賭の代償

12





 カチャ。







「なぁ、俺のライター何処か知っ……」



 言いながらエドガーが入ってきた時には、二人は不自然な程の距離で離れて立っていた。
 ロックは何事もなかったかのように普段と変わらない様子で立っていたがセリスの顔はこの上なく真っ赤な状態で、何かあったという事は誰が見ても一目瞭然で。
 部屋に入りそんなセリスの顔を目にしたエドガーは、驚きつつ言葉の終わりを濁す。



「ライター?此処にはないけど?」



 ロックは平然と返事を返した。



「あ、ああ、そうか?ならいいんだが…」



 言いながらエドガーはチラリとセリスに視線を向けた。
 セリスは目が合うなり「あ、あの…私…ッ!」と慌てて叫んで



「部屋に戻るわね!」



 言い終わるや否や、赤い顔をしたままパタパタと走ってその場から逃げるように部屋を出ていった。
 エドガーに気取られないように自然な笑みを湛えて去ったつもりのセリスだったが、その笑みは明らかに不自然で。
 エドガーはセリスが立ち去った後、声を出して笑いたい気持ちを噛み殺しながら小さく笑った。
 そして口元に笑みを残したままロックに視線を向ける。



「助け舟のつもりだったんだけどね」



 自分が探し物を取りに来たのではなく、別の意味で此処に来たのだと告げる。



「聞いてたのかよ…」
「聞こえるさ。あれだけ怒鳴ってればな」



 苦笑したエドガーはおもむろに自分の胸元を探り、この部屋に来る口実にしていたライターと、煙草を取り出して火を点けた。
 深く吸い込んだ後、更に目を細めてロックを見遣る。



「…というか。逆に邪魔したみたいだな」
「…ああ。正直大迷惑だ」



 不機嫌そうに答えるロックに、今度は笑いを堪える事なくハハッと笑うエドガー。
 けれどそれは次第に真剣味を帯びた目に変わり、ロックをじっと見据えた。




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