他の兄弟は全員出はらっていて、家にはふたりきり。
ニートだけどなんだかんだ外に出る機会の多い兄弟達の行動パターンを考えれば簡単に作れる状況だ。
部屋に響くのは一松の抱いている猫の鳴き声くらいで、余計な音はしない。
マスクで顔は半分見えないけど、それでも一松が楽しんでいることはよくわかる。かわいい。
ただ、せっかくふたりきりなのにそれはなくない?
お兄ちゃん泣いちゃうぞ。
「一松」
「なに」
「暇なんだけど」
「そう」
声をかけてみてもこっちを見てすらくれない。
腕の中の猫に夢中らしい。
けれどどうすればいいかなんてわかっている、なんせずっと一緒にいるのだから。
寝転がっていた身体を起こして、改めて。
「一松」
「…なに」
「おいで」
両手を広げながらそう告げれば、やっとこちらを見た一松がため息をつきながら立ち上がる。
そして猫を抱いたままこちらへきて胡坐をかいていた俺の上へと腰をおろした。
多少勢いのある座り方が照れ隠しゆえだと知っているのでそこはスルーしてやる。
ちょっと痛いけど。
広げてた腕を一松の身体へとまわして、ぎゅうと抱きしめる。
「あったけー」
「ちょっと、カイロ代わりにするのやめてよ」
「いーじゃん別に減るもんじゃなし。ところでさあ」
肩へ顎を乗せて、もっと身体が密着するように抱き寄せる。
耳元へ口を寄せれば、息がくすぐったかったのかそれだけで身体が少しだけはねた。
このまま舐めてやろうかな、と思ったけどやめておく。
お楽しみはあとにとっておいたほうがいい。
「なんでマスクしてんの。前に約束したろ、ふたりきりのときはしないって」
「っ、さっきまで他のやつらだっていた、」
「でも今はいないだろ?」
外せ、と言外にこめればゆっくりマスクが外される。
この約束は俺がしたいときにキスできないのが嫌だから、と約束させたものだ。
こいつだってキスは嫌いじゃないんだから問題はない。
完全に外れたのを確認してから、唇へとかみついた。
マスクのせいで少しだけ焦らされたので、やさしくなんてしてやらない。
後ろから抱きしめられている体勢ということもあって一松はきついだろうなあ、なんて思いながら舌をつっこむ。
意味もなく逃げようとする舌を捕まえるのはかんたんだった。
片方の手をパーカーの下へと滑り込ませればさっきと比べ物にならないくらい身体がはねる。
ゆったりと撫でてみたり、指先で臍をなぞってみたり。
それにいちいちぴくぴくと反応するのが可愛くて繰り返していたらさすがに腕を掴まれた。
やめるついでに口も開放してやる。
「は、なんでいきなりやる気なわけ…」
「いきなりじゃねーよ?おまえだってここに座った時点でわかってただろ」
ふたりきりで密着、いきつく先なんてそれしかない。
このパターンからなだれ込むのもはじめてじゃない。
でも、そうだな。
「おまえが嫌ならやめてもいいけど?」
ゆらりと一松の瞳が揺れる。
欲の滲んだそれが意味することはわかるけれど、汲み取ってやりはしない。
一松にはもう余裕なんてない、俺にも余裕がないのがわからなくなっているくらいには。
普段だったらどうせここでやめられないくせに、とかそういうのが返ってきているはずだ。
あー、後ろからだと顔見づらくてつまんねえな。
多少強引に一松の身体の向きを変えて横抱きみたいな形に、と思ったが一松自らが動いて対面座位の形になった。
なるほど、これが答えって言いたいわけだ。
でも残念ながら俺はそれで許してやるつもりはない。
「なあ、どうする?」
「…ほんと悪趣味」
「なんとでもぉ」
「…はやく、続き」
本当はもっとえげつないことを言わせようと思ってたけど、思いのほかいまのがきゅんときたので見逃してやることにした。
涙目での上目使い、頬染めに加えて俺の服の裾を掴むとかもう、なんなのだろうか。
かわいすぎるだろ!!
勢いのまま畳へ押し倒せば、跨ぐように座っていたのだから当然だが一松は開脚状態、やりやすいことこの上ない。
「じゃあ、いただきます」
「…どーぞ」
小声で返ってきたそれを聞くのが早いか否か、もう一度口付けた。
あれ、そういえば猫どこいった。


日に焼けてない白い足を肩にかけて腰を進めれば、一松からは高い声があがる。
あとぐちゅりっていうえろい音。
慣らすのに使ったローションと、一度なかで出した精液が混ざったせいだ。
なかで出したとき最低、とか言われたけどあのぐずぐずな表情で言って効果があると思ってるのだろうか。
むしろ俺はあれで今回は全部なかで出してやろうと決めた。
ひいては戻してを繰り返せば、その都度一松は声をあげる。
単音でことばにもなっていないそれは酷く俺を煽る。
もっと聞きたい、と腰を動かしているうちに2回目。
ああ、暑い。
顎を伝う汗をパーカーの袖でぬぐえば赤色が濃さを増す。
一松の下で汗やら精液やらでぐちゃぐちゃになっている紫のパーカーと一緒に洗わないと。
脱ぐか悩んで、とりあえず上だけ脱ぐことにした。
全裸にひん剥かれた一松と前を寛げただけの俺、っていうなんともいえない差が結構好きなんだけど仕方がない。
剥き出しになった腹に、一松の手が触れた。
「どーした?」
「…さわりたい…」
喘いで掠れた声でそう言われたら応えるしか選択肢はない。
ただこの触れられ方は一方的すぎるよなあ、俺だって触りたい。
「じゃあもっと触りやすくしてあげる」
「え、ッうあ!」
はいったまま一松の身体を起こして、始める前と同じ対面座位にする。
自然繋がりは深くなった。
それは咄嗟にすがり付いてきた手が容赦なく背中に爪を立てるくらいの衝撃だったらしい。
「ば、か、せめて一言くらい」
「えー?言ったじゃーん。それよりほら、触りやすくなっただろ?」
背中に腕をまわして抱きしめれば、ぴったりと吸い付くように肌がくっつく。
汗のせいもあるけど、元々ひとつだったからかな、なんて。
さっきまで爪をたてていた指が離れて手の平が背中に触れる。
なにかを確かめるように何度か撫でた後にぎゅうとしがみ付かれた。
安心したように力が抜けた身体、いま動いたらそれはもう、油断しきっているだろうからあられもない声が聞けそうだ。
甘えさせてやりたい気分だからまだしない、けど。
「あったかい」
「あったかい通りこして熱いだろこれは」
「…おそ松兄さんならなんでもいいよ」
「っ、なぁんでこんな状態でそんな可愛いこと言うかな、おまえは!それ、ぐちゃぐちゃにされても文句言えないぞ」
背中にまわされていた腕が、首へと移動する。
更に増した密着感。
耳元の傍で小さく喘ぐのはやめてほしい、さっきの発言でわりともうぎりぎりだ。
と思っていたのに、更に爆弾はおとされた。
「…してほしい、って、言ったら?」
もう、俺は悪くない。
煽ったのはこいつだ。
仮に足腰が立たなくなっても文句は言わせない。
ああ、でもちゃんとサポートはしてやるよ。
俺に支えられないと歩けないとか一松とか、さいっこうにかわいい!


炬燵のひとつの辺に、ふたりではいる。
成人済みの男が入るには狭いけど一松に寄りかかられるのはなかなかわるくない。
部屋にはふたり分の煙草の煙が充満しているが、窓を開ける気にはならなかった。
だって寒いし。なによりめんどくさい。
きっとチョロ松あたりが帰ってきたら文句をいいつつ開けてくれるだろうと高をくくる。「はあ…だるい」
「それは一松くんの自業自得では」
「別におそ松兄さんが悪いなんて言ってないし。最後まで処理してくれたから文句ない。髪も乾かしてくれたし」
「まって俺がいつも最後まで処理してないみたいな言い方やめて。いつもしてんじゃん可愛い一松くんが腹壊さないように」
「いつもゴム付けろつってんのに付けないんだからそのくらいするのは当たり前なんだけどね」
「ごもっともー」
だってしょうがないじゃん、ナマのが気持ちいいんだもん。
でも一松のことが大事なのにはかわりが無いので、俺は毎回きちんとかきだして処理をしている。
それが面倒に感じないから余計にゴムを使う頻度が下がっていく。
どうしようもない。
「あ、一松蜜柑食う?お兄様がむいてやろっか」
「いい…ねむい」
短くなった煙草を灰皿に押し付けると、一松はその場でごろりと横になってしまう。
もぞもぞと身体を炬燵の中へといれて、完全にご就寝モードだ。
本当なら兄らしく炬燵で寝ると風邪ひく、とか注意したほうがいいのかもしれない。
けど残念ながら兄らしくなんて弟とやっちゃってる時点で今更だしなあ。
「おやすみのちゅーいる?」
「……くれるんなら」
外側を向いていた身体がこっち向きに直されて、じっと見つめられる。
ふは、ほんとに眠そう。
煙草を灰皿でつぶしてから同じように横を向いて寝転がる。
「ほい、おいでー」
素直に寄ってきたのを抱きしめて、口付ける。
そういえばふつうのキスは今日はじめてだ。
「…おやすみ」
満足したのかそう言うとさっさと目を閉じてしまう。
無意識なのか意図的になのか擦り寄ってくるのが猫っぽい。
ああそういや変身してたっけ。
暫くすると寝息も聞こえてきて、完全に眠りに落ちたのがわかる。
さて、俺はどうしようかね。
眠くはないけど、だからといってこの状況を手放すのは惜しい。
並んで寝る機会なんて滅多にない。
やっぱ一緒に寝ちまうのが一番かなー、まあいいか、いつもどおり予定なんてないのだから。
目を閉じてからより感じる腕のなかのぬくもりに、ああまだ離してやれそうにねえなあと思う。
いつか離さなければならないなら、いっそ煙草の残り火で火事、一家全焼とかになってしまえばいいのに。
一松と心中するみたいで悪くない。
なんてな!


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