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ようこそ"もしもの"世界の三日月堂へ!

無性に触れたくなるだとか、他の男と話してるのを見ると柄にもなく焦ったり、苛立ったりだとか、常に何してんのかって考えたりだとか、もうそんなのは日常茶飯事だ。



「銀さん?」

「ん?」

「わたし、仕事中です。」

「うん、知ってけど?」

「じゃあ邪魔しないでください。」

「なにが?」

「なにがって…さっきから視線!痛いんです!あと、近い!至近距離で見つめられたら仕事に集中できないです!!」



んなこと言ったってどうしようもない。だってこっちを見て欲しいのにさっきから見向きもしない名前が悪い。



「それいつ終わんの?もうとっくに閉店時間過ぎてんぞ。」

「店閉めたあとも残った仕事はやらないといけないんです。あともう少しですから。」

「どんくらい?」

「んーと、あと五分もあればですかね。」



ならあと五分はじっくり名前の顔が見れるっていうわけだな。俺は名前のため息を無視して、またじっと見入った。睫毛長いなとか、肌きれいだなとか、唇は柔らかそうだな、…とか。



「ちょっ…!」

「食べてぇ。」

「は?お腹空いてんですか?あと五分も待てないんですか?」



犬でも待てはできますよなんていいながら、俺の手を追い払おうとするが、それを阻止して、親指で名前の唇をなぞる。想像通り、柔らかいなんて考えていたら、無意識に顔が近づいていった。



「まっ!…銀さん!」

「いって!!!…おい、それ売りもんだろ。」

「じ、自己防衛のため仕方がなく!!」



思いっきり本で頭を叩かれて俺は咄嗟に身を引いた。まさかの角だよ角。どんだけ本の角が痛いか知ってるくせになんて女だよ。



「こ、のまえから!銀さんなんかおかしいですよ!」

「なに、どんな風に?銀さん別にいたって普通だけど?」



普通?どこが!なんて叫ぶけど、俺はこいつにだって非があると思っている。



「距離が近いですし、すぐ…そっそれ!触ってくるしっ!」

「嫌なら嫌がればいーじゃん。」

「い、いやって…」



言えないんだよな。だって嫌じゃないもんな。知ってる。だって嫌ならもっと拒めばいい。いつだって最初に触れるときは、わざと力を抜いてる。だけど、いつだって名前は拒まない。顔を真っ赤にするだけ。だから俺は掴んだ手を力強く握る。



「なぁ、今日このあとデートしよっか。」

「…呑みに行くの間違いですか。」

「ちげぇよ、デート。行きたいとこねぇの?連れてってやるよ。」

「スナックお登勢。」

「いやだから聞いてる?名前が行きたいとこ言わねぇんだったら、銀さん勝手に決めんぞ?」

「…どこ?」

「ベタに夜景とかどうよ?」

「…それ、デートじゃないですか。」

「さっきからデートだって言ってんだろ。なに、名前ちゃん耳遠いの?しゃーねぇなぁ。」



それなら聞こえる距離で言ってやるよ。俺は名前の肩を掴み、そのまま耳元に口を寄せた。



「いい加減素直になれば?」

「っ!!!銀さん!!」



ふざけてなんかいねぇし、そもそも俺は冗談で女は口説かねぇんだよといえば、名前は持っていた本を落とした。とっくに気づいているくせに。俺の気持ちも、自分の気持ちも。



「なぁ、もう余裕ないんだけど、俺。」



早く応えてくれねぇと、先に手が出るよ?と悪戯に笑えば、名前は面白いほど慌てた。それがまた余計に可愛いくて、もう少しいじめてやろうと、俺は名前の手の甲に口付けを落とした。


きっと、ほら、あともう少しだ。



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