ではなくおれだ。
一松が任務で屋敷をあけているときに構ってもらっている、一松に似た猫。
「いちゃついててもいいけど、足貸して」
まだまだ足元に余裕のあるベッドへ腰掛けるとすぐに膝へ一松の足が乗せられた。
一応おれ、ボスなんですけどー?
いいけどね、べつに。
一松を含め弟達にボス扱いされたいとは思っていない。
足裏へタオルを当てて丁寧に丁寧に拭いていく。
右足が済んだら今度は左足。
ちらりと一松に視線を向けてみる。
残念ながらイチで顔は見えない。
ただたまに笑ってる声が聞こえてくるからご機嫌なのは間違いない。
イチと戯れて、おれに足を拭かれて。
いいご身分だなあ、ほんっと!
もう少しおれに反応してくれてもいいと思うぞ。
無防備に投げ出されている足をすくって、足の甲にキスを落とした。
意味はなんだったか、まあしたいだけだからどうでもいいか。
「ちょ、なに」
一松の少し焦った声を無視してキスをした場所を舐めて、そのまま舌を指のほうへと這わせていく。
1本1本嬲るように舐めて吸って噛んで。
最後に足の裏へ口付ける。
そのまま再度視線を向ければ、顔を赤くして少し息を乱した一松と目が合った。
はは、かーわいい。
こんなとこも敏感になっちゃって。
「ほんとなんなの…やめてよ、仕事あるんでしょ」
「うん、チョロ松がおまえのこと待ってるよ」
「だったらなんで…」
「したくなったから。けどもう終わりな」
もっかいタオルでふきなおして、靴下を履かせてはい完成。
あとは靴を履くだけだ。
靴はずっとベッドの横に置いてあるから特にしてやることはない。
けれど一松が起き上がる気配はまったくなくて、うん、まあわかってたけどね。
「なーに?口で言ってもらわないとお兄ちゃんわかんないな〜?」
「クズ」
「お互い様ァ」
おれに動く気がないのがわかってるんだろう、諦めたように一松は身体を起こして靴を履き始めた。
いつのまにかイチが擦り寄ってきていたので抱き上げて膝の上に乗せる。
今日も毛並みのいい美人さんだ。
「今日の仕事ってなに」
「チョロ松に聞いて」
「ボスがそんなんでいいのかよ…」
「適材適所ってやつだよ、なあ?」
イチにそう投げかければしっかり返事が返ってくる。
だっておれ、そういう下調べとか向いてないもん、勿論できないわけではないけど。
それでもやっぱりチョロ松やトド松に投げたほうが確実だ。
その間におれはおれの仕事をする。
それでいいじゃん?
「ああ、でもおまえひとりの仕事じゃないよ」
「なんだ、暗殺じゃないの」
「ちょーっと、うるさくなってきたとこをみんなでお仕置しに行こうってはなし。総出は久々じゃね?」
うちは人数が少ないから、ファミリー同士の場合は基本的に総出だ。
それでも各部下を除いてもおれ達兄弟個人のスペックで大概どうにかなってしまうんだから、自分のファミリーながら恐ろしい。
その中でもずば抜けてんのは紛れもなくおれだけどな。
まあお兄ちゃんなので。
弟に負けるとかかっこわるいじゃん。
「ふうん…まあなんでもいいけど、やることやるだけ」
「やる気がいいのはいいことだ、いい子にはご褒美も出るかもよー?」
「ごほうび」
今猫耳と尻尾がでてたらめっちゃ立ってたんだろうなあ、わかりやすい。
可愛いやつめ。
他のやつに告げた時も反応は上々だったし、たまにはこういうのやってやんないとね。
なんでも叶えてやれるわけじゃないけど、できるだけそれに添える努力はしてやるよ?
なんたっておれは長男様だからな。
「なんでもいいの」
「一応。トド松なんかはすげー高いパソコンねだってきた」
「…あんたは?」
「おれ?おれは特には。今回は与える側でーっす」
おれだってご褒美が欲しくないわけじゃないので持ち回り制にでもするか。
おれは希望のものにしたけどなんならホスト側が物を用意しておくのだっていい。
ああ、カラ松とかそういうの考えるのすきそうだな、但し誰も喜ばないずれたものを投げてくる。
「そうじゃなくて。ご褒美、あんたでもいいの?」
「…んん?おれが欲しいの?」
「1日、まるっと。駄目?」
駄目じゃないです。
なんなんだそのかっわいいおねだり!
そんなの無条件で叶えてやるっつーの!
もうこの時点で特別賞確定だ、贔屓?そんなのしるか!
おれがボスだ、文句は言わせない。
ただ、そう簡単にじゃあこの日な、と答えられないのも事実。
ボスだからね、やることがそこそこあるんだよね。
「…忙しいなら別に、いいけど」
「んや、いいよ。どうにかする。おれもおまえと1日まるっといちゃいちゃしたいし、頑張ってくれよー?」
わしゃりと頭を撫でれば一松が少しだけ目を細めて笑う。
頑張る、つまり人をたくさん殺すってことなんだけどなあ。
それに引け目は微塵も感じない。
もう既に慣れきってしまっているから仕方がない、特に一松は暗殺も担当しているし尚更だ。
まあ一松以外もみんな、とっくに罪悪感なんて感じてはいないだろうけど。
「あいつらがライバルか…いいね、楽しそう」
あーあ、こりゃ相手即全滅だな。
おれ達全員がこんなやる気だしてるとか、そんなにないぞ?
はは、ご愁傷さま!


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