「あ―――…」
さっきからずっとこうだ。
おそ松兄さんが、ひたすらうるさい。
理由は簡単、ただの禁煙。
煙草を吸わないボクからしたらその辛さはわからない、女の子はだいたい煙草は嫌いだし。
吸うメリットがない。
ちなみに理由は煙草代ギャンブルに回したほうが楽しいんじゃね?だそうだ。
確かにパチンコとか楽しいけど、そのためにうるさくされても。
そしてどちらにしても世間一般敵には煙草に使おうがギャンブルに使おうがクズよりの評価だ。
や、ギャンブルのが酷いか。
「ん―――…」
「さっきからうるさいんだけど!」
「いまおにーちゃん瀕死だから優しくして…」
「そんななるなら吸えばいいじゃん、ヘビースモーカーなんだから禁煙とか無理だって」
「んん…口寂しいのがなんとかなれば多分…」
「おそ松兄さん」
部屋の隅でぼーっとしていた一松兄さんが喋った、と思えばゆったりと近づいていく。
なんとなくそれに猫っぽさを感じながら見守る。
ボクは名前呼ばれてないし。
「なんだよ一松ぅ…」
机に伏せていた上半身を起こして、すぐ。
一松兄さんがマスクを外しておそ松兄さんの顔に顔を寄せた。
……えっ。
いまのって、あの、えっ?
「…一松」
「…なに」
「もっかい」
ええー…。
っていうかなに、口寂しいのをキスで誤魔化すとか、漫画とかそういう世界だけじゃないの?
つーか兄弟でっておかしくない?
しかも同じ顔同士なんだけど?
とか考えてる間にまたしてる!なんなの?!
「これで口寂しいの、ましになったんじゃない」
「確かに!サンキュー一松!」
それだけ?!
兄弟の誰かにキスされるとか、相手が誰であろうとぞっとするけど?!
最悪手が出る、いや足も出るかな。
なんでそんな普通なんだろう…おかしい…けどつい撮っちゃったボクもなかなか…。
無音カメラってすごい。
「また頼むな!」
まじか。
そして宣言通り、その日からやたらと二人のキスを見る機会が増えたのだった。

「一松」「一松ぅ」「いちまつー」
おそ松兄さんが名前を呼ぶ度に、一松兄さんが傍へ寄っていきキスをする。
散々繰り返されたせいで見慣れてしまった。
なんだこれ。
他の兄弟も最初は驚いていたものの今はもう慣れたらしくスルーしている。
慣れってこわい。
「あれ、一松兄さんどこいくの」
「…煙草吸ってくる」
「いってらっしゃーい」
ふらりと立ち上がった猫背気味な背中を見送る。
おそ松兄さんが禁煙していても一松兄さんはいつも通りだ。
ふつうに煙草を吸っている。
ああ、もしかしてキスで少し煙草を感じられるからいいのかな…。
苦味とか、でも逆に吸いたくなりそう。
そういうものじゃないのかな?
「おそ松兄さんもどっかいくの?」
「コンビニ〜。煙草買ってくる」
「いってら…えっ?!禁煙は?」
「寂しそうだからやめる」
誰が?と聞く前に居間から出ていってしまった。
よくわからない。
でもおそ松兄さんが自由なのはいつものことだし…。
詳しく聞く前に居間から出て行ってしまったのでどうしようもない。
それから暫くしてから一松兄さんが帰ってきて、さらに暫くしてからおそ松兄さんも帰ってきた。
早さからして本当に行って帰ってきただけみたいだ。
「いっちまつ」
「うわ、なに、抱きつくなよ」
とか言いながらも顔を寄せていくのはきっと条件反射だろうなあ。
名前を呼ばれえるイコールキスになってるんじゃないだろうか。
でもおそ松兄さんの声にしかそうならないからおもしろい。
とりあえず撮っとこう、アングルいいし。
というわけでぱしゃり、あっやばいまの普通のカメラだ。
静かな部屋に響くシャッター音。
当然のように二人の視線はこっちに向くわけで。
「……てへっ☆」
「なん、いまの、撮っ…?!」
「…仕方ないなー、トド松、サービスな?」
え、いやサービスとかいらない、と言う前にもう一度唇が重なった。
いつもと違う、ああいつもは一松兄さんからしてるからか。
おそ松兄さんから仕掛けるのを見るのは初めてだ、って、んん?
見間違いでなければ、多分、舌、入ってるよね?
「っん、ふ…」
あっこれガチなやつだー!
一松兄さんがこんな声演技で出せるわけない!
おそ松兄さんならわかんないけど!
なんでボク兄弟同士のこんな濃厚なキス見せられてんの?!
ボクなんかした?!
いやしてるわ撮影してたわ!!
あーやだ音とか、一松兄さんがおそ松兄さんの服掴んでるのとか、逆におそ松兄さんが一松兄さんの事支えてるのとこリアル…。
うんまあ現実だから当たり前なんだけど…。
「…っは、はいおーわり。どうだったトド松」
「どうって…何故見せた、って感じ」
「んー、自慢?あ、あとでさっきの写メくれな。って一松大丈夫か?」
「頼むから死んで…」
「またまた、お兄ちゃん死んだら困るくせにぃ」
死んでと言いつつ突き飛ばしたりとかせずに抱かれたままな時点でお察しだ。
っていうかもうこれデキてるよね。
つっこみたいところは色々あれど、とりあえず部屋の空気が変わった気がしたので、そそくさと立ち上がる。
これに巻き込まれちゃいけない。
「えっと…じゃあ、ごゆっくりー…」
ごゆっくりとは言ったものの居間でやられちゃたまんないな、と思う。
残念ながらとっくに使われていそうだけど、知らなければ知らないで幸せだから報告はされたくない。
居間の戸をしめて、ひとまず二階に避難。
出かける前におそ松兄さんが言ってた寂しそう、って一松兄さんのことだったのか…。
そういえばよく一緒に吸ってたもんね、いきなり禁煙とか言い出してひとりで吸うことになったら寂しいかも。
ボクは全然気が付かなかったけど、ひとりで吸ってるとこを見かけても特になんとも思っていなかった。
そこに気が付くんだから、さすがというかなんというか。
そういう関係なのを差し引いても気が付きそうだからおそ松兄さんはずるい。
普段はあれだけマイペースで自分勝手なくせに、やっぱり長男なんだなあ。
何時間か数分の差しかないはずなのに。
とりあえず二人きりにして逃げよう。
暇な女の子を探すためにスマホに指を滑らせた。

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