外の寒さに負けて、炬燵から抜け出せなくなって暫く。
もう午後三時をまわっていた。
午前中から出ていたやつらは戻ってくるかもしれない、そしたら構ってもらおう。
そう思っていた矢先に玄関の開く音が聞こえた。
「ただいまー!」
「おーおかえり十四松」
「ただいまおそ松兄さん!さみー!」
そう言って十四松は頭から炬燵へと潜り込む。
よくあることなので気にはしない。
そして姿が見えなくなった、と思ったら。
「お邪魔しまーす!」
俺と炬燵の間から出てきた。
ええー…。
咄嗟に俺がスペースをあけたのをいいことにもそもそと動いて寄りかかってくる。
目の前に黄色がいるのはなんだか新鮮だ。
「いつも一松兄さんが座ってるからどんな感じなのかなーって!」
「ああ、そういう…。で、どうだ?」
「あったかい!!」
「そりゃよかった、つーかおまえ体温高いなあ」
一松にしているように腹に腕を回してぎゅっと抱き締める。
一松も決してやわらかいわけじゃないけど、それとは違う硬さ。
動き回ってるせいかそこそこ筋肉ついてるんだよなあ。
意識して鍛えてるカラ松の次くらいには筋肉ついてんじゃねえかな。
さすがに割れてはいないか、と腹筋を撫でてみた。
当の十四松はくすぐったいといって笑っている。
楽しそうでなにより。
「…ただいま」
次に帰ってきたのは一松だった、出て行ったのは昼を食べた後だったからか二時間くらい前か。
この寒い中また猫と戯れていたんだろう、いっそまた連れ込んでしまえばいいのに。
今更それを咎めるやつはいない。
「おかえり一松兄さん!」
「おかえりー」
「チッ」
帰った途端にご機嫌斜めらしい、絶対零度の目に舌打ち。
ええ、なんなの。
でも不機嫌なのも可愛い。
なんだかんだそういう目は俺にあまり向けてこないからか、睨まれた事は気にならないのだった。
寧ろ新鮮で楽しい、我ながら盲目すぎる。
「十四松」
「なーにー!」
「場所代わって、代わりにおれが抱えてやるから」
「一松兄さんが抱っこしてくれんの?!やったー!」
即決で俺よりも一松を選んだ十四松は素早く炬燵へと潜ると反対側から顔を出した。
別に潜らなくてもよいのでは。
そしてあいた俺の前のスペースには一松が乱暴に腰をおろした。
いつもより数割増しに勢いよく寄りかかられる。
外にいたせいか紫色のパーカーも、寝癖でふわふわ跳ねてる髪もつめたい。
っていうかこれはもしかしなくとも。
「なーに一松くん、やきもち?」
「うるさい」
「ぐっ…ひじうちは…ひどくね…っ」
「十四松おいで」
「わーい!」
十四松が入って当然のように炬燵から離される俺。
もうほとんど出てる。おかしい。
あれ、俺最初に炬燵に入ってたよな。
「あったかいね一松兄さん!」
「そうだね」
くそ、かわいい。
今日も俺の弟達はかわいい…でも俺はさむい。
少しでも暖をとるように一松をぎゅっと抱き締める。
伝わってくる体温はいつもどおり暖かい。
あーいいわやっぱりしっくりくる。
薄い腹とか、抱き心地は別によくないはずなのに。
十四松じゃ駄目だったように、他の弟達も駄目なんだろうなあ。こいつじゃなきゃ。
「ただい…うわあ…」
「おかえりトド松!」
「ただいま十四松兄さん…なにしてるの?」
「…なんだろう?」
こてりと十四松が首を傾げる確かにこの状態はなんて表現すればいいのかよくわからない。
なにをしていることになるんだ。
ふたりまでならともかく、さんにん。
「あったかいよ!」
「背中もあったかいっていいよねえ。一番あったかそうなのは挟まれてる一松兄さんだけど。おそ松兄さんは…」
残念そうな目が向けられた。
なんだか勘違いされている予感がする。
十四松と一松がぬくぬくしてるとこに無理矢理入り込んだと思われているのでは。
やきもち焼いて入ってきたのは一松なんだぞ…。
伝わらないだろうがとりあえずじっとトド松を見つめてみる。
「…もー、仕方ないなあ。十四松兄さん」
「なーに?」
「ボクも背中寒いの嫌だなあって」
おお、なんか違う意味に伝わったぞ…?!
結果オーライだ。
「よしきた!」
やはり十四松は炬燵へと潜り込んで、誰もいない箇所から這い出てきた。
そのままトド松の後ろに回り込んで腰をおろす。
あったかいねー、とか言いながらきゃっきゃしてるのはかわいいが、トド松がさりげなく掌を上にして親指と人差し指で円を作った。
結局世の中は金である。
今度肉まんでも買ってやろう。
冬だし。
やっとこさ炬燵へと戻れて一段落。
あーまじ寒かった。
一松抱いてなかったらしんでた。
「はー…ぬくい」
「ああそう」
「まだ怒ってんの」
「別に怒ってないし」
そう言いつつも声はまだどこかとげとげしい。
後ろから抱きしめてる都合上顔は見えないが、いま多分すげー可愛いんだろうなあ。
トド松気が付いて撮ってくれねえかな。
それになら金払うよ俺。
「なんで簡単に座らせるわけ」
「十四松も俺のかわいー弟だもん、わかるだろ?」
「…理解と納得は違う」
もー、どうしたのこいつ、可愛すぎる。
わかってんのかな、はなしに出た十四松も、それどころかトド松もそこにいるんだけど。
デレにすげー驚いてるよ?
当の一松は炬燵のふとんをひっぱって伏きぎみなので気がついていない。
ああ、どうしよう、食べたい。
「…なんで十四松はここ座ろうと思ったの」
「え?いつも一松兄さん幸せそうな顔で座ってるから、きもちいいのかなーって!」
「あーわかる、安心しきってるよねえ一松兄さん」
「トド松、それ詳しく」
体勢の都合上当たり前だが表情はあまり見えていない、肩に顎を乗せてたとしても近すぎるし。
というわけでその、幸せそうな顔とやらがお兄様はとても気になります。
一松はいたたまれないのか逃げ出そうと暴れはじめたけど、元々抱きしめていたのもあってたいしたことはない。
そもそもこいつが俺に敵うわけないのだ、いろんな意味で。
「えー、なんだろう、その状態でお酒呑んだら一杯で潰れそう、みたいな」
「花!花飛んでるよ!」
「そんな一松兄さんの写真がこちら」
流れるように向けられたスマホには画像が表示されていた。
当然肝心の顔は指で隠されてるけど。
流石ドライモンスター、実兄からでも容赦なく金を毟り取る。
しかも違う実兄を餌に。
「商売上手すぎだろ!で、いくら?」
「いや、買わなくてもあんたには本物がいるじゃん…」
ぽそりと呟かれたそれは小声だったが、肩に顎を乗せているので当然近い俺にはばっちり聞こえていた。
んん、そーかそーか、俺のだったか。
知ってるけど、うん、俺のだ。
ただやっぱり本人の口からそういうこと言われるとなー。
「…はー、ほんと無理」
「は?なにが無理」
「おまえが、かわいすぎて、むり」
肩から顎をどかして、今度はそこへ額を擦り付ける。
ちょっと今、顔を見られたくない。
別に一松にはいいけど、十四松とトド松にはだめだ、なんとなく気恥ずかしい。
「一松」
「なに」
「俺の膝、おまえがお願いしてくれるならおまえ専用にしてもいいよ」
まあこんなとこ座りたがるやつなんて滅多にいないだろうけどな。
十四松だってもう満足しただろうし、他の兄弟がそうしたがるとは思えない。
こどもの頃ならともかく、もう成人しているわけだし。
「…他には誰も座らせない、ってことは仮にトト子ちゃんが座りたがっても断るってこと」
「……善処するよ?」
「そこでしないっていえないのがほんとおそ松兄さんって感じだよねー」
「ねー」
うるせえぞ外野。
おまえらだってトト子ちゃんに言われたら即答でいいえなんて言えないだろ!
俺達六つ子がトト子ちゃんに弱いのは仕方ないのだ、それは一松だって例外じゃない。
「まあどうせそんなお願いされることなんてない、か…。おそ松兄さん」
「ん」
どうせなら顔を見ながら、と思ったので体勢を少し変えることにした。
一松の身体がさっきより炬燵へはいるように動かす。
顎を乗せるなら頭のが近い、くらいの位置。
ついでに上半身を少し捻らせたので顔は見えやすくなった。
俺の意図に気が付いて嫌そうな表情をしたものの、顔が背けられることはない。
「…ここ、おれ以外座らせないでよ」
あー、いい、いまのきゅんときた。
たださり気無く膝を撫でるのはよろしくないぞ。
なに、誘ってんの?
「返事」
「あ、はい座らせないです!おまえ専用にするよ」
「ならいい」
もぞもぞ動いて上半身を元に戻すと、身体がしっかりと預けられた。
顔は見えないけど、耳がうっすらと赤いのはわかるのでよしとしよう。
俺の一松は可愛い。知ってた!
トド松がすごい顔をしているけど無視。
そんな顔されたってなにもやめられないんだから仕方がない。
炬燵にいる以上諦めてもらうしかない。
たいへんだなー、なんて人事に思いながら一松の頭の上に顎をのせた。


「ただいまー、って、えっ…なにこの状態…」
「おかえりなさいチョロ松兄さん」
「随分仲がいい、な…?」
「おかえりカラ松にーさん!」
「羨ましいだろー?かわいい弟達に甘えられてるんだぞ」
「いや別に…って待ってちらちらこっち見るのやめてカラ松勘弁して」
「遠慮しなくていいんだぜブラザー…」
「してないし!どっちかっていうと甘えられたほうが嬉しいんだけど?!」
「お、なんだ兄側希望か?残念だけど一松は俺のだから駄目ー」
「ボクも十四松兄さんで満足してるしなー」
「…そいつしか余ってないんじゃない、チョロ松兄さん」
「じゃあやらない方向で」
「オレだって甘えられたい…」
「あっおれ!後でならいーよ!」
「十四松…!」
「そしたらボクあくけどどうする?チョロ松兄さんやる?」
「いや…別に場所足りないわけじゃないし…」
「だよね、ばかっぷるじゃあるまいし」
「お、なんだばかっぷる扱いか?」
「いやばかっぷるとかじゃないし。これ椅子だし」
「思い切り寄りかかっておいてよく言えるな?!」
「あと一松兄さん、ふつう椅子は服に手つっこんで生でお腹撫でてこないよ」
「ばれてたかー!」
「みんないる場所で弟に手ェ出してんじゃねえよクソ長男!!」

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