一松の耳朶についた黒い猫をモチーフにしたピアスに触れる。
俺があけた穴にはまっている、俺があげたものではないピアス。
おもしろくない。
そもそもピアスなんてあげたことないから当たり前なんだけど、それでもおもしろくないものはおもしろくないのだ。
爪をひっかけて、少し力をこめれば外れるそれ。
でも外したら怒るよなあ、多分。
「ちょっと、なに」
「随分可愛いのつけてんね」
「ああ…トド松がくれた」
ふうん、トド松ね。
兄弟の中なら一番この手のものを買ったり渡したりしそうだ。
とりあえず兄弟以外の人間から貰ったやつじゃなくてよかった、一松の交友関係を考えれば他の人間なんてありえないだろうけど。
貰ったものじゃなくてこいつが自分で買ったもの、であればよかったのに。
装飾品にこだわりがないことを考えたらそれもやっぱりありえない。
このピアスの前はずっと穴を開けた時に付けたものだったくらいだ。
あれは俺が用意したものだから、俺が一松にあげたことになるんだろうか。
当時のことはなんとなくまだ覚えている。
道具は安全ピンと消しゴム。
あける前の、どこか緊張する顔に興奮した。
当時もうそういう関係だったから興奮のまま学校でやったなあ、今思えば随分無茶なことをしたもんだ。
「俺がなんかピアスあげたらつけてくれる?」
「暫くしたら。まだ貰ったばっかりでつけてるとトド松が喜ぶから無理」
「ちぇー」
残念。
一松は地味に十四松とトド松、弟に甘い。
まあ喜ぶ云々がなくてもトド松はそういうのにすぐに気が付きそうだ。
それでこのピアスどうしたの、とかそういうことになってもめんどくさい。
一応まだ俺と一松の関係は誰にも言っていないし。
まあ勘のいいやつは気が付いているかもだけど。
万が一ばれたとしても、俺としてはいいんだけどね。
「さて、パチンコ行くけどおまえもくる?」
「いかない」
「そ。じゃあ留守番よろしくー」
立ち上がってから一松の頭をぐしゃぐしゃと撫でて玄関へ向かう。
やめろと言いつつもなんだかんだ跳ね除けない事に満足しながら居間を出る。
カラ松なら殴られてるかなー。
外はすげえ寒そうだけどパチンコへの欲のが上だった。
一度やりたいと思ってしまえばその欲を抑えるのは難しいのだ。
なんたって俺は欲に正直だし!


「一松、特別にお兄ちゃんからお土産をやろう。手だして」
帰宅後最初にそう告げれば訝しげに、けど素直に差し出された手。
それに少しだけ心配になる。
俺だけにだとは思う、思うけれど、俺が一番そうしてはいけない相手だろうに。
少しだけ袖で隠れたてのひらに小さな白い紙袋を落とす。
開けてみ、と促せばやはり素直にあける。
危ない薬とか渡しても飲んでといえば飲んじゃいそう。
今度デカパン博士になんか作ってもらおうかな。
「…ピアス?でもこれ」
一松の左手が自身の耳朶へ触れる。
右手の上に乗るものと、そこについているものは同じデザインだ。
「それなら付け替えてもトド松もわかんないでしょ」
「…ほんと、独占欲強いねおそ松兄さん」
「好きだろ?しばられるの」
「まあ、ね」
耳朶から外されたピアスが畳の上におとされる。
穴に通された真新しいピアスはしっかりとキャッチでとめられた。
他のやつから見たらなにも変わらない。
俺と一松にしかわからない、前との違い。
「かわいいかわいい」
「さっきよりも?」
「さっきと比べて100倍くらいはかわいい」
隣に腰を下ろしてピアスがはめられた耳朶へと口付ける。
俺のあけた穴にはまる俺のあげたピアス。
うん、さっきよりずっといい。
ぞくぞくする。
「ピアスホールってさあ、すごくねえ?」
「なにが?」
「こんなに一般的なのに、見ようによってはどうしようもないくらいの所有印ぽいとこ」
ファッションとはいえ、結局ピアスホールなんてただの傷だ。
穴にピアスを刺していればそのまま、刺さなくなって閉じても痕が残るだろう、一生ものの傷。
病院や自分で開けたならともかく、そうでなければ他人がそれをつけることになるわけで。
大抵のやつはそこまで深く考えずにあけたいからあけてるんだろうけど。
「ああ…なんかそんなことあける時にも言ってた」
「まじか、全然覚えてねーや」
「…あんたが、ピアスホールってすごい所有の証っぽくない?つーわけで開けさせて?って有無を言わさずあけたんだろ」
「いやいや、有無を言わさずっていうけど、合意の上でしょ」
俺からの所有印とか嬉しくて仕方ないくせに。
キスマークだって噛み痕だって、嫌だと口では言うくせに目は喜んでる。
まあ、目立つところに付けられるのは本当に嫌みたいだけど。
けど俺ってば嫌がられると余計したくなっちゃうんだよね。
「一松」
「…しないよ、もうすぐみんな帰ってくるだろ」
「じゃあ夜。でかけよ、今日はめっちゃ勝ったから久々にお城とかどう?」
「ああ、だからピアス…」
大当たりして、尚且つまったく同じピアスが売ってたらそりゃあ買うだろ。
これなら付け替えてもわからないな、とまですぐに浮かんだし。
いやあ、しっかりピアスの見た目を覚えてたあたりまじで気に食わなかったんだな、俺。
「城、行ってもいいけど俺金ないよ」
「めっちゃ勝った、つったじゃん。俺持ちでいいよ。その分いろいろサービスしてもらうつもりだけど」
「それ明日、おれ生きてられんの…?」
「大丈夫大丈夫、そんなの気にならないくらいヨくしてやっから」
「それなんの解決策にもなってねーよ…」
そう言いつつ俺に身体を任せてくるんだからこいつはもう!
期待に応えられるようにお兄様は頑張りますよ、っと。
なにしてやろう、いやなにしてもらおうかな。
なんて恐らく誰が聞いてもろくでもないと感じるであろうことを考えながら目線を落とすと、完全に放置されていたピアスが目に入った。
「なあこれ捨てていい?」
「…いいけど、絶対気がつかれないようにしてよ」
「りょーかーい」
ピアスを拾って、ティッシュでくるんでぐしゃぐしゃにまとめる。
そのままゴミ箱に放り込んではいおわり。
わざわざゴミ箱を漁ることなんてないだろうから、きっと誰も気が付かない。
「はは、かわいそーなトド松」
「1ミリも思ってないくせに」
だって、ねえ?
俺のだもん、しょうがないだろ!



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