今日も今日とてやることがない。
だらだらとテレビを眺めてすごすだけの時間はなんて無駄なんだろうか。
一方同じく部屋にいる一松は相変わらず猫と遊んでいる。
今日の猫はまっしろだ。
意味もなくおれの傍にいるあたりは可愛いとおもうけど、構ってもらえそうにはない。
だからこそ大人しくテレビを見ているわけだが、平日の真昼間にやっているのなんて殆どがワイドショー。
ほぼ興味のない内容をなんとなく流しているだけだ。
なんかおもしろいことねえかなあ、と思っていたら。
横向きで寝転がっていたのを仰向けに変えられた、もちろん一松に。
押し倒されたような体勢にそわりとする。
あ、ちょっとおもしろい。
これが噂の襲い受けってやつ?
昼間っからやりたがるなんて、なくはないけど珍しい。
俺としては大歓迎なので別にいいけど!
期待に応えられるようにお兄ちゃん頑張るよ、と意気込んだのに。
覆いかぶさっていたのが退いて、腹の上に頭が置かれた。
地味に重い。
「…んん?どういうこと」
「ねむい」
「あ、したいわけじゃないの」
「こんないつ誰が帰ってくるかもわからない場所、しかも下手したら外から見える場所でやるわけないだろ馬鹿」
ごもっともー。
障子は全開、玄関への廊下の戸も今日はそんなに寒くないから開けっ放し。
どう考えてもやれる状況じゃない。
ニートでしかも兄弟内でできてるとかご近所に広まったらどうしようもない。
ただでさえおれ達は昔から有名なんだから、噂が広まるのなんて一瞬だ。
きっとぱっと見で区別が付かないから六人全員そういう目で見られるに違いない。
ということでやるのは諦めるにしても、ちょっと上がってしまったテンションをどうにかしてほしい。
せめて腕なら寝顔見れるんだけど。
「なあ、腹より腕のがよくない?あいてるけど」
返事はない。
寝癖のついた髪に触れてみても、撫でてみても無視。
そんなにそこで寝たいのか。
息をするたびに上下して寝にくそうなもんだけどな。
頬をふにふにつまんでみてもなにも反応が返ってこない。
それをいいことにひたすら繰り返しても振り払われることはなかった。
これは本気でそこで寝るつもりだな。
諦めて枕になってやるか、勿論その分お返しはもらうけどな!
覚悟しとけ。
暇だしついでにおれも寝るか、と目を閉じようとしたところで左腕に重さを感じて閉じかけていた目をあけた。
左腕を見れば白い猫が体を預けているところで。
「お、なんだー、おまえがここで寝るの?」暖かい白に声をかけるとにゃあと高い声が返ってくる。
なるほど、かわいい。
猫は一松がちょこちょこ家に連れ込むから見慣れてるはずなんだけど。
特にかわいく見えるのは今甘えられているからだろうか。
なんでだか知らないが、普段連れてくる猫はあんまり甘えてきてくれない。
猫と見つめあっていると腹への圧迫感がなくなった。
それはつまり、一松が起き上がったということで。
「寝るんじゃねーの?」
「…場所かえる」
本当、こういうところがかっわいいんだよなー!
四つん這いで場所を移動して、猫を抱き上げつつ横になって擦り寄ってくる様はまさに猫。
いやまあおれのねこなんだから間違ってはいないか。
さっきまで腕に乗っていた猫は今じゃ一松の腕の中だ。
ちょっとだけ代わってほしい気もする。
抱きしめるのも勿論好きだけど、たまには抱きしめられたいなー、なんて?
長男でも甘えたいときくらいあるってはなし。
うん、今度しれっと寄っていってみるか。
「なーに、一松くんはにゃんこにもやきもちやくの?」
「うわ、すげーうざい顔してる」
「言っとくけどおれだって傷つくからな」
「…ごめんね?」
くっそ!
猫を使って謝るのはなんなんだよ、意味がわからない。
主に可愛すぎて。
本気で謝られてないのはわかるけど、それはこっちも本気で言ったわけじゃないからどうでもいい。
「もう眠いから寝ていい?」
「あ、それガチだったの」
「ん、ここすげーあったかいしよく寝れそ…」
日差しもばっちりで猫というぬくもり付。
そりゃあったかいわな。
ついでにおれもいるし。
ただ寝不足ってわけじゃないのに寝るのはどうなの、夜寝れなくなるんじゃねえの?
今更か。
「別に寝るのは構わねーけど、さっき言ってたじゃん。外から見えるかもよ」
「別にこの程度仲のいい兄弟だなくらいにしか思われないでしょ」
いやいやいや、こどもじゃあるまいし。
成人済みの兄弟は多分こんなことしない。
おれだって他の兄弟とはしないとおもうよ。
それにきっと、寝入ってしまえば距離はもっと近くなる。
抱きついてしまう予感がすごい。
隣にすきなやつがいてそいつが無防備ときたら仕方がない。
「寝てる間になにしてもいい?」
「むり」
「おさわりだけでも?」
「むしろそれがアウトだろ…」
寝ていい?って聞いてきたわりにはちゃんと話相手をしてくれる。
目はしっかり閉じられてるから、一度はなしを止めてしまったら即夢の国に行ってしまいそうだが。
ほんとに眠いならあんまりひきとめるのもなー、お兄ちゃんはとても暇になりますけど!
つけっぱなしのテレビだってこの位置からじゃ見えやしない。
それどころか消すことだってできない、リモコンはちゃぶ台の上だ。
「つーか今でも触ってるじゃん」
「いやなんかさーもっとこう、撫で回すというか」
「へんたいくさい」
「撫で回してほしいって?」
「やだって、寝るんだから」
やだとか言われるともっとしたくなるのはおれだけだろうか。
そっと右手を伸ばしてみたらぱしりと叩かれた。
一松は動いてない。
となると勿論犯人は猫しかいないわけで。
猫は手の届く範囲ならすかさず反応してくる。
ちょっと楽しい。
ねこパンチ全然痛くないし。
猫と暫く遊んでいたらその間に一松はしっかりと眠りに落ちていた。
気持ち猫がどや顔に見える。
猫に守られるとかなんなの?可愛い。
寝顔がやけに穏やかに見えたからこれ以上構うのはやめておく。
最後に猫を撫でたら丸くなった、どうやらこいつも眠るらしい。
テレビの音の方が断然大きいのに、優先して耳が拾うのは一松の寝息なんだから人の身体はおもしろい。
「…おれも寝ちゃお」
寝息ばかり聞いていたせいかゆるゆると瞼が落ちていく。
どうせ無駄に過ごすだけなら起きてるのも眠るのも変わらない。
寧ろ夜寝れなかったとしても一松がいることを考えたらそれはそれでありだ。
腕を貸してる礼をしてもらえばいい。
楽しみだなあ、なにをしてもらおうか。
なにをしてもきっと楽しい、外れることなんてない。
相手が一松なんだから当然だ。
うん、とりあえず寝て夜に備えよう。
起こさない程度にあたたかい身体を寄せて、誘われるままに睡魔へ身を任せた。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -